33 / 68
太古に眠りしドラゴン
遠くはなれて
しおりを挟む
家主に礼をして出発した。なじみのある街道なのに見たこともない景色がつづき、あてどなく歩いていると海のみえる場所へついた。
スマートフォンは圏外だが、今回は携帯式のソーラー充電器をもっている。旅に役立ちそうな物と防水コート、ラクダマークの暖かいアンダーを完備、ズボンを履いてチュニックをかぶりバックパックをカモフラージュすることも忘れない。
画面は一部文字化けしていた。ラルフたちと最後に別れた日、あれから何日が立ったのだろう、湊の気もちは急く。
「ミナトサーン!! 」
名を呼ばれた。幻聴ではなく、ロバ荷車の行商人が叫んでる。
「まさか……ナディム!? 」
まんまるな目のナディムが転がるように走ってきた。なんども名前を呼び、湊の手をにぎって実在を確かめているようだ。
港町で別れたナディムは東方国の北にある海を目指していた。いま見えてる場所が細い海路でつながった丸い海だとナディムは説明する。
数時間まえに北上するロマス帝国の大型船を目撃したそうだ。湾の北に東西を横断するおおきな河川があって国境線をとおっている。ナディムが他に知ってるのは、帝国が北方と戦争をしてるというくらいだった。
帝国の船が就航した河口までだいぶ距離がある。ナディムは途中にある内陸の都市へいく予定だ。河川に近い町と聞き、湊は同行することにした。沿岸から内陸の道へはいり、対岸の建物が米つぶに見える大きな川を小船でわたった。
帝国近郊の都市ほど華やかではないが、頑丈な石造りの街なみが広がっている。家屋は間隔をあけて建ち、見晴らしもいい。街には帝国の人もいれば石像のように彫りの深い顔もいて、いろんな人が入り混じっている。
ナディムは広場へ荷車を留め、テントを張って品物をならべる。湊も開店の準備を手伝いながら街のことをたずねた。市場の人々があつまり、ものめずらしい品物を購入していく。ここでも帝国の銀貨や銅貨が使われていた。
遠路はるばる珍しい物を売りにくる商人は希少、わりと高価な物も売れる。湊は金貨を受けとり、お釣りの銀貨をわたす。いい身なりの貴族も見物しにきて、キラキラしたガラス細工のランプや香辛料などを大量に買っていった。
午後をまわり日がかたむく頃には、荷車にあった商品は半分以上売れた。
「ミナトが誰とでも喋るから、今日はよく売れたよ」
湊の風変わりな見た目が客引きになっていたようだ。満面の笑みで荷物を縛ったナディムは、働いたぶんの銀貨を気前よく渡してくる。
ナディムに案内され、宿へチェックインする。安い宿だが安全そうな雰囲気だった。部屋の壁は漆喰で固められ、藁クッションの木製ベットが真ん中へ置かれてる。ドアには金具もあってカギを閉めることもできる。
安全を確認してからバックパックを開けた。溜まっていた洗濯物を洗う場所をさがし、宿から少々はなれた洗濯場へいく。道中に浴場があったのも見逃さない、湊は部屋へ下着を干し鼻歌まじりに浴場へむかう。ナディムを誘うため訪室するとすでに出かけて不在だった。
町の大衆浴場は庶民から貴族までさまざまな人が出入りしてる。入りかたは一緒でオイルを塗ってヘラでよごれを落とし、打たせ湯のようなシャワーで流してから湯へつかる。
「ナディム見つけた! 」
「ミナト居なかったから先に来ちゃったよ~。はぁ~気持ちいい」
浴場を満喫していたナディムと顔をあわせた。綿毛ヒゲは洗われてすっかりしぼんでる。会話を交わした後、彼は長旅を癒すためにマッサージルームへ入った。
宿に帰った湊の部屋へナディムが訪れた。
ナディムはマッサージ中に美味しい店を聞いたそうだ。夕食に誘われて宿ちかくの店へいっしょにむかう。レストランは酒場にもなっていて、ワインのほかにエールが運ばれている。湊も注文してみたら木のカップへ注がれたエールがきた。ちょっと苦みがあって肉料理にはピッタリ、ワインへ漬けられたプラムも甘酸っぱくて食事がすすむ。
となりテーブルの人にどこから来たのか尋ねられた。湊がヴァトレーネだと答えたら、もと帝国兵士だった男は知ってることを教えてくれた。
ロマス帝国は左右の山岳から攻撃をしかけ、占拠していた蛮族は北城塞都市へ後退した。帝国は奪還したヴァトレーネへ橋をかけ、北城塞都市へ進軍する準備をしている。副帝とその弟が指揮していると耳にして湊の心臓は跳ねあがった。ラルフが目を覚ましたのならきっと誰より先頭に立つだろう、残された時間はすくない。
西へつづく川の渓谷で落石があり、船が停滞して北城塞都市への援軍はおくれる見通しだと男は話す。
「そんな……」
飛んで帰りたいけど、ここはヴァトレーネからずいぶん離れた東の都市。いまから港町へ向かっても、到着する頃にはラルフたちは北城塞都市へ進軍している。
カップをおいた湊がうつむくと、ナディムが顔をよせてこっそり耳打ちする。この都市の北部にある山脈に竜の棲み処がある。かつては大空を舞うドラゴンは、地上へ王国つくり大地の覇者となった。何世紀もまえに王国は滅び伝説として語り継がれているが、行商人仲間がドラゴンを目撃したそうだ。
「ミナトならドラゴンと会えるんじゃないかって、ボクは思うんだ」
ナディムの義眼が酒場のランプに照らされて光った。ひそひそと話すナディムは竜が目撃された場所を教えてくれる。湊はそこへ至る道をメモ帳へかき記した。すこしでも現状を変える方法があるなら、その可能性に賭けたかった。
「ありがとう、俺はそこへ向かってみる。どうしてナディムはそんな大切な話を俺にしてくれるの? 」
「こうして僻めなく一緒に酒を飲んでくれる君は特別だよ。ボクの名は『酒の飲み友』って意味なのさ! 」
湊がここへ現れたのも偶然ではなく必然なのだと、彼は言ってエールの杯を合わせた。
スマートフォンは圏外だが、今回は携帯式のソーラー充電器をもっている。旅に役立ちそうな物と防水コート、ラクダマークの暖かいアンダーを完備、ズボンを履いてチュニックをかぶりバックパックをカモフラージュすることも忘れない。
画面は一部文字化けしていた。ラルフたちと最後に別れた日、あれから何日が立ったのだろう、湊の気もちは急く。
「ミナトサーン!! 」
名を呼ばれた。幻聴ではなく、ロバ荷車の行商人が叫んでる。
「まさか……ナディム!? 」
まんまるな目のナディムが転がるように走ってきた。なんども名前を呼び、湊の手をにぎって実在を確かめているようだ。
港町で別れたナディムは東方国の北にある海を目指していた。いま見えてる場所が細い海路でつながった丸い海だとナディムは説明する。
数時間まえに北上するロマス帝国の大型船を目撃したそうだ。湾の北に東西を横断するおおきな河川があって国境線をとおっている。ナディムが他に知ってるのは、帝国が北方と戦争をしてるというくらいだった。
帝国の船が就航した河口までだいぶ距離がある。ナディムは途中にある内陸の都市へいく予定だ。河川に近い町と聞き、湊は同行することにした。沿岸から内陸の道へはいり、対岸の建物が米つぶに見える大きな川を小船でわたった。
帝国近郊の都市ほど華やかではないが、頑丈な石造りの街なみが広がっている。家屋は間隔をあけて建ち、見晴らしもいい。街には帝国の人もいれば石像のように彫りの深い顔もいて、いろんな人が入り混じっている。
ナディムは広場へ荷車を留め、テントを張って品物をならべる。湊も開店の準備を手伝いながら街のことをたずねた。市場の人々があつまり、ものめずらしい品物を購入していく。ここでも帝国の銀貨や銅貨が使われていた。
遠路はるばる珍しい物を売りにくる商人は希少、わりと高価な物も売れる。湊は金貨を受けとり、お釣りの銀貨をわたす。いい身なりの貴族も見物しにきて、キラキラしたガラス細工のランプや香辛料などを大量に買っていった。
午後をまわり日がかたむく頃には、荷車にあった商品は半分以上売れた。
「ミナトが誰とでも喋るから、今日はよく売れたよ」
湊の風変わりな見た目が客引きになっていたようだ。満面の笑みで荷物を縛ったナディムは、働いたぶんの銀貨を気前よく渡してくる。
ナディムに案内され、宿へチェックインする。安い宿だが安全そうな雰囲気だった。部屋の壁は漆喰で固められ、藁クッションの木製ベットが真ん中へ置かれてる。ドアには金具もあってカギを閉めることもできる。
安全を確認してからバックパックを開けた。溜まっていた洗濯物を洗う場所をさがし、宿から少々はなれた洗濯場へいく。道中に浴場があったのも見逃さない、湊は部屋へ下着を干し鼻歌まじりに浴場へむかう。ナディムを誘うため訪室するとすでに出かけて不在だった。
町の大衆浴場は庶民から貴族までさまざまな人が出入りしてる。入りかたは一緒でオイルを塗ってヘラでよごれを落とし、打たせ湯のようなシャワーで流してから湯へつかる。
「ナディム見つけた! 」
「ミナト居なかったから先に来ちゃったよ~。はぁ~気持ちいい」
浴場を満喫していたナディムと顔をあわせた。綿毛ヒゲは洗われてすっかりしぼんでる。会話を交わした後、彼は長旅を癒すためにマッサージルームへ入った。
宿に帰った湊の部屋へナディムが訪れた。
ナディムはマッサージ中に美味しい店を聞いたそうだ。夕食に誘われて宿ちかくの店へいっしょにむかう。レストランは酒場にもなっていて、ワインのほかにエールが運ばれている。湊も注文してみたら木のカップへ注がれたエールがきた。ちょっと苦みがあって肉料理にはピッタリ、ワインへ漬けられたプラムも甘酸っぱくて食事がすすむ。
となりテーブルの人にどこから来たのか尋ねられた。湊がヴァトレーネだと答えたら、もと帝国兵士だった男は知ってることを教えてくれた。
ロマス帝国は左右の山岳から攻撃をしかけ、占拠していた蛮族は北城塞都市へ後退した。帝国は奪還したヴァトレーネへ橋をかけ、北城塞都市へ進軍する準備をしている。副帝とその弟が指揮していると耳にして湊の心臓は跳ねあがった。ラルフが目を覚ましたのならきっと誰より先頭に立つだろう、残された時間はすくない。
西へつづく川の渓谷で落石があり、船が停滞して北城塞都市への援軍はおくれる見通しだと男は話す。
「そんな……」
飛んで帰りたいけど、ここはヴァトレーネからずいぶん離れた東の都市。いまから港町へ向かっても、到着する頃にはラルフたちは北城塞都市へ進軍している。
カップをおいた湊がうつむくと、ナディムが顔をよせてこっそり耳打ちする。この都市の北部にある山脈に竜の棲み処がある。かつては大空を舞うドラゴンは、地上へ王国つくり大地の覇者となった。何世紀もまえに王国は滅び伝説として語り継がれているが、行商人仲間がドラゴンを目撃したそうだ。
「ミナトならドラゴンと会えるんじゃないかって、ボクは思うんだ」
ナディムの義眼が酒場のランプに照らされて光った。ひそひそと話すナディムは竜が目撃された場所を教えてくれる。湊はそこへ至る道をメモ帳へかき記した。すこしでも現状を変える方法があるなら、その可能性に賭けたかった。
「ありがとう、俺はそこへ向かってみる。どうしてナディムはそんな大切な話を俺にしてくれるの? 」
「こうして僻めなく一緒に酒を飲んでくれる君は特別だよ。ボクの名は『酒の飲み友』って意味なのさ! 」
湊がここへ現れたのも偶然ではなく必然なのだと、彼は言ってエールの杯を合わせた。
18
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)
柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか!
そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。
完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる