37 / 199
第十四章「元帥の娘」(2)
しおりを挟む
2
「それにしても、側室ってなによ、側室って」
ゾフィアが意気揚々とAクラスの私物を取りに行った後、みんなに側室発言についての苦し紛れの釈明――売り言葉に買い言葉で、一番動揺を誘う言葉を選んだ――をみんなに終えた僕に、まだ釈然としないという風にユキがぼやいた。
「そもそも、正室は誰なのよ? メル? アンナリーザ? いっやらしい!」
「私は側室のほうがいいかな、気が楽だし」
「ブバッッ!!」
なぜかCクラスにいて釈明の場に混じっていたアリサがシャレにならない軽口を叩くと、メルが飲みかけのハーブティをルッ君の顔面に盛大に噴き出した。
「う、うわっ!!」
「ご、ごめんなさい……」
メルが慌ててハンカチを取り出して、ハーブティまみれになったルッ君の顔を拭いた。
「だ、だから、そんな深い意味は何も……」
「深い意味ってアンタね……、試合の時のあの子のセリフ覚えてる? この技を受けたのは皇帝陛下と父親だけだとかなんだとか……、あれがどういうことかわかってるの?」
「え、えっと……、もしかしてゾフィアは、ジェルディク皇帝のお気に入り?」
おそるおそる尋ねた僕に、ユキがやれやれという風に肩をすくめる。
「ゾフィアはね、ジェルディク皇帝と親交が深い帝国元帥の娘なのよ? もう孫娘も同然なわけ」
「こ、皇帝の孫娘……」
「アンタはそんなジェルディク皇帝の孫娘に『側室になれ』って言ったのよ!」
「ま、まって……僕は『側室なら考えるよ』って言ったんだ」
「「「同じことでしょ」」」
ユキ、メル、アリサの冷ややかな声が完全にシンクロした。
「これはヘタをすると国際問題になりかねないわよ……。ヴァイリス王国とジェルディク帝国300年の和平を終焉に導いた男、その名はまつおさん……」
「うわあああああ!! もうやめてくれええええ!!」
僕は頭を抱えたまま机に突っ伏した。
「でも、帝国元帥の娘であるゾフィアが側室なら、私もメルも側室になるんじゃないの?」
「おまえはなにをいってるんだ……」
アリサ、悪ノリなのはわかってるけど、側室前提の会話はもうやめて……。
「だって、帝国元帥の娘と私達じゃ、家格が合わないもの。それを凌ぐ正室って言うなら、もっと……」
「なっ!? あ、あんた……、ま、まさか……!!」
ハッとしたように、ユキが机に突っ伏した僕を無理やりゆさぶり起こした。
「ユ、ユリーシャ王女殿下を正室にしようとむぐぐぐぐっ!!!!」
「な、なんちゅうことを言い出すんだきさまは!!!」
とんでもなく不穏当なことを言おうとするユキの口を全力で抑え込んだ。
「ううん、たしかに怪しいわ。爵位と領土を授与された時に宰相閣下もおっしゃっていたもの。『ユリーシャ王女殿下の格別のはからいにより』って」
「……アリサさん?」
偽ジルベールは何をやっているんだ。
いつもこういう時に、予想の斜め上方向からの援護射撃で話題が違う方向に……。
「~~~~~っ」
偽ジルベールは顔を本で隠して震えていた。
どうやら声を押し殺して笑っているらしい。
「まつおさん、身の丈を越えた野心は身を滅ぼすぞ」
「野心ないのにもう滅ぼされそうだよ!」
真顔で言ってきたキムの口元が笑いをこらえてぷるぷるしている。
「でも、それってとっても面白そう! まつおさんがヴァイリスの王様になったら、一体どんな国になっちゃうのかしらァン」
「わかんねぇけど、学校の偏差値は低くなりそうだよな!」
花京院にだけは言われたくない。
「……」
ルッ君はさっきからぼーっとしておとなしい。
メルにハーブティーをぶっかけられたことで変な性癖に目覚めないといいな。
「それにしても……」
話がようやく一段落ついたと思ったところで、アリサが切り出した。
「……移籍ってズルくない?」
「いや、僕に言われても……」
「あのね、あなたたちはいいのよ。同じCクラスの仲間なんだから。私はね、あの時、Bクラスの中で1人だけまつおさんにひざまずいていたのよ? まるで裏切り者みたいじゃないの」
アリサがうらみがましい目で僕を見る。
「Aクラスのエタンも思わずやりそうになったらしいわよ。必死に抵抗してなんとかごまかせたって言ってた」
「そ、それはまずい。そんな姿をジルベール公爵たちに見られたら、エタンが連中からどんな嫌がらせをされるか……」
「私だってまずいわよっ!」
「いでっ!!」
アリサにびしぃ!とデコピンされた。
「あ、でも!」
おとなしかったルッ君が思い出したように言った。
よかった、こちら側に戻ってこれたか。
「他のクラスでもまつおさんと交流があってひざまづいた奴、何人かいたらしいよ? あと、教官連中の中にもいたって、前にちょっとした騒ぎに……」
「……ルッ君、わかったから今はもうそれ以上何も言わないで……」
僕はくらくらするこめかみを押さえながらルッ君に頼んだ。
「……こうなったら、私も移籍させてもらいますからね」
「「は?」」
アリサの高らかな宣言に、メルとユキが同時に反応した。
「い、いやいや、そんな気軽に生徒の一存で移籍なんてできるわけが……」
「留学生だけ特別扱いなんて絶対に許さないわよ。教官に掛け合って、『聖女』だって特別扱いさせてやるわ」
唖然とする僕を見て、アリサが口元だけにっこり笑って、言った。
「責任、取ってもらうからね?」
その翌日。
アリサが正式に、Cクラスに加入した。
