精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー

文字の大きさ
上 下
1 / 68
黄金の瞳をもつ狼

プロローグ「平行する未来のあなたへ」

しおりを挟む




 日が昇り異国情緒いこくじょうちょあふれる商店街は活気づく。石レンガの建物は白い漆喰しっくいで化粧され、軒先のきさきへ日よけテントが掛かる。にぎわう路地を観光客の流れにそって歩けば、色鮮やかでオリエンタルな模様の品々がならぶ。その町の中心に絵の具をぜたような青く美しい川が流れていた。

 金属をたたく小気味こきみよい音を聞いたミナトは店をのぞいた。

「お兄さん、ボクのどう細工ざいくステキでしょ? 銀もあるよ、お土産みやげにどう? 」

 黄金色こがねいろの石がはめこまれた細工物のアクセサリーを眺めていたら、灰色のヒゲを生やした恰幅かっぷくのいい店主が話しