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最終章 世界滅亡の危機を救え!
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ノアお兄ちゃんがハイグランド帝国へやってきてまず始めにしたこと。それは散髪だった。右目を覆っていた前髪を視界がはっきり見える長さにし、無造作に伸びていた後髪も短く切り揃えられた。
最初は落ち着かない様子だったけど、誰も目の事を悪く言う人は居ないし、街に出たら本当に子供達に囲まれてあたふたしながらも嬉しそうだった。
お姉ちゃんが用意してくれた引っ越しグッズを、勿体ないからってノアお兄ちゃんは使おうとしなかった。どうやら大切な物は、使わずに取っておくタイプらしい。
それをこっそり近況報告でお姉ちゃんに伝えたら、「必要ならいくらでも作ってあげるから、遠慮なく使いなさい!」って、ポータブルコールで怒られてた。その様子を見て笑ってたら、「余計な事は言わなくていいんだよ!」って私が怒られた。なんか理不尽!
こちらで生活しながらノアお兄ちゃんが見つけた夢、それは以外にも教師だった。
「知らない事は、とても怖いことだ。僕のように間違った道に進みそうになる子を一人でも救うために、僕は教師になりたい」
その夢を叶えるために、毎日帝立図書館に通って勉強を頑張っている。
「ノア、勝負!」
「いいよ、かかっておいで。ブレイヴ」
休憩時間は息抜きに、よくブレイヴの遊び相手にもなってくれる。聖獣と闇魔法師がこうしてカードゲームで遊んでるなんて、遠い昔の人にとってはきっと信じられない光景だろうな。
そうして王都エルシーク陥落事件から約半年が経った今日。事後処理でバタバタしていたのもあり、予定より半年ほど遅れてしまった私とフォルネウス様の結婚式が執り行われる。
結婚式の一週間前から念入りに磨かれた体に化粧を施され、特注の白いウェディングドレスを身に纏う。光沢のある高級シルクに繊細な刺繍の施されたそのドレスは息を飲むほど美しく、鏡に映る自分がまるで別人のように見えた。
控え室で待っていると、リグレット王国からお母さんやお姉ちゃんとお兄ちゃん、ジルも来てくれた。
「アリシア、とても綺麗よ!」
「そうだね、結婚おめでとう。幸せになるんだよ」
「ありがとう。お姉ちゃん、お兄ちゃん」
「とても素敵よ、アリシア。天国からお父さんもきっと見てくれてるわ。幸せになるのよ」
「うん。ありがとう、お母さん」
「久しぶりだな、アリシア。元気そうでよかった」
「ジルは背が伸びたね。昔は目線の高さ、そんなに変わらなかったのに」
「確かにそうだな。お前は……綺麗になったな」
「え……あ、ありがとう。誉めても何も出ないよ?」
あのジルからそんな言葉が出てくるなんて、思わず動揺してしまった。
「レイラ、お義母さん、あちらにとても綺麗な庭園があるとフォルネウス君が教えてくれたんです。少し見学に行きませんか?」
「そうね、行きましょう」
「折角だし見たいわ」
「アリシア、少しだけ外を見学させてもらうね」
「うん、分かった」
フレディお兄ちゃんが、お姉ちゃんとお母さんを連れて控え室を出ていく。何故か去り際、フレディお兄ちゃんはジルにウィンクをしていた。
「あの、アリシア。お前に言っておきたい事があって……」
「なーに?」
「お前にとっては迷惑かもしれない。けど、ケジメをつけるために聞いて欲しいんだ」
「うん、分かった」
「子供の時から、ずっとお前の事が好きだった」
「…………ええー?!」
「そ、そんなに驚く事か?!」
「うん、全然知らなかったから……」
「あの時、お前を一人で行かせなければ今とは違う未来もあったのかなってずっと後悔してた。何でもっと早く、自分の気持ちを伝えておかなかったんだろうって」
「ジル……」
「お前が兄貴に片思いしてたの知ってたから、勇気が持てなかった俺が悪いんだけどな。この恋心にケジメをつけるために、どうしても言っておきたかったんだ。聞いてくれてありがとな。フォルスと幸せになれよ!」
「うん、ありがとう」
「俺も庭園見せてもらってくるわ!」
「あ、うん、いってらっしゃい!」
