獣耳男子と恋人契約

花宵

文字の大きさ
上 下
13 / 186
第二章 獣耳男子と偽恋生活

デートのお誘い

しおりを挟む
 コハクと恋人のフリをして一週間が経った。
 彼と一緒に帰ることで、桃井達の放課後の課外授業は無くなった。桃井はあれから何も仕掛けてこない。むしろ、気遣って声をかけてくる様になった。
 クラスメイトも挨拶をしてきたり、中には軽く雑談してくる人までいる。

 それもきっと、コハクの影響なのだろう。
 彼は勉強もスポーツも出来て容姿もいい。誰にでも分け隔てなく接して、困っている人は積極的に助ける。
 しかし、無理なことや出来ない事はきっぱりノーと言える。いい意味でも悪い意味でも表裏のない素直な人だった。

 放課後になるとすぐに私の所へ来て、『帰ろう、桜』と手を差し出してくれる。朝も相変わらずで、毎日私の家まで迎えに来てくれる。

 コハクの恋人のフリはかなり徹底的なもので、それを目の当たりにした周囲からは羨望の眼差しが送られてくる。
 そんな彼が皆に、『一番は桜だから』と事あるごとに公言するものだから、皆も私を無下に出来ないのだろう。

 あれから、学園内でコハクが獣耳を出した事は一度もない。正直、私が居なくても充分ばれずに生活出来ると思う。
 そう考えると、私が彼の隣に居る必要はないのではないか……と考えずにはいられない。

 コハクほどの運動神経があれば、どこの部活からでも引っ張りだこだろう。
 本当は何か入りたい部活があるのかもしれない。友達と遊んで帰ったりしたいのかもしれない。
 だけど私が負担になって、彼がやりたい事が自由に出来ていないとしたら、申し訳なくて仕方がなかった。


***

 学園からの帰り道、いつものようにコハクに手を引かれ歩いていた。

「桜、明日何か用事ある?」
「クッキーと散歩」
「じゃあ明後日は?」
「クッキーと散歩」
「そうなんだね……」

 目に見て分かるほど顔に悲愴感を浮かべ、コハクはがっくりと肩を落とした。
 流石に見ていられなくて、理由を尋ねてみる。

「何か用事でもあるの? 人手が居るなら手伝うよ? いつもお世話になってるし」
「実はケンさんに遊園地の優待券を二枚貰ったんだけど、一緒にどうかなと思って」

 遊園地か……予想外のお誘いにフリーズすること数秒。二枚という事はつまり、コハクと二人で出かけるという事だろう。貴重な休みまでをも私に時間を割こうとしている……それは流石に申し訳なさすぎる。

「休みの日まで無理して恋人のフリしなくてもいいんだよ?」
「無理なんてしてないよ。僕は桜と一緒に行きたいんだ」

 休みの日まで私と一緒に居て楽しいのだろうか。少なくとも嫌なら誘ってくれたりはしないよね。そう考えたら無下にするのは忍びない。

 遊園地は楽しいし、一緒に行くのは別に構わない。むしろ楽しみだ。だけどそこで可愛い愛犬の姿が脳裏をよぎる。
 先週は雨だったから、満足にクッキーと散歩出来なかった。久しぶりの遠出をきっと楽しみにしているはずだ。一日遊園地で遊んだらクッキーは寂しい思いをするだろう。それならば……

「明日、お昼からでもいいかな? その、クッキーも散歩を楽しみにしてて……朝はお散歩させてあげたいの」
「じゃあ明日、一時ぐらいに桜の家に迎えに行ってもいいかな?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう、桜! 明日、楽しみだな~」

 そう言って、コハクは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 本当に表情豊かな人だな。本人には言えないけど、その分かりやすい所がクッキーに似てるかもしれない。
 ああ、だから一緒に居て楽しいのかな。その笑顔につられて、私も自然と楽しくなってくる。
 遠足前の子供のように、その日はドキドキして眠れなかった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...