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第一章 獣耳男子と恋人契約
恋人契約
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「分かりました、協力します。具体的に何をすればいいですか?」
「よし、じゃあとりあえず一条はコハクの恋人のフリを頼む」
恋人のフリ?! 何故そうなる?!
いや、私の耳がおかしくなったのかもしれない。
確認のためにもう一度聞いてみた。
「……すいません、もう一度いいですか?」
「だから、恋人のフリだよ」
「はい?」
どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。
「コイツ見た目だけはいいから、女子が放っておかないだろ?」
「ちょっとケンさん。その言い方はひどくないですか?」
「拗ねんな、一応褒めてんだろ?」
「なんか納得いかない」
結城君は可愛い顔をして頬を膨らませている。
先生と結城君ってどんな関係なんだろう。
名前で呼び合っている所を見る限り、それなりの新密度があるのは分かるけど。
「女子が近づかないように、予防線を張っておくという事ですか?」
「まぁそれも一理あるが、それだけじゃない。常に隣にコハクが居る状況を作ることは一条、お前さんの身の安全にもつながる。お互いの任務を遂行するには便宜上、肩書きを持たせた方やりやすいからな。そのための恋人契約だ。一石二鳥だろ?」
確かに、お互いに利益のある条件には違いない。
でも私と関わることで、優しい結城君が不幸になるのは嫌だ。
いくら偽りとは言え、結城君の恋人役なんて私に務まるとは思えない。
「結城君の秘密は誰にも言いません。ですので、やはりこの話は……」
「自分をもっと大事にしろよ、一条」
その続きは言わせないと言わんばかりに、橘先生が私の言葉を遮った。
「そうだよ、一条さんがこんなに酷い傷を負ってるのに放っておけないよ」
結城くんが心配そうな顔で私を見ている。
「あーコイツは一度言い出したら聞かないから、一条が例え断ったとしてもお前の周りをうろちょろするぞ、きっと」
「僕をストーカーみたいに言わないで下さい!」
「お前、自覚なかったのか?」
「それは……それでも、僕は一条さんが辛い目に遭っているのを見過ごす事は出来ないんだ」
何故、結城君はここまで必死なのだろうか……きっと、正義感が強い人なのだろう。
彼の真っ直ぐで澄んだ瞳に嘘や悪意は感じられない。むしろ、本当に私を心配してくれているのが分かる。
そんなに真っ直ぐな瞳を向けられたのはいつ以来だろうか……胸の奥が少しだけじんわりと温かくなるのを感じた。
その日、初めて私は学園内で信頼できる人に出会えた気がした。
「結城君は、その……私なんかが恋人のフリをしても良いのですか?」
「全然構わないよ。むしろ大歓迎。一条さんの方こそ、こんな得体の知れない僕なんかが君の恋人のフリをしても良いのかな?」
「それは全然構いません。その、結城君のご迷惑でなければ」
「だったら、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
礼儀正しくペコリと頭を下げてお辞儀をする結城君に、私も慌てて頭を下げてお辞儀を返す。
「嬉しいよ! ありがとう、桜」
「私の名前……」
「よかったら、僕の事もコハクって呼んで欲しいな。そのそっちの方が親しい感じがするし! その……ダメ、かな?」
「……コハク」
名前を呼ぶと、嬉しそうに頬を緩めたコハクは、感極まったように私をぎゅっと抱き締めた。
「(どうしよう。このまま死んでも本望かも……)」
コハクが何か呟いてたけど、よく聞き取れなかった。それよりも――
「こ、ここでは恋人のフリ、必要ないから離れて……っ!」
男の人に免疫のない私は、慌ててコハクの胸を叩いて抗議する。
「嬉しくってつい……驚かせてごめんね!」
コハクが離れた後も、私の心臓はバクバクと煩くなっていた。
こうして、恋人契約を結んだ私達の偽恋生活が始まった。
この日を境に、私の日常が劇的に変わったのは言うまでも無い。
「よし、じゃあとりあえず一条はコハクの恋人のフリを頼む」
恋人のフリ?! 何故そうなる?!
いや、私の耳がおかしくなったのかもしれない。
確認のためにもう一度聞いてみた。
「……すいません、もう一度いいですか?」
「だから、恋人のフリだよ」
「はい?」
どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。
「コイツ見た目だけはいいから、女子が放っておかないだろ?」
「ちょっとケンさん。その言い方はひどくないですか?」
「拗ねんな、一応褒めてんだろ?」
「なんか納得いかない」
結城君は可愛い顔をして頬を膨らませている。
先生と結城君ってどんな関係なんだろう。
名前で呼び合っている所を見る限り、それなりの新密度があるのは分かるけど。
「女子が近づかないように、予防線を張っておくという事ですか?」
「まぁそれも一理あるが、それだけじゃない。常に隣にコハクが居る状況を作ることは一条、お前さんの身の安全にもつながる。お互いの任務を遂行するには便宜上、肩書きを持たせた方やりやすいからな。そのための恋人契約だ。一石二鳥だろ?」
確かに、お互いに利益のある条件には違いない。
でも私と関わることで、優しい結城君が不幸になるのは嫌だ。
いくら偽りとは言え、結城君の恋人役なんて私に務まるとは思えない。
「結城君の秘密は誰にも言いません。ですので、やはりこの話は……」
「自分をもっと大事にしろよ、一条」
その続きは言わせないと言わんばかりに、橘先生が私の言葉を遮った。
「そうだよ、一条さんがこんなに酷い傷を負ってるのに放っておけないよ」
結城くんが心配そうな顔で私を見ている。
「あーコイツは一度言い出したら聞かないから、一条が例え断ったとしてもお前の周りをうろちょろするぞ、きっと」
「僕をストーカーみたいに言わないで下さい!」
「お前、自覚なかったのか?」
「それは……それでも、僕は一条さんが辛い目に遭っているのを見過ごす事は出来ないんだ」
何故、結城君はここまで必死なのだろうか……きっと、正義感が強い人なのだろう。
彼の真っ直ぐで澄んだ瞳に嘘や悪意は感じられない。むしろ、本当に私を心配してくれているのが分かる。
そんなに真っ直ぐな瞳を向けられたのはいつ以来だろうか……胸の奥が少しだけじんわりと温かくなるのを感じた。
その日、初めて私は学園内で信頼できる人に出会えた気がした。
「結城君は、その……私なんかが恋人のフリをしても良いのですか?」
「全然構わないよ。むしろ大歓迎。一条さんの方こそ、こんな得体の知れない僕なんかが君の恋人のフリをしても良いのかな?」
「それは全然構いません。その、結城君のご迷惑でなければ」
「だったら、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
礼儀正しくペコリと頭を下げてお辞儀をする結城君に、私も慌てて頭を下げてお辞儀を返す。
「嬉しいよ! ありがとう、桜」
「私の名前……」
「よかったら、僕の事もコハクって呼んで欲しいな。そのそっちの方が親しい感じがするし! その……ダメ、かな?」
「……コハク」
名前を呼ぶと、嬉しそうに頬を緩めたコハクは、感極まったように私をぎゅっと抱き締めた。
「(どうしよう。このまま死んでも本望かも……)」
コハクが何か呟いてたけど、よく聞き取れなかった。それよりも――
「こ、ここでは恋人のフリ、必要ないから離れて……っ!」
男の人に免疫のない私は、慌ててコハクの胸を叩いて抗議する。
「嬉しくってつい……驚かせてごめんね!」
コハクが離れた後も、私の心臓はバクバクと煩くなっていた。
こうして、恋人契約を結んだ私達の偽恋生活が始まった。
この日を境に、私の日常が劇的に変わったのは言うまでも無い。
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