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第十四章 最終決戦
託された髪飾り
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南塔に足を踏み入れると、先程まで重だるかった身体が楽になった。手足の痺れもとれて何の違和感もない。
シロの言った通り、本当に全て幻術だったんだと実感させられる。
「調子はどうだ?」
「すごいね、元通りになったよ」
「そうか、なら先を急ぐぞ」
そう言って私を横抱きにしたまま歩き出そうとするシロに今度こそ待ったをかける。
「シロ、もう大丈夫だよ。ありがとう」
結局、シロに抱えられたままここまで来てしまった。自分で歩こうとしたものの、足にうまく力が入らず言葉に甘えるしかなかったが、今は違う。自分の足できちんと歩ける。
目の前には頂上へと続く螺旋状の長い階段があって、これを抱えたまま上るなど正直どんなに身体を鍛えていても不可能に近い。それなのに、シロは私をおろそうとしない。
「だめか? もう少しだけ……お前のこと、感じていたいんだ」
何かを噛みしめるように紡がれた言葉に、胸がざわつく。
「これからクレハと戦わないといけないんだよ? こんな事で無駄な体力使わない方が……」
「無駄じゃない。これは願掛けだ。クレハに勝つための。絶対に勝つための」
「シロ……」
「お前を抱えて上りきるのは無理だって思ってるだろ?」
普通に歩いて上っても息があがるだろう長い螺旋状の階段だ。正直に私が頷いて肯定の意を示すと、シロは「正直者だな」なんて言いながら喉でクククと笑った。
「俺がクレハに挑むのは、それと同じくらい無謀なことなんだ。だからお前に、そんな気持ちさせたまま、不安を残したまま挑みたくない。不可能を可能に変えれるってとこ、見せてやるよ」
普通なら止めるのが合理的だ。強敵と戦わないといけないと分かってて無駄な体力の消費など避けるにこしたことはない。
でもシロの決意のこもった真っ直ぐな眼差しを見ているとそれ以上、止めることは出来なかった。それ以上シロの決意に、その思いに水を差すのは無粋なことだと悟ったから。
「……分かった。でも無理はしないでね」
「ああ、分かってる」
覚悟を決めたように、シロはそのまま階段を上り始めた。私は砂時計を確認しつつ、大人しくじっとしていた。ただてさえ重いだろうに、動いたらなおさら運びにくくなる。銅像にでもなった気持ちで固まっていると、何故かシロに笑われた。
「楽にしてていいぞ」
「う、うん。ありがとう」
そうは言ったものの、この体勢で楽にとか出来るわけがない! 少しでも重さを軽減させるために彼の首元に手を回している。それはつまり真剣な面持ちの端正なシロの顔がずっと至近距離にあるわけで、意識するなという方が不可能に近い。
「シロ、きつくない? 大丈夫?」
半分ほど上ってきて、私は誤魔化すようにして問いかける。
「ああ。そのけたたましく鳴り続ける鼓動が、最大の癒やし効果だからな。そんな愛らしい音を間近で聴けるんだ。きついわけがないだろ?」
耳元で艶っぽい声でそう囁かれ、恥ずかしいやら何やらで頭がオーバーヒートしそうだった。やはりシロは歩く媚薬だ!
私の火照って赤くなっているであろう顔を見て、シロは口元を緩め満足そうに笑っている。
く、悔しい……。そしてそんな嬉しそうに笑うシロに見惚れてしまう自分がもっと悔しい。
だけどその横顔を見て気付いた。普通なら息があがるだろうに、シロはしっかりとした足取りで息を切らすことなく階段を上っていく。
本当にきつくないのだろうか?
そんな事を考えている間に、気がつけば頂上の扉の前へと辿り着いた。最後の一段を上りきってシロは私をおろしてくれた。
「すごいね、シロ!」
「身体は鍛えてるからな。でも、流石にちょっと、疲れたな……」
そう言って額に滲む汗を拭いながら、初めてシロはふぅーっと息を漏らした。
「補充、してもいいか?」
「うん」
遠慮がちに尋ねてくるシロに、私は背伸びをしてありったけの想いを込めてそっと口づけた。
「シロ、絶対に勝ってクレハを説得しようね」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、行こうか」
扉に手を掛けて開けようとした時、シロが私の手にそっと自分の手を重ねてきた。
「ちょっと待て。桜、お前に渡しておきたいものがある」
シロはゴソゴソと着物の袖を漁って長方形の箱を取り出すと、それを差し出してくる。お礼を言って受け取り箱を開けると、中には可愛らしい桜の髪飾りが入っていた。
花の真ん中に純白に輝く真珠のようなものがついており、淡い桜色の花びらと相まってとても綺麗だ。
「すごく綺麗だね。これ、私にくれるの?」
「ああ、お前のために用意したからな。俺がつけてやるよ」
手際よくシロが髪飾りをつけてくれた。そして葉っぱを変化させた手鏡でその様子を見せてくれた。私には少し可愛らしすぎるその髪飾りだけど、シロがわざわざ私のために用意してくれたものだ。嬉しくないわけがない。
「ありがとうシロ! すごく嬉しい」
「やはり、お前によく似合ってる。いつか……見てみたいものだな……」
優しく目を細めてシロは何かを言いかけるも、それ以上続きを口にする事はなかった。
その表情がどこか寂しそうに見えて、胸がざわつき不安がこみあげる。
昨日から時折感じるその感情を払拭したくて、「何を?」と尋ねる。でもそれより先に「よし、行くぞ」と言ってシロが扉を開けてしまい、結局何を見てみたいのか聞くことは出来なかった。
空が吹き抜けになっている塔の頂上の真ん中には、広い四角形のリングが設置されていた。そこで最終決戦をするということなのだろうか。
一歩足を踏み入れると、先程まであった扉が消えてしまい後戻りは出来なくなる。
「よくここまで辿り着いたね」
嬉しそうに話しかけてきたクレハは、私の方を見て途端に目つきを鋭くした。
「桜ちゃん。どうして君が、そんな大事なものを……」
「よく似合ってんだろ。遅かれ早かれ桜に渡すものなんだ。いつ渡したって、俺の自由だろ?」
クレハの言葉を遮るようにしてシロがそう言って不敵に笑う。どうやらクレハは先ほどシロがくれた髪飾りの事を言っているらしい。
「今のうちに回収しておいたがいいんじゃない? どうせシロ、君は僕には勝てない。そして桜ちゃんはここで死ぬ運命なんだから」
「余計なご託はいい。鍵を持ってきた。まずは人質を解放しろ」
「へぇ~やけに冷静だね。まずは他人のことが心配だなんて。本当に変わってしまったね」
シロの態度に不服そうに顔をしかめながらも、クレハは人質を解放してくれた。
「みんな大丈夫? 怪我とかしてない?」
「俺等はクレハからかって遊んでただけや。何ともないから安心しぃや」
「そうよ、それより桜! 大丈夫だった?」
「大丈夫! 美香、私は大丈夫だから落ち着いて!」
そのまま公開プロポーションチェックをしかねない美香に慌ててまったをかけつつ、私は優菜さんに話しかける。
「優菜さん、大丈夫でしたか?」
「ええ。私は何ともないから平気だよ。逆に居心地が良すぎて申し訳ないくらいだったかな」
そういえば、優菜さんが閉じこめられてた所だけお姫様が住んでそうな部屋だったんだっけ。
皆がどこも怪我していないのを確認してひとまず安心して安堵の息が漏れる。
「約束だ、クレハ。俺と勝負しろ」
皆を守るように前に立ったシロは、クレハと対峙する。
「いいよ、何して勝負しようか? 君が決めていいよ」
シロは袖口から葉っぱを二枚取り出すと、それを刀へ変化させた。そして片方をクレハに差し出す。
クレハは少し驚いたような顔でその刀を受け取った。
「俺はお前に、真剣勝負を申し込む。一騎打ちだ。他の者にはもう、手を出すな」
「シロ……君は僕にこれで、一度も勝てた試しはないよね。本当にいいのかい? ほら、なんなら皆でかかってきても構わないよ?」
「約束しただろ。次は俺が勝つと。髪を結ってリングに上がれ」
「……そう、分かったよ」
クレハとシロは袖口から葉っぱを取り出すと、それを髪結い用の紐へと変化させた。長い髪を高い位置で結い上げると、刀を携えて二人はリングへと足を運ぶ。
シロの言った通り、本当に全て幻術だったんだと実感させられる。
「調子はどうだ?」
「すごいね、元通りになったよ」
「そうか、なら先を急ぐぞ」
そう言って私を横抱きにしたまま歩き出そうとするシロに今度こそ待ったをかける。
「シロ、もう大丈夫だよ。ありがとう」
結局、シロに抱えられたままここまで来てしまった。自分で歩こうとしたものの、足にうまく力が入らず言葉に甘えるしかなかったが、今は違う。自分の足できちんと歩ける。
目の前には頂上へと続く螺旋状の長い階段があって、これを抱えたまま上るなど正直どんなに身体を鍛えていても不可能に近い。それなのに、シロは私をおろそうとしない。
「だめか? もう少しだけ……お前のこと、感じていたいんだ」
何かを噛みしめるように紡がれた言葉に、胸がざわつく。
「これからクレハと戦わないといけないんだよ? こんな事で無駄な体力使わない方が……」
「無駄じゃない。これは願掛けだ。クレハに勝つための。絶対に勝つための」
「シロ……」
「お前を抱えて上りきるのは無理だって思ってるだろ?」
普通に歩いて上っても息があがるだろう長い螺旋状の階段だ。正直に私が頷いて肯定の意を示すと、シロは「正直者だな」なんて言いながら喉でクククと笑った。
「俺がクレハに挑むのは、それと同じくらい無謀なことなんだ。だからお前に、そんな気持ちさせたまま、不安を残したまま挑みたくない。不可能を可能に変えれるってとこ、見せてやるよ」
普通なら止めるのが合理的だ。強敵と戦わないといけないと分かってて無駄な体力の消費など避けるにこしたことはない。
でもシロの決意のこもった真っ直ぐな眼差しを見ているとそれ以上、止めることは出来なかった。それ以上シロの決意に、その思いに水を差すのは無粋なことだと悟ったから。
「……分かった。でも無理はしないでね」
「ああ、分かってる」
覚悟を決めたように、シロはそのまま階段を上り始めた。私は砂時計を確認しつつ、大人しくじっとしていた。ただてさえ重いだろうに、動いたらなおさら運びにくくなる。銅像にでもなった気持ちで固まっていると、何故かシロに笑われた。
「楽にしてていいぞ」
「う、うん。ありがとう」
そうは言ったものの、この体勢で楽にとか出来るわけがない! 少しでも重さを軽減させるために彼の首元に手を回している。それはつまり真剣な面持ちの端正なシロの顔がずっと至近距離にあるわけで、意識するなという方が不可能に近い。
「シロ、きつくない? 大丈夫?」
半分ほど上ってきて、私は誤魔化すようにして問いかける。
「ああ。そのけたたましく鳴り続ける鼓動が、最大の癒やし効果だからな。そんな愛らしい音を間近で聴けるんだ。きついわけがないだろ?」
耳元で艶っぽい声でそう囁かれ、恥ずかしいやら何やらで頭がオーバーヒートしそうだった。やはりシロは歩く媚薬だ!
私の火照って赤くなっているであろう顔を見て、シロは口元を緩め満足そうに笑っている。
く、悔しい……。そしてそんな嬉しそうに笑うシロに見惚れてしまう自分がもっと悔しい。
だけどその横顔を見て気付いた。普通なら息があがるだろうに、シロはしっかりとした足取りで息を切らすことなく階段を上っていく。
本当にきつくないのだろうか?
そんな事を考えている間に、気がつけば頂上の扉の前へと辿り着いた。最後の一段を上りきってシロは私をおろしてくれた。
「すごいね、シロ!」
「身体は鍛えてるからな。でも、流石にちょっと、疲れたな……」
そう言って額に滲む汗を拭いながら、初めてシロはふぅーっと息を漏らした。
「補充、してもいいか?」
「うん」
遠慮がちに尋ねてくるシロに、私は背伸びをしてありったけの想いを込めてそっと口づけた。
「シロ、絶対に勝ってクレハを説得しようね」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、行こうか」
扉に手を掛けて開けようとした時、シロが私の手にそっと自分の手を重ねてきた。
「ちょっと待て。桜、お前に渡しておきたいものがある」
シロはゴソゴソと着物の袖を漁って長方形の箱を取り出すと、それを差し出してくる。お礼を言って受け取り箱を開けると、中には可愛らしい桜の髪飾りが入っていた。
花の真ん中に純白に輝く真珠のようなものがついており、淡い桜色の花びらと相まってとても綺麗だ。
「すごく綺麗だね。これ、私にくれるの?」
「ああ、お前のために用意したからな。俺がつけてやるよ」
手際よくシロが髪飾りをつけてくれた。そして葉っぱを変化させた手鏡でその様子を見せてくれた。私には少し可愛らしすぎるその髪飾りだけど、シロがわざわざ私のために用意してくれたものだ。嬉しくないわけがない。
「ありがとうシロ! すごく嬉しい」
「やはり、お前によく似合ってる。いつか……見てみたいものだな……」
優しく目を細めてシロは何かを言いかけるも、それ以上続きを口にする事はなかった。
その表情がどこか寂しそうに見えて、胸がざわつき不安がこみあげる。
昨日から時折感じるその感情を払拭したくて、「何を?」と尋ねる。でもそれより先に「よし、行くぞ」と言ってシロが扉を開けてしまい、結局何を見てみたいのか聞くことは出来なかった。
空が吹き抜けになっている塔の頂上の真ん中には、広い四角形のリングが設置されていた。そこで最終決戦をするということなのだろうか。
一歩足を踏み入れると、先程まであった扉が消えてしまい後戻りは出来なくなる。
「よくここまで辿り着いたね」
嬉しそうに話しかけてきたクレハは、私の方を見て途端に目つきを鋭くした。
「桜ちゃん。どうして君が、そんな大事なものを……」
「よく似合ってんだろ。遅かれ早かれ桜に渡すものなんだ。いつ渡したって、俺の自由だろ?」
クレハの言葉を遮るようにしてシロがそう言って不敵に笑う。どうやらクレハは先ほどシロがくれた髪飾りの事を言っているらしい。
「今のうちに回収しておいたがいいんじゃない? どうせシロ、君は僕には勝てない。そして桜ちゃんはここで死ぬ運命なんだから」
「余計なご託はいい。鍵を持ってきた。まずは人質を解放しろ」
「へぇ~やけに冷静だね。まずは他人のことが心配だなんて。本当に変わってしまったね」
シロの態度に不服そうに顔をしかめながらも、クレハは人質を解放してくれた。
「みんな大丈夫? 怪我とかしてない?」
「俺等はクレハからかって遊んでただけや。何ともないから安心しぃや」
「そうよ、それより桜! 大丈夫だった?」
「大丈夫! 美香、私は大丈夫だから落ち着いて!」
そのまま公開プロポーションチェックをしかねない美香に慌ててまったをかけつつ、私は優菜さんに話しかける。
「優菜さん、大丈夫でしたか?」
「ええ。私は何ともないから平気だよ。逆に居心地が良すぎて申し訳ないくらいだったかな」
そういえば、優菜さんが閉じこめられてた所だけお姫様が住んでそうな部屋だったんだっけ。
皆がどこも怪我していないのを確認してひとまず安心して安堵の息が漏れる。
「約束だ、クレハ。俺と勝負しろ」
皆を守るように前に立ったシロは、クレハと対峙する。
「いいよ、何して勝負しようか? 君が決めていいよ」
シロは袖口から葉っぱを二枚取り出すと、それを刀へ変化させた。そして片方をクレハに差し出す。
クレハは少し驚いたような顔でその刀を受け取った。
「俺はお前に、真剣勝負を申し込む。一騎打ちだ。他の者にはもう、手を出すな」
「シロ……君は僕にこれで、一度も勝てた試しはないよね。本当にいいのかい? ほら、なんなら皆でかかってきても構わないよ?」
「約束しただろ。次は俺が勝つと。髪を結ってリングに上がれ」
「……そう、分かったよ」
クレハとシロは袖口から葉っぱを取り出すと、それを髪結い用の紐へと変化させた。長い髪を高い位置で結い上げると、刀を携えて二人はリングへと足を運ぶ。
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