ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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第一章 目覚めたら吸血鬼……!?

6、私の救世主!

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 吸血鬼として生活を始めて約一ヶ月が経った。

 メルムが吸血鬼としての基礎知識を教えてくれて、少しずつこの国の事が分かってきた。

 吸血鬼には二つの種族があるらしい。

 吸血鬼の始祖ネクロード様には二人の弟子が居た。

 でも遠い昔に仲違いして紅の吸血鬼と蒼の吸血鬼に分かれたそうだ。

 愛する者同士で血を分け与えて暮らしているのが、このハイグランド帝国に住む紅の吸血鬼。

 人々の住まうリグレット王国に隠れ住み、無作為に人間を襲って糧として生きているのが蒼の吸血鬼。

 私はリグレット王国で、蒼の吸血鬼に襲われて吸血鬼となった。

 ハイグランド帝国の紅の吸血鬼達とリグレット王国の人々は互いに協力して、人々を無作為に襲う蒼の吸血鬼の討伐を行っている。

 蒼の吸血鬼討伐隊、通称『エリート部隊』と呼ばれる騎士達が、有事の際はリグレット王国へ駆けつけているそうだ。

 リグレット王国でもヴァンパイアハンターは居たけど、まさかそうして隣国から本物の吸血鬼の助っ人が来ていたなんて知らなかった。

 そんな話を聞いて、私が助かったのは本当に運が良かったんだと思った。

 普通なら致死量の血を失って死ぬか、自我を失って無作為に人を襲う吸血鬼と化してしまう。

 たまたま近くにその『エリート部隊』が居たなんて、助けてくださったフォルネウス様には、感謝しかないわね!

「姫様、もうよろしいのですか?」
「ええ、もうお腹いっぱいなの。いつもありがとうございます、メルム」

 だけど私には未だに一つ慣れないことがあって……そう、それは食事だ!

 メルムが古今東西から美味しいと話題のブラッドボトルを頑張って取り寄せてくれているのを知っているため、無下には出来ない。

 フォルネウス様に頂いた血はあんなに美味しかったのに、何故メルムが持ってきてくれるブラッドボトルは不味くてほとんど飲めないのだろう。

 何とか数口は頑張って飲み込んでるけど、それ以上は吐きそうになって無理だ。身体が全力で拒否している感じがする。

 幸いティータイムにはお菓子と色んな紅茶が楽しめるから、それで空腹を誤魔化してる。

 こんな生活を続けてしまったせいか、次第に起き上がるのがしんどくなってしまった。

 動けなくてベッドで横たわる私に、メルムが医務室から薬をもらって来てくれた。

「姫様、このお薬をお飲みください!」

 もらった薬を飲むと、今まで重怠かった身体が嘘のように軽くなった。

 すごい効き目の薬だ!

「ありがとうございます、メルム。とても身体が楽になりました。これは何のお薬なのですか?」
「血液が苦手な若様のために作られた、血液のタブレット錠剤です」
「フォルネウス様は血が苦手なのですか?」
「はい。若様はこの国で一番魔力が高いので、魔力に目覚めてからは誰の血を飲んでも不味いと拒絶されてきました。そこで急遽作られたのが、この血液錠剤なのです」
「そうだったのですね」
「姫様、本当に申し訳ありませんでした! 私は侍女失格です。姫様に美味しい食事も提供出来ず、こんなつらい思いをさせていたなどっ!」

 メルムのせいじゃない。
 私がきちんと言わなかったせいだ。

「そんなに謝らないで下さい、メルム。言い出せなかった私が悪いのです。心配をかけてごめんなさい」
「いいえ、姫様は悪くございません! 全てはこのメルムの不徳の致す所なのです」

 思い詰めたように強く握られたメルムの手を、優しく両手で包み込んで私は声をかけた。

「私は嬉しかったよ。ここに来ていつも笑顔で私の世話をしてくれて、色々知識を教えてくれて。メルムが本当のお姉ちゃんみたいに思えたの。貴方を悲しませたくなかったの。だから、言い出せなかった私が悪いんだよ。いつもありがとう、メルム。貴方が傍に居てくれて、本当によかった」

 メルムが安心してくれるように、わざと砕けた口調で言った。

「姫様~っ! 私もです、ずっと姫様がいらっしゃるのを心待ちにしてたんです!」

 何とか笑顔を取り戻してくれたメルムを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 この日から、ブラッドボトルの代わりに血液錠剤を食事として取る事になった。

 手軽に栄養がとれて元気になれるから、便利でとてもありがたい!
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