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私の視線の先を見て、エルは赤面している。
けれど突然、ハッとした様子で眉をひそめた後、悲しそうに表情を歪めてしまった。
「フィオ、その……無理をしていませんか? 貴方が私を望んでくれるまで待ちますので、どうか無理だけはしないで下さいね?」
そうか、エルは私が無理をしていると思っているのね。
本当にどこまでも優しい人なんだから。
エルと婚約をしてから、私は過去を打ち明けた。
彼には全てを知っておいて欲しかったから。
だからだろう。そういう行為をする事で、嫌な記憶を呼び起こして私を傷付けてしまうかもしれないと、危惧されているのだ。
確かに、知らない男達に辱しめを受けた記憶はしっかりと残っている。
あの時はとても怖かった。
けれど、エルになら私の全てを捧げたって構わない。むしろ……
「貴方が欲しいんです。私の嫌な記憶を全て、エルでいっぱいにして欲しいんです。ダメ……ですか?」
「フィオ……分かりました。忘れられない一夜にしてさしあげますね」
エルは私をお姫様抱っこすると、壊れ物を扱うかのように、ベッドに優しく下ろした。
そして、私の嫌な記憶を一つ一つ消し去るかのように、優しく触れてキスの雨を落としていく。
「愛しています、フィオ。君の全てを、私に下さい」
「エル、私も、貴方を愛しています。世界中の誰よりも、ずっと……貴方が大好きなんですよ」
だから、私の全てを貴方にあげたい。
言葉で伝えても、全然足りない。
もっともっと、知って欲しい。
絡み合う吐息はどこまでも甘くて。
感じる温もりはとても心地よくて。
恥ずかしいとか、怖いとか、痛いとか。
そんな感情が全て吹き飛ぶくらい、エルは私を優しく包み込んで溶かしてくれた。
愛する人と一つになれる事が、こんなに嬉しくて幸せな事なんだって、初めて知った。
一生忘れられないくらい、幸せで素敵な結婚初夜はこうして幕を閉じた。
◇
翌日──
「すみません、フィオ。貴方が可愛すぎて、つい無理をさせてしまいました」
「幸せの証だから、いいんです。それにエルの色っぽい表情を堪能できて、私も嬉しかったですよ」
腰が痛くて立ち上がれなかったのも、きっといい思い出になるよね!
それにこの痛みはエルがくれたものだから、それさえも愛おしいと思えてしまうから不思議だ。
「それは、フィオの方です……」
昨夜の事を思い出したのか、エルは恥ずかしそうに頬を赤らめている。
こういうところは本当に可愛い。
「エル、もう少しこちらに来ていただけますか?」
「はい。こちらでよろし……」
不意打ちで、唇に触れるだけのキスをした。
「朝起きたら、おはようのキスがしたいんです……ダメ、ですか?」
「ダメじゃ……ないです」
「夜寝る前にも、おやすみのキスがしたいんです……ダメ、ですか?」
「むしろ……歓迎です」
「お出かけする前にも……」
「いつでも……歓迎です」
「ではもう一回しても、いいですか?」
「フィオ……もしかして、私を誘ってますか?」
「はい……少しだけ。だって、エル。私がお願いしないとしてくれないから……」
「ずっと、我慢してたんです。フィオを怖がらせたくなかったので……」
「エルなら、大丈夫です。怖くなんてないですよ。これからは……いつでも、好きな時にしてください」
「分かりました。それなら……」
間髪いれずに、エルは私の唇を塞いだ。次第にそれはエスカレートして──
「すみません、フィオ! また無茶をさせてしまいました……」
「大丈夫ですよ。今日は事前にお休みをもらっていますので。一緒にのんびり過ごしましょう? それに……エルの温もりをいっぱい感じられて嬉しかったです」
「そうやってまた可愛いことを言うから……っ!」
「可愛いのはエルの方ですよ。その照れた顔が、最高に可愛いです」
ああ、なんだか幸せだな。
これから毎日一緒に居られるなんて、本当に夢みたいだ。
◇
その後、ルクセンブルグ王国とローザンヌ帝国では、とある恋物語が有名になって語り継がれるようになった。
『国境を越えた聖女と王子の恋物語』
私とエルをモデルにしてつくられた物語だ。
酒場にいけば吟遊詩人がその物語を語らい、劇場にいけば大目玉の演目としてミュージカルを楽しむことができる。
こっそりエルとそのミュージカルを見に行って、お互い恥ずかしすぎてあまり劇に集中出来なかったのも、後から思い返してみればいい思い出になった。
可愛い子供達に囲まれて。
素敵な旦那様がいつも傍で支えてくれて。
私は今、とても幸せです。
こうして平和な日々を送れるのも、全てユグドラシル様のおかげです。
だから私は今日も聖女として、頑張って皆にユグドラシル様の偉大さを伝えていこうと思います。
それで少しでも、恩返しになれば幸いです。
『フィレオニアの民達よ。未来永劫其方達の幸せが続くよう、我はずっと見守っておるぞ!』
Fin.