「それにしても、側室ってなによ、側室って」
ゾフィアが意気揚々とAクラスの私物を取りに行った後、みんなに側室発言についての苦し紛れの釈明――売り言葉に買い言葉で、一番動揺を誘う言葉を選んだ――をみんなに終えた僕に、まだ釈然としないという風にユキがぼやいた。
「そもそも、正室は誰なのよ? メル? アンナリーザ? いっやらしい!」
「私は側室のほうがいいかな、気が楽だし」
「ブバッッ!!」
なぜかCクラスにいて釈明の場に混じっていたアリサがシャレにならない軽口を叩くと、メルが飲みかけのハーブティをルッ君の顔面に盛大に噴き出した。
「う、うわっ!!」
「ご、ごめんなさい……」
メルが慌ててハンカチを取り出して、ハーブティまみれになったルッ君の顔を拭いた。
「だ、だから、そんな深い意味は何も……」
「深い意味ってアンタね……、試合の時のあの子のセリフ覚えてる? この技を受けたのは皇帝陛下と父親だけだとかなんだとか……、あれがどういうことかわかってるの?」
「え、えっと……、もしかしてゾフィアは、ジェルディク皇帝のお気に入り?」
おそるおそる尋ねた僕に、ユキがやれやれという風に肩をすくめる。
「ゾフィアはね、ジェルディク皇帝と親交が深い帝国元帥の娘なのよ? もう孫娘も同然なわけ」
「こ、皇帝の孫娘……」
「アンタはそんなジェルディク皇帝の孫娘に『側室になれ』って言ったのよ!」
「ま、まって……僕は『側室なら考えるよ』って言ったんだ」
「「「同じことでしょ」」」
ユキ、メル、アリサの冷ややかな声が完全にシンクロした。
「これはヘタをすると国際問題になりかねないわよ……。ヴァイリス王国とジェルディク帝国300年の和平を終焉に導いた男、その名はまつおさん……」
「うわあああああ!! もうやめてくれええええ!!」
僕は頭を抱えたまま机に突っ伏した。
「でも、帝国元帥の娘であるゾフィアが側室なら、私もメルも側室になるんじゃないの?」
「おまえはなにをいってるんだ……」
アリサ、悪ノリなのはわかってるけど、側室前提の会話はもうやめて……。
「だって、帝国元帥の娘と私達じゃ、家格が合わないもの。それを凌ぐ正室って言うなら、もっと……」
「なっ!? あ、あんた……、ま、まさか……!!」
ハッとしたように、ユキが机に突っ伏した僕を無理やりゆさぶり起こした。
「ユ、ユリーシャ王女殿下を正室にしようとむぐぐぐぐっ!!!!」
「な、なんちゅうことを言い出すんだきさまは!!!」
とんでもなく不穏当なことを言おうとするユキの口を全力で抑え込んだ。
「ううん、たしかに怪しいわ。爵位と領土を授与された時に宰相閣下もおっしゃっていたもの。『ユリーシャ王女殿下の格別のはからいにより』って」
「……アリサさん?」
偽ジルベールは何をやっているんだ。
いつもこういう時に、予想の斜め上方向からの援護射撃で話題が違う方向に……。
「~~~~~っ」
偽ジルベールは顔を本で隠して震えていた。
どうやら声を押し殺して笑っているらしい。
「まつおさん、身の丈を越えた野心は身を滅ぼすぞ」
「野心ないのにもう滅ぼされそうだよ!」
真顔で言ってきたキムの口元が笑いをこらえてぷるぷるしている。
「でも、それってとっても面白そう! まつおさんがヴァイリスの王様になったら、一体どんな国になっちゃうのかしらァン」
「わかんねぇけど、学校の偏差値は低くなりそうだよな!」
花京院にだけは言われたくない。
「……」
ルッ君はさっきからぼーっとしておとなしい。
メルにハーブティーをぶっかけられたことで変な性癖に目覚めないといいな。
「それにしても……」
話がようやく一段落ついたと思ったところで、アリサが切り出した。
「……移籍ってズルくない?」
「いや、僕に言われても……」
「あのね、あなたたちはいいのよ。同じCクラスの仲間なんだから。私はね、あの時、Bクラスの中で1人だけまつおさんにひざまずいていたのよ? まるで裏切り者みたいじゃないの」
アリサがうらみがましい目で僕を見る。
「Aクラスのエタンも思わずやりそうになったらしいわよ。必死に抵抗してなんとかごまかせたって言ってた」
「そ、それはまずい。そんな姿をジルベール公爵たちに見られたら、エタンが連中からどんな嫌がらせをされるか……」
「私だってまずいわよっ!」
「いでっ!!」
アリサにびしぃ!とデコピンされた。
「あ、でも!」
おとなしかったルッ君が思い出したように言った。
よかった、こちら側に戻ってこれたか。
「他のクラスでもまつおさんと交流があってひざまづいた奴、何人かいたらしいよ? あと、教官連中の中にもいたって、前にちょっとした騒ぎに……」
「……ルッ君、わかったから今はもうそれ以上何も言わないで……」
僕はくらくらするこめかみを押さえながらルッ君に頼んだ。
「……こうなったら、私も移籍させてもらいますからね」
「「は?」」
アリサの高らかな宣言に、メルとユキが同時に反応した。
「い、いやいや、そんな気軽に生徒の一存で移籍なんてできるわけが……」
「留学生だけ特別扱いなんて絶対に許さないわよ。教官に掛け合って、『聖女』だって特別扱いさせてやるわ」
唖然とする僕を見て、アリサが口元だけにっこり笑って、言った。
「責任、取ってもらうからね?」
その翌日。
アリサが正式に、Cクラスに加入した。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる