獣耳男子と恋人契約

花宵

文字の大きさ
上 下
173 / 186
第十四章 最終決戦

強がりな背中

しおりを挟む

「本当に、大丈夫なの?」

 通学中、もう何度この質問をしたか分からなくなるくらい同じことを聞いていた。

「ああ、お前のおかげでよく眠れたからな」

 目が不自由なシロの手を引いて歩きながら、心配になり何度も声をかけて横を見上げる。その度にシロはこちらに顔を向けて優しく微笑んでくれる。

「全く心配性だな」なんて喉でクククと笑いながら、「お前がこんなに優しくしてくれるなら、体調崩すのも悪くないな」なんて言い出すシロ。

「その言い方だと、私が普段優しくないみたいに聞こえるよ!」
「基本、怒られてる気がするが?」
「そ、それは! シロがすぐ……」

 人前でセクハラしてくるから、その数々の悪行を思いだし恥ずかしくてそれ以上言えなくなる。

「言っただろ? 俺は好きな女ほどいじめたくなるって。お前の顔がどこまで赤くなるか試すのは中々面白いぞ?」
「そんな事試してたの?!」
「ああ。おかげでどうしたら涙腺が緩んでそそる顔で見上げてくるか、どのライン越えたら拳が飛んでくるかも大体分かる」

 変なところばかり学習して……
 それならもう少し授業を真面目に受けたらいいのに。

「例えば」

 シロはこちらに手を伸ばしてきて私の顎にそっと手をかけた。
 人差し指のはらでスーっと顎の下をなぞられ、身体にゾクッとした甘い痺れが走る。
 顎をくいっと上に持ち上げられ、気がつくとシロは屈んで至近距離まで顔を寄せていた。

「こうすると、お前の頬は赤く染まって少しだけ涙腺が緩む。見えなくても分かるぜ?」

 ズバリと言い当てられてしまい、恥ずかしくてさらに一層顔に熱が帯びる。
 シロの指で肌を直に撫でられると、そこから快感を伴う甘い痺れが全身を駆け巡って何故か涙腺が緩む。
 欠伸をしたときに生理的に涙が出るみたいな感じの条件反射に近い。

「往来の真ん中で、朝から堂々と何してんねや」
「イテッ!」

 その時、後ろから現れたカナちゃんにチョップをくらったシロ。
 頭をさすりながら振り返った彼は、キョロキョロと辺りを見回してカナちゃんを探している。
 しかし、すでにカナちゃんは私の後ろに移動しており、シロはその事に気づかない。

「どこ見てんねや、ほらこっちやで」

 挑発しながらカナちゃんは、シロが振り返る逆方向から気づかれないように移動した。
 声をたよりにこちらに顔を向けたシロは、私の後ろにあった電信柱に近づいていく。

「おい、西園寺」と電信柱につっかかり始めたシロを見て、カナちゃんが驚いて声をかける。

「……お前なんかおかしない? それ、電信柱やで」
「カナちゃん。実は今、シロの目……ほとんど見えてないの」

 それから簡単に事情を説明すると「お前それ、大丈夫なんか?!」と心配して詰め寄るカナちゃんに、シロは「別に大した事ねぇよ」とぶっきらぼうに返していた。

「それより、早く行くぞ。いつまでもモタモタしてたら危ねぇだろ」

 そう言って、ポケットに手を突っ込んでツカツカとひとり前を歩いていくシロ。大した事じゃないとわざとアピールするその背中を、私たちは慌てて追いかける。

 だけど本当は、その手の震えを悟らせないようにポケットにわざと隠した所を私は見てたんだよ。
 後十時間、どうかシロの身体が持ちますようにと強く願う事しか、今の私には出来なかった。

 学校に着くなり、私は美香と優菜さんに事情を伝え、今日一日気をつけるように伝えておく。橘先生とウィルさんにも話しを通しておいた。

 時間が分かればよかったのだが、クレハはいつも突然現れるから予測しにくい。
 常に気を張っていたものの、授業中は何も起こらなかった。三限目の教室の移動を伴う化学の授業は特に警戒していたが、そこも空振りに終わり普通に時間だけが過ぎてゆく。

 シロの体調が気になったけど、軽口を叩いてカナちゃんや美香を怒らせている姿はいつも通りだった。

 そしてあっという間に昼休みになり、私は制服に護符と照魔鏡を忍ばせている事を再度確認し、言霊を素早く呼び出すイメージトレーニングをしつついつものように屋上へ向かう。
 屋上のドアノブに手をかけようとした時、シロが私にまったをかけて「クレハの気配がする」と呟いた。

 私はウィルさんの発信器のボタンを押し、何かあった時のために、美香と優菜さんにラインで手早く連絡を入れる。
 カナちゃんは忍ばせた御札の確認をして橘先生に連絡を入れ、シロは深呼吸して緊張を鎮めていた。

 各々の準備が出来た所で、そっと屋上の扉を開けて中に入る。
 警戒しながら中央まで足を進めて周囲を窺うが、クレハはどこにも見当たらない。
 その時、クスクスと笑う声が上方から耳に届く。

「やぁ、待っていたよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

処理中です...