ビックリした。まさか、ジルが私の事を好きだったなんて。思わぬ告白に驚いたのか、胸がまだバクバクしてる。
その時、ジルと入れ替わるようにしてフォルネウス様がお越しになった。
私のウェディングドレスと対になるようにデザインされた、白いタキシードを身に纏ったフォルネウス様はとても格好いい。
「アリシア、とても綺麗だ。この世に天使が居たら、それはきっと君の事なんだろうな」
「フォルネウス様だって、とても格好いいです」
「胸を抑えてどうしたのだ、アリシア。それに心なしか、顔も赤いぞ……」
「えっ、あっ、その……」
「まさか、ジルと何かあったのか?!」
「い、いえ、違います!」
「本当か? さっきジルが急いで出ていったようだが……」
不安そうにこちらをご覧になっているフォルネウス様に余計な心配をさせるのが心苦しくて、私は正直に話した。
「その、ケジメをつけたいって告白されたんです。まさかジルが、私の事をそのように想ってくれていたなんて想像もしてなくて、驚いてしまって……」
「アリシア……俺を捨てないでくれ……!」
何故かフォルネウス様の腕の中に閉じ込められてしまった。
「そんな事するわけありませんよ」
「本当に、ずっと俺の傍に居てくれるのか?」
捨てられた子犬のような目でウルウルとこちらをご覧になるフォルネウス様。心配モードに入ってしまわれているわ。
「その誓いを、今からするんじゃないですか。私が愛しているのはフォルネウス様だけですよ」
フォルネウス様の不安を取り除くように、頬にそっと優しく手を伸ばす。背伸びをして、軽く触れるだけの口付けをした。
「自分からこうしたいって思うのも、フォルネウス様だけです」
じっとこちらを見つめるフォルネウス様の瞳には、抑えきれない熱がこもっている。
「アリシア……」
悩ましげな声で名前を呼ばれたかと思うと、後頭部に手を回され今度はフォルネウス様に唇を塞がれた。
「君を愛している。愛おしくて、たまらないんだ」
最初は触れるだけのキスだった。でも次第に激しくなってきて、角度を変えて深いものへと変わっていく。
フォルネウス様の熱い想いが伝わってきて、体の芯が蕩けてしまったかのように力が入らなくなった頃――
「一応ノックはしたんだけどね」
「わぁ! アリシアが、パパに食べられちゃう!」
気まずそうに放たれた声と無邪気で可愛い声が耳に入る。控え室に新たな客人が挨拶に来ていて、ドアの所にはノアお兄ちゃんとブレイヴの姿があった。
「ブレイヴにはまだ早いからね」
後ろからノアお兄ちゃんはブレイヴに目隠ししていた。
「えーどうしてー? いつもの事だよー? でも、いつもよりちょっと激しいかもー?」
「君達は、子供の前で何をやってるんだい、全く」
「僕ね、二人が仲良くし始めたら、いつもきちんと寝たふりしてるんだよ。偉いでしょ? だってそうしたら、弟か妹が出来るんじゃぞってじぃじが教えてくれたから!」
恥ずかしくて顔から火が出そうになった。
「偉いぞ、ブレイヴ」
そしてフォルネウス様、「余計なことを教えて!」って、そこはディートリヒ様に対して怒らないのですね。嬉しそうに笑顔でブレイヴの頭をなでなでされているわ。
「ノアお兄ちゃん、ブレイヴの事見ててくれてありがとう」
「気にしなくていいよ。子供は純粋で可愛いからね」
とても優しい目付きになったな、ノアお兄ちゃん。子供の相手をするのが好きみたいで、ブレイヴともよく遊んでくれるし、ブレイヴもノアお兄ちゃんがお城へ来ると「ノア、遊ぼー!」って押し掛けてるのよね。
「二人とも、結婚おめでとう」
「ありがとうございます、ノアさん」
「ありがとう。後でノアお兄ちゃんにブーケ投げるから、受け取ってね?」
「なんで僕に?」
「それはね……」
「姫様、若様、そろそろお時間です!」
ちょうどその時、メルムが私達を呼びにきた。
「ノアさんもいらしてたのですね」
「あ、はい。二人にご挨拶に……」
「メルム、僕もいるよ!」
「ブレイヴ様は、今日も可愛らしいですね!」
「えっへん!」
ブレイヴの目線の高さまで屈んで話しかけているメルムの様子を、ノアお兄ちゃんは微笑ましく眺めている。
そう、私は気付いてしまったのだ。そうやって度々ノアお兄ちゃんが、メルムの事を視線で追っているのを!
ノアお兄ちゃんは純粋な好意に弱い。メルムみたいに表裏のない純粋な好意の塊である優しい女性に、ときめかない要素がないと思うんだよね。
「素敵な人と結ばれますようにって、願いを込めてだよ。例えば、メルムみたいなね?」
後半はノアお兄ちゃんに聞こえるようにだけ、こっそりと耳打ちしてあげた。
「…………は? な、何を言ってるの、別に僕は……!」
耳を赤くして動揺するノアお兄ちゃんを見る限り、私の勘は間違いではないようだ。頑張れ、ノアお兄ちゃん!
その後、メルムが身だしなみに乱れがないか最終チェックをしてくれた。
「さぁ、行こうか。アリシア」
「はい、フォルネウス様」
フォルネウス様の手をとって、歩きだす。星空の輝く幻想的な庭園を抜けて、大聖堂へと移動する。
「アリシア。必ず君を守り、幸せにすると約束しよう。だからこれからも、共に歩んでくれるか?」
「勿論です。フォルネウス様は、私がお守りしていくのです! 一緒に、幸せになりましょうね」
他者を守るためにしかその強い力を使われないフォルネウス様は、自分の事を犠牲にして蔑ろにされる面がある。
だから私は、そんな優しいフォルネウス様の身や心をしっかり守って癒してあげられる存在になりたい。そうすればきっと、皆が幸せになれると思うから。
蒼の吸血鬼と紅の吸血鬼が、こうして再び共に同じ未来に向かって歩き出せたのは、フォルネウス様が諦めずに頑張り続けてくださったおかげだと私は思ってる。
人間と吸血鬼の間にある確執も、全てが解決出来たわけではないけれど、人々を傷付ける吸血鬼が居なくなった事で、これから少しずつ以前より良い関係を築いていけるだろう。
「君が傍に居てくれるだけで、俺はいつも幸せだよ」
だってこんなにも優しくて素敵な皇太子様が、皆を守ってくれているんだから!
私はそんなフォルネウス様を、傍で支えて守って生きたい。だってそれが、私の幸せだから。
Fin.
最初は落ち着かない様子だったけど、誰も目の事を悪く言う人は居ないし、街に出たら本当に子供達に囲まれてあたふたしながらも嬉しそうだった。
お姉ちゃんが用意してくれた引っ越しグッズを、勿体ないからってノアお兄ちゃんは使おうとしなかった。どうやら大切な物は、使わずに取っておくタイプらしい。
それをこっそり近況報告でお姉ちゃんに伝えたら、「必要ならいくらでも作ってあげるから、遠慮なく使いなさい!」って、ポータブルコールで怒られてた。その様子を見て笑ってたら、「余計な事は言わなくていいんだよ!」って私が怒られた。なんか理不尽!
こちらで生活しながらノアお兄ちゃんが見つけた夢、それは以外にも教師だった。
「知らない事は、とても怖いことだ。僕のように間違った道に進みそうになる子を一人でも救うために、僕は教師になりたい」
その夢を叶えるために、毎日帝立図書館に通って勉強を頑張っている。
「ノア、勝負!」
「いいよ、かかっておいで。ブレイヴ」
休憩時間は息抜きに、よくブレイヴの遊び相手にもなってくれる。聖獣と闇魔法師がこうしてカードゲームで遊んでるなんて、遠い昔の人にとってはきっと信じられない光景だろうな。
そうして王都エルシーク陥落事件から約半年が経った今日。事後処理でバタバタしていたのもあり、予定より半年ほど遅れてしまった私とフォルネウス様の結婚式が執り行われる。
結婚式の一週間前から念入りに磨かれた体に化粧を施され、特注の白いウェディングドレスを身に纏う。光沢のある高級シルクに繊細な刺繍の施されたそのドレスは息を飲むほど美しく、鏡に映る自分がまるで別人のように見えた。
控え室で待っていると、リグレット王国からお母さんやお姉ちゃんとお兄ちゃん、ジルも来てくれた。
「アリシア、とても綺麗よ!」
「そうだね、結婚おめでとう。幸せになるんだよ」
「ありがとう。お姉ちゃん、お兄ちゃん」
「とても素敵よ、アリシア。天国からお父さんもきっと見てくれてるわ。幸せになるのよ」
「うん。ありがとう、お母さん」
「久しぶりだな、アリシア。元気そうでよかった」
「ジルは背が伸びたね。昔は目線の高さ、そんなに変わらなかったのに」
「確かにそうだな。お前は……綺麗になったな」
「え……あ、ありがとう。誉めても何も出ないよ?」
あのジルからそんな言葉が出てくるなんて、思わず動揺してしまった。
「レイラ、お義母さん、あちらにとても綺麗な庭園があるとフォルネウス君が教えてくれたんです。少し見学に行きませんか?」
「そうね、行きましょう」
「折角だし見たいわ」
「アリシア、少しだけ外を見学させてもらうね」
「うん、分かった」
フレディお兄ちゃんが、お姉ちゃんとお母さんを連れて控え室を出ていく。何故か去り際、フレディお兄ちゃんはジルにウィンクをしていた。
「あの、アリシア。お前に言っておきたい事があって……」
「なーに?」
「お前にとっては迷惑かもしれない。けど、ケジメをつけるために聞いて欲しいんだ」
「うん、分かった」
「子供の時から、ずっとお前の事が好きだった」
「…………ええー?!」
「そ、そんなに驚く事か?!」
「うん、全然知らなかったから……」
「あの時、お前を一人で行かせなければ今とは違う未来もあったのかなってずっと後悔してた。何でもっと早く、自分の気持ちを伝えておかなかったんだろうって」
「ジル……」
「お前が兄貴に片思いしてたの知ってたから、勇気が持てなかった俺が悪いんだけどな。この恋心にケジメをつけるために、どうしても言っておきたかったんだ。聞いてくれてありがとな。フォルスと幸せになれよ!」
「うん、ありがとう」
「俺も庭園見せてもらってくるわ!」
「あ、うん、いってらっしゃい!」
ビックリした。まさか、ジルが私の事を好きだったなんて。思わぬ告白に驚いたのか、胸がまだバクバクしてる。
その時、ジルと入れ替わるようにしてフォルネウス様がお越しになった。
私のウェディングドレスと対になるようにデザインされた、白いタキシードを身に纏ったフォルネウス様はとても格好いい。
「アリシア、とても綺麗だ。この世に天使が居たら、それはきっと君の事なんだろうな」
「フォルネウス様だって、とても格好いいです」
「胸を抑えてどうしたのだ、アリシア。それに心なしか、顔も赤いぞ……」
「えっ、あっ、その……」
「まさか、ジルと何かあったのか?!」
「い、いえ、違います!」
「本当か? さっきジルが急いで出ていったようだが……」
不安そうにこちらをご覧になっているフォルネウス様に余計な心配をさせるのが心苦しくて、私は正直に話した。
「その、ケジメをつけたいって告白されたんです。まさかジルが、私の事をそのように想ってくれていたなんて想像もしてなくて、驚いてしまって……」
「アリシア……俺を捨てないでくれ……!」
何故かフォルネウス様の腕の中に閉じ込められてしまった。
「そんな事するわけありませんよ」
「本当に、ずっと俺の傍に居てくれるのか?」
捨てられた子犬のような目でウルウルとこちらをご覧になるフォルネウス様。心配モードに入ってしまわれているわ。
「その誓いを、今からするんじゃないですか。私が愛しているのはフォルネウス様だけですよ」
フォルネウス様の不安を取り除くように、頬にそっと優しく手を伸ばす。背伸びをして、軽く触れるだけの口付けをした。
「自分からこうしたいって思うのも、フォルネウス様だけです」
じっとこちらを見つめるフォルネウス様の瞳には、抑えきれない熱がこもっている。
「アリシア……」
悩ましげな声で名前を呼ばれたかと思うと、後頭部に手を回され今度はフォルネウス様に唇を塞がれた。
「君を愛している。愛おしくて、たまらないんだ」
最初は触れるだけのキスだった。でも次第に激しくなってきて、角度を変えて深いものへと変わっていく。
フォルネウス様の熱い想いが伝わってきて、体の芯が蕩けてしまったかのように力が入らなくなった頃――
「一応ノックはしたんだけどね」
「わぁ! アリシアが、パパに食べられちゃう!」
気まずそうに放たれた声と無邪気で可愛い声が耳に入る。控え室に新たな客人が挨拶に来ていて、ドアの所にはノアお兄ちゃんとブレイヴの姿があった。
「ブレイヴにはまだ早いからね」
後ろからノアお兄ちゃんはブレイヴに目隠ししていた。
「えーどうしてー? いつもの事だよー? でも、いつもよりちょっと激しいかもー?」
「君達は、子供の前で何をやってるんだい、全く」
「僕ね、二人が仲良くし始めたら、いつもきちんと寝たふりしてるんだよ。偉いでしょ? だってそうしたら、弟か妹が出来るんじゃぞってじぃじが教えてくれたから!」
恥ずかしくて顔から火が出そうになった。
「偉いぞ、ブレイヴ」
そしてフォルネウス様、「余計なことを教えて!」って、そこはディートリヒ様に対して怒らないのですね。嬉しそうに笑顔でブレイヴの頭をなでなでされているわ。
「ノアお兄ちゃん、ブレイヴの事見ててくれてありがとう」
「気にしなくていいよ。子供は純粋で可愛いからね」
とても優しい目付きになったな、ノアお兄ちゃん。子供の相手をするのが好きみたいで、ブレイヴともよく遊んでくれるし、ブレイヴもノアお兄ちゃんがお城へ来ると「ノア、遊ぼー!」って押し掛けてるのよね。
「二人とも、結婚おめでとう」
「ありがとうございます、ノアさん」
「ありがとう。後でノアお兄ちゃんにブーケ投げるから、受け取ってね?」
「なんで僕に?」
「それはね……」
「姫様、若様、そろそろお時間です!」
ちょうどその時、メルムが私達を呼びにきた。
「ノアさんもいらしてたのですね」
「あ、はい。二人にご挨拶に……」
「メルム、僕もいるよ!」
「ブレイヴ様は、今日も可愛らしいですね!」
「えっへん!」
ブレイヴの目線の高さまで屈んで話しかけているメルムの様子を、ノアお兄ちゃんは微笑ましく眺めている。
そう、私は気付いてしまったのだ。そうやって度々ノアお兄ちゃんが、メルムの事を視線で追っているのを!
ノアお兄ちゃんは純粋な好意に弱い。メルムみたいに表裏のない純粋な好意の塊である優しい女性に、ときめかない要素がないと思うんだよね。
「素敵な人と結ばれますようにって、願いを込めてだよ。例えば、メルムみたいなね?」
後半はノアお兄ちゃんに聞こえるようにだけ、こっそりと耳打ちしてあげた。
「…………は? な、何を言ってるの、別に僕は……!」
耳を赤くして動揺するノアお兄ちゃんを見る限り、私の勘は間違いではないようだ。頑張れ、ノアお兄ちゃん!
その後、メルムが身だしなみに乱れがないか最終チェックをしてくれた。
「さぁ、行こうか。アリシア」
「はい、フォルネウス様」
フォルネウス様の手をとって、歩きだす。星空の輝く幻想的な庭園を抜けて、大聖堂へと移動する。
「アリシア。必ず君を守り、幸せにすると約束しよう。だからこれからも、共に歩んでくれるか?」
「勿論です。フォルネウス様は、私がお守りしていくのです! 一緒に、幸せになりましょうね」
他者を守るためにしかその強い力を使われないフォルネウス様は、自分の事を犠牲にして蔑ろにされる面がある。
だから私は、そんな優しいフォルネウス様の身や心をしっかり守って癒してあげられる存在になりたい。そうすればきっと、皆が幸せになれると思うから。
蒼の吸血鬼と紅の吸血鬼が、こうして再び共に同じ未来に向かって歩き出せたのは、フォルネウス様が諦めずに頑張り続けてくださったおかげだと私は思ってる。
人間と吸血鬼の間にある確執も、全てが解決出来たわけではないけれど、人々を傷付ける吸血鬼が居なくなった事で、これから少しずつ以前より良い関係を築いていけるだろう。
「君が傍に居てくれるだけで、俺はいつも幸せだよ」
だってこんなにも優しくて素敵な皇太子様が、皆を守ってくれているんだから!
私はそんなフォルネウス様を、傍で支えて守って生きたい。だってそれが、私の幸せだから。
Fin.
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