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27、明かされた正体

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「お二人は知り合いなのですか?」
「ああ。この方はカトレット皇国の第一皇子、セシリウス・マルメナーデ・カトレット様だ」

 せ、先生が皇子様?!
 あの、伝説の錬金術士が?!

 知らない、そんな裏話知らない。
 作中の先生は伝説の錬金術士って言われてたけど、その素性が明かされる事はほとんどなかった。時折現れては主人公達を手助けし、謎の助言を残すミステリアスなサポートキャラ。そんな立ち位置だったから、イベント以外でこちらから会いに行く事は不可能だった。

 確かに最初会った時、ちょっとした所作に気品があるなって思ったけど、まさかあの超人国家の皇子様だったとは……何故そんな大事なことを黙っていたのですか、お父様!
 流石に最初に言われていたら、恐れ多すぎて授業どころではなかったかもしれない。そう考えたら、何も言わなかったのはお父様の優しさなのか?
 一般教養やダンス、マナーの授業にしても先生には敬意を持って接するよう教えられてきた。
 何も言わずともセシリウス様に失礼がないよう振る舞えるか、私とルイスを試されていたのだろうか?
 ……後で問い詰めよう。

「今は私用でこちらに来ています。外交目的以外ではただのセシル・イェーガーで通していますので、余計なことを言わないで下さい、リヴァイド君」
「黙ってられるわけないでしょう! わが国の民が知らずとはいえ貴方に不義を働けば、それは外交の問題に繋がります。この国の第二王子として、それは見逃せません」


 不義……いくら正体を隠されてたとはいえ、気安くセシル先生などと呼んでしまった。先生の言うことも聞かずにたしなめられたこともある。挙げ句の果てには涙と鼻水でマントを汚してしまった。
 これははやく謝罪しなければ外交の問題に繋がる?!

「いつからそのような堅物になってしまったのでしょうか。昔はあんなに素直で可愛かったのに……」
「いつの頃の話をされているのですか」
「君がまだ、おね……」
「随分と昔のことを!」
「そうですか? まだほんの数年ま……」
「そんなことより、ここで何をされているのですか!」

 しかし、二人の会話に割って入るのも不敬だ。貴族は王族の臣下であり、公の場では先に発言することは不敬にあたる。促されて始めて発言が許されるのだ。

「ですから、リオーネに錬金術を教えています。もう半年以上こちらでお世話になっていますが、このお屋敷の皆さんは良い方ばかりですよ。不義など何もありません」
「半年以上?! では、リオーネの錬金術の先生というのは……」
「私のことですよ。さぁこんな所で立ち話もなんですし、そろそろ中へ入りましょう。リオーネも、そんな所で固まってないでこちらへ」

 セシリウス様がこちらに話しかけてくれた所で、私は深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べた。

「あの、セシリウス様。何も知らずとんだご無礼を……誠に申し訳ありませんでした」
「顔を上げて下さい、リオーネ。こちらこそ、黙っていてすみませんでした。あまりかしこまられるのには慣れていないのです。いつものように、先生と呼んでくれませんか?」
「で、ですが……知ってしまったからには……」

 リヴァイが、この国の王子がこの場でセシリウス様とお呼びし他国の皇族として向き合われるならば、私もそれに従うしかない。

「では、呼んでくれるまで先生しません」
「……え?」
「折角立派なアトリエが出来たのに残念です。ですが、生徒が居ないのでは仕方ありませんね」

 深くため息をついてそっぽを向いてしまわれたセシリウス様。ホルン山脈に行かれてから、性格変わりました?
 そんな先生の変化に戸惑っていると、リヴァイが小声で話しかけてきた。

「諦めろ、リオーネ。セシリウス様は一度言い出したら折れない。そう呼ぶまで、本当に教えてくれないぞ」
「そうなのですか?!」
「ああ」
「リヴァイド君、私の名前はセシルです。様付けで呼ばれても困るので、君も先生と呼んで下さい。いいですね?」

 小声なのにリヴァイの声をキャッチされたようで、セシリウス様はリヴァイにもすかさず訂正を入れてきた。

「そして結構押しが強い。あの見た目に惑わされたら痛い目に遭うぞ」

 そう言って全身をブルリと震えさせたリヴァイ。一体どんな目に遭ったんですか。

「あの、セシル先生……」
「はい、何ですか? リオーネ」
「本当にそうお呼びしてもよろしいのですか?」
「勿論です。私は君に錬金術を教える先生で、君は生徒、そこに地位は関係ありませんよ」

 私の問いかけに、アメジストを思わせる紫紺色の瞳を優しく細めて先生は答えてくれた。
 やっぱり先生は先生だ。お許しをもらったことだし深く考えるのは止めよう。

「では、早速アトリエの中へ入りましょう。リヴァイド君、君はどうしますか?」
「……見学してもいいですか? セシル先生」
「はい、良く出来ました」
「だから、頭を撫でないで下さいってば!」

 少し疲れたような顔をしたリヴァイの頭を、先生は楽しそうに笑顔で撫でている。言葉では恥ずかしそうに抵抗をみせるリヴァイだけど、その顔は本当に嫌ではなさそうだ。
 何となく、リヴァイと先生の関係性が分かった気がする。
 そんな二人を眺めていたら花壇が視界に入り、蒔いた種に水やりをしていない事を思い出す。貴重なレア素材の種を無駄にするわけにはいかない。手早く水やりを済ませて、私達はアトリエの中に入った。
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