14 / 186
第二章 獣耳男子と偽恋生活
母には逆らえません
しおりを挟む
翌日。
クッキーと散歩をしながら、今更ながらに考える。男女が二人で遊びに出かけるのは、世間一般的に言うとデートと呼ばれるものではないかと。そう考えると、何だかむずかゆい気がして恥ずかしい。
「ワンワン」
「ごめんね、クッキー」
考え事をしていたせいで、散歩の足取りが疎かになっていたらしい。
クッキーがまだまだ散歩したりないと言わんばかりに催促してくる。
茶色のモフモフの毛並みが最高に気持ちいポメラニアンのクッキー。やんちゃなこの子は大の散歩好きだ。
学校の日は時間が限られてしまうため、あまり散歩が出来ない。そのため土日はゆっくりとクッキーの散歩をするのが私の日課になっていた。
生憎、今日は午後からコハクと約束があるため遠出は出来ないが。
「クゥーン、クゥーン」
それを察しているようで、クッキーは悲しそうに鳴いた。
「大丈夫だよ、まだ時間あるからね」
「ワンワン」
途中、持参したサンドイッチでクッキーと一緒に食事を済ませ、散歩から帰ってくる頃には時計はすでに十二時半を回っていた。
そこで目にした自宅前で待つ人影はもしかしなくても……
「コハク、もう来てたの?」
「楽しみで早く来すぎちゃった」
照れ臭そうにコハクが笑うと、クッキーが警戒したように吠える。
「あ、その子がクッキー? 可愛いね」
おいでおいでとコハクがしゃがんで呼ぶと、クッキーは警戒しながら寄っていく。クンクンと鼻をならしてコハクの手の匂いを嗅いでいる。
「ごめんね。少しだけ君のご主人様を借りてもいいかな?」
コハクとクッキーが見つめ合うこと数秒。返事をするようにクッキーは「ワン」と一回吠えた。
「ありがとう」
頭を撫でられて警戒心がとれたのか、クッキーは気持ちよさそうに目を細めた。
警戒心の強いクッキーが初対面の人になつくのは実に珍しい。
「コハク、クッキーに気に入られたんだね。その子が初対面の人に抱っこされてる所、初めて見たよ」
「そうなんだ? 嬉しいな」
ペロペロと顔を舐められたコハクはくすぐったそうに笑っている。
犬と狐、お互い何か通じ合うものがあるのだろうか。
「桜、誰か来てるの?」
その時、クッキーの普段とは違う鳴き声を聞いて、家の中から母が顔を出してきた。
「あ、うん。今から一緒に遊園地行くんだ」
母と目が合ったコハクはいつものように爽やかな笑顔で挨拶をする。
「初めまして、桜さんと同じクラスの結城コハクと申します」
「娘がいつもお世話になってますぅ。ウフフ」
そう言いながら母は、聖母のように優しく微笑んでコハクを見つめている。
しかし私に視線を移した途端、母の眼光がきらりと鋭く光り出す。
「さ・く・ら?」
私は瞬時に悟る。この呼び方はヤバイ奴だと。
「今からデートに行くのにその格好で行くつもり?」
ニコニコと笑ってはいるが目は笑っていない。母の恐ろしい視線が私にグサグサと突き刺さる。
「そ、そうだけど」
あまりの迫力に思わずどもってしまった。
「ダメよ着替えてきなさい! コハク君、娘の準備が終わるまで上がって待っててもらえるぅ? 美味しい紅茶があるのよぉ」
私には厳しく、コハクには語尾にハートマークが付きそうな口調で喋る母によって、私達は強制的に家の中へ入れられた。
クッキーと散歩をしながら、今更ながらに考える。男女が二人で遊びに出かけるのは、世間一般的に言うとデートと呼ばれるものではないかと。そう考えると、何だかむずかゆい気がして恥ずかしい。
「ワンワン」
「ごめんね、クッキー」
考え事をしていたせいで、散歩の足取りが疎かになっていたらしい。
クッキーがまだまだ散歩したりないと言わんばかりに催促してくる。
茶色のモフモフの毛並みが最高に気持ちいポメラニアンのクッキー。やんちゃなこの子は大の散歩好きだ。
学校の日は時間が限られてしまうため、あまり散歩が出来ない。そのため土日はゆっくりとクッキーの散歩をするのが私の日課になっていた。
生憎、今日は午後からコハクと約束があるため遠出は出来ないが。
「クゥーン、クゥーン」
それを察しているようで、クッキーは悲しそうに鳴いた。
「大丈夫だよ、まだ時間あるからね」
「ワンワン」
途中、持参したサンドイッチでクッキーと一緒に食事を済ませ、散歩から帰ってくる頃には時計はすでに十二時半を回っていた。
そこで目にした自宅前で待つ人影はもしかしなくても……
「コハク、もう来てたの?」
「楽しみで早く来すぎちゃった」
照れ臭そうにコハクが笑うと、クッキーが警戒したように吠える。
「あ、その子がクッキー? 可愛いね」
おいでおいでとコハクがしゃがんで呼ぶと、クッキーは警戒しながら寄っていく。クンクンと鼻をならしてコハクの手の匂いを嗅いでいる。
「ごめんね。少しだけ君のご主人様を借りてもいいかな?」
コハクとクッキーが見つめ合うこと数秒。返事をするようにクッキーは「ワン」と一回吠えた。
「ありがとう」
頭を撫でられて警戒心がとれたのか、クッキーは気持ちよさそうに目を細めた。
警戒心の強いクッキーが初対面の人になつくのは実に珍しい。
「コハク、クッキーに気に入られたんだね。その子が初対面の人に抱っこされてる所、初めて見たよ」
「そうなんだ? 嬉しいな」
ペロペロと顔を舐められたコハクはくすぐったそうに笑っている。
犬と狐、お互い何か通じ合うものがあるのだろうか。
「桜、誰か来てるの?」
その時、クッキーの普段とは違う鳴き声を聞いて、家の中から母が顔を出してきた。
「あ、うん。今から一緒に遊園地行くんだ」
母と目が合ったコハクはいつものように爽やかな笑顔で挨拶をする。
「初めまして、桜さんと同じクラスの結城コハクと申します」
「娘がいつもお世話になってますぅ。ウフフ」
そう言いながら母は、聖母のように優しく微笑んでコハクを見つめている。
しかし私に視線を移した途端、母の眼光がきらりと鋭く光り出す。
「さ・く・ら?」
私は瞬時に悟る。この呼び方はヤバイ奴だと。
「今からデートに行くのにその格好で行くつもり?」
ニコニコと笑ってはいるが目は笑っていない。母の恐ろしい視線が私にグサグサと突き刺さる。
「そ、そうだけど」
あまりの迫力に思わずどもってしまった。
「ダメよ着替えてきなさい! コハク君、娘の準備が終わるまで上がって待っててもらえるぅ? 美味しい紅茶があるのよぉ」
私には厳しく、コハクには語尾にハートマークが付きそうな口調で喋る母によって、私達は強制的に家の中へ入れられた。
0
お気に入りに追加
456
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる