獣耳男子と恋人契約

花宵

文字の大きさ
141 / 186
第十二章 断罪者と救済者

そこまで根に持たなくても……

しおりを挟む
「大体さっきので感じは掴めたやろ?」
「うん、缶けりって面白いね。小さい頃、あまりこういう遊びはやらせてもらえなかったから、すごく楽しいよ」

 優菜さんが天使のような笑顔で嬉しそうに話している傍らで

「これって姑息な手段を容赦なく使える人間が有利なゲームだね」

 話の腰を折るように嫌みを重ねてきたクレハ。

「な、何の話?」

 とぼけるカナちゃんに、更なる追い打ちをかけるようにクレハは言葉を紡いだ。

「確かに缶の中には何も仕込まれてなかったけど、それ自体がトラップだったとはね」

 その言葉に開き直ったかのように、カナちゃんはニッコリと人当たりのよい笑顔を浮かべる。

「お前が手強いと判断されてんやからほら、そこは喜びや?」
「よーく分かったよ、君達と僕は相容れないってことがね。次は僕が鬼をやるよ。さぁ、ゲームを始めようか」
「やる気満々なのはええんやけど、それはあかんねん。最初に捕まった優菜が次の鬼」
「……は? 僕はまた君達と組まないといけないわけ?」

 深紅の瞳を大きく見開いて驚きを露にするクレハに、カナちゃんはニッコリと笑って現実を告げる。

「そうそう、お前今度は俺達の仲間やで」

 カナちゃんと私の顔を順に見た後、心底嫌そうに顔を歪めたクレハ。
『人間も悪い人ばかりじゃない』と教えてあげたかったはずなのに、『人間は容赦なく姑息で卑怯だ』という認識を強めてしまった感が否めない。
 仲良くなるどころかどんどん悪化する関係に危機感を覚えていると、次のゲームが始まった。

 さっきまで鬼だったカナちゃんが高らかに缶を蹴り、私達は隠れるために走り出す。
 先程の教訓を生かし、私は物置小屋とは逆方向へ走り大きな木の影に隠れた。

「5、6、7……」

 優菜さんが数える声が聞こえ、皆がどこに隠れたか探るため様子を窺うと、隠れもせず棒立ちしている黒髪の人が見えた。

 あの野郎、早々に勝負捨てやがった! そんなに私達と組むのが嫌なのか……絶対缶蹴って解放してやる!

 数え終わった優菜さんは、クレハを見てオロオロと戸惑っているようだ。
 いざ探そうと思って目を開けたら、缶を蹴ろうともせずただ突っ立ってる不審人物が目の前に居たら、確かにびっくりだよ。
 何か話しているようだけど、遠くて会話は分からない。
 しばらくして「クレハさん、みーつけた」と缶を踏む優菜さんの姿が見えて、早々に一人脱落してしまった。


 まぁいい、どうもソリが合わないクレハは元からあてにしていない。
 むしろ、戦局を掻き乱す不安要素が減ったと思えば万々歳ではないか。
 こちらにはまだ、まるで流星の如く瞬く間に缶を蹴りとばす『浪花のシューティングスター』が残っている。
 彼の活躍に期待しつつ私は堅実に好機を窺うとしよう。

 木の影からじっと優菜さんの様子を窺っていると、不意にクレハと目が合った。
 さっと隠れはしたものの、このままここに居れば確実に見つかるだろう。
 間違いなく彼は仲間を売る。いや、彼にとっては私は仲間どころか敵以外の何者でもないだろうが。
 優菜さんが反対側を見てる隙に移動を試みるも、クレハが私の居場所を吹き込んだようでこちらに近付いてきている。
 こうなったらギリギリまで引き付けて、かけっこ勝負にかけるしかない。

 勢いよく走った場合、子はスピードを落とさずそのまま缶を蹴り飛ばせばいいが、鬼はスピードを緩めて缶を踏まなければならない。

 その減速したタイミングで一気に畳み掛ける! もう少し……こっちまで……今だ!

 勢いよく木の影から飛び出して走っていくと、「桜ちゃん、みーつけた」と優菜さんも追いかけて走ってきた。
 不意討ちで飛び出したため、優菜さんは走り出すタイミングが遅れ私の方が前方を走っている。
 このままいけば、確実に缶を蹴る事が出来る。

 しかし、私は忘れていた。今自分が物凄く災いを招きやすい不幸体質であることを。

「足元、気を付けないと危ないよ」

 視界の端に、ニヤリと口角を上げ地面を指差すクレハを捉える。
 だがその言葉はもう後の祭りってやつで、私の足はヌルっとしたものを豪快に踏み滑らせてしまっていた。

「桜ちゃん!」

 優菜さんの心配そうな声をバックコーラスに。あぁ今日は本当にいい天気だなって、雲ひとつない青空を仰ぎ見れるぐらい私の身体が傾いた時──

「ほんとにどんくさいね、君」

 背中に感じたのはグラウンドの硬い砂の地面の感触じゃなくて、ほどよく硬くて細い棒のような感触だった。

「あ、ありがとう」

 元凶を作ったのは間違いなく彼なのだろうが、助けてもらったのもまた事実……そう思ってお礼を言うと

「優菜、君は早く缶を踏んで。この子はこのまま捕獲しておくから」

 後ろから羽交い締めにされ動けなくなる。
 どうやら私は罠にはめられたらしいという事がよく分かった。
 あんなとこにバナナの皮なんてハナからありはしなかった、全ての元凶はやはりクレハの仕業だったのだろう。

「え、でも……」
「ほら、急がないとあっちからもカモが走ってきてる。大丈夫、迷う事はない。ここで手を抜く方が真剣勝負をしている彼等にとっては屈辱だと思うよ?」

 戸惑う優菜さんを諭すように、優しくクレハが声をかけると

「ごめんね、桜ちゃん」

 迷いを絶ちきった彼女は缶を踏みに走り出した。
 カナちゃんもこちらに走ってきているが、かなり距離があり間に合わない。

 このままでは……くっ、何とかして抜け出したいが、座った状態で後ろから固定されて足が使えない。
 腕をほどこうと試みるも、クレハは見た目によらずかなり力が強いようでビクともしない。

「どうかな? 童顔で背が低くて女みたいな軟弱な体型の男に、羽交い締めにされて動けない気分は?」

 未だに根にもっていらっしゃった……しかも、カナちゃんが言ったものまでしっかりと。
 結局、そのまま優菜さんに缶を踏まれてしまい第二ラウンドも呆気なく幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...