獣耳男子と恋人契約

花宵

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第五章 運命の再会

もう師匠とはもう呼びません

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 まず最初に向かったのは、アーケード街にあるゲームセンター。
 ズラリと並ぶUFOキャッチャーを見て回り、私の目に止まったのは手のひらサイズのもふもふの兎の可愛らしいぬいぐるみ。
『触ると気持ちよさそうだな』なんて思いながら眺めていると、隣からカチャリとコインを入れる音が聞こえた。

「まかせとき、俺がとったるわ。こういうのわりかし得意やねん」

 そう言って慣れた手付きでボタンを操作し始めるカナちゃん。
 横と奥に移動するだけじゃなくて、最近の機械は回転まで出来るのか。
 ゲームセンターが久しぶり過ぎて、ハイテクな機械についていけない。

 そんな私の傍らで、カナちゃんは何とも絶妙なアームさばきで一度で見事に景品をゲット。
 いつの間に、彼の手はそんなゴットハンドになったのか……驚いて見ていると「コツさえ掴めれば簡単やで」なんて余裕発言。

 負けじと鞄から財布を取り出す私を見て「え、これあげるって」と手渡してくるカナちゃんの手をビシっと制止する。

「コツを教えて。自分でやりたい」
「あ、もしかして闘争心に火つけてもうた感じ?」
「みなまで言うな、私は自分であの兎さんを家へ連れて帰るのだ」
「お前、そういうとこ全然変わってへんな。普通の女の子やったら笑顔でこれ受けとんで」
「奏君。御託はいいから早くコツを教えたまえ」
「へいへい、せやな狙いどころは……」

 それから私はカナちゃん指導の元、百円玉をつぎ込んで五回ほど挑戦するも見事に惨敗。
 手持ちの百円玉が無くなり、両替機で新たなを軍資金を手にして戻るとカナちゃんが複雑そうな顔をしてこちらを見ていた。

「ほら、意地はってへんでこいつもらったってや」
「人生には、引けない勝負があるんだよ」
「あかん! お前それ、ギャンブルにハマる人間の典型的思考やて!」

 そう言って私の前に立ちはだかる師匠、いや宿命のライバル。
 もう貴方様から伝授してもらうコツはない。私は強くなった。
 寸での所で獲物を逃す苦い思いも十分に味わって、私のメンタルは強くなったのだよ。

 だからこそ分かるんだ……もう後は、前に突き進むのみだと!

「次こそはいける!」
「いやいや、そうやって皆ハマっていくんやて! 目を覚ませ、桜!」

 さては、私が師匠の力を越えるのを危惧して止めにきたのか?
 そんなに師匠の威厳を保ちたいのか?

 だが、そんな事には屈しない!
 これからは師匠ではなく、ライバルと呼ばせてみせるんだ!
 この百円玉に全てをかけて、私は師匠を越える!

 しかし、私が右へ移動すればすかさず師匠も右に動き邪魔をしてくる。
 『そこをどけ』という私の視線と、『もうやめとけ』という師匠の視線が激しくぶつかること数秒。

「じゃあ、最後! これで取れなかったら諦めるから最後にチャンスを!」

 私の必死な訴えに師匠は静かにその場を譲る。

「ええか、首と身体挟むようにして斜めにアーム引っかけんやで?」

 アドバイスを素直に受け取り、深く頷いて私は百円玉を投入口へと押し込む。

 いざ、尋常に勝負!
 陽気な機械の音をシャットアウトして深く深呼吸。
 定めた兎さんの位置を今一度確認。
 気合いを入れ直して細心の注意を払ってボタンを押す。
 完璧な距離感で目標の真上にアームを移動させることに成功。

 だが、勝負はここからだ。
 幾度となくこの回転に苦々しい思いをさせられた。
 奴はボタンの感度が緩いのか、手を離してコンマ数秒分勝手に回転する。
 それを見越してベストタイミングで「今や!」という師匠の声のもとすかさず手を離す。

 ゆっくりと下へ降り兎さんの身体をガシッと力強く掴んだアームは、機械の嫌がらせなピタッと止まりにも屈する事なく排出口まできちんと運んでくれた。

「取れた! やったぁあ!」
「よくやった、弟子よ。免許皆伝にはほど遠いがその戦果をたたえよう」

 念願のモフモフを堪能する私にかけられるありがたいお言葉。
 目の前には健闘をたたえて差し出される右手。
 それをしっかりと掴み「ありがとうごさいます、師匠!」と私達は力強い握手を交わしていた。

「で、満足した?」
「うん、部屋で大事に飾っとくよ」
「ほなこの子も仲間にいれたってや」

 そう言ってカナちゃんは、最初に取った兎さんを私に差し出してくる。

 可愛いモフモフが二体……中々魅力的な申し出だが……考えた末、私はその兎さんを引き取る事にした。
 そして代わりに自分が取った兎さんをカナちゃんに差し出すと、彼は目を丸くしてこちらを見ている。

「今日の思い出に。この子が取れたのはカナちゃんのおかげだから、可愛がってくれる?」

 冷静に考えると、高校二年の男子が兎のぬいぐるみをもらった所で喜ぶはずがないと容易に想像つくのだが、気分が高揚していた私はそんなこと微塵も思わなかった。

 昔は何でも分け合っていた。楽しいことも悲しいことも、貰ったお菓子もおもちゃやゲームも。
 その感覚の延長線上で楽しい時間を共有した思い出に、カナちゃんにそれを持っていて欲しいという単なる私のエゴだった。

 私と兎さんを交互に見た後、「分かった、大事にするわ」と彼は照れ臭そうにそれを受け取ってくれた。

 それから一緒にレースの対戦ゲームをしたり、協力して進めていく射撃ゲームや音楽に合わせて踊るリズムゲームなど、一通りゲームセンターを満喫。

 粗方やりつくした所で、近くにあるビリヤードからボーリングへと移行し、一日でかなり充実して遊び倒した。
 しばらく疎遠になってたのが嘘みたいに、昔のように気兼ねなく話が出来て、時折懐かしさを感じたり、かなり楽しい時間を過ごせた。

 あっという間に時間は過ぎ、そこを出る頃には辺りはもう暗くなろうとしていた。
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