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太古に眠りしドラゴン

激突!大型兵器

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 シャマラが玉座ぎょくざから立ちあがるとウロコは白銀に反射する。玉座の間にいた竜人たちはまっすぐ整列して敬礼した。残るは火のついてしまった戦場、冬の国の大型兵器を破壊しても有利になったロマス帝国の進軍を阻止そししなければならない。兵器の転用もしんぱいだ。

「冬の国の現国王が賢明けんめいであればよいが……停戦には時間がかかるだろう。厄介やっかいなのは帝国もだ。あの威力いりょくの兵器をのあたりにして、はたして引きさがるだろうか? 」

 嘆息たんそくしたシャマラはバラウルへ視線をむけた。みなとをひとのみ出来そうなくらい大きな口がひらき、部屋の空気をふるわせる。

「やれやれ神々の兵器と呼ばれたこともあるが、いた竜にムチ打って戦場を飛べというのか? じつにドラゴンらしい作戦だな」

「小さくなりすぎた我々ではスヴァローグの火を一撃いちげきで破壊できない。帝国と交渉するにしても、我らの力をしめす必要があるのだ」

 双方へドラゴンの国の強大さをしめすため、戦場の真んなかで象徴しょうちょうとなっている大型兵器を跡形あとかたもなく粉砕ふんさいする。青いマントを羽織はおったシャマラが事もなげに言うと、起きたばかりのバラウルは不満そうにうなった。しかしおさに説得され観念かんねんしたようにこちらへ顔をよせる。温度のあがった鼻息をうけ、湊の髪と服がなびいた。

「しょうがないのう……では言いだしっぺのお前さんに一緒に来てもらうとするか。なんせ暗い洞窟で何千年も暮らしていたから、目がすっかり悪くなってな」

「えっと俺は翼もないですし、飛べませんよ!? 」

 羽ばたくという表現を使ったけど、実際に飛べるわけではなかった。まごついていたらバラウルは湊の服をくわえて背へ放りなげる。座るように指示された頭のうしろは硬いウロコだが、たてがみが生えてお尻は痛くなかった。後頭部にとげとげした突起物とっきぶつがいっぱいあって持手もちてにも困らない。



「小さきもの、落ちないようにしっかりつかまっていろ」

 バラウルは首を持ちあげ、鷹揚おうようにうなる。

 返事をしたとたんドラゴンは全力で飛び、湊の顔面がひきつった。垂直に上昇して天井の穴をぬける。建物はあっというまに豆粒まめつぶになり、広場でジーラが手を振っていた。

 雲を突きやぶり眼下がんかへ雲海がひろがる。青空にかこまれた上空は冷たく、風圧で顔面の肉が押される。空気もうすくて命の危機ききを感じる。

「――もっと、もっと低く飛んでくださいっ!! 」
「なんじゃ? 雲の上は気持ちよいだろう」

 空気のうすさなど意にかいしていないバラウルは渋々しぶしぶ高度をさげた。ジェットコースターで落下したみたいに内臓が上がり、白目をきそうになった湊はひっしに首へしがみつく。

「もっ、もう少しゆっくり飛んでいただけませんかぁっ!! 」
「まったく注文の多いヤツだのう」

 おとぎ話のようにドラゴンへ乗るのもなかなかハードだ。それでもすさまじいスピードで大空を滑空かっくうしている。てきどにうバラウルの後頭部から前方をながめれば、盆地にある大きな都市のところどころに煙が上がってる。

降下して地上へ接近した。崩壊ほうかいした都市の南と西、甲冑かっちゅうに大盾をもった大隊が整列して行進していた。周辺に設置されたカタパルトから可燃物かねんぶつ投擲とうてきされ、都市のあちらこちらで炎があがった。

 北城塞都市きたじょうさいとしの攻略はすでに始まっている。帝国兵は城塞の外側からせまり、蛮族ばんぞくは都市でむかえうつ。湊はラルフの姿を探した。



 周辺の空気がふるえイヤな感覚で鳥肌とりはだが立つ、スヴァローグの火がたれるまえの振動しんどうだ。

「バラウル!! 」

 湊が叫ぶと、バラウルはえた。

 中央の四角いとうから突きでた大型兵器の発射口はっしゃこうを発見した。湊がたてがみを引っぱれば、右に旋回せんかいしたバラウルは口から炎をく。ドラゴンの炎が建物を破壊し、蛮族は目標をはずした。スヴァローグの火は正面にいた大隊の上をつうかして近郊きんこうの山肌をけずる。発射された衝撃で帝国兵たちが木の葉みたいにころがった。

「こりゃ、小さきもの! ちゃんとワシの目にならぬか! 」

 塔の屋根がなくなり大型兵器を目視できるようになった。未知のドラゴンが飛来ひらいして帝国軍も蛮族も動揺どうようしてる。

 かんがえる時間はあたえない、円にまわって大型兵器へ再接近した。建物には毛皮よろいの蛮族たちがいて黒い毛皮の男と目が合った。湊は躊躇ちゅうちょしてしまいバラウルへの指示がおくれた。そのあいだに角度をかえた発射口がこちらへ向けられる。

 空気がふるえた。長い砲身ほうしんの外側へ青白い光が発生し、バチバチと電気のはじける音がする。

「撃ってくる! バラウル、けて!!」

 放たれる直前に方向を転換てんかんして、スヴァローグの火はバラウルの背を通りぬける。湊の背中も火で熱くなったが、バラウルの飛行スピードがうわまわり燃えるうずへ巻きこまれずにすんだ。すれすれで避けたドラゴンは上空へ舞いあがる。湾曲わんきょくしたスヴァローグの火は帝国軍へ直撃しなかったものの、山頂が崩落してカタパルトをつぶした。



「ミナト、つぎは仕留しとめるぞっ! 」
「わかってる!! 」

 湊はバラウルの目になって大型兵器へ一直線いっちょくせんに降下した。発射口はこちらを向き、いかづちが周囲ではじける。砲台から湯気ゆげがあがり、大型兵器も限界まで作動していた。砲身の発射口で青いかがやきが増大する。

 バラウルの体が熱くなり口から熱線ねっせんの光を発した。ほぼ同時に発射されたスヴァローグの火とぶつかり、まぶしさに目をほそめる。バラウルの熱線はスヴァローグの火を発射口へ押しもどし、むこう側へ突きぬけた。

 パンッパリンッと弾ける音がして、大型兵器の雷光は乱れ、ほうぼうから火をふいた。

「逃げてっ! 」

 湊は誰ともなく目についた兵たちへ叫ぶ。

 爆炎が立ちのぼり衝撃波しょうげきはは周辺の建物を吹きとばす。耳をふさぎたくなるくらいの轟音ごうおんが鳴ってバラウルもよろめき、外壁まで退避たいひした。吹きとんだ瓦礫がれきが帝国兵や蛮族へ降りそそぐ、湊の心臓はやぶれそうなほど波打ちっぱなしだった。

 勝鬨かちどきをあげたドラゴンの咆哮がとどろき、都市の北側にいた蛮族の陣形はくずれて逃走しはじめた。帝国兵が追撃ついげきを開始した。

「はやく帝国側を止めないと! 」

「地上へおりるぞ、ミナトよ」

 上空を旋回したバラウルは帝国兵を威嚇いかくするように吼えた。粉々になって燃える大型兵器の跡地あとちへ降下する。堂々どうどうたるドラゴンと対峙たいじした帝国の大隊は後退して陣形をつくる。広場へ降りたったバラウルと湊は帝国軍にかこまれた。


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