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第28話 オリエンテーションの結果
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北、西、南とスタンプが揃った。後はゲルマン達が東のスタンプを集めていれば、C組は東西南北全てのスタンプが揃うことになる。
しかし南で落ち合おうと約束したはずのゲルマン達は未だに現れない。ここは東に向かったがよさそうだな。南の砂漠フィールドを抜け、中央広場へ向かおうとしたその時──
「ルーカス君!」
遠くの方からこちらに向かって大きく手を振っている男の姿が視界に入る。
「東のスタンプ手にいれたよー!」
風を起こすことしか出来ないと嘆いていたゲルマンにしては、中々やるじゃないか。
「西と南も手にいれた。これで揃ったな」
俺がスタンプカードを差し出すと、ゲルマンは感極まったように泣き始める寸前だった。おいおいやめてくれ、男の涙はもう見たくねぇよ。
「なぁ、ゲルマン。東は誰が番人してたんだ?」
話題を逸らすように質問を投げ掛けると、鼻をズズッと吸い込んだ後、ゲルマンは詳細まで詳しく教えてくれた。
「東はシリウス様が守っていらっしゃった。ゴツゴツした岩場のフィールドで、シリウス様の感性に触れる作品を作れた者だけがスタンプを押せたんだ。何の代わり映えもしない景色から情緒を感じとる試練だったみたい。幸運な事に、絵は少々嗜んでいたからね、何とかクリアすることが出来たよ」
げ、芸術方面の課題かよ。うわー俺の苦手な分野じゃねぇか。行かなくてよかった。
「やるじゃないか。俺ならその課題、クリア出来なかった。絵心とかねぇし」
「でもルーカス君は西と南、二つのスタンプを獲得してくれた。僕だったらそれは出来なかったよ、きっと」
「出来ないことは補い合えばいい。それを分からせるためのオリエンテーションだったんだよ。だからとりあえず、泣くなよ!」
「だっでぇ、ルーカスぐんがぁ、いいこと言うがらぁ!」
結局泣くんかい!
そして周りのお前らまで、もらい泣きとかやめてくれ。
むさ苦しい男連中を何とか泣き止ませながら、中央の広場へと向かった。
「ほら、リーダー行ってこいよ」
スタンプカードを提出する台座が、何か高い位置にあって神々しい。おまけにそのすぐ前で、審査員らしいハイネルが偉そうに長い足を組んで座っているせいで、ゲルマンがびびっている。
「う、うん。頑張るよ」
一段一段、足を滑らせないよう慎重に上ったゲルマンは、ハイネルの前で膝をついて挨拶をした。
「お、王国の若き太陽、王太子殿下にご挨拶申し上げます。C組代表ゲルマン・リッチモンド、全てのスタンプを集めて参りました」
「面をあげよ」
威圧感半端ねぇ。頑張れ、ゲルマン!
「集めたカードをその台座に」
「はい! かしこまりました」
指示通り、震えた手でゲルマンは全てのスタンプカードを台座に提出した。
目の前でハイネルがそれを確認した後、何故か俺の方を一瞥した。その一瞬で俺の全てを品定めして興味が失せたのかすぐに視線は逸らされたが、なんか気持ち悪い。
あの時ティアナを呼び止めた事、まだ根に持ってるんだろうか?
彫刻のように整った綺麗な顔立ちからは、何の感情も読めない。ポーカーフェイスが上手いな。その分、一癖も二癖もありそうだ。
ハイネルが呪文を唱えて台座に置かれたカードに手をかざすと、スタンプが空中に浮かび上がって、トロフィーへと変化した。地味にすげぇな。
「C組代表ゲルマン・リッチモンド。君達のクラスが一番だ、優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
ハイネルに渡されたトロフィーを受け取ったゲルマンの手は震えていた。喜びを噛み締めるように、大事にトロフィーを抱えて台座から下りてくる。
その瞬間、C組優勝の知らせが全フィールドへ響き渡る。制限時間前にクリアしたC組のオリエンテーションは、こうして終了した。
その後ヘンリエッタ率いるA組もクリアし、ノワール率いるB組は南のスタンプだけが集められなかったそうだ。
しかし南で落ち合おうと約束したはずのゲルマン達は未だに現れない。ここは東に向かったがよさそうだな。南の砂漠フィールドを抜け、中央広場へ向かおうとしたその時──
「ルーカス君!」
遠くの方からこちらに向かって大きく手を振っている男の姿が視界に入る。
「東のスタンプ手にいれたよー!」
風を起こすことしか出来ないと嘆いていたゲルマンにしては、中々やるじゃないか。
「西と南も手にいれた。これで揃ったな」
俺がスタンプカードを差し出すと、ゲルマンは感極まったように泣き始める寸前だった。おいおいやめてくれ、男の涙はもう見たくねぇよ。
「なぁ、ゲルマン。東は誰が番人してたんだ?」
話題を逸らすように質問を投げ掛けると、鼻をズズッと吸い込んだ後、ゲルマンは詳細まで詳しく教えてくれた。
「東はシリウス様が守っていらっしゃった。ゴツゴツした岩場のフィールドで、シリウス様の感性に触れる作品を作れた者だけがスタンプを押せたんだ。何の代わり映えもしない景色から情緒を感じとる試練だったみたい。幸運な事に、絵は少々嗜んでいたからね、何とかクリアすることが出来たよ」
げ、芸術方面の課題かよ。うわー俺の苦手な分野じゃねぇか。行かなくてよかった。
「やるじゃないか。俺ならその課題、クリア出来なかった。絵心とかねぇし」
「でもルーカス君は西と南、二つのスタンプを獲得してくれた。僕だったらそれは出来なかったよ、きっと」
「出来ないことは補い合えばいい。それを分からせるためのオリエンテーションだったんだよ。だからとりあえず、泣くなよ!」
「だっでぇ、ルーカスぐんがぁ、いいこと言うがらぁ!」
結局泣くんかい!
そして周りのお前らまで、もらい泣きとかやめてくれ。
むさ苦しい男連中を何とか泣き止ませながら、中央の広場へと向かった。
「ほら、リーダー行ってこいよ」
スタンプカードを提出する台座が、何か高い位置にあって神々しい。おまけにそのすぐ前で、審査員らしいハイネルが偉そうに長い足を組んで座っているせいで、ゲルマンがびびっている。
「う、うん。頑張るよ」
一段一段、足を滑らせないよう慎重に上ったゲルマンは、ハイネルの前で膝をついて挨拶をした。
「お、王国の若き太陽、王太子殿下にご挨拶申し上げます。C組代表ゲルマン・リッチモンド、全てのスタンプを集めて参りました」
「面をあげよ」
威圧感半端ねぇ。頑張れ、ゲルマン!
「集めたカードをその台座に」
「はい! かしこまりました」
指示通り、震えた手でゲルマンは全てのスタンプカードを台座に提出した。
目の前でハイネルがそれを確認した後、何故か俺の方を一瞥した。その一瞬で俺の全てを品定めして興味が失せたのかすぐに視線は逸らされたが、なんか気持ち悪い。
あの時ティアナを呼び止めた事、まだ根に持ってるんだろうか?
彫刻のように整った綺麗な顔立ちからは、何の感情も読めない。ポーカーフェイスが上手いな。その分、一癖も二癖もありそうだ。
ハイネルが呪文を唱えて台座に置かれたカードに手をかざすと、スタンプが空中に浮かび上がって、トロフィーへと変化した。地味にすげぇな。
「C組代表ゲルマン・リッチモンド。君達のクラスが一番だ、優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
ハイネルに渡されたトロフィーを受け取ったゲルマンの手は震えていた。喜びを噛み締めるように、大事にトロフィーを抱えて台座から下りてくる。
その瞬間、C組優勝の知らせが全フィールドへ響き渡る。制限時間前にクリアしたC組のオリエンテーションは、こうして終了した。
その後ヘンリエッタ率いるA組もクリアし、ノワール率いるB組は南のスタンプだけが集められなかったそうだ。
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