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第三話 危険人物にサンドイッチされました
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入学式の翌日。一年二組の教室にて、朝のHRが始まった。
「昨日挨拶した通り、君達の担当の小林一郎だ。担当科目は体育。男子は覚悟しておくように!」
「先生、彼女居ますか~?」
無造作ヘアとは言い難い髪型に、剃り残しのある髭。年期の入ったくたくたのジャージを見る限り、その質問は野暮というものだ。
「ハッハッハ、絶賛募集中だ! まだ入学したばかりで分からない事が多いと思うが、遠慮せず先生を頼ってくれていいからな!」
悪ノリした男子の質問にも笑いなから堂々と答える姿は、体育教師らしく何とも清々しい。
初日から強烈なキャラに遭遇したせいで、担任にも警戒していた。
しかし、良くも悪くも普通の先生でよかった。
「そうそう一限目は色々役員とか決めたりするからな! チャイムが鳴ったら席に着いておくんだぞ!」
放課後まで仕事の多そうな学級委員だけには、絶対なりたくない。
ここは最初のうちに他の人気がない委員に立候補するのが無難だな。
HRが終了し、椅子に座って固まった身体をほぐそうと背伸びをする。
背骨をバキバキするのは気持ちいなーっと身体を捻ると、あるものが視界に入った。
──そういえば、なぜ両隣の席が空いてるんだろう?
一瞬、嫌な予感に寒気がしたが、頭をブンブン振って私は必死にそれを打ち消す。
「蓮華、どうした? さっきから行動がおかしいぞ」
心配そうな表情で話しかけてきたのは、私の友人の椎名璃玖斗、通称リクちゃんだ。
名前も口調も男前だけど、正真正銘女の子である。
由緒正しい剣道場師範の跡取り娘で、剣道の腕は天下一品。
彼女と同じクラスになれた事は、きっと神様からのご褒美に違いない。
「え、マジで? そ、そんなことないってば、リクちゃん!」
「そうか? 後ろから見てる分には実に愉快だったぞ?」
「もう!!」
「ハハ、そう拗ねるな。それにしても──お前の席の左右、昨日の二人組が遅れて登場したりしてな」
「いやいや、それはないでしょ流石に!」
笑って誤魔化してみたものの、嫌な予感は拭えない。
チャイムが一限目の始まりを告げる。
先生が教室に戻って来た──昨日の二人組を引き連れて。
「やはりな、私の予感にハズレはない。良かったではないか蓮華、これから楽しくなりそうだ。謝罪の言葉でも一つ吐かせてみるにはちょうど良い」
後ろの席ではきっと、勝ち誇ったようにリクちゃんが笑ってるに違いない。
そんなに嬉しそうに言わないでよー!!
夢なら早く覚めて欲しい。この一言に尽きるのが、今の現状だった。
「早乙女、笠原、お前らだけまだ自己紹介が済んでないぞ! ということで、簡単にでいいからよろしく。じゃあまずは早乙女から」
「チッ、面倒臭ぇな」
けだるそうに早乙女君が呟く。
「早乙女若菜。名前に関する感想は却下。喧嘩売りたい奴はいつでもかかって来い。以上」
流石に昨日の騒動を見て、彼に喧嘩を売ろうという相手は居ないようだ。教室の静けさがそれを物語っている。
「おいおい早乙女、喧嘩はいかんぞ喧嘩は! 一対一の決闘なら先生は認めるが、喧嘩はいかん!」
それでいいんですか、先生……。
「それじゃあ次は笠原、たのむ」
「笠原三琴です。これから一年間よろしくお願いします」
笠原君がニコッと微笑んで挨拶すると
「(す、素敵!)」
「(ダメよ、笠原君は私が狙ってるんだから!)」
ヒソヒソと黄色い声が飛び交っていた。
「ということで、皆仲良くな! それじゃあ二人とも席に着け! お前らの席は後ろの空席だ。成海を挟んで右が早乙女、左が笠原だ」
神様はやはり残酷だ。本当にこの二人が来るなんて。
せめて私を挟まず空席が隣り合っていればと願ったところで、何も変わらない。
先生に促され、席に着こうと二人が近づいてくる。
「ゲ、あの時のバカ女?!」
アハハ……やっぱり気づいちゃいますよね?
