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希望が途絶え、死んだ方がマシなんじゃないかと思えた。

リリアナのいじめはエスカレートして、私は奴隷のような扱いを受け続ける日々。
虫や泥の入った食事を無理やり食べさせられ、衣装棚に入った外出用のドレスは全て切り裂かれた。

部屋には生ゴミを巻き散らかされ、悪臭がひどくゆっくり眠ることもままならない。
他の部屋を使うことは許されていないから、薄い毛布にくるまって、廊下の隅で壁にもたれ掛かって眠るしかなかった。


そうして一カ月が過ぎた頃、また事件がおきた。

リリアナが毒を盛られて倒れたのだ。
毒をもったと思われるメイドが捕まりほっとしたのも束の間、そのメイドは信じられない供述をした。

「フィオラ様に脅されて、逆らえませんでした。誠に申し訳ありません!」

「私はそんな事していません。お父様、どうか信じてください!」

私の指示に従うメイドなんていない。
それはお父様もよく知っているはずだ。それなのに……

「この親不孝ものの恥さらしが! お前など、公爵家の娘ではない! 捕らえて衛兵へ引き渡せ!」

お父様は私の言葉に耳を傾ける事もなく、底冷えのする視線を投げ掛けるだけだった。

これも全て、リリアナの策略だったのだろう。

私を追い出すための茶番劇。誰も味方をしてくれるはずがないのだと悟った。

貴族籍を取り上げられ平民になった私は、公爵令嬢毒殺未遂の主犯として処刑される事になった。





処刑を待つ牢屋で、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
コツコツコツと、誰かがこちらへ近付いて来る足音が響く。

「アハハ、いい気味だわ。アンタにはこのかび臭い牢屋が本当によくお似合いね。邪魔物が消えてくれて、せいせいするわ」

義妹のリリアナが可笑しそうに笑いながら言った。とても毒を飲んで弱っているようには見えなかった。もしかすると、それも嘘をでっち上げただけだったのかもしれない。

「よかったわね? これでやっと大好きなお母様とお兄様の元にいけるわね。私に感謝しなさいよ」

手足を縄で固定され、口は布で覆われているため何も喋る事ができない。

「冥土の土産に教えてあげるわ。貴方の大好きなお母様が死んだのは、私が馬車に細工をさせておいたからよ。そして貴方の大好きなお兄様が死んだのは、戦地で確実に死ぬように殺し屋に依頼しておいたからよ」

「……っ!」

お母様が亡くなったのは不運な事故だと思っていた。お兄様が亡くなったのは、騎士として戦地での名誉の死だと思っていた。それが全て、リリアナの手によって奪われていたなんて!

「それにしても、ロバーツ公爵も馬鹿よね。妻を蔑ろにして、本当の娘を処刑台へ追いやり、娼婦に溺れ、血の繋がりも何もない私を、本当の娘のように可愛がってるんだもの。フフフ、悔しいでしょう? アンタがお父様にないがしろにされる度に、ほんと笑えて面白かったわ」

許せない!
許せない!
許せない!

いやだ。
このまま死ねない。
死にたくない。

もし時間を巻き戻すことが出来るなら、もう一度初めからやり直したい。

お母様とお兄様を救いたい。
そして、リリアナに復讐をしたい。

神様、魔王様、誰でもいい。
望むならば何でも差し上げます。
だからどうか、この願いをかなえて下さい。

処刑される瞬間まで、ひたすらそう願い続けると──

『フィレオニアの姫よ。其方の願い、我が確かに聞き届けたぞ!』

処刑されて意識を失う寸前、誰かの呼びかけてくる声が聞こえた気がした。
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