71 / 186
第七章 すれ違う歯車
The カミングアウト
しおりを挟む
撮影の休憩中、コハクが目を丸くして尋ねてきた。
「桜と西園寺君って昔からずっとそんな感じなの?」
「そんな感じってどういう意味?」
意味が分からず首を傾けると、コハクが分かりやすく説明してくれた。
「いや、君達の会話聞いてると漫才してるみたいで面白いなって思って」
そう言って、何かを思い出したかのようにコハクが可笑しそうに笑う。
彼の目には私達の事がそんな風にうつってたのか。
「基本俺がボケると、桜はすかさずツッコんでくるしな。ボケにボケで重ねてくる事もあるけど、その辺はノリで臨機応変にな」
「即席でそんな事出来るなんて、本当に仲がいいんだね」
カナちゃんの言葉に、コハクは少し寂しそうに笑った。
「昔は俺、桜しか友達おらんかったしな」
「え、そうなの?」
信じられないと言わんばかりに目を見開いたコハクに、カナちゃんは苦笑いして答える。
「これはここだけの話やで。小三の終わりにこっち引っ越してんやけど、それまでずっと俺、女のフリしとったし」
もしかするとカナちゃんの昔を知っている人は、こっちにはそう多くはないのかもしれない。
そんな秘密をコハクに話したと言う事は、カナちゃんは彼の事を少しは見直してくれたのだろうか。
「カナちゃん、昔は『浪花のエンジェル』って商店街で呼ばれてて、町内一の美少女だったんだよ。今じゃこんなんだけど」
衝撃のカミングアウトにコハクが驚かないようにフォローをいれる。
「ちょ、桜! こんなんはないやろ、こんなんは!」
「ごめん、ごめん。でも最初に声かけられた時、名前言われなかったら絶対気付かなかったよ。てっきり、立派なニューハーフになってるかと思ってたから」
「おま……俺の事、そんな風におもてたんか……何気にすごいショックなんやけど」
すると、カナちゃんにダメージを与えてしまったようだ。
「見た目が男でも女でもカナちゃんはカナちゃんだよ! ね、コハクもそう思うよね?」
あれから一言も発していないコハクを不安に思い同意を促してみると、「いや、僕は西園寺君が女装したとこを見た事ないからなんとも……と言うか見たくもないけど……」とコハクは苦笑いしてカナちゃんを一瞥した後、そっと彼から顔を背けた。
「コハッ君、目ぇ逸らしながらいわんといてくれる?……言うとくけど俺、男には興味あらへんからな。変な誤解せんといてくれる?」
カナちゃんのその言葉が思い出したくない黒歴史を呼び覚ますのに拍車をかけたようで、
「……ちょっと気持ち悪いから顔洗ってくる」
「……あかん、俺も洗ってくる」
青ざめた顔をしてその場を去っていく二人を、私は静かに頷いて見送った。
手持ちぶさたな私は撮った写真を眺めていた。
画面に写るコハクは優しく笑っていて、その顔を見ているだけで胸がポカポカと温かい気持ちになる。
そこらの雑誌の表紙を飾るモデルより、何十倍も格好いいと思うのは身内びいきだろうか。
コハクと出会えて、本当に毎日が楽しい。
こんな日がずっと続けばいいな。
綺麗な秋晴れの空を見上げて、これからの未来にそっと思いを馳せた。
その後、二人の頑張りのおかげで無事に全ての撮影が終了した。
「コハッ君、お疲れ様。よう俺の指導に耐えたな。中々見込みあんで」
「悔しいけど、君の言う通りにした方が撮影は捗ったからね」
そう言って二人は笑いあってハイタッチを交わす。
リストにはないけれど、私はそれを写真に撮った。
疲労感は拭えないけれど、お互いの頑張りを素直に称えあう、今までで一番いい表情をした二人の自然な姿がそこには収まっている。
最初は喧嘩ばかりで上手くいくか不安だったけど、いつのまにか親睦を深めたコハクとカナちゃんを目前に、この時の私は幸せな気持ちであふれていた。
こうして、無事文化祭に必要な写真を全部撮り終える事が出来た。
翌日、笹山さんにデータを渡すと、かなり喜んでくれて「絶対立派なパンフレット作るから」と物凄く意気込んでいた。
去年の文化祭は、空気のような扱いで正直苦痛で仕方がなかった。
でも今年は、クラスの皆とも少しずつ打ち解ける事が出来て、楽しい文化祭になりそうだと心弾ませていた。
「桜と西園寺君って昔からずっとそんな感じなの?」
「そんな感じってどういう意味?」
意味が分からず首を傾けると、コハクが分かりやすく説明してくれた。
「いや、君達の会話聞いてると漫才してるみたいで面白いなって思って」
そう言って、何かを思い出したかのようにコハクが可笑しそうに笑う。
彼の目には私達の事がそんな風にうつってたのか。
「基本俺がボケると、桜はすかさずツッコんでくるしな。ボケにボケで重ねてくる事もあるけど、その辺はノリで臨機応変にな」
「即席でそんな事出来るなんて、本当に仲がいいんだね」
カナちゃんの言葉に、コハクは少し寂しそうに笑った。
「昔は俺、桜しか友達おらんかったしな」
「え、そうなの?」
信じられないと言わんばかりに目を見開いたコハクに、カナちゃんは苦笑いして答える。
「これはここだけの話やで。小三の終わりにこっち引っ越してんやけど、それまでずっと俺、女のフリしとったし」
もしかするとカナちゃんの昔を知っている人は、こっちにはそう多くはないのかもしれない。
そんな秘密をコハクに話したと言う事は、カナちゃんは彼の事を少しは見直してくれたのだろうか。
「カナちゃん、昔は『浪花のエンジェル』って商店街で呼ばれてて、町内一の美少女だったんだよ。今じゃこんなんだけど」
衝撃のカミングアウトにコハクが驚かないようにフォローをいれる。
「ちょ、桜! こんなんはないやろ、こんなんは!」
「ごめん、ごめん。でも最初に声かけられた時、名前言われなかったら絶対気付かなかったよ。てっきり、立派なニューハーフになってるかと思ってたから」
「おま……俺の事、そんな風におもてたんか……何気にすごいショックなんやけど」
すると、カナちゃんにダメージを与えてしまったようだ。
「見た目が男でも女でもカナちゃんはカナちゃんだよ! ね、コハクもそう思うよね?」
あれから一言も発していないコハクを不安に思い同意を促してみると、「いや、僕は西園寺君が女装したとこを見た事ないからなんとも……と言うか見たくもないけど……」とコハクは苦笑いしてカナちゃんを一瞥した後、そっと彼から顔を背けた。
「コハッ君、目ぇ逸らしながらいわんといてくれる?……言うとくけど俺、男には興味あらへんからな。変な誤解せんといてくれる?」
カナちゃんのその言葉が思い出したくない黒歴史を呼び覚ますのに拍車をかけたようで、
「……ちょっと気持ち悪いから顔洗ってくる」
「……あかん、俺も洗ってくる」
青ざめた顔をしてその場を去っていく二人を、私は静かに頷いて見送った。
手持ちぶさたな私は撮った写真を眺めていた。
画面に写るコハクは優しく笑っていて、その顔を見ているだけで胸がポカポカと温かい気持ちになる。
そこらの雑誌の表紙を飾るモデルより、何十倍も格好いいと思うのは身内びいきだろうか。
コハクと出会えて、本当に毎日が楽しい。
こんな日がずっと続けばいいな。
綺麗な秋晴れの空を見上げて、これからの未来にそっと思いを馳せた。
その後、二人の頑張りのおかげで無事に全ての撮影が終了した。
「コハッ君、お疲れ様。よう俺の指導に耐えたな。中々見込みあんで」
「悔しいけど、君の言う通りにした方が撮影は捗ったからね」
そう言って二人は笑いあってハイタッチを交わす。
リストにはないけれど、私はそれを写真に撮った。
疲労感は拭えないけれど、お互いの頑張りを素直に称えあう、今までで一番いい表情をした二人の自然な姿がそこには収まっている。
最初は喧嘩ばかりで上手くいくか不安だったけど、いつのまにか親睦を深めたコハクとカナちゃんを目前に、この時の私は幸せな気持ちであふれていた。
こうして、無事文化祭に必要な写真を全部撮り終える事が出来た。
翌日、笹山さんにデータを渡すと、かなり喜んでくれて「絶対立派なパンフレット作るから」と物凄く意気込んでいた。
去年の文化祭は、空気のような扱いで正直苦痛で仕方がなかった。
でも今年は、クラスの皆とも少しずつ打ち解ける事が出来て、楽しい文化祭になりそうだと心弾ませていた。
0
お気に入りに追加
456
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる