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16、ルイスとリヴァイド王子

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 演奏者には各自控え室が与えられているようで、そこで楽器の調整をしたり練習したりしていいらしい。
 控え室に入り、壊さないようにケースに入ったヴァイオリンをそっと台に置く。一度も触ったことのない私のヴァイオリン。いつもルイスが丁寧に手入れをしてくれている。本当に感謝してもしきれないな。

 とりあえず、パーティーが開幕するまでに一度ホールに集まらないといけない。姿見で容姿を整えて控え室を出ると、隣からちょうどルイスも出てきた。シンクロしてドアを開けたことに思わず顔を見合わせて笑い合う。変なところで被るのは昔から双子ならではだ。

「リィ、今からリヴァイの所に挨拶に行くけど、良かったら一緒に行かない?」
「え……私は……」

 本日の主役、リヴァイド・ブラーシュ・ウィルハーモニー。
 ウィルハーモニー王国の第二王子で、「リューネブルクの錬金術士」が始まった頃には王様として立派に国を統治されているお方だ。
 何故、第一王子のエルンスト様ではなく第二王子のリヴァイド様が即位するかというと……長くなるので今は割愛しておこう。

 本音としては、「夢色セレナーデ」の攻略対象キャラとはあまり接点を作っておきたくはない。どんな未来が待ち受けているのか分からないけれど、後に登場するであろうヒロインとの恋路を邪魔する要素は、少しでも削っておきたいから。
 ゲームみたいにヒロインに嫌味を言うつもりなんて毛頭ないけど、何が起こるか分からないのが人生だ。出来れば物語の舞台であるローゼンシュトルツ学園入学自体を避ける方向で考えたいけど、家に居る以上それは避けては通れないだろう。
 それならやはり、余計なフラグは避けておきたい……しかし、私の思いとは裏腹に

「リヴァイが君に会いたがってたんだ。悪い奴じゃないからさ、行こう」

 ルイスに手を引かれ、問答無用でそのまま連行され王子の控えているであろう部屋の前まで来てしまった。
 扉の前で警護している兵士さんにルイスが話しかけると、すぐに中へ通された。すごい顔パスだ。
 広い部屋の角には立派なグランドピアノがあって、その横で退屈そうに窓の外を眺めている正装に身を包んだ高貴な少年の姿が目に入る。

「リヴァイ、遊びに来たよ。誕生日おめでとう」

 窓から外を眺めていたリヴァイド王子が振り向くと、太陽のように輝くアプリコット色の綺麗な髪がサラリと揺れる。サファイアを思わせる青い瞳を優しく細めて、王子は嬉しそうに口を開いた。

「ルイス、来てくれたのか。ありがとう。そちらは……」

 横に居る私を一瞥した王子の視線に気付いたルイスが紹介してくれた。

「この子は僕の自慢の妹、リオーネだよ」

 じ、自慢の妹?! いきなり何を言い出すんだ、お兄様は! だめだ、焦るな、平常心、平常心!
 相手は初対面の王子様だ。失礼にならないよう努めなければ! カーテシーのポーズをとって礼を尽くし挨拶をする。

「初めまして、リヴァイド王子。リオーネ・ルシフェン・レイフォードです。本日はお招き頂きありがとうございます」
「ルイスから話はよく聞いている。良く来てくれた。ここには俺達以外誰も居ないし、楽にして構わない」
「はい、ありがとうございます」
「しかし、これは驚いた。本当にそっくりだ。一瞬、お前が女装しているのかと思ったぞ」

 じょ、女装?! だめだ、そんなワードに過敏に反応しては。怪しまれたら大変だ。でも笑顔を作っている頬が引きつりそう。

 リヴァイド王子は目を丸くしたまま私達を交互に見ていて、本当に驚きを隠せないようだ。

「なに馬鹿なこと言ってるのさ。それよりリヴァイ、お望み通りリィを連れてきてあげたんだから何か一曲聞かせてよ」
「仕方ないな。お前じゃなくてリオーネ嬢のために一曲、弾くとしよう」
「あ、ありがとうございます」

 突然話を振られ反射的にお礼を言うと、リヴァイド王子は私から顔を背けて目を逸らした。心なしか耳が赤い気がする。

「はいはい、そんな照れるくらいなら言わなきゃいいのに。リヴァイってそういうとこ可愛いよね」
「う、うるさい」

 ルイスが悪戯な笑みを浮かべてリヴァイド王子をからかっている。家では見せないその表情に、本当に仲が良いんだと分かった。しばらく二人のやり取りを眺めていると、視線に気付いたルイスが話しかけてきた。

「あ、ごめんね。リィ。退屈だったよね」
「ううん。ルイスもそんな顔するんだね。お兄様の新たな一面が見れてリオーネは嬉しいです」

 私の言葉にルイスは恥ずかしそうに頬を赤く染めた。それを見て、今度はリヴァイド王子がルイスを茶化し始める。

「ルイス……お前、妹には本当に弱いな。とっておきの秘密、この子にバラしてやろうか?」
「……なっ! もしそんなことしたら、後でどうなるか、覚えてなよ?」

 秘密? ルイスは私に何か隠し事をしているの?

「リィ、そろそろ行こう! リヴァイはこれから忙しいみたいだから!」
「え……あ、うん。それでは、失礼します」

 これ以上その話題を掘り下げられたくなかったようで、ルイスは焦ったように私の手を引いて歩き出した。結局、王子の演奏を聞けないまま、挨拶もそこそこにそのまま部屋を後にすることに。王子はそんな私達を見ておかしそうに笑っていた。

「リヴァイの言ってたこと、気にしなくていいからね!」

 そうやって念を押されると、ますます気になりますよ、お兄様。まぁ、この年の子供の隠し事なんてきっと些細な事だろう。私だって、前世の記憶があることをルイスに話していないし、深く考えるのはやめよう。

 そろそろパーティが始まる。私はルイスと一緒に会場に向かった。
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