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【閑話】対となるギター(龍一視点)
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若と三琴が連れてきた噂のギター少女。
それは確かに昔、公園で見たことのある女の子だった。
以前よりかなりグレードアップした、ギターの腕と歌唱力。きちんとした先生の元で、しっかり技術を磨いて来たのだろう。
だが、俺にはそれよりも気になる事があった。
「蓮華ちゃん、よければそのギター少し見せてくれないかな?」
ギターを受け取り、俺はある部分を確認する。
それは、指板に埋め込まれた薔薇をモチーフにしたオリジナルのポジションマーク。そして、継ぎ目のないソリッドな一枚の板から作られたボディ。それを見て俺の疑問は確信へと変化する。
やはりこのギターは、レイのものと対になっているものだ。
完全オーダーメイドで作られた二本のうち、一本を大切な妹に贈ったと言っていた。
しかし彼の妹は四年前誘拐事件に巻き込まれ、ギターと共に未だに行方不明だと聞いている。
もし生きているとしたら、この子と同じぐらいか。
もしかして、この子はレイの妹なのか?
だが、レイから妹が見つかったという連絡は受けていない。それに、名前も全く一致しない。
何故、この子がこのギターを持っているのか。考えれば考えるほど、一向に解けない知恵の輪のように思考が混乱する。
このまま考えても答えに辿り着けないと感じた俺は、彼女に探りを入れてみる。
「このギターすごく大切にしてるんだね。手入れがしっかりしてあってコイツも喜んでるんじゃないかな?」
「ありがとうございます。そう言ってもらえるとすごく嬉しいです。このギターは私の大切な宝物なので」
「誰か大切な人からの贈り物?」
「──はい。とても尊敬している大切な人から、誕生日に貰ったんです」
一瞬何かを躊躇った後、言葉を選ぶようにして蓮華ちゃんが言った。
その面持ちは微笑んではいるが、どこか悲哀に満ちている。
尊敬している人からの贈り物なのに、何故そんなに悲しそうなんだ? もしや、形見の品か何かか?
いやいやレイは生きているし、彼女が妹だと決まったわけでもない。
じゃあ何故このギターを持っている?
レイの妹から譲り受けたのか?
そうだとしたらレイの妹は既にこの世にはいないのか?
縁起でもないことを考えるな、俺! レイは未だに妹を必死に探しているんだから。
絡まった糸を無理矢理ほどこうとして、余計にこじれてしまったかのように謎は増す一方だった。
あらぬ方向へ流れる思考をリセットし、俺はさらに蓮華ちゃんからヒントを得ようと探りを入れてみる。
「もしかして、お兄さんからの贈り物だったりしない?」
ヤバイ、直球過ぎたか?
「え……い、いえ! 違います! 私は一人っ子なので……」
一瞬驚いたように目を丸くした後、蓮華ちゃんは何かに怯えるように慌てて否定した。
予想外の彼女の反応に、俺は慌ててフォローを入れる。
「それとよく似たギターを、知り合いが妹に贈ったと言ってたんだ。その妹さん、実は四年くらい前から行方不明で、もしかしたら君じゃないかと思って聞いてみたんだけど……人違いみたいだね。驚かしてごめんな」
「そうだったんてすか。知り合いの妹さん、早く見つかるといいですね」
「ああ、全くそう思うよ。引き止めて悪かったね。蓮華ちゃん、良かったらまたいつでも遊びにおいで」
「はい、ありがとうございます」
レイと同じ感性を持つ少女。
仮に兄妹だったとして、彼女が幼い頃初めてギターを習ったのがレイだとすれば、あの演奏も納得出来る。
しかし、あの子の口から直接兄は居ないと聞かされた今、その仮説は通用しない。
鍵を握るのはあのギターか。
あのギターを彼女が誰から貰ったものかはっきりすれば、何か解決の糸口が掴めるかもしれない。
だが、また同じ質問をした所で結果は変わらないだろう。
彼女の抱える悲しみの理由が分かれば──どちらにせよ、もう少し信頼関係を構築しないと難しい問題だ。
ここは、若と三琴に頑張ってもらうしかないか。
まぁ、色々問題は山積みで、一筋縄ではいかないだろうが。
若は心の奥底ではきっと、あの子のすごさに本能的に魅せられている。だが若の性格上、如何せんプライドが高く本人がそれを認めるのはなかなか難しい。
三琴はあの子の奏でる音楽そのものに惹かれてはいるが、彼女が女の子である以上、立ちはだかる壁がある。
もし仮に全てのハードルをクリア出来たとしても、彼女がバンドではなくソロで活動したいと思っていたらどうするのか。
幼い頃から手塩にかけて育てた愛弟子二人と、高いポテンシャルを秘めた逸材の女の子。
あいつらの目標が一つに重なった時──廃れ始めたロック界に、新たな旋風を巻き起こせるかもしれない。
いつかそう遠くない未来に、あいつ等が舞台で活躍する姿を見てみたいものだな。
それは確かに昔、公園で見たことのある女の子だった。
以前よりかなりグレードアップした、ギターの腕と歌唱力。きちんとした先生の元で、しっかり技術を磨いて来たのだろう。
だが、俺にはそれよりも気になる事があった。
「蓮華ちゃん、よければそのギター少し見せてくれないかな?」
ギターを受け取り、俺はある部分を確認する。
それは、指板に埋め込まれた薔薇をモチーフにしたオリジナルのポジションマーク。そして、継ぎ目のないソリッドな一枚の板から作られたボディ。それを見て俺の疑問は確信へと変化する。
やはりこのギターは、レイのものと対になっているものだ。
完全オーダーメイドで作られた二本のうち、一本を大切な妹に贈ったと言っていた。
しかし彼の妹は四年前誘拐事件に巻き込まれ、ギターと共に未だに行方不明だと聞いている。
もし生きているとしたら、この子と同じぐらいか。
もしかして、この子はレイの妹なのか?
だが、レイから妹が見つかったという連絡は受けていない。それに、名前も全く一致しない。
何故、この子がこのギターを持っているのか。考えれば考えるほど、一向に解けない知恵の輪のように思考が混乱する。
このまま考えても答えに辿り着けないと感じた俺は、彼女に探りを入れてみる。
「このギターすごく大切にしてるんだね。手入れがしっかりしてあってコイツも喜んでるんじゃないかな?」
「ありがとうございます。そう言ってもらえるとすごく嬉しいです。このギターは私の大切な宝物なので」
「誰か大切な人からの贈り物?」
「──はい。とても尊敬している大切な人から、誕生日に貰ったんです」
一瞬何かを躊躇った後、言葉を選ぶようにして蓮華ちゃんが言った。
その面持ちは微笑んではいるが、どこか悲哀に満ちている。
尊敬している人からの贈り物なのに、何故そんなに悲しそうなんだ? もしや、形見の品か何かか?
いやいやレイは生きているし、彼女が妹だと決まったわけでもない。
じゃあ何故このギターを持っている?
レイの妹から譲り受けたのか?
そうだとしたらレイの妹は既にこの世にはいないのか?
縁起でもないことを考えるな、俺! レイは未だに妹を必死に探しているんだから。
絡まった糸を無理矢理ほどこうとして、余計にこじれてしまったかのように謎は増す一方だった。
あらぬ方向へ流れる思考をリセットし、俺はさらに蓮華ちゃんからヒントを得ようと探りを入れてみる。
「もしかして、お兄さんからの贈り物だったりしない?」
ヤバイ、直球過ぎたか?
「え……い、いえ! 違います! 私は一人っ子なので……」
一瞬驚いたように目を丸くした後、蓮華ちゃんは何かに怯えるように慌てて否定した。
予想外の彼女の反応に、俺は慌ててフォローを入れる。
「それとよく似たギターを、知り合いが妹に贈ったと言ってたんだ。その妹さん、実は四年くらい前から行方不明で、もしかしたら君じゃないかと思って聞いてみたんだけど……人違いみたいだね。驚かしてごめんな」
「そうだったんてすか。知り合いの妹さん、早く見つかるといいですね」
「ああ、全くそう思うよ。引き止めて悪かったね。蓮華ちゃん、良かったらまたいつでも遊びにおいで」
「はい、ありがとうございます」
レイと同じ感性を持つ少女。
仮に兄妹だったとして、彼女が幼い頃初めてギターを習ったのがレイだとすれば、あの演奏も納得出来る。
しかし、あの子の口から直接兄は居ないと聞かされた今、その仮説は通用しない。
鍵を握るのはあのギターか。
あのギターを彼女が誰から貰ったものかはっきりすれば、何か解決の糸口が掴めるかもしれない。
だが、また同じ質問をした所で結果は変わらないだろう。
彼女の抱える悲しみの理由が分かれば──どちらにせよ、もう少し信頼関係を構築しないと難しい問題だ。
ここは、若と三琴に頑張ってもらうしかないか。
まぁ、色々問題は山積みで、一筋縄ではいかないだろうが。
若は心の奥底ではきっと、あの子のすごさに本能的に魅せられている。だが若の性格上、如何せんプライドが高く本人がそれを認めるのはなかなか難しい。
三琴はあの子の奏でる音楽そのものに惹かれてはいるが、彼女が女の子である以上、立ちはだかる壁がある。
もし仮に全てのハードルをクリア出来たとしても、彼女がバンドではなくソロで活動したいと思っていたらどうするのか。
幼い頃から手塩にかけて育てた愛弟子二人と、高いポテンシャルを秘めた逸材の女の子。
あいつらの目標が一つに重なった時──廃れ始めたロック界に、新たな旋風を巻き起こせるかもしれない。
いつかそう遠くない未来に、あいつ等が舞台で活躍する姿を見てみたいものだな。
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