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第十七章「君主(ロード)の猛毒」(2)
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2
「まっちゃん!! まっちゃんってばッッ!!」
ユキにガクガクと身体を揺さぶられて、僕は目を開いた。
「あれ、泣いてんの?」
「あ、あ、あ……っ」
目を覚ました僕を見て、ユキの琥珀色の瞳からみるみる涙が溢れ出した。
「ぐすっ、よかった!! よかったよお!!!!」
ユキが泣きじゃくったまま、僕に抱きついた。
さっき夢で会ったばっかりだから、ちょっと恥ずかしい。
「あ、みんなも来てくれたのか」
僕がユキの身体ごしに見上げると、キムたちいつもの面々がほっとしたような顔でこちらを見ている。
偽ジルベールまで来てくれたんだ。
「アリサ、君が癒やしてくれたの?」
「ううん、回復魔法も解毒魔法も解呪魔法も効果がなかったの。助けてくださったのは、この方よ」
アリサが手のひらで恭しく指す方向を向くと……。
「う、うわっ、ユリーシャ王女殿下!」
「えっ」
「えっえっ、まじで?!」
僕の反応に、アリサが小さく、ルッ君が大声をあげて、ユキも慌てて振り返る。
他のみんなも驚いて、慌ててその場にひざまずいた。
「よい、面を上げよ。ベルゲングリューン伯の友は我が友も同様である」
そっか。
叙勲の時も、みんなはユリーシャ王女殿下とは直接会ってないのか。
「体調の方はどうだ? ベルゲングリューン伯」
「はい、問題ありません」
そう答えるが、ユリーシャ王女殿下の表情は暗い。
「すべては私の責任だ。許してほしい」
ユリーシャ王女殿下が謝罪したので、僕たちはさらに驚いた。
「お、王女殿下、私はこの通り、何も問題ありませんので」
「そうではない。そうではないのだ……」
ユリーシャ王女殿下が泣きそうな顔になりながら言った。
「そなたが盛られた毒は、古代王国時代に作られた魔法毒だ。魔法分類学的には毒というよりは悪意のある付与魔法といったところだな。だからそこの生徒の神聖魔法では解除できなかった」
「ちょっとよくわかりません」
「わ、ばかっ! 王女殿下に何言ってるの!」
ユキが僕の頭をはたいた。
「ごめん、オレもわかんねぇ」
「たぶんアレじゃないかしら、ユキちゃんが作ってくれたおにぎりを食べるとオナカこわしちゃうけど、悪気があって作ったわけじゃないから、解毒魔法じゃ治せない、み・た・い・な?」
「全然違うし例えが最悪すぎるわよ!」
ジョセフィーヌにユキがツッコんだ。
「昏睡状態は私の付与解除魔法で回復できたのだが……、魔法毒の本体である魔法付与は解除できなかった。……失われた魔法だ。おそらく、解除できる者はこの世におらぬだろう。呪いと言ってもよい」
ユリーシャ王女ががっくりと肩を落とした。
「そ、それは、どんな呪いなのですか?」
珍しく取り乱した様子のメルが、王女殿下に問う。
ユリーシャ王女殿下は、唇を震わせながら、言った。
「……弱化の呪いだ……」
「……弱化……?」
罪の意識にさいなまれた苦しそうな表情で、王女殿下は続ける。
「すべての能力が最も低いレベルまで下げられてしまうものだ」
「最も低いレベル?」
「熟練の戦士や高位の魔法使いも、最初は素質だけの存在だ。そこから剣技や魔法を学び、様々な修練を積み、やがて一流になっていく」
「そうだな」
王女殿下の言葉に、ゾフィアがうなずいた。
「そんな一流になった者でさえ、もっとも初期の状態に戻されてしまうという、恐ろしい呪いだ」
「な、なんということだ……」
打ちのめされたように、ゾフィアが膝をついた。
「一度かかってしまったら、解除することはできぬ。また一から、最弱の状態から修練をするしかない」
「……」
「……」
キムたちが全員、目をぱちぱちと数回まばたきさせた。
「そ、それって……」
ルッ君とキム、花京院が顔を合わせる。
「「「……まったく、問題なくね?」」」
「え?」
予想外の言葉に、ユリーシャ王女殿下が顔を上げる。
「わははははははははは!!!!
「ぎゃはははははははは!!!!」
「はぁはぁはぁ、だ、だめだオレ、このまま笑い死んじまうかも……」
「あはははははは!!! ちょ、ちょっと、アンタたち!王女殿下の御前なのよ!! こ、これ以上笑わせないで!」
「卿(けい)も買いかぶられたものだな! うははははは!!!」
「あははははっ、あー、おっかしぃ……キミってホント、『持ってる』のね」
「ひぃ、ひぃ~、おなかいたい……おなかがいたいワァ~!!」
「ふふっ、あははっ!」
「……」
みんなが笑っているのを、僕はげんなりとした顔で見た。
メルまで声を出して笑ってるよ……。
ゾフィアだけが膝をついたまま、「なぜだ……このようなことが許されてよいのか……っ」とか言いながら地面を叩いている。
あとでちゃんと説明しないと。
「……まつおさんよ、あれはどうしたことなのだ? なぜ連中はそなたの不幸を笑っておる」
僕に近づいて、怪訝そうな表情でユリーシャ王女殿下が尋ねる。
「王女殿下は、イグニア新聞、全部は読んでいらっしゃらなかったのですね……」
僕は捨てようとしてそのままにしてあった、くしゃくしゃに丸めた羊皮紙をユリーシャ王女殿下にお見せした。
「……な」
ユリーシャ王女殿下が羊皮紙を持つ手が震えた。
「なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!」
なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
ユリーシャ王女殿下の絶叫が、ベルゲングリューン伯領の森林にこだました。
「まっちゃん!! まっちゃんってばッッ!!」
ユキにガクガクと身体を揺さぶられて、僕は目を開いた。
「あれ、泣いてんの?」
「あ、あ、あ……っ」
目を覚ました僕を見て、ユキの琥珀色の瞳からみるみる涙が溢れ出した。
「ぐすっ、よかった!! よかったよお!!!!」
ユキが泣きじゃくったまま、僕に抱きついた。
さっき夢で会ったばっかりだから、ちょっと恥ずかしい。
「あ、みんなも来てくれたのか」
僕がユキの身体ごしに見上げると、キムたちいつもの面々がほっとしたような顔でこちらを見ている。
偽ジルベールまで来てくれたんだ。
「アリサ、君が癒やしてくれたの?」
「ううん、回復魔法も解毒魔法も解呪魔法も効果がなかったの。助けてくださったのは、この方よ」
アリサが手のひらで恭しく指す方向を向くと……。
「う、うわっ、ユリーシャ王女殿下!」
「えっ」
「えっえっ、まじで?!」
僕の反応に、アリサが小さく、ルッ君が大声をあげて、ユキも慌てて振り返る。
他のみんなも驚いて、慌ててその場にひざまずいた。
「よい、面を上げよ。ベルゲングリューン伯の友は我が友も同様である」
そっか。
叙勲の時も、みんなはユリーシャ王女殿下とは直接会ってないのか。
「体調の方はどうだ? ベルゲングリューン伯」
「はい、問題ありません」
そう答えるが、ユリーシャ王女殿下の表情は暗い。
「すべては私の責任だ。許してほしい」
ユリーシャ王女殿下が謝罪したので、僕たちはさらに驚いた。
「お、王女殿下、私はこの通り、何も問題ありませんので」
「そうではない。そうではないのだ……」
ユリーシャ王女殿下が泣きそうな顔になりながら言った。
「そなたが盛られた毒は、古代王国時代に作られた魔法毒だ。魔法分類学的には毒というよりは悪意のある付与魔法といったところだな。だからそこの生徒の神聖魔法では解除できなかった」
「ちょっとよくわかりません」
「わ、ばかっ! 王女殿下に何言ってるの!」
ユキが僕の頭をはたいた。
「ごめん、オレもわかんねぇ」
「たぶんアレじゃないかしら、ユキちゃんが作ってくれたおにぎりを食べるとオナカこわしちゃうけど、悪気があって作ったわけじゃないから、解毒魔法じゃ治せない、み・た・い・な?」
「全然違うし例えが最悪すぎるわよ!」
ジョセフィーヌにユキがツッコんだ。
「昏睡状態は私の付与解除魔法で回復できたのだが……、魔法毒の本体である魔法付与は解除できなかった。……失われた魔法だ。おそらく、解除できる者はこの世におらぬだろう。呪いと言ってもよい」
ユリーシャ王女ががっくりと肩を落とした。
「そ、それは、どんな呪いなのですか?」
珍しく取り乱した様子のメルが、王女殿下に問う。
ユリーシャ王女殿下は、唇を震わせながら、言った。
「……弱化の呪いだ……」
「……弱化……?」
罪の意識にさいなまれた苦しそうな表情で、王女殿下は続ける。
「すべての能力が最も低いレベルまで下げられてしまうものだ」
「最も低いレベル?」
「熟練の戦士や高位の魔法使いも、最初は素質だけの存在だ。そこから剣技や魔法を学び、様々な修練を積み、やがて一流になっていく」
「そうだな」
王女殿下の言葉に、ゾフィアがうなずいた。
「そんな一流になった者でさえ、もっとも初期の状態に戻されてしまうという、恐ろしい呪いだ」
「な、なんということだ……」
打ちのめされたように、ゾフィアが膝をついた。
「一度かかってしまったら、解除することはできぬ。また一から、最弱の状態から修練をするしかない」
「……」
「……」
キムたちが全員、目をぱちぱちと数回まばたきさせた。
「そ、それって……」
ルッ君とキム、花京院が顔を合わせる。
「「「……まったく、問題なくね?」」」
「え?」
予想外の言葉に、ユリーシャ王女殿下が顔を上げる。
「わははははははははは!!!!
「ぎゃはははははははは!!!!」
「はぁはぁはぁ、だ、だめだオレ、このまま笑い死んじまうかも……」
「あはははははは!!! ちょ、ちょっと、アンタたち!王女殿下の御前なのよ!! こ、これ以上笑わせないで!」
「卿(けい)も買いかぶられたものだな! うははははは!!!」
「あははははっ、あー、おっかしぃ……キミってホント、『持ってる』のね」
「ひぃ、ひぃ~、おなかいたい……おなかがいたいワァ~!!」
「ふふっ、あははっ!」
「……」
みんなが笑っているのを、僕はげんなりとした顔で見た。
メルまで声を出して笑ってるよ……。
ゾフィアだけが膝をついたまま、「なぜだ……このようなことが許されてよいのか……っ」とか言いながら地面を叩いている。
あとでちゃんと説明しないと。
「……まつおさんよ、あれはどうしたことなのだ? なぜ連中はそなたの不幸を笑っておる」
僕に近づいて、怪訝そうな表情でユリーシャ王女殿下が尋ねる。
「王女殿下は、イグニア新聞、全部は読んでいらっしゃらなかったのですね……」
僕は捨てようとしてそのままにしてあった、くしゃくしゃに丸めた羊皮紙をユリーシャ王女殿下にお見せした。
「……な」
ユリーシャ王女殿下が羊皮紙を持つ手が震えた。
「なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!」
なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
ユリーシャ王女殿下の絶叫が、ベルゲングリューン伯領の森林にこだました。
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