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第25話 伝説を作った男
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白い水蒸気が階段を覆うベールのように流れ出ている。まるで雲の上を歩いて上っていくかのような、幻想的な階段だった。
絵本の中に出てくるようなメルヘンな氷の城。だが不思議と寒さは感じない。壁に触れても冷たくはない。
「ルーカス、どうしてA組のスタンプカードを預かったのですか?」
ヘンリエッタに預かったカードにスタンプを押そうとした時、バルコニーからこちらへ戻ってこられたアリーシャ様に、唐突にそう尋ねられた。
「え、も、もしかして、別のクラスのスタンプを押すのは、ルール違反だったりします?!」
やっべ、そこまで確認してなかった。自分で押したスタンプしか無効って言われたら、ヘンリエッタに申し訳が立たない。
「あくまでも四つのスタンプを集めてくること。ルールはそれだけですよ。安心して下さい」
慌てふためく俺を見て、アリーシャ様は優しく目を細めて微笑みかけて下さった。
「ヘンリエッタ様には雷の迷路で助けて頂きましたし、恩を借りたまま返さないのはフェアじゃないって思いまして。クラス対抗イベントなのに、変なのは分かってるんですが……」
「どのような手段を使っても、最初に四つのスタンプを集めて提出したクラスが一番なのです。そのためカードを奪って破棄し、他クラスの生徒を失格にさせたりと、過去には血気盛んな学年もあったそうです」
「妨害行為も許されるんですか?」
「はい。あくまでもルールは四つのスタンプを集めてくる事ですから。ですが、考え方次第では全てのクラスが一位となる方法もあるのですよ」
「マジですか?!」
「ええ。過去に一度だけ、そうやってクリアした学年があるそうです」
お貴族様同士がそこまで結託するって、よっぽどの仲良しか、すごく統率のとれるリーダーが居たのか。何れにせよ、入学したばかりで学年一つをまとめ上げてそんな事が出来るなんて、普通の奴には中々出来る事じゃない。だが一人だけ、そんな事をやってのけそうな人物に心当たりがある。
「約二十年ほど前、リシャール公爵家のアレクシス様が、全クラスのスタンプカードを重ねて同時に提出されたそうです。前代未聞の展開に、その時は皆さん大変驚かれていたそうですよ」
やっぱりか。アリーシャ様の言葉に、妙に納得させられた瞬間だった。アレク先生ならやりかねないなと思ったから。
先生の成す事は基本、奇想天外な事が多い。まじめにやってたら、逆にどうしたんですかって心配したくなるレベルの人だった。
それでも不思議と、この人について行けば間違いないって安心感を与えてくれるのだ。
「アレク先生のカリスマ性は、学生時代から健在だったんですね。本当にすごい方だと思います」
「そうですね。『切磋琢磨して学んでこそ、人は向上心を持って取り組める。だからこそ学び舎にまで身分制度を持ち込む必要は無い。我々はライバルであると同時に、苦楽を共にする大切な仲間なのだから』というアレクシス様の残された格言は、本当に素晴らしいものだったと私も思います」
アレク先生は、俺達が平民だからと馬鹿にする事なんて一度もなかった。魔法の楽しさと、正しく使う事の重要さ、そして互いに支え合う事の大切さを教えてくれた。
「誰もが平等に上を目指して頑張っていたあの頃のように、学園を変えていかねばなりませんね」
ダリウスがアリーシャ様に憧れる理由が、よく分かった気がした。強い意志の籠もった眼差しは、どこまでも綺麗に美しく澄んでいた。この方は本当に、それを望んでいるのだと容易に見てとれるくらいに。
「引き止めてしまってごめんなさいね。今年の一年生は希望が持てそうだったから、つい長話になってしまったわ。残りのスタンプも頑張って集めて下さい」
「はい、頑張ります! ありがとうございました。それでは、失礼します」