私なんてモブキャラ生徒Cぐらいの立ち位置で良かったのに。
「若、ダメだよそんな事言ったら。成海さん、よろしくね」
「う、うん。よろしく……」
ひきつった笑顔しか出てこないのは仕方がない。
「(クッ……!)」
後ろで笑いを堪えるのに必死であろうリクちゃんの姿が、容易に想像出来て頭が痛くなる。
「これから毎日お前の面見ねぇといけねーなんて、アー最悪」
心底嫌そうに早乙女君が呟く。
「それはお互い様! アンタみたいな自己中が隣の席なんてこっちから願い下げ!」
さっきの言葉にカチンときて、思わず反論してしまった。
関わるのはよそうと思ってたのに……相手があまりにも癪にさわるもんだからつい。
「ァア?! テメェ、調子にのってんじゃねぇぞ? 最初から気にくわねぇと思っていたんだ。昨日の落とし前、キッチリつけてもらおうじゃねぇか!」
私にはこの学園で、兄の手がかりを見つけ出すという重要な任務がある。
こんな所で喧嘩フラグなど立ち上げている場合ではない。
頭で分かってはいるけど……こんな奴に負けたくない!
「望むところよ! 私もアンタの口からごめんなさいって言わせてやろうと思ってたとこだし! 後で泣きべそかいても知らないからね!」
「ほ~女にしては中々肝が据わってんじゃねぇか。上等だ!」
ニヤリと口角を上げて早乙女君が不敵に笑う。思わず私も臨戦態勢に入る。
「若、落ち着いて」
笠原君が制止に入るがそれでも止まらない。
「ん? どうしたーそこ? 思春期真っ只中で仲がいいのも分かるが、とりあえず席につこうな! 今から役員決めすることだしそうだ、お前ら二人で学級委員でもやるか?」
そこへ異変に気付いたのか、先生の間の抜けた声が響く。
あんまりな提案にすかさず否定すると
「やりません!」
「やらねぇよ!」
見事に声が重なってしまった。
「何だお前ら息もぴったりじゃないか! 本当に仲良しさんだな!」
「ち、違います!」
「ち、ちげぇよ!」
またもや声が重なってしまった。
一瞬の沈黙の後、教室中が笑いに包まれた。
穴かあったら入りたい衝動にかられるが、生憎ここには存在しない。
チラッと早乙女君を見ると、戦意が削がれたのか小さく舌打ちして席についた。
心なしか頬が赤いのは気のせいではない。
うん、やっぱり恥ずかしいよね。
今ばかりはきっと、私とアンタは同志だろう。
一限目が終わった後、早乙女君は見事に机に突っ伏して寝ていた。
どうやら今はまだ、落とし前とやらをつける気はないらしい。
あちこちに地雷の散りばめられたマインスイーパのような人物が、これからしばらく隣にいるという現実に、私の気は重たくなる一方だった。
ハハハ、歩くたびに地雷踏みそう……
皆は早乙女君の逆鱗に触れないようにかなり気を配っている。
だけど、誰かの機嫌を常に伺いながら生活するのは性に合わない。
私もまた、わりと沸点の低い質だからだ。筋か通っていることなら我慢は出来る。
でも、 私の学園生活は始まったばかりだ。これからずっとあの俺様思考を押し付けられてはたまったもんじゃない。
平和な学園生活を取り戻すためにも、何とかして決着をつけなければ。
そしてあわよくば、謝罪の言葉を吐かせたい!
だけど──モンスター討伐の具体策が思い付かない
入学式のハイキックを見る限り、喧嘩はきっとかなり強い。
それならば、精神面から相手が負けたと思えるような何かを……何かを……ダメだ、思い付かない。
不発に終わるようにいっそ毎日水でもかけてやるか?
水を運ぶ労力と後片付けが面倒で、とても現実的ではない。
これは長期戦も視野にいれなければいけないのか。前途多難な道のりに思わずため息か漏れた。
「成海さん、よかったらこれ」
差し出されたのは、白い包み紙にイチゴの絵柄の可愛らしい飴玉。
「え、これ……もらっていいの?」
思わぬ人物からの突然のプレゼントに、私は目をぱちくりさせた。
「あ、ごめんね。驚かせちゃったみたいだね。元気がないようだったから、甘いものでもどうかなと思って」
笠原君が少し困ったように微笑んだ。
「あ、ううんありがとう! じゃあ、ありがたく頂きます」
じわっと苺とミルクのマッチした甘さが口内に広がる。
優しい味に胸が少しだけ温かくなってホッとする。
「甘くて美味しい」
自然と口から言葉が漏れる。
「良かった、これ俺のオススメだから気に入ってもらえて嬉しい」
そう言って無邪気な顔で微笑む笠原君は本当に綺麗で、女子生徒にモテるのも確かに頷ける。
「これと同じ飴をね、昔──若が俺にくれたんだ」
「え、あの早乙女君が?」
驚きで思わず声が大きくなってしまった。
早乙女君がこの可愛らしい飴玉持ってる姿……想像出来ない。
「俺がすごく落ち込んでた時、ぶっきらぼうに食えよって渡してくれんだ。わざわざ用意してくれたみたいなのに、俺に気をつかわせないようたまたま貰ったんだって嘘までついてね。その気持ちがすごく嬉しかったから、俺はこの飴が好きなんだ」
「そっか、不器用な優しさが一杯詰まった飴なんだね」
笠原君が本当に嬉しそうな顔で話しているのを見ると、早乙女って私が思ってるほど悪い人ではないのかもしれない。
「その時食べた飴がすごく甘くてさ、色々悩んでた自分が馬鹿らしくなったんだ。だから、成海さんにもお裾分け。少しは……元気出た?」
「ありがとう、すごく元気出たよ!」
少しだけ早乙女君に対する印象が良い方に変わった気がする。
チラッと隣で寝ている人物の方を見ると、気だるそうにあくびをしている早乙女君と目が合った。
「んだよ──こっち見んなよバカ女」
そう言うと、早乙女君はプイっと顔を反対向けて、机に突っ伏してまた睡眠体制に入った。
前言撤回! 少しは良い所があると見直した自分がバカだった!
隣では笠原君が苦笑いしているのが分かった。
「昨日挨拶した通り、君達の担当の小林一郎だ。担当科目は体育。男子は覚悟しておくように!」
「先生、彼女居ますか~?」
無造作ヘアとは言い難い髪型に、剃り残しのある髭。年期の入ったくたくたのジャージを見る限り、その質問は野暮というものだ。
「ハッハッハ、絶賛募集中だ! まだ入学したばかりで分からない事が多いと思うが、遠慮せず先生を頼ってくれていいからな!」
悪ノリした男子の質問にも笑いなから堂々と答える姿は、体育教師らしく何とも清々しい。
初日から強烈なキャラに遭遇したせいで、担任にも警戒していた。
しかし、良くも悪くも普通の先生でよかった。
「そうそう一限目は色々役員とか決めたりするからな! チャイムが鳴ったら席に着いておくんだぞ!」
放課後まで仕事の多そうな学級委員だけには、絶対なりたくない。
ここは最初のうちに他の人気がない委員に立候補するのが無難だな。
HRが終了し、椅子に座って固まった身体をほぐそうと背伸びをする。
背骨をバキバキするのは気持ちいなーっと身体を捻ると、あるものが視界に入った。
──そういえば、なぜ両隣の席が空いてるんだろう?
一瞬、嫌な予感に寒気がしたが、頭をブンブン振って私は必死にそれを打ち消す。
「蓮華、どうした? さっきから行動がおかしいぞ」
心配そうな表情で話しかけてきたのは、私の友人の椎名璃玖斗、通称リクちゃんだ。
名前も口調も男前だけど、正真正銘女の子である。
由緒正しい剣道場師範の跡取り娘で、剣道の腕は天下一品。
彼女と同じクラスになれた事は、きっと神様からのご褒美に違いない。
「え、マジで? そ、そんなことないってば、リクちゃん!」
「そうか? 後ろから見てる分には実に愉快だったぞ?」
「もう!!」
「ハハ、そう拗ねるな。それにしても──お前の席の左右、昨日の二人組が遅れて登場したりしてな」
「いやいや、それはないでしょ流石に!」
笑って誤魔化してみたものの、嫌な予感は拭えない。
チャイムが一限目の始まりを告げる。
先生が教室に戻って来た──昨日の二人組を引き連れて。
「やはりな、私の予感にハズレはない。良かったではないか蓮華、これから楽しくなりそうだ。謝罪の言葉でも一つ吐かせてみるにはちょうど良い」
後ろの席ではきっと、勝ち誇ったようにリクちゃんが笑ってるに違いない。
そんなに嬉しそうに言わないでよー!!