けれど突然、ハッとした様子で眉をひそめた後、悲しそうに表情を歪めてしまった。
「フィオ、その……無理をしていませんか? 貴方が私を望んでくれるまで待ちますので、どうか無理だけはしないで下さいね?」
そうか、エルは私が無理をしていると思っているのね。
本当にどこまでも優しい人なんだから。
エルと婚約をしてから、私は過去を打ち明けた。
彼には全てを知っておいて欲しかったから。
だからだろう。そういう行為をする事で、嫌な記憶を呼び起こして私を傷付けてしまうかもしれないと、危惧されているのだ。
確かに、知らない男達に辱しめを受けた記憶はしっかりと残っている。
あの時はとても怖かった。
けれど、エルになら私の全てを捧げたって構わない。むしろ……
「貴方が欲しいんです。私の嫌な記憶を全て、エルでいっぱいにして欲しいんです。ダメ……ですか?」
「フィオ……分かりました。忘れられない一夜にしてさしあげますね」
エルは私をお姫様抱っこすると、壊れ物を扱うかのように、ベッドに優しく下ろした。
そして、私の嫌な記憶を一つ一つ消し去るかのように、優しく触れてキスの雨を落としていく。
「愛しています、フィオ。君の全てを、私に下さい」
「エル、私も、貴方を愛しています。世界中の誰よりも、ずっと……貴方が大好きなんですよ」
だから、私の全てを貴方にあげたい。
言葉で伝えても、全然足りない。
もっともっと、知って欲しい。
絡み合う吐息はどこまでも甘くて。
感じる温もりはとても心地よくて。
恥ずかしいとか、怖いとか、痛いとか。
そんな感情が全て吹き飛ぶくらい、エルは私を優しく包み込んで溶かしてくれた。
愛する人と一つになれる事が、こんなに嬉しくて幸せな事なんだって、初めて知った。
一生忘れられないくらい、幸せで素敵な結婚初夜はこうして幕を閉じた。
◇
翌日──
「すみません、フィオ。貴方が可愛すぎて、つい無理をさせてしまいました」
「幸せの証だから、いいんです。それにエルの色っぽい表情を堪能できて、私も嬉しかったですよ」
腰が痛くて立ち上がれなかったのも、きっといい思い出になるよね!
それにこの痛みはエルがくれたものだから、それさえも愛おしいと思えてしまうから不思議だ。
「それは、フィオの方です……」
昨夜の事を思い出したのか、エルは恥ずかしそうに頬を赤らめている。
こういうところは本当に可愛い。
「エル、もう少しこちらに来ていただけますか?」
「はい。こちらでよろし……」
不意打ちで、唇に触れるだけのキスをした。
「朝起きたら、おはようのキスがしたいんです……ダメ、ですか?」
「ダメじゃ……ないです」
「夜寝る前にも、おやすみのキスがしたいんです……ダメ、ですか?」
「むしろ……歓迎です」
「お出かけする前にも……」
「いつでも……歓迎です」
「ではもう一回しても、いいですか?」
「フィオ……もしかして、私を誘ってますか?」
「はい……少しだけ。だって、エル。私がお願いしないとしてくれないから……」
「ずっと、我慢してたんです。フィオを怖がらせたくなかったので……」
「エルなら、大丈夫です。怖くなんてないですよ。これからは……いつでも、好きな時にしてください」
「分かりました。それなら……」
間髪いれずに、エルは私の唇を塞いだ。次第にそれはエスカレートして──
「すみません、フィオ! また無茶をさせてしまいました……」
「大丈夫ですよ。今日は事前にお休みをもらっていますので。一緒にのんびり過ごしましょう? それに……エルの温もりをいっぱい感じられて嬉しかったです」
「そうやってまた可愛いことを言うから……っ!」
「可愛いのはエルの方ですよ。その照れた顔が、最高に可愛いです」
ああ、なんだか幸せだな。
これから毎日一緒に居られるなんて、本当に夢みたいだ。
◇
その後、ルクセンブルグ王国とローザンヌ帝国では、とある恋物語が有名になって語り継がれるようになった。
『国境を越えた聖女と王子の恋物語』
私とエルをモデルにしてつくられた物語だ。
酒場にいけば吟遊詩人がその物語を語らい、劇場にいけば大目玉の演目としてミュージカルを楽しむことができる。
こっそりエルとそのミュージカルを見に行って、お互い恥ずかしすぎてあまり劇に集中出来なかったのも、後から思い返してみればいい思い出になった。
可愛い子供達に囲まれて。
素敵な旦那様がいつも傍で支えてくれて。
私は今、とても幸せです。
こうして平和な日々を送れるのも、全てユグドラシル様のおかげです。
だから私は今日も聖女として、頑張って皆にユグドラシル様の偉大さを伝えていこうと思います。
それで少しでも、恩返しになれば幸いです。
『フィレオニアの民達よ。未来永劫其方達の幸せが続くよう、我はずっと見守っておるぞ!』
Fin.
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