逆ハーに巻き込まれた幼馴染を助けるために、群がるハエは一匹残らず駆逐します!

花宵

文字の大きさ
上 下
14 / 43

第13話 従属契約がもたらしたもの

しおりを挟む
 翌日、俺はものすごい寝不足だった。
 あの契約を結ばされた後、エレインに助手兼実験体として夜遅くまでこき使われ、寮に戻ったのは結局午前様だった。
 あまり寝た気がしないまま欠伸をかみ殺して教室に入ると、クラスメイトが目を真ん丸とさせて俺の方を見ていた。

「び、び、貧乏人、じゃなかった。る、ルーカス君、そ、それは……」
「ゲルマン様、それって何ですか?」

 今はゲルマンの相手するのもめんどくせーっていうのに、勘弁してくれよ。

「げ、ゲルマンでいいぞ。それよりその首元にある、紋章だよ。どうしたんだい?」
「あーこれですか。昨日エミリオ様につけられて、洗っても落ちないんですよ」

 マジ迷惑。母ちゃん見たらびっくりするよ。ルーカスが不良になったって泣いちゃうよ、きっと。
 でも給料くれるっていってたから、仕事探す手間省けてそこだけはラッキーだったかも。折角王都に来てるんだし、田舎では味わえないこと堪能しときたいからな。

「て、テオドール公爵家の後見を得たのか?!」
「後見? いえいえ、ただの小間使いの印ですよ。呼び出しくらうと三分以内に駆けつけないといけないし、色々大変なんですよ。解除する方法とか、知りませんか?」
「折角得た後見を解除だと?! それはテオドール公爵家に認められたという証明の印だ。お前の行動は全てテオドール公爵家の庇護下にあると示すもので、下位の貴族は到底逆らえない名誉ある印なんだぞ?! それを、解除だと?!」

 この面倒な紋章。ゲルマンの反応で、実はとんでもない権力の印的な感じなのは何となく伝わってきた。
 そう言えば、ダリウスの首元にも何か印が刻まれていたような……フォックス公爵家の後見を得たとかなんとか言ってたし、これがその証明みたいな役割を担っているという事なんだろうか?

 マイナス要素しかないと思っていたこの紋章は、俺の学園生活に大きな変化をもたらした。

 今まで一番最後にしか受け取ってもらえなかった課題やテストが、順番を気にせず提出できるようになった。むしろ、俺が提出するまで周囲は頑なに出さなくなって、一番に出すのを強要されるくらいだ。

「ルーカス様、テストは終わりましたか?」

 そして俺の事をゴミくずみたいな扱いしかしてなかった担任教師が、やたらと気にかけて構ってくるようになった。敬語で。

「まだですよー」
「出来たらすぐにお預かり致します」
「いいんですか?」

「勿論ですよ」と慈愛に満ちた笑顔で頷く担任教師に、少しだけイラっとした俺はからかってみた。

「どうしてですか? 以前は最後まで受け取ってくれなかったじゃないですか、先生」
「いついかなる時もエミリオ様の呼び出しに応えられるよう、特別な措置です」
「別にいいですよー特別扱いしてもらわなくても。先生が受け取ってくれなかったんで遅れましたって、言い訳するだけなんで。その時は一緒に罰ゲーム、受けて下さいね? それと先生、今更丁寧な言葉遣いされたも正直不快でたまらないんで、普通に喋ってくれませんか?」

 一瞬で顔を青ざめさせた担任教師は、中々の本気度で謝罪してきた。

「先生が悪かった。この通りだ。お願いだから早く終わらせて提出してくれ。先生には食べ盛りの幼い子供たちが居てだな、今職を失うわけにはいかないんだ。だからどうか頼む……っ!」

 どうしよう、全然心に響かねぇ。
 それなら最初から平民だからって差別しなきゃいいのに。
 変な紋章授かった途端に態度変えられたって、全然いい気しない。
 俺が偉くなったわけでもないし、周りはみんなただバックについたテオドール公爵家を恐れているだけじゃねぇか。

 この学園の悪い所は、教師の権限がなさすぎる所だよな。
 生徒にへこへこしてばかりの教師しかいないし。そうしなければ、すぐに職を失うのだろう。
 生徒の約九割は貴族だ。それに対し平教師のほとんどは平民のエリートだ。
 貴族と平民の間にある絶対的な社会的地位の格差が、学園内でも健在のせいでこうなってしまうのだ。

 スノーリーフ村にあった学校なんて、悪い事したらすぐ拳骨だったぜ。
 村長の息子だろうが、資産家の娘だろうが関係ない。
 頑張ったら褒めてもらえるし、サボったら怒られる。それが当たり前で、皆平等だった。

 この学園じゃどれだけ頑張ったって、身分の前に超えてはいけない壁がある。
 もし実力でその壁を無理やり超えようものなら、別の部分から足場を崩されて地の底へ真っ逆さまだ。
 逆に第一王子のハイネルあたりが白紙でテストの答案用紙を出したって、教師陣は細工をして一位に仕立て上げるだろう。大事なのは提出した順番だけで、中身なんて見ちゃいない。
 最初から仕組まれた出来レース、ほんと吐き気がするシステムだぜ。
 お貴族様達と同じ土俵に立ちたくなかった俺は、全ての回答をしっかりと埋めた上で、笑顔で担任教師にテストの答案用紙を渡した。

「先生、冗談ですよ。終わったんで受け取って下さい」
「ありがたく、頂戴させてもらうぞ」

 その時、首元が急に熱を持ち始めた。それを見て担任教師が叫ぶ。

「お呼び出しだ! 紋章が光っているぞ! ルーカス、早く行け!」

 早く行けと言われても、エレインがどこに居るかなんて俺には分からない。
 そんな俺に道を指し示すかのように、脳内に直接エレインの声が響いてきた。

『僕の実験室に来て』

 何だこれ、テレパシー的な奴か?!

『返事は?』

 返事?! 行きます、至急行かせて頂きます!
 ああさようなら、俺の昼休み……

『交信している間、君の心の声はこちらにしっかり聞こえてるからね』

 まじか?! そういうの先に言って! お願いだから!

『侍従は主に誠心誠意仕えるように』

 か、かしこまりました……

 首元の熱が引いたのを確認して、俺は一つため息をついた。
 やれやれ、迂闊に悪態もつけないぜ。

 侍従契約がもたらしたもの──それは、そこそこの権威と、俺の自由な休み時間終了のお知らせだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...