夢なら早く覚めて欲しい。この一言に尽きるのが、今の現状だった。
「早乙女、笠原、お前らだけまだ自己紹介が済んでないぞ! ということで、簡単にでいいからよろしく。じゃあまずは早乙女から」
「チッ、面倒臭ぇな」
けだるそうに早乙女君が呟く。
「早乙女若菜。名前に関する感想は却下。喧嘩売りたい奴はいつでもかかって来い。以上」
流石に昨日の騒動を見て、彼に喧嘩を売ろうという相手は居ないようだ。教室の静けさがそれを物語っている。
「おいおい早乙女、喧嘩はいかんぞ喧嘩は! 一対一の決闘なら先生は認めるが、喧嘩はいかん!」
それでいいんですか、先生……。
「それじゃあ次は笠原、たのむ」
「笠原三琴です。これから一年間よろしくお願いします」
笠原君がニコッと微笑んで挨拶すると
「(す、素敵!)」
「(ダメよ、笠原君は私が狙ってるんだから!)」
ヒソヒソと黄色い声が飛び交っていた。
「ということで、皆仲良くな! それじゃあ二人とも席に着け! お前らの席は後ろの空席だ。成海を挟んで右が早乙女、左が笠原だ」
神様はやはり残酷だ。本当にこの二人が来るなんて。
せめて私を挟まず空席が隣り合っていればと願ったところで、何も変わらない。
先生に促され、席に着こうと二人が近づいてくる。
「ゲ、あの時のバカ女?!」
アハハ……やっぱり気づいちゃいますよね?
私なんてモブキャラ生徒Cぐらいの立ち位置で良かったのに。
「若、ダメだよそんな事言ったら。成海さん、よろしくね」
「う、うん。よろしく……」
ひきつった笑顔しか出てこないのは仕方がない。
「(クッ……!)」
後ろで笑いを堪えるのに必死であろうリクちゃんの姿が、容易に想像出来て頭が痛くなる。
「これから毎日お前の面見ねぇといけねーなんて、アー最悪」
心底嫌そうに早乙女君が呟く。
「それはお互い様! アンタみたいな自己中が隣の席なんてこっちから願い下げ!」
さっきの言葉にカチンときて、思わず反論してしまった。
関わるのはよそうと思ってたのに……相手があまりにも癪にさわるもんだからつい。
「ァア?! テメェ、調子にのってんじゃねぇぞ? 最初から気にくわねぇと思っていたんだ。昨日の落とし前、キッチリつけてもらおうじゃねぇか!」
私にはこの学園で、兄の手がかりを見つけ出すという重要な任務がある。
こんな所で喧嘩フラグなど立ち上げている場合ではない。
頭で分かってはいるけど……こんな奴に負けたくない!
「望むところよ! 私もアンタの口からごめんなさいって言わせてやろうと思ってたとこだし! 後で泣きべそかいても知らないからね!」
「ほ~女にしては中々肝が据わってんじゃねぇか。上等だ!」
ニヤリと口角を上げて早乙女君が不敵に笑う。思わず私も臨戦態勢に入る。
「若、落ち着いて」
笠原君が制止に入るがそれでも止まらない。
「ん? どうしたーそこ? 思春期真っ只中で仲がいいのも分かるが、とりあえず席につこうな! 今から役員決めすることだしそうだ、お前ら二人で学級委員でもやるか?」
そこへ異変に気付いたのか、先生の間の抜けた声が響く。
あんまりな提案にすかさず否定すると
「やりません!」
「やらねぇよ!」
見事に声が重なってしまった。
「何だお前ら息もぴったりじゃないか! 本当に仲良しさんだな!」
「ち、違います!」
「ち、ちげぇよ!」
またもや声が重なってしまった。
一瞬の沈黙の後、教室中が笑いに包まれた。
穴かあったら入りたい衝動にかられるが、生憎ここには存在しない。
チラッと早乙女君を見ると、戦意が削がれたのか小さく舌打ちして席についた。
心なしか頬が赤いのは気のせいではない。
うん、やっぱり恥ずかしいよね。
今ばかりはきっと、私とアンタは同志だろう。
一限目が終わった後、早乙女君は見事に机に突っ伏して寝ていた。
どうやら今はまだ、落とし前とやらをつける気はないらしい。
あちこちに地雷の散りばめられたマインスイーパのような人物が、これからしばらく隣にいるという現実に、私の気は重たくなる一方だった。
ハハハ、歩くたびに地雷踏みそう……
皆は早乙女君の逆鱗に触れないようにかなり気を配っている。
だけど、誰かの機嫌を常に伺いながら生活するのは性に合わない。
私もまた、わりと沸点の低い質だからだ。筋か通っていることなら我慢は出来る。
でも、 私の学園生活は始まったばかりだ。これからずっとあの俺様思考を押し付けられてはたまったもんじゃない。
平和な学園生活を取り戻すためにも、何とかして決着をつけなければ。
そしてあわよくば、謝罪の言葉を吐かせたい!
だけど──モンスター討伐の具体策が思い付かない
入学式のハイキックを見る限り、喧嘩はきっとかなり強い。
それならば、精神面から相手が負けたと思えるような何かを……何かを……ダメだ、思い付かない。
不発に終わるようにいっそ毎日水でもかけてやるか?
水を運ぶ労力と後片付けが面倒で、とても現実的ではない。
これは長期戦も視野にいれなければいけないのか。前途多難な道のりに思わずため息か漏れた。
「成海さん、よかったらこれ」
差し出されたのは、白い包み紙にイチゴの絵柄の可愛らしい飴玉。
「え、これ……もらっていいの?」
思わぬ人物からの突然のプレゼントに、私は目をぱちくりさせた。
「あ、ごめんね。驚かせちゃったみたいだね。元気がないようだったから、甘いものでもどうかなと思って」
笠原君が少し困ったように微笑んだ。
「あ、ううんありがとう! じゃあ、ありがたく頂きます」
じわっと苺とミルクのマッチした甘さが口内に広がる。
優しい味に胸が少しだけ温かくなってホッとする。
「甘くて美味しい」
自然と口から言葉が漏れる。
「良かった、これ俺のオススメだから気に入ってもらえて嬉しい」
そう言って無邪気な顔で微笑む笠原君は本当に綺麗で、女子生徒にモテるのも確かに頷ける。
「これと同じ飴をね、昔──若が俺にくれたんだ」
「え、あの早乙女君が?」
驚きで思わず声が大きくなってしまった。
早乙女君がこの可愛らしい飴玉持ってる姿……想像出来ない。
「俺がすごく落ち込んでた時、ぶっきらぼうに食えよって渡してくれんだ。わざわざ用意してくれたみたいなのに、俺に気をつかわせないようたまたま貰ったんだって嘘までついてね。その気持ちがすごく嬉しかったから、俺はこの飴が好きなんだ」
「そっか、不器用な優しさが一杯詰まった飴なんだね」
笠原君が本当に嬉しそうな顔で話しているのを見ると、早乙女って私が思ってるほど悪い人ではないのかもしれない。
「その時食べた飴がすごく甘くてさ、色々悩んでた自分が馬鹿らしくなったんだ。だから、成海さんにもお裾分け。少しは……元気出た?」
「ありがとう、すごく元気出たよ!」
少しだけ早乙女君に対する印象が良い方に変わった気がする。
チラッと隣で寝ている人物の方を見ると、気だるそうにあくびをしている早乙女君と目が合った。
「んだよ──こっち見んなよバカ女」
そう言うと、早乙女君はプイっと顔を反対向けて、机に突っ伏してまた睡眠体制に入った。
前言撤回! 少しは良い所があると見直した自分がバカだった!
隣では笠原君が苦笑いしているのが分かった。
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