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第十六章「鷹と小鳥」(2)
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「若獅子祭のことなんだけど」
「どうしたの、急に」
放課後にユキに尋ねてみた。
「具体的に、どういうルールなの?」
「んーとね、ちょっとこれ貸して」
僕の書きかけの羊皮紙を奪い取って、ユキが図を書きはじめる。
「それ、僕の魔法講習の課題なんだけど……」
「いい? まず、こんな感じの場所が戦場として設定されるの。この場合はここが陣地のお城で、ここが砦」
「これは、えっと……死にかけのウサギか何か?」
「砦だって言ってるでしょ」
ユキは図を書くのがむちゃくちゃ下手くそで、何を書いているのかすらわからない。
こんなしょうもない図のために、僕の魔法講習の課題は犠牲になったのか。
「で、試合の前日は準備期間。それぞれの領地の地形を使って罠を仕掛けたり、作戦を練ったりするのに使われるわ」
「他のチームが何をしているか見ることは?」
「禁止よ。戦場の各チーム領土ごとに魔法防壁が張られていて、通行できなくなっているのよ」
「なるほど」
ユキの説明に、僕はうんうんとうなずいた。
図の出来はひどいけど、説明はわかりやすい。
「勝敗は簡単で、他のクラスの旗を奪うか壊すかして、最後まで残ったクラスの勝ち。旗は各クラスの陣地にあるお城に置かれているから、それを奪えば勝ちなんだけど、旗を取って勝つケースはめったにないわ。お城ごと破壊して勝利というパターンがほとんどね」
「ああ、急造のお城だから簡単に壊せちゃうのかな」
「ううん、たしかに急造だけど、士官学校の魔法教官が結集して防護魔法を魔法付与したブロックで作られているから、普通の攻城兵器での破壊はまず無理ね」
そう言うと、ユキはウサギ……じゃなかった、砦を指差した。
「そこで砦の出番よ。砦は戦場にいくつかあって、最初は未統治の状態なんだけど、占領すると威力抜群の砲台が使えるの。砲台は陣地のお城にも届くし、砲弾も魔法付与されているから、お城のブロックにダメージを与えられる。それを使って相手陣地のお城を破壊するのがセオリーね」
「つまり、各地の砦を奪い合うのが基本戦術というわけかぁ」
「そういうこと」
ユキが答えた。
「でも、砦を使わず、お城を占領しようとしないのは、なんで?」
「お城にはね、ガーディアンがいるのよ」
「ガーディアン?」
「人造生物の上位版みたいなやつよ。でっかい鋼鉄の鎧に身を包んだ、お城ぐらいの高さのあるバカでかい巨人で、ゴーレムと同じで、魔法で作られているのよ」
「強いの?」
「強いってモンじゃないわよ! 炎・水・風・土、聖・闇・無の全属性と物理攻撃に耐性がある化け物で、こんなモンを兵器として使うと世界が滅んじゃうから、ヴァイリス王国とジェルディク帝国に国交がなかった時代ですらアヴァロニア教皇庁が公布した国際条約で兵器利用が各国で禁止されたようなシロモノよ」
「なんじゃそら……」
「ガーディアンはそのクラスの級長の命令を聞くように設定されているの。といっても簡単な命令ぐらいしかできないけど。普通は放置して、おまかせで防衛させている間に攻めるでしょうね」
「お城の外に出させることは?」
「お城ぐらいの高さの巨人だって言ったでしょ? 動いたらお城ごと壊れちゃうわよ」
「なるほどね」
実際、ガーディアンを無理やり動かそうとして自陣を破壊して、開始数分で敗北したクラスが過去にあったらしい。
「にしても、これ結構広いよね。これだけの広さを、生徒だけで戦うの?」
「まさか。級長が選んだ1000人の兵士とその指揮権が与えられるのよ」
「でも、どうやって戦うの? 木剣だといつまでたっても決着が付かないだろうし、かといって武器を使ったら死人が出ちゃうだろうし……」
「それはね、こういうのを使うの」
ユキが羊皮紙にぐちゃぐちゃと書き込んだ。
「なにこれ、タコの化け物?」
「腕輪でしょ! なんで見てわかんないの」
「……」
「この腕輪を全員が装着するの。直接戦場に向かうのではなくて、この腕輪から召喚される仕組みね」
「ちょっとなにいってるかわかんない」
ユキがなんでわかんないのよ、という風に僕をにらんでから、言った。
「召喚魔法ってあるでしょ? あれで呼ばれた幻獣とかが倒されると、どうなる?」
「しばらく出てこなくなる」
「そう。実体は別にあるから、殺されても実体は死なないの。だから、召喚時間は限られるし、瀕死の重傷を負ったら実体も大ケガぐらいはするけどね……」
「つまり、その腕輪で召喚できる時間が試合時間になるということか」
「いいえ、腕輪の魔力だと数日は保つみたい。実質時間無制限よ」
「なるほどね」
若獅子祭のおおよそのことはわかった。
つまり、生徒たちが兵士を率いて砦を奪い、砦を使って相手の城を破壊する。
でも、その兵士は……。
「Aクラスに絶対勝てないじゃん」
「なんでそう思ったの?」
「だって、ヴァイリス王国の兵士だったらそんなの、貴族相手なら手を抜くに決まってるじゃん」
「そう。よく気付いたわね」
ユキはペンを置いて、言った。
「だから、34年間でAクラスが負けたのは、一度しかないのよ」
「若獅子祭のことなんだけど」
「どうしたの、急に」
放課後にユキに尋ねてみた。
「具体的に、どういうルールなの?」
「んーとね、ちょっとこれ貸して」
僕の書きかけの羊皮紙を奪い取って、ユキが図を書きはじめる。
「それ、僕の魔法講習の課題なんだけど……」
「いい? まず、こんな感じの場所が戦場として設定されるの。この場合はここが陣地のお城で、ここが砦」
「これは、えっと……死にかけのウサギか何か?」
「砦だって言ってるでしょ」
ユキは図を書くのがむちゃくちゃ下手くそで、何を書いているのかすらわからない。
こんなしょうもない図のために、僕の魔法講習の課題は犠牲になったのか。
「で、試合の前日は準備期間。それぞれの領地の地形を使って罠を仕掛けたり、作戦を練ったりするのに使われるわ」
「他のチームが何をしているか見ることは?」
「禁止よ。戦場の各チーム領土ごとに魔法防壁が張られていて、通行できなくなっているのよ」
「なるほど」
ユキの説明に、僕はうんうんとうなずいた。
図の出来はひどいけど、説明はわかりやすい。
「勝敗は簡単で、他のクラスの旗を奪うか壊すかして、最後まで残ったクラスの勝ち。旗は各クラスの陣地にあるお城に置かれているから、それを奪えば勝ちなんだけど、旗を取って勝つケースはめったにないわ。お城ごと破壊して勝利というパターンがほとんどね」
「ああ、急造のお城だから簡単に壊せちゃうのかな」
「ううん、たしかに急造だけど、士官学校の魔法教官が結集して防護魔法を魔法付与したブロックで作られているから、普通の攻城兵器での破壊はまず無理ね」
そう言うと、ユキはウサギ……じゃなかった、砦を指差した。
「そこで砦の出番よ。砦は戦場にいくつかあって、最初は未統治の状態なんだけど、占領すると威力抜群の砲台が使えるの。砲台は陣地のお城にも届くし、砲弾も魔法付与されているから、お城のブロックにダメージを与えられる。それを使って相手陣地のお城を破壊するのがセオリーね」
「つまり、各地の砦を奪い合うのが基本戦術というわけかぁ」
「そういうこと」
ユキが答えた。
「でも、砦を使わず、お城を占領しようとしないのは、なんで?」
「お城にはね、ガーディアンがいるのよ」
「ガーディアン?」
「人造生物の上位版みたいなやつよ。でっかい鋼鉄の鎧に身を包んだ、お城ぐらいの高さのあるバカでかい巨人で、ゴーレムと同じで、魔法で作られているのよ」
「強いの?」
「強いってモンじゃないわよ! 炎・水・風・土、聖・闇・無の全属性と物理攻撃に耐性がある化け物で、こんなモンを兵器として使うと世界が滅んじゃうから、ヴァイリス王国とジェルディク帝国に国交がなかった時代ですらアヴァロニア教皇庁が公布した国際条約で兵器利用が各国で禁止されたようなシロモノよ」
「なんじゃそら……」
「ガーディアンはそのクラスの級長の命令を聞くように設定されているの。といっても簡単な命令ぐらいしかできないけど。普通は放置して、おまかせで防衛させている間に攻めるでしょうね」
「お城の外に出させることは?」
「お城ぐらいの高さの巨人だって言ったでしょ? 動いたらお城ごと壊れちゃうわよ」
「なるほどね」
実際、ガーディアンを無理やり動かそうとして自陣を破壊して、開始数分で敗北したクラスが過去にあったらしい。
「にしても、これ結構広いよね。これだけの広さを、生徒だけで戦うの?」
「まさか。級長が選んだ1000人の兵士とその指揮権が与えられるのよ」
「でも、どうやって戦うの? 木剣だといつまでたっても決着が付かないだろうし、かといって武器を使ったら死人が出ちゃうだろうし……」
「それはね、こういうのを使うの」
ユキが羊皮紙にぐちゃぐちゃと書き込んだ。
「なにこれ、タコの化け物?」
「腕輪でしょ! なんで見てわかんないの」
「……」
「この腕輪を全員が装着するの。直接戦場に向かうのではなくて、この腕輪から召喚される仕組みね」
「ちょっとなにいってるかわかんない」
ユキがなんでわかんないのよ、という風に僕をにらんでから、言った。
「召喚魔法ってあるでしょ? あれで呼ばれた幻獣とかが倒されると、どうなる?」
「しばらく出てこなくなる」
「そう。実体は別にあるから、殺されても実体は死なないの。だから、召喚時間は限られるし、瀕死の重傷を負ったら実体も大ケガぐらいはするけどね……」
「つまり、その腕輪で召喚できる時間が試合時間になるということか」
「いいえ、腕輪の魔力だと数日は保つみたい。実質時間無制限よ」
「なるほどね」
若獅子祭のおおよそのことはわかった。
つまり、生徒たちが兵士を率いて砦を奪い、砦を使って相手の城を破壊する。
でも、その兵士は……。
「Aクラスに絶対勝てないじゃん」
「なんでそう思ったの?」
「だって、ヴァイリス王国の兵士だったらそんなの、貴族相手なら手を抜くに決まってるじゃん」
「そう。よく気付いたわね」
ユキはペンを置いて、言った。
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