A組の分までスタンプを押した俺は、一礼してその場を後にした。幻想的な透き通った氷の階段を降りて向かうのは、A組の所だ。
絵本の中に出てくるようなメルヘンな氷の城。だが不思議と寒さは感じない。壁に触れても冷たくはない。
「ルーカス、どうしてA組のスタンプカードを預かったのですか?」
ヘンリエッタに預かったカードにスタンプを押そうとした時、バルコニーからこちらへ戻ってこられたアリーシャ様に、唐突にそう尋ねられた。
「え、も、もしかして、別のクラスのスタンプを押すのは、ルール違反だったりします?!」
やっべ、そこまで確認してなかった。自分で押したスタンプしか無効って言われたら、ヘンリエッタに申し訳が立たない。
「あくまでも四つのスタンプを集めてくること。ルールはそれだけですよ。安心して下さい」
慌てふためく俺を見て、アリーシャ様は優しく目を細めて微笑みかけて下さった。
「ヘンリエッタ様には雷の迷路で助けて頂きましたし、恩を借りたまま返さないのはフェアじゃないって思いまして。クラス対抗イベントなのに、変なのは分かってるんですが……」
「どのような手段を使っても、最初に四つのスタンプを集めて提出したクラスが一番なのです。そのためカードを奪って破棄し、他クラスの生徒を失格にさせたりと、過去には血気盛んな学年もあったそうです」
「妨害行為も許されるんですか?」
「はい。あくまでもルールは四つのスタンプを集めてくる事ですから。ですが、考え方次第では全てのクラスが一位となる方法もあるのですよ」
「マジですか?!」
「ええ。過去に一度だけ、そうやってクリアした学年があるそうです」
お貴族様同士がそこまで結託するって、よっぽどの仲良しか、すごく統率のとれるリーダーが居たのか。何れにせよ、入学したばかりで学年一つをまとめ上げてそんな事が出来るなんて、普通の奴には中々出来る事じゃない。だが一人だけ、そんな事をやってのけそうな人物に心当たりがある。
「約二十年ほど前、リシャール公爵家のアレクシス様が、全クラスのスタンプカードを重ねて同時に提出されたそうです。前代未聞の展開に、その時は皆さん大変驚かれていたそうですよ」
やっぱりか。アリーシャ様の言葉に、妙に納得させられた瞬間だった。アレク先生ならやりかねないなと思ったから。
先生の成す事は基本、奇想天外な事が多い。まじめにやってたら、逆にどうしたんですかって心配したくなるレベルの人だった。
それでも不思議と、この人について行けば間違いないって安心感を与えてくれるのだ。
「アレク先生のカリスマ性は、学生時代から健在だったんですね。本当にすごい方だと思います」
「そうですね。『切磋琢磨して学んでこそ、人は向上心を持って取り組める。だからこそ学び舎にまで身分制度を持ち込む必要は無い。我々はライバルであると同時に、苦楽を共にする大切な仲間なのだから』というアレクシス様の残された格言は、本当に素晴らしいものだったと私も思います」
アレク先生は、俺達が平民だからと馬鹿にする事なんて一度もなかった。魔法の楽しさと、正しく使う事の重要さ、そして互いに支え合う事の大切さを教えてくれた。
「誰もが平等に上を目指して頑張っていたあの頃のように、学園を変えていかねばなりませんね」
ダリウスがアリーシャ様に憧れる理由が、よく分かった気がした。強い意志の籠もった眼差しは、どこまでも綺麗に美しく澄んでいた。この方は本当に、それを望んでいるのだと容易に見てとれるくらいに。
「引き止めてしまってごめんなさいね。今年の一年生は希望が持てそうだったから、つい長話になってしまったわ。残りのスタンプも頑張って集めて下さい」
「はい、頑張ります! ありがとうございました。それでは、失礼します」
A組の分までスタンプを押した俺は、一礼してその場を後にした。幻想的な透き通った氷の階段を降りて向かうのは、A組の所だ。
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