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58、踏み出す一歩

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 突然のリヴァイの来訪に、驚きで胸がドキドキしてる。会うのはあのバルト海岸の一件以来だ。

「あれ、今日はセシル先生居ないのか?」

 アトリエをキョロキョロと見渡しながらリヴァイが言った。

「先生は今朝、カトレット皇国へお帰りになりました」
「そうだったのか。それは寂しくなるな……」
「はい。でも月に数回はこちらへ通ってくださるそうなので、大丈夫です! それに分からない事はこのマジックブックを使えば質問も出来ますし!」

 じっと私の顔を覗き込んでリヴァイが口を開く。

「無理をするな。目が少し腫れている」

 昨晩のパーティーで泣き腫らしたのがまだ残ってたの!?

 リヴァイの手が優しく私の頬に触れた。

「でも少し妬けるな」
「り、リヴァイ!?」
「だってリオーネは俺が帰っても、泣かないだろう?」
「それは、そうですね……」
「他の男の事を思ってこの綺麗な目を泣き腫らすなんて、なんか悔しい」

 サファイアのように美しいリヴァイの青い瞳が、長い睫の奥で微かに揺れている。綺麗なのはリヴァイの瞳の方だと思う……

「いや、すまない。今のは忘れてくれ……」

 我に返ったのかハッとした様子で、リヴァイは恥ずかしそうにそっぽ向いて離れた。

 私が泣いていたのを、嫉妬してくれたって事なのかな。自覚したら何だかこっちまで恥ずかしくなってきた。

 この流れで十年後に先生と一緒に暗黒大陸行きたいんです! なんて空気読めない相談、流石に出来ない。今は話題を変えよう。

「そうだ、リヴァイに渡したかったものがあるんです!」

 チェストから『ウォーターガン』を取り出した。先生へのプレゼントを作る時に、一緒に作っておいたんだよね。

 ボディはリヴァイの瞳の色に合わせて青色にカスタマイズして、メアリーに綺麗にラッピングしてもらっていた。

「ありがとう! 開けてみてもいいか?」
「ええ、どうぞ」
「おお! ついに完成したんだな! おめでとう!」
「はい、ありがとうございます」
「これは……とてもカッコいいぞ!」

 ウォーターガンを天に掲げて観察したり、手に構えてポーズをとったりと、実に楽しそうだ。

「でもこれ、リオーネが描いていたイラストと色が違うな」

 チェストから違うウォーターガンを取り出してリヴァイに見せる。

「これが普通のです。リヴァイにお渡ししたのは、貴方の瞳の色に合わせて専用にカスタマイズしたものなんですよ」
「ということは、この世に一つだけしかないものなのか?」
「はい、リヴァイ専用の私特製『ウォーターガン』です」
「俺は今日、幸せすぎて死ぬんじゃなかろうか……」

 目頭を押さえてリヴァイが言った。

「いきなり物騒なこと言わないで下さいよ!」
「だってこれ、リオーネが俺のために特別に作ってくれものなのだぞ! そんな貴重なものを手に入れたのだ、この幸せを神が妬んで嫌がらせを……」
「リヴァイ、万が一事故に遭ったら困るのでこっちと交換しましょう。幸せレベル落としましょう。そしたら安全に帰れます」
「嫌だ! こいつと共に朽ちるなら、俺は本望だ……!」

 とても気に入ってくれたらしいというのは、よく分かった。分かったけれど、なんか心配になるからやっぱりこっちと交換して? お願い。

「二人とも、なに騒いでるの?」

 そこへちょうどルイスがやってきた。

「リヴァイが幸せすぎて死ぬって物騒なこと言うから、あげたウォーターガンを普通のと交換しようと思って!」
「ああ、なるほど。ねぇ、リヴァイ。これ見て?」

 ルイスは懐から私があげた緑色のウォーターガンを取り出した。

「僕もカスタマイズしてもらったの、持ってるよ~!」
「なに!?」
「ちなみに先生のは紫色だったよ~!」

 お兄様は天使のような笑顔を浮かべて、リヴァイを天国から地獄へと突き落とした。

「お、俺だけのウォーターガン……」
「幸せ指数下げてあげたから、これで大丈夫でしょ」
「あ、うん。そうだね……」

 お兄様が、天使のような悪魔に見えた。

「それでリヴァイ、リィに渡したの?」
「いや、まだだ……」

 ルイスの言葉で、さらにリヴァイの元気がなくなった。

「何かあったのですか?」
「実は来月、王城で園遊会が開かれるのだ。そこへリオーネにも出席してもらいたいと母上が仰っていて、招待状を預かってきたんだ」
「園遊会って毎年二回開かれてるんだけど、次開かれるのは子供メインの園遊会で、演奏ありきのイベントなんだ。大体は各家門から一人参加すればいいんだけど……」
「母上がルイスとリオーネ、二人のヴァイオリン二重奏が聞きたいと仰っていたのだ」

 まさかこの行事、奇跡の双子としてさらに有名になるイベントなんじゃないだろうか。

「二人同時にってなると、僕がリィに変装して演奏することも出来ないから、どうしようって話してたんだ」
「私のせいで迷惑かけて、ごめんなさい」
「単なる母上の我儘だから、リオーネは気にしなくていい。元々演奏するのは希望者だけだし、そこは俺が何とかする」

 私を勇気付けるように、リヴァイが力強く否定してくれた。

「リオーネは、音楽を聞くのが大好きだと言っていただろう? 演目は自由で色んな音楽に触れる事が出来る。だからもし少しでも興味あるなら、気軽に参加して欲しいと思ったのだ」

 私が言った事、きちんと覚えててくれたんだ。リヴァイの心遣いがとても嬉しく感じた。

「僕は反対だ。リィが辛い思いするかもしれないのに、危険な場所に無理して参加する必要ないよ。当日は体調不良で欠席していいと思う。それで意見が分かれてさ、リィに直接聞こうと思ってね」

 ルイスはもし何かあって私が傷ついたらって、心配してくれているんだ。
 二人とも、私のために色々考えてくれてたんだね。

「二人には迷惑かけるかもしれないけれど、私も参加してみたいです。今までずっと屋敷に閉じ籠っていたから、これからは外の事も知っていきたいと思ってて。その、リヴァイの隣に相応しくなれるように……」
「リオーネ、ありがとう」

 ルイスの格好して参加したリヴァイの誕生日パーティーでは、周囲の子達の事が全然分からなかった。でも将来リヴァイの隣で歩んでいきたいって思うなら、いつまでも引きこもってばかりは居られない。きちんと交流していかないと!

「リィがそう言うなら、一緒に行こう! そうだ、またお揃いの衣装作ってもらおう?」
「はぁ!? ルイス、お前またリオーネと対になる衣装で参加するつもりなのか!?」
「そのつもりだけど、何か問題ある?」
「リオーネは俺の婚約者だ。たとえ兄でもダメだ!」
「独占欲強い男は嫌われるよ~」
「マナー違反なのはお前の方だ、諦めろ!」
「そう言われても僕達の衣装、対になるやつしかないんだもん。仕方ないじゃん」

 確かにそうだ。メアリーの趣味で、タンスを見ても最近はルイスと対になるドレスばかり。普段着ないからあまり気にしてなかったけど、マナー違反だったのね……

「だったら、俺が贈る。リオーネ、当日は俺が贈ったドレスを着てくれるか?」
「自分のと対になるよう仕立てるんでしょ、リヴァイやらし~」
「お前は少し黙ってろ!」

 そんな二人のやり取りを見ていたら、おかしくて思わず笑ってしまった。本当に仲良しね。
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