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番外編(アズリエル視点)
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それから私はローザンヌ帝国についての知識を得ようと、時間の許す限り調べるようになった。そこで分かってきたのは、聖女であるフィオラニア姫がいかにあの帝国で大事にされている存在であるかという事だった。
300年ぶりに生まれた王家の女児の娘であり、精霊王ユグドラシルを召喚できる優れた能力の持ち主。そんな方にあんなプロポーズをしてしまった自分の失態が、思い返すだけでも恥ずかしくて仕方がない。
それと同時に思い知る。今の自分の立場では、彼女と結ばれる事など一生ないであろうと。
ローザンヌ帝国の聖女の伴侶となる男性は、身分で差別される事はない。聖女自身が望む方であれば、誰でも入婿となれる可能性があるというのは、あちらでは有名な話のようだ。
入婿として。その条件が、私に重くのし掛かっていた。
フィオラニア姫にこちらの国で王妃になってもらうのは、まず不可能なのだ。彼女自身が望んで聖女の仕事にやりがいをもって楽しんでおられるのは、あちらの国へ行った時によく見てきたし、やり取りしている手紙の内容からもよく伝わってくる。
一年間そうやって交友を深めてきたが、知れば知るほど遠ざかってしまうフィオラニア姫の存在に焦りが出てきていた。
それと同時に、どうしようもないほど彼女に惹かれている自身の心を、苦しいほどに感じていた。
王太子である私は、次期国王としてこの国を治めなければならない。
第二王子であったジルベールは、王族としての地位を廃嫡され国外に追放された。第三王子であるオリバーは自身の王位継承に興味がなく、私が王位につくことを心待ちにしている。
未来の王妃にさせようと、「是非うちの娘を婚約者に!」とアピールしてくる貴族の重鎮達も多く、先のばしにしていた婚約者問題にも頭を悩ませていた。どう足掻いても八方塞がりな現状に、思わずため息がもれる。
「エル兄様、大丈夫ですか? あまり顔色が優れないようですが……残りは僕がやっておきますので、どうか休まれて下さい」
「令嬢達の香水の匂いにすこしあてられただけだ。気にするな」
「それなら僕も手伝います。二人でやれば、早く終わりますから」
「いつもすまないな。ありがとう、オリバー」
こうしてよく、オリバーは私の仕事を手伝ってくれる。覚えも速く手際もよいため、安心して仕事を任せられるので、とても助かっている。
この調子でいけば、日付が変わる前には終わるだろう。集中してラストスパートをかけている時に、オリバーが思わぬ質問をしてきた。
「兄様は、フィオラニア姫の事をお慕いされているのですよね?」
思わず動揺し、手にしていた書類を滑らせてしまった。
「突然、どうしたのだ?!」
「僕は、兄様に幸せになって欲しいのです。いつも国と民の事を思って努力して自分を犠牲にされてきた事を、僕は傍でずっと見てきたのでよく知っています。だからこれ以上、犠牲になって欲しくないのです。少しくらい、我が儘を通したっていいじゃないですか。勝負もせずに、諦めてほしくないのです……」
「確かに私は、フィオラニア姫の事を愛している。しかし私は……」
「国の事は僕に任せて下さい。兄様みたいにうまくできるとは限りませんが、努力します! だから身分や立場のせいで、どうかご自身のたった一つの願いを諦めないで下さい。失敗しても成功しても、僕は兄様の味方ですから」
「オリバー、しかしお前は王位を継ぎたくはないのであろう?」
「正直、想像もしていませんでした。立派な兄様が王位を継ぐのが当然だと思っていましたから。でもそのせいで兄様が苦しんでいるのなら、僕は兄様の力になりたいのです!」
「オリバー、感謝する……っ! そうだな、諦めたらそこからは何も生まれない。前に進むためにも、この気持ちを伝えてみるよ」
「はい、頑張って下さい!」
オリバーに背中を押され、私はフィオラニア姫に自分の正直な気持ちを打ち明ける決心をした。
300年ぶりに生まれた王家の女児の娘であり、精霊王ユグドラシルを召喚できる優れた能力の持ち主。そんな方にあんなプロポーズをしてしまった自分の失態が、思い返すだけでも恥ずかしくて仕方がない。
それと同時に思い知る。今の自分の立場では、彼女と結ばれる事など一生ないであろうと。
ローザンヌ帝国の聖女の伴侶となる男性は、身分で差別される事はない。聖女自身が望む方であれば、誰でも入婿となれる可能性があるというのは、あちらでは有名な話のようだ。
入婿として。その条件が、私に重くのし掛かっていた。
フィオラニア姫にこちらの国で王妃になってもらうのは、まず不可能なのだ。彼女自身が望んで聖女の仕事にやりがいをもって楽しんでおられるのは、あちらの国へ行った時によく見てきたし、やり取りしている手紙の内容からもよく伝わってくる。
一年間そうやって交友を深めてきたが、知れば知るほど遠ざかってしまうフィオラニア姫の存在に焦りが出てきていた。
それと同時に、どうしようもないほど彼女に惹かれている自身の心を、苦しいほどに感じていた。
王太子である私は、次期国王としてこの国を治めなければならない。
第二王子であったジルベールは、王族としての地位を廃嫡され国外に追放された。第三王子であるオリバーは自身の王位継承に興味がなく、私が王位につくことを心待ちにしている。
未来の王妃にさせようと、「是非うちの娘を婚約者に!」とアピールしてくる貴族の重鎮達も多く、先のばしにしていた婚約者問題にも頭を悩ませていた。どう足掻いても八方塞がりな現状に、思わずため息がもれる。
「エル兄様、大丈夫ですか? あまり顔色が優れないようですが……残りは僕がやっておきますので、どうか休まれて下さい」
「令嬢達の香水の匂いにすこしあてられただけだ。気にするな」
「それなら僕も手伝います。二人でやれば、早く終わりますから」
「いつもすまないな。ありがとう、オリバー」
こうしてよく、オリバーは私の仕事を手伝ってくれる。覚えも速く手際もよいため、安心して仕事を任せられるので、とても助かっている。
この調子でいけば、日付が変わる前には終わるだろう。集中してラストスパートをかけている時に、オリバーが思わぬ質問をしてきた。
「兄様は、フィオラニア姫の事をお慕いされているのですよね?」
思わず動揺し、手にしていた書類を滑らせてしまった。
「突然、どうしたのだ?!」
「僕は、兄様に幸せになって欲しいのです。いつも国と民の事を思って努力して自分を犠牲にされてきた事を、僕は傍でずっと見てきたのでよく知っています。だからこれ以上、犠牲になって欲しくないのです。少しくらい、我が儘を通したっていいじゃないですか。勝負もせずに、諦めてほしくないのです……」
「確かに私は、フィオラニア姫の事を愛している。しかし私は……」
「国の事は僕に任せて下さい。兄様みたいにうまくできるとは限りませんが、努力します! だから身分や立場のせいで、どうかご自身のたった一つの願いを諦めないで下さい。失敗しても成功しても、僕は兄様の味方ですから」
「オリバー、しかしお前は王位を継ぎたくはないのであろう?」
「正直、想像もしていませんでした。立派な兄様が王位を継ぐのが当然だと思っていましたから。でもそのせいで兄様が苦しんでいるのなら、僕は兄様の力になりたいのです!」
「オリバー、感謝する……っ! そうだな、諦めたらそこからは何も生まれない。前に進むためにも、この気持ちを伝えてみるよ」
「はい、頑張って下さい!」
オリバーに背中を押され、私はフィオラニア姫に自分の正直な気持ちを打ち明ける決心をした。
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