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第二章 獣耳男子と偽恋生活
窮鼠、猫にかまれる?
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「きゃ!」
「わっ!」
目の前にはコハクの端正な顔があり、少しでも力を抜いたら今にも唇が触れてしまいそうだ。
「ごめん、今退くから……っ!」
私の足を割くようにして、スカートの中には曲がったコハクの長い足がある。無理に動こうとしたことで、普段触れることのない敏感な部分にそれが当たっていた。
「大丈夫? 桜」
「あっ、動かないで。足が痺れて……」
コハクが動こうとしたことで、ビリビリと感じる私の足に彼の足が擦れて刺激が加わりジンジンする。
部屋が暗くてよかった。
きっと私の顔は今、リンゴのように真っ赤だろうから。明るい状態でこれは流石に耐えられない。
「桜、痺れがとれるまで僕にもたれ掛かって。その体勢のままじゃ辛いでしょ?」
床についた手が、足を気にして無理な体勢で変な所に力が入っているせいか、痛くなってきた。
「ごめん、ありがとう」
ここはコハクの好意に甘えさせてもらおう。
ゆっくりと身体を彼に密着させ、顔を彼の肩付近に埋める。
「あっ……ん」
その時、痺れた足に刺激が加わり思わず変な声が出てしまった。無言で居ると、けたたましくも鳴り続ける心臓の音がコハクに聞こえそうで恥ずかしい。
「ごめん、重いでしょ?」
羞恥心に耐えきれず私が話しかけると、コハクは一瞬身体を大きくビクッと震わせる。
「大丈夫、全然重くないよ」
ここで重いと苦情を言われてもショックだが、その気を遣った優しい言葉に少しだけ罪悪感が募った。
少ししてだいぶ足の痺れも取れてきた。
お礼を言って身体を起こし、私は部屋の電気をつける。
すると、コハクの頭に私が待ち望んでいたものがピョコンと乗っているのに気付く。
「ああー! やった、ミッションコンプリート!」
今までの羞恥心が無駄にならずにすんだ!
「ミッションコンプリート?」
コハクが戸惑ったように私を見ている。
嬉しくて油断するとすぐ口元が緩みそうになるのを必死に堪え、私は彼の方まで近付くと、頭の上に乗ったもふもふの獣耳を触った。
「あっ……桜っ! い、今は……だめだよ」
コハクは瞳を潤ませ、普段は白いその肌を真っ赤に染めて私を見上げている。
勝った、私はその日初めてコハクに勝ったのだ。
「いつもコハクにからかわれてばかりだからね。そのお返しだよ?」
そう言って、私はコハクに今日の作戦の種明かしをした。
彼は黙ってそれを聞いている。
俯いているため表情は分からないけど、もしかして怒ってる? いきなり呼び出されて、下らない事に付き合わされて……そりゃ、怒るよね。
「ごめん、コハク……」
流石にやりすぎたかなと思い謝るも、コハクからは何も反応がない。
う……これは本格的に怒らせてしまったようだ。
「さ・く・ら」
「は、はい!」
顔を上げたコハクはニコニコと何とも圧迫感のある笑顔でこちらに近付いてくる。顔は笑っているけど目は笑ってない。
これはやばい感じのやつだ。
私はじりじりと後退って壁にぶつかってしまった。もう逃げ場がない。
次の瞬間──
ドン! とコハクは壁に片手をつき、私を逃がさないように閉じ込めた。
「僕の事、煽って楽しかった?」
怒気が色濃くみえるコハクの瞳が、至近距離で私を見つめている。
「コハクの驚いた顔が見たかっただけなの、ごめんなさい」
「知ってる? この状況でそんな潤んだ瞳で見上げたら、誘ってるようにしか見えないんだよ」
今まで見たことのない艶っぽい表情で、コハクは口角を僅かに上げて笑った。
その言葉に、私は急いで下を向いた。
しかし、視線を逸らすのは許さないと言わんばかりに、コハクが私の顎を掴んで上を向かせる。
「桜は隙が多いからこんな目に遭うんだよ。いいお勉強になったでしょ?」
そう言って、コハクは顔を近付けてくる。
これから起こるであろう事に備えて思わず目をつむった。
──あれ?
しかし、予想していた事は起こらない。
恐る恐る目を開けると、前にはいつものように優しく微笑んだコハクが居る。
「僕以外の男の前で、そんなことしたらダメだよ?」
コハクは色気のある低い声で囁いた後、私から離れていった。
解放された私はバクバクと煩くなり続ける胸を押さえながら、その場にへたりこむ。
キスされる……なんて思った自分がかなり恥ずかしい。
「あれ、桜。狐につままれたような顔してどうしたの?」
悪びれもなくニコニコと微笑んでそんな事を言う目の前の男に、試合には勝ったが勝負には負けた気分になった。
「わっ!」
目の前にはコハクの端正な顔があり、少しでも力を抜いたら今にも唇が触れてしまいそうだ。
「ごめん、今退くから……っ!」
私の足を割くようにして、スカートの中には曲がったコハクの長い足がある。無理に動こうとしたことで、普段触れることのない敏感な部分にそれが当たっていた。
「大丈夫? 桜」
「あっ、動かないで。足が痺れて……」
コハクが動こうとしたことで、ビリビリと感じる私の足に彼の足が擦れて刺激が加わりジンジンする。
部屋が暗くてよかった。
きっと私の顔は今、リンゴのように真っ赤だろうから。明るい状態でこれは流石に耐えられない。
「桜、痺れがとれるまで僕にもたれ掛かって。その体勢のままじゃ辛いでしょ?」
床についた手が、足を気にして無理な体勢で変な所に力が入っているせいか、痛くなってきた。
「ごめん、ありがとう」
ここはコハクの好意に甘えさせてもらおう。
ゆっくりと身体を彼に密着させ、顔を彼の肩付近に埋める。
「あっ……ん」
その時、痺れた足に刺激が加わり思わず変な声が出てしまった。無言で居ると、けたたましくも鳴り続ける心臓の音がコハクに聞こえそうで恥ずかしい。
「ごめん、重いでしょ?」
羞恥心に耐えきれず私が話しかけると、コハクは一瞬身体を大きくビクッと震わせる。
「大丈夫、全然重くないよ」
ここで重いと苦情を言われてもショックだが、その気を遣った優しい言葉に少しだけ罪悪感が募った。
少ししてだいぶ足の痺れも取れてきた。
お礼を言って身体を起こし、私は部屋の電気をつける。
すると、コハクの頭に私が待ち望んでいたものがピョコンと乗っているのに気付く。
「ああー! やった、ミッションコンプリート!」
今までの羞恥心が無駄にならずにすんだ!
「ミッションコンプリート?」
コハクが戸惑ったように私を見ている。
嬉しくて油断するとすぐ口元が緩みそうになるのを必死に堪え、私は彼の方まで近付くと、頭の上に乗ったもふもふの獣耳を触った。
「あっ……桜っ! い、今は……だめだよ」
コハクは瞳を潤ませ、普段は白いその肌を真っ赤に染めて私を見上げている。
勝った、私はその日初めてコハクに勝ったのだ。
「いつもコハクにからかわれてばかりだからね。そのお返しだよ?」
そう言って、私はコハクに今日の作戦の種明かしをした。
彼は黙ってそれを聞いている。
俯いているため表情は分からないけど、もしかして怒ってる? いきなり呼び出されて、下らない事に付き合わされて……そりゃ、怒るよね。
「ごめん、コハク……」
流石にやりすぎたかなと思い謝るも、コハクからは何も反応がない。
う……これは本格的に怒らせてしまったようだ。
「さ・く・ら」
「は、はい!」
顔を上げたコハクはニコニコと何とも圧迫感のある笑顔でこちらに近付いてくる。顔は笑っているけど目は笑ってない。
これはやばい感じのやつだ。
私はじりじりと後退って壁にぶつかってしまった。もう逃げ場がない。
次の瞬間──
ドン! とコハクは壁に片手をつき、私を逃がさないように閉じ込めた。
「僕の事、煽って楽しかった?」
怒気が色濃くみえるコハクの瞳が、至近距離で私を見つめている。
「コハクの驚いた顔が見たかっただけなの、ごめんなさい」
「知ってる? この状況でそんな潤んだ瞳で見上げたら、誘ってるようにしか見えないんだよ」
今まで見たことのない艶っぽい表情で、コハクは口角を僅かに上げて笑った。
その言葉に、私は急いで下を向いた。
しかし、視線を逸らすのは許さないと言わんばかりに、コハクが私の顎を掴んで上を向かせる。
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──あれ?
しかし、予想していた事は起こらない。
恐る恐る目を開けると、前にはいつものように優しく微笑んだコハクが居る。
「僕以外の男の前で、そんなことしたらダメだよ?」
コハクは色気のある低い声で囁いた後、私から離れていった。
解放された私はバクバクと煩くなり続ける胸を押さえながら、その場にへたりこむ。
キスされる……なんて思った自分がかなり恥ずかしい。
「あれ、桜。狐につままれたような顔してどうしたの?」
悪びれもなくニコニコと微笑んでそんな事を言う目の前の男に、試合には勝ったが勝負には負けた気分になった。
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