獣耳男子と恋人契約

花宵

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第十三章 激化する呪い

断罪

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「あんま桜の前では言いたないけど、正直やりそうな女子が多すぎて、一日で分かったんは的が絞れへん程多いってことしか……」

 そう言って苦笑いを漏らすカナちゃんに、美香がビシッとつっこみをいれる。

「それはそうよ、貴方の前ではそうそう本音を話す女子は居ないでしょう。私はある程度目星がついたわ。まず体育の時間、桜がシャトルを取りに出てから私が体育館を出るまでに、トイレや保健室だの理由をつけて抜け出した合同で体育を受けてた一組の生徒が四人。あの時間帯に自習をしていたクラスから席をたった五組の生徒が三人。窓側の席からあの用具倉庫が見えるから、可能性が高いのはその七人のうちの誰かだと思う。どの子も結城君と西園寺君にお熱を上げてるミーハーな子達だから、嫉妬から嫌がらせをしてもおかしくないわ」

 どうやら、二人は私を閉じ込めた犯人を探してくれていたようだ。
 美香とカナちゃんのコミュニケーション力と情報網を持ってすれば……犯人が見つかるのは時間の問題かもしれない。

「そういえばあの時間、頭が痛いと薬をもらいにきた五組の生徒が一人と、足を捻ったと肩を借りながらきた一組の生徒が二人、計三人が訪ねてきたな。しばらく保健室に滞在していたから、その三人が犯人の可能性は薄いだろう」
「事が大きくなって今ごろ犯人は動揺しているはず。さらに絞れた所で、まだ昼休みも残っていることだし、私はもうひと探り行ってくるわ」

 そう言って席を立つ美香に、カナちゃんが声をかける。

「桃井さん、俺も行くわ。その子の目ぇ見れば嘘ついてるかどうかぐらいなら見分けれるし。的が絞れてるなら多少時間かかっても口を割らす手段はいくらでもあるしな」
「そう助かるわ、行きましょう。まずは、二人組を引き離すとこからよ」
「おーけい、まかせとき」

 口角をあげ不敵に笑う美香とカナちゃん。
 どうやって口を割らせるかその算段を考えているようで、それが表情に滲みでていて若干怖い。

「シロ、桜のこと頼んだで」
「ああ」
「桜、私が必ず犯人見つけて謝罪させるから安心して」
「うん、二人ともありがとう。気を付けてね」

 迷惑をかけ申し訳なく思うも、二人の存在がすごく心強く感じた。
 意気揚々と遠ざかる二つのたくましい背中に、どす黒いオーラが見えるのが少し気になりはするが……あの二人がタッグを組むと色んな意味で最強かもしれないと思わずにはいられなかった。

***

 やはり、あの二人の仕事は早かった。
 放課後、人気のない教室でシロと一緒に待っていると、美香とカナちゃんに連れられて一組の女子が二人、私の元へやってきた。
 少しおどかしてやろうと思って軽い気持ちでした事が、トイレに行っている間にあんな大事になるなんて夢にも思っていなかったようで、彼女達は涙を流しながら謝ってくれた。

 昨晩はよく眠れなかったのか彼女達の目の下にはくまがあり、瞳は泣いて赤く充血し、顔には不安が滲み出ていてどんよりと曇っている。
 一晩相当思い詰めていたのが窺えるその風貌に、呪いのせいでこんな事になってしまい逆に少し申し訳ない気持ちになった。

 冷静に考えると彼女達の行動は突発的すぎて、後先の事を考えていない幼稚な悪戯だ。授業中に戻ってこなければ、誰かが見に来るのはある程度予測がつく。

 それに五組の教室の窓からあの用具倉庫は丸見えで、犯行が誰かに目撃される可能性も大いにある。
 本当に強い悪意があって私を痛めつけたいと思うなら放課後、人が少なくなって誰も探しにこない時間を狙って犯行に及んだ方が足はつきにくいし何倍も効率的だ。
 その点から見ても、彼女達の行動は本当にただ魔が差しただけ、なのだろう。

 呪いがたまたま彼女達の小さな悪意を利用しただけだとしたら、遠回しに考えれば彼女達も被害者といえるかもしれない。
 そんな彼女達にシロが鬼の形相で凄んで散々捲し立てるものだから、慌てて止めに入った。
 私のために怒ってくれているその気持ちは嬉しいけれど、悪戯に対する謝罪はもう十分にしてもらった。今回の件は呪いの影響もあるだろうし、それ以上責め立てるのは気の毒に思えたから。「何で庇うんだよ!」とご立腹のシロをなだめる方が、実際には大変だったかもしれない。

 その後カナちゃんが職員室から先生を呼んできて、事情を説明すると彼女達は生活指導室へと連行された。
 何かしらの処分は免れないらしいが、十分反省している所を考慮して、処罰は軽くしてもらえるらしい。

 教室から出ていく彼女達は、憑き物が取れたかのように安心した表情をしていて少しだけほっとする。
 罪を犯したまま黙って過ごすのは想像以上に苦しいのだと、彼女達を見ていたらよく分かった。

 クレハがどんな道を選ぶか分からない。けれど彼女達のように、少しでも心が安らぐ選択をしてくれたらいいなと、窓から見える茜色の空に、目を閉じてそっと祈りをささげた。
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