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6、温かい家族に包まれて、夢が半分途絶えた夜
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その日の夜、家族で食卓を囲みながら私は意を決して自分の気持ちを打ち明けた。
「お父様、お母様、ルイス……お話があるの」
「どうしたんだい、リオーネ?」
私の表情から何かを悟ったのか、手に持っていたナイフとフォークを置いて、お父様が心配そうに尋ねてくる。
父のロナルド・エヴァ・レイフォード公爵は、ダークブラウンのサラサラヘアに切れ長の碧瞳の持ち主だ。鼻筋の通った端整な顔立ちが少し冷たい印象を与えるが故に、外では厳格な公爵として知られているらしいが実際は家族思いの優しい方だ。
「実は……私、隣国で錬金術を学びたいんです。貴族として私は楽器の一つも弾けません。このままここに居ても迷惑をかけてしまうから……学校へ通える年齢になったら、家を出ていこうと思っています」
「リオーネは、この家が嫌いなのですか?」
そんなことはない。声を震わせながら悲しそうにそう尋ねてくるお母様に、私は慌てて否定の意を述べる。
『月の女神』の異名を持つ母オリヴィア・ルカ・レイフォードは、それはそれは美人さんだ。ゆるふわの色素の薄いプラチナブロンドに大きなブルーアイズ。透き通るような白い肌に、抜群のプロポーションの持ち主で、儚げな印象を与えるが故に社交界ではそのように言われているらしい。
しかし、実際はすごく家庭的なお母様だ。時には自分で台所に立ち、美味しいお菓子を振る舞ってくれる。風邪を引いた時に作ってもらった黄金粥や、野菜スープは愛情の詰まった優しい味がしてすごく好きだ。
「いいえ、お母様。お父様もお母様もルイスも、皆大好きです。大好きだからこそ、迷惑をかけたくないのです」
レイフォード家はウィルハーモニー王国の中でも一番歴史の古い筆頭公爵家だ。歴代のお爺さまやお婆さまも皆、それは素晴らしい腕前の持ち主だった。もちろん、お父様やお母様も。ルイスだって将来的には王国一のヴァイオリン奏者と呼ばれるくらいだ。そんな中で、私の存在は表に出してはいけない汚点でしかないだろう。
「だったら、錬金術は家で学べば良い。わざわざ隣国になど行く必要はない。私が隣国から講師を呼び寄せよう。それでどうだい? リオーネ」
「で、ですがお父様……社交界で、私は楽器の演奏が……歴代のご先祖様たちが築き上げてくれた、この家の名誉を汚すわけには……」
すごく魅力的な申し出だけどこの家にいる以上、社交界は避けて通れない。そうなれば、そう遠くない未来に、私はレイフォード家の名誉を傷つけてしまう。お父様とお母様がしっかり守っているこのお家を、私が貶めるわけにはいかない。
「リィ、心配はいらない。僕達は双子だよ。僕が君の代わりに立派に演奏してみせるから。だから、出て行くなんて言わないで。僕は君が居ない生活なんて耐えられない」
そ、それは女装して私の代わりに演奏してくれるってこと……?! いくら双子だからってそれは……
「ルイス……いくら何でもそこまで迷惑はかけられないよ……」
「家族とは助け合うものです」
「そうだ、家族とは助け合うものだよ」
え? お母様? お父様? そこは止める所ではないのですか?
大事な息子が女装して人前に出ると声を大にして言っているのですよ?
もしバレたら……一家揃って破滅……とまではいかないまでも後ろ指さされる生活になるのは間違いない。
「リオーネ、辛いのなら無理に楽器の練習をする必要はありません。必要ならば、庭に錬金術専用の設備を整えましょう。なのでこれからは、錬金術の勉強に励みなさい。私は嬉しいのですよ、初めてあなたが自分の意志でやりたいことを教えてくれて」
「お母様……」
そんなに甘えてしまっていいのだろうか。いくら知識があるとは言え、私みたいに小さな子供が一人で隣国に行っても働き口もない。錬金術の学校に通う学費どころか生活費を稼ぐことさえままならないだろう。
そこまで支援してもらえるのはすごくありがたいことだ。だったら私がやることは……この温かい家族のために出来ることをやろう。私なりのやり方でいざという時、今度は皆を助けられるように。
「ありがとうございます。しっかり勉強して、今度は私が家族を支えられるように頑張ります」
「期待しているよ、リオーネ」
「頑張ってね、リィ! 応援してるから!」
「将来が楽しみですね」
私が思っていたよりも、お父様も、お母様も過保護だったらしい。そして、女装を厭わないほど、お兄様には愛されていたらしい。
隣国で錬金術を学びたいという私の願いは、速攻でへし折られてしまった。けれど、夢が断たれたわけではない。
音楽の都と名高いウィルハーモニー王国で、私は立派な錬金術士になってみせる!
「お父様、お母様、ルイス……お話があるの」
「どうしたんだい、リオーネ?」
私の表情から何かを悟ったのか、手に持っていたナイフとフォークを置いて、お父様が心配そうに尋ねてくる。
父のロナルド・エヴァ・レイフォード公爵は、ダークブラウンのサラサラヘアに切れ長の碧瞳の持ち主だ。鼻筋の通った端整な顔立ちが少し冷たい印象を与えるが故に、外では厳格な公爵として知られているらしいが実際は家族思いの優しい方だ。
「実は……私、隣国で錬金術を学びたいんです。貴族として私は楽器の一つも弾けません。このままここに居ても迷惑をかけてしまうから……学校へ通える年齢になったら、家を出ていこうと思っています」
「リオーネは、この家が嫌いなのですか?」
そんなことはない。声を震わせながら悲しそうにそう尋ねてくるお母様に、私は慌てて否定の意を述べる。
『月の女神』の異名を持つ母オリヴィア・ルカ・レイフォードは、それはそれは美人さんだ。ゆるふわの色素の薄いプラチナブロンドに大きなブルーアイズ。透き通るような白い肌に、抜群のプロポーションの持ち主で、儚げな印象を与えるが故に社交界ではそのように言われているらしい。
しかし、実際はすごく家庭的なお母様だ。時には自分で台所に立ち、美味しいお菓子を振る舞ってくれる。風邪を引いた時に作ってもらった黄金粥や、野菜スープは愛情の詰まった優しい味がしてすごく好きだ。
「いいえ、お母様。お父様もお母様もルイスも、皆大好きです。大好きだからこそ、迷惑をかけたくないのです」
レイフォード家はウィルハーモニー王国の中でも一番歴史の古い筆頭公爵家だ。歴代のお爺さまやお婆さまも皆、それは素晴らしい腕前の持ち主だった。もちろん、お父様やお母様も。ルイスだって将来的には王国一のヴァイオリン奏者と呼ばれるくらいだ。そんな中で、私の存在は表に出してはいけない汚点でしかないだろう。
「だったら、錬金術は家で学べば良い。わざわざ隣国になど行く必要はない。私が隣国から講師を呼び寄せよう。それでどうだい? リオーネ」
「で、ですがお父様……社交界で、私は楽器の演奏が……歴代のご先祖様たちが築き上げてくれた、この家の名誉を汚すわけには……」
すごく魅力的な申し出だけどこの家にいる以上、社交界は避けて通れない。そうなれば、そう遠くない未来に、私はレイフォード家の名誉を傷つけてしまう。お父様とお母様がしっかり守っているこのお家を、私が貶めるわけにはいかない。
「リィ、心配はいらない。僕達は双子だよ。僕が君の代わりに立派に演奏してみせるから。だから、出て行くなんて言わないで。僕は君が居ない生活なんて耐えられない」
そ、それは女装して私の代わりに演奏してくれるってこと……?! いくら双子だからってそれは……
「ルイス……いくら何でもそこまで迷惑はかけられないよ……」
「家族とは助け合うものです」
「そうだ、家族とは助け合うものだよ」
え? お母様? お父様? そこは止める所ではないのですか?
大事な息子が女装して人前に出ると声を大にして言っているのですよ?
もしバレたら……一家揃って破滅……とまではいかないまでも後ろ指さされる生活になるのは間違いない。
「リオーネ、辛いのなら無理に楽器の練習をする必要はありません。必要ならば、庭に錬金術専用の設備を整えましょう。なのでこれからは、錬金術の勉強に励みなさい。私は嬉しいのですよ、初めてあなたが自分の意志でやりたいことを教えてくれて」
「お母様……」
そんなに甘えてしまっていいのだろうか。いくら知識があるとは言え、私みたいに小さな子供が一人で隣国に行っても働き口もない。錬金術の学校に通う学費どころか生活費を稼ぐことさえままならないだろう。
そこまで支援してもらえるのはすごくありがたいことだ。だったら私がやることは……この温かい家族のために出来ることをやろう。私なりのやり方でいざという時、今度は皆を助けられるように。
「ありがとうございます。しっかり勉強して、今度は私が家族を支えられるように頑張ります」
「期待しているよ、リオーネ」
「頑張ってね、リィ! 応援してるから!」
「将来が楽しみですね」
私が思っていたよりも、お父様も、お母様も過保護だったらしい。そして、女装を厭わないほど、お兄様には愛されていたらしい。
隣国で錬金術を学びたいという私の願いは、速攻でへし折られてしまった。けれど、夢が断たれたわけではない。
音楽の都と名高いウィルハーモニー王国で、私は立派な錬金術士になってみせる!
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