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59、優れた審美眼
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あれから一ヶ月が経って、今日は王城で園遊会が開かれる。
「本当に何度見てもうっとりするほど素敵なドレスですね、お嬢様! あの超人気高級衣装店プリ・マドモアールの一点ものを、あの短期間で仕上げてお贈りくださるなんて……リヴァイド殿下の深い愛を感じますね!」
着替えを手伝ってくれながら、メアリーがドレスをべた褒めしている。
白地を基調として、青のフリルレースが重ねられた可愛いプリンセスドレス。レースの裾には薔薇の刺繍まで施してあって、かなり手が込んでいる。腰には大きな青いリボンがあって、後ろ姿も可愛い!
ドレスって採寸してから仕立て上げるのに最低でも三ヶ月はかかるものなのに、よく間に合ったな。かなり無理をして作ってもらったものなんだろう、後でお礼しなきゃ。
「でもメアリーは、ルイスとお揃いに飾り立てたかったんでしょう?」
「お坊っちゃまとお揃いも確かに良いのですが、リヴァイド殿下の隣に並ばれたお嬢様を想像しても……大変良きです!」
メアリーとそんな話をしていたら、準備が終わったらしいルイスがやってきた。
「わぁ、リィすごく綺麗だね!」
誉めてくれた後で、ボソッと小言を漏らした。
「でも自分の色をあてがって、リヴァイの強い独占欲を感じる……」
確かに青はリヴァイの瞳の色だけども。
「リィにはもっと明るい色の方が似合うと思うんだけどな~」
「そう? 私、このドレス好きだよ」
見た目は可愛いけれど、上品な青色が落ち着いた雰囲気を醸し出してくれてるし。
「ふふふ、お坊っちゃまも独占したくなるような素敵なレディとの出会いがあると良いですね」
「ぼ、僕は別に! まだそういうのは要らないし!」
メアリーにからかわれてルイスの耳は赤くなっていた。次期公爵夫人か……ルイスが好きになる人ってどういう人なんだろう?
ルイスは私の心配ばかりしてて、自分の事は疎かにしてる面がある。私が相談ばかりしてるせいかもしれない。
「ルイス、恋の相談してくれるの待ってるからね!」
「ちょっと、リィまで何言い出すのさ!」
「ちなみに、どんな人がタイプなの?」
さりげなく園遊会で、ルイスのタイプの人が居ないかリサーチしよう。
「そんなの、考えた事もないよ」
「じゃあさ、近くにいると楽しいなーって思える人ってどんな人?」
「そうだね……失敗しても諦めずに、前を見てひたむきに頑張ってる人かな。見てると応援したくなるね」
「なるほど、努力家なレディが好みなんだね」
でもそれ、見た目じゃ分かんないよ。深く付き合わないと、見えてこない側面だよ。
「他には、何かある?」
「ほら僕の事はもういいから、行くよ!」
「分かった、続きは馬車の中で聞くね」
「リィはリヴァイが迎えに来るってよ。僕はお父様達と行くから、この話はおしまい!」
に、逃げられた。
◇
「お嬢様、リヴァイド殿下がお越しになりました」
部屋で待っていたら、リチャードが呼びに来てくれた。応接間で待つリヴァイの元へ向かう。
「お待たせして申し訳ありません。リヴァイ、素敵なドレスを贈ってくださりありがとうございます」
こちらを見てリヴァイは何故か目を見開いて固まっている。
「どこか具合でも悪いのですか?」
心配になって顔を覗き込むと、リヴァイの顔は真っ赤に染まっていた。おでこに手を当てるとかなり熱い。
「メアリー大変だわ! 何か冷やすものを……!」
「そ、その必要はない!」
「でもこんなに熱が……」
体調が悪いのに無理して来てくれたんだって申し訳なくなった。ルイスが言っていたように、参加しない方が良かったのかもしれない。
「私のために、無理をさせてしまって申し訳ありません」
「ち、違うんだ! その、あまりにもお前が美しくて、見惚れてしまっただけで……」
「……え」
「よく似合っている。綺麗だ、リオーネ」
そんな事を言われて、今度はこっちが顔から火が出そうになった。
「お嬢様、氷のうをお持ちしました!」
そこへタイミングよくメアリーが冷やすものを持ってきてくれて、自分の顔を冷やすのに使ったというなんたる失態。
屋敷の皆に微笑ましく見送られて、リヴァイにエスコートされて馬車に乗った。
絶妙に恥ずかしい空気をどうにかしたくて、私はリヴァイにとある質問を投げ掛けた。
「リヴァイは、ルイスの好みの女性のタイプをご存知ありませんか」と。
それは本来ならルイスに馬車の中で続きを聞こうとしていた内容。
付き合いの長いリヴァイなら、私の知らないお兄様の一面を知っているはずだ。そう思って聞いてみたら、ものすごい訝しげな視線を向けられた。
「何故、知りたいのだ?」
「折角の機会なので、素敵な方が居らっしゃるなら、仲良くなれたらいいなと思いまして。今後のために」
「なるほど……」
「リヴァイは何かご存知ありませんか?」
「あー…………そうだな…………」
リヴァイは言葉を濁した後、少し考える素振りをしてから口を開いた。
「ルイスの口から出てくるのはお前の事だけだ。俺は最初、あいつは重度のシスコンなんだと思ってたよ」
「し、シスコン!?」
「でもリオーネの秘密を知ってからは、そうじゃないって気付いた。心配性なのは、今も変わらないけどな」
「そうですね。お兄様にはいつも心配をかけてばかりです」
「お前の幸せを願って、昔はずっと思い詰めた顔をしていた。でも今は、お前に追い付きたくて必死に頑張ってるように見える。だから今はそれ以外の事を考える余裕ないのかなって、印象を受ける」
「私に追い付きたい、のですか?」
「兄として、お前に誇ってもらえる存在で在りたいんだろう。だがしかし、妹が錬金術に励み急成長を遂げたおかげで焦りもあるんだと思う」
そういえばルイスは最初、セシル先生に対抗心を持っていたわね。お兄ちゃん役をとられたみたいで寂しいって。
もしかするとルイスは私が前世の記憶の話をしてから、必死に大人に近い知識を身に付けようと努力してくれていたのかもしれない。
ルイスと話してても年齢差をそんなに感じなかったのは、その涙ぐましい努力のおかげだったとしたら……想像して思わずうるっときてしまった。
「だから今は余計な事を考えずに、『お兄様すごーい!』ってたまに持ち上げながら、見守ってやるくらいでいいんじゃないか? 興味持てない話題をずっと振られ続けたら、逆に嫌いになる可能性もあるだろう?」
確かに全然興味ない事を永遠と語られたら、その語られた話に出てくるものも嫌いになりそう。
私があの子すごく良い子だったよ! って言い続けたせいで、その子がルイスに嫌われたらいたたまれない。余計な事をする前に気付けて良かった……
「リヴァイ、すごいです! お兄様の事をそこまで深く理解してくださっていたのですね!」
「同年代で俺の話に付いてこれるの、ルイスくらいしか居なかったからな。他の者は『えーなんですかそれー?』って首をかしげるだけで、会話が噛み合わない」
リヴァイとルイスって、やっぱり他の子達より聡明なんだな。
「じゃあ、私と話してたらどんな印象を受けますか?」
興味本位で思わず聞いてみたけど、口に出した後に少し後悔。何て言葉が返ってくるんだろう。
「そうだな。リオーネは時に大人のような思慮深さと落ち着きがあるかと思えば、無邪気な子供のように可憐な一面もあって、実に不思議だ」
物凄く核心をつかれて、なんか一瞬ひやっとした。リヴァイの持つ審美眼は、かなり鋭いようだ。
「でもそれはきっと、お前が自身の置かれた状況を何とか打破しようと悩みながらも頑張ってきた証なのだろう? だから、とても魅力的に映るのだろうな」
優しく目を細めて、リヴァイが言った。
何も知らないはずなのに、全てを知っているかのようなその肯定的な言葉に、思わず胸が一杯になった。
私が前世の記憶を思い出したのは、毎日が本当に辛くて、何をしても報われなくて、最後の希望にすがってもだめで、人生を諦めかけた時だった。
もしあのまま錬金術にも出会えずに、絶望の中で過ごしていたら、こうしてリヴァイに出会う事もなかっただろう。興味をもってもらえる事も、こうしてお話しする事も。
今なら暗黒大陸の事を話す絶好の機会かもしれない。意を決して口を開いたものの――
「リヴァイ、あの……」
「着いたようだな」
タイミング!
どうやら時の女神様は私に意地悪なようで、王城に着いてしまった。
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「でもメアリーは、ルイスとお揃いに飾り立てたかったんでしょう?」
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メアリーとそんな話をしていたら、準備が終わったらしいルイスがやってきた。
「わぁ、リィすごく綺麗だね!」
誉めてくれた後で、ボソッと小言を漏らした。
「でも自分の色をあてがって、リヴァイの強い独占欲を感じる……」
確かに青はリヴァイの瞳の色だけども。
「リィにはもっと明るい色の方が似合うと思うんだけどな~」
「そう? 私、このドレス好きだよ」
見た目は可愛いけれど、上品な青色が落ち着いた雰囲気を醸し出してくれてるし。
「ふふふ、お坊っちゃまも独占したくなるような素敵なレディとの出会いがあると良いですね」
「ぼ、僕は別に! まだそういうのは要らないし!」
メアリーにからかわれてルイスの耳は赤くなっていた。次期公爵夫人か……ルイスが好きになる人ってどういう人なんだろう?
ルイスは私の心配ばかりしてて、自分の事は疎かにしてる面がある。私が相談ばかりしてるせいかもしれない。
「ルイス、恋の相談してくれるの待ってるからね!」
「ちょっと、リィまで何言い出すのさ!」
「ちなみに、どんな人がタイプなの?」
さりげなく園遊会で、ルイスのタイプの人が居ないかリサーチしよう。
「そんなの、考えた事もないよ」
「じゃあさ、近くにいると楽しいなーって思える人ってどんな人?」
「そうだね……失敗しても諦めずに、前を見てひたむきに頑張ってる人かな。見てると応援したくなるね」
「なるほど、努力家なレディが好みなんだね」
でもそれ、見た目じゃ分かんないよ。深く付き合わないと、見えてこない側面だよ。
「他には、何かある?」
「ほら僕の事はもういいから、行くよ!」
「分かった、続きは馬車の中で聞くね」
「リィはリヴァイが迎えに来るってよ。僕はお父様達と行くから、この話はおしまい!」
に、逃げられた。
◇
「お嬢様、リヴァイド殿下がお越しになりました」
部屋で待っていたら、リチャードが呼びに来てくれた。応接間で待つリヴァイの元へ向かう。
「お待たせして申し訳ありません。リヴァイ、素敵なドレスを贈ってくださりありがとうございます」
こちらを見てリヴァイは何故か目を見開いて固まっている。
「どこか具合でも悪いのですか?」
心配になって顔を覗き込むと、リヴァイの顔は真っ赤に染まっていた。おでこに手を当てるとかなり熱い。
「メアリー大変だわ! 何か冷やすものを……!」
「そ、その必要はない!」
「でもこんなに熱が……」
体調が悪いのに無理して来てくれたんだって申し訳なくなった。ルイスが言っていたように、参加しない方が良かったのかもしれない。
「私のために、無理をさせてしまって申し訳ありません」
「ち、違うんだ! その、あまりにもお前が美しくて、見惚れてしまっただけで……」
「……え」
「よく似合っている。綺麗だ、リオーネ」
そんな事を言われて、今度はこっちが顔から火が出そうになった。
「お嬢様、氷のうをお持ちしました!」
そこへタイミングよくメアリーが冷やすものを持ってきてくれて、自分の顔を冷やすのに使ったというなんたる失態。
屋敷の皆に微笑ましく見送られて、リヴァイにエスコートされて馬車に乗った。
絶妙に恥ずかしい空気をどうにかしたくて、私はリヴァイにとある質問を投げ掛けた。
「リヴァイは、ルイスの好みの女性のタイプをご存知ありませんか」と。
それは本来ならルイスに馬車の中で続きを聞こうとしていた内容。
付き合いの長いリヴァイなら、私の知らないお兄様の一面を知っているはずだ。そう思って聞いてみたら、ものすごい訝しげな視線を向けられた。
「何故、知りたいのだ?」
「折角の機会なので、素敵な方が居らっしゃるなら、仲良くなれたらいいなと思いまして。今後のために」
「なるほど……」
「リヴァイは何かご存知ありませんか?」
「あー…………そうだな…………」
リヴァイは言葉を濁した後、少し考える素振りをしてから口を開いた。
「ルイスの口から出てくるのはお前の事だけだ。俺は最初、あいつは重度のシスコンなんだと思ってたよ」
「し、シスコン!?」
「でもリオーネの秘密を知ってからは、そうじゃないって気付いた。心配性なのは、今も変わらないけどな」
「そうですね。お兄様にはいつも心配をかけてばかりです」
「お前の幸せを願って、昔はずっと思い詰めた顔をしていた。でも今は、お前に追い付きたくて必死に頑張ってるように見える。だから今はそれ以外の事を考える余裕ないのかなって、印象を受ける」
「私に追い付きたい、のですか?」
「兄として、お前に誇ってもらえる存在で在りたいんだろう。だがしかし、妹が錬金術に励み急成長を遂げたおかげで焦りもあるんだと思う」
そういえばルイスは最初、セシル先生に対抗心を持っていたわね。お兄ちゃん役をとられたみたいで寂しいって。
もしかするとルイスは私が前世の記憶の話をしてから、必死に大人に近い知識を身に付けようと努力してくれていたのかもしれない。
ルイスと話してても年齢差をそんなに感じなかったのは、その涙ぐましい努力のおかげだったとしたら……想像して思わずうるっときてしまった。
「だから今は余計な事を考えずに、『お兄様すごーい!』ってたまに持ち上げながら、見守ってやるくらいでいいんじゃないか? 興味持てない話題をずっと振られ続けたら、逆に嫌いになる可能性もあるだろう?」
確かに全然興味ない事を永遠と語られたら、その語られた話に出てくるものも嫌いになりそう。
私があの子すごく良い子だったよ! って言い続けたせいで、その子がルイスに嫌われたらいたたまれない。余計な事をする前に気付けて良かった……
「リヴァイ、すごいです! お兄様の事をそこまで深く理解してくださっていたのですね!」
「同年代で俺の話に付いてこれるの、ルイスくらいしか居なかったからな。他の者は『えーなんですかそれー?』って首をかしげるだけで、会話が噛み合わない」
リヴァイとルイスって、やっぱり他の子達より聡明なんだな。
「じゃあ、私と話してたらどんな印象を受けますか?」
興味本位で思わず聞いてみたけど、口に出した後に少し後悔。何て言葉が返ってくるんだろう。
「そうだな。リオーネは時に大人のような思慮深さと落ち着きがあるかと思えば、無邪気な子供のように可憐な一面もあって、実に不思議だ」
物凄く核心をつかれて、なんか一瞬ひやっとした。リヴァイの持つ審美眼は、かなり鋭いようだ。
「でもそれはきっと、お前が自身の置かれた状況を何とか打破しようと悩みながらも頑張ってきた証なのだろう? だから、とても魅力的に映るのだろうな」
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私が前世の記憶を思い出したのは、毎日が本当に辛くて、何をしても報われなくて、最後の希望にすがってもだめで、人生を諦めかけた時だった。
もしあのまま錬金術にも出会えずに、絶望の中で過ごしていたら、こうしてリヴァイに出会う事もなかっただろう。興味をもってもらえる事も、こうしてお話しする事も。
今なら暗黒大陸の事を話す絶好の機会かもしれない。意を決して口を開いたものの――
「リヴァイ、あの……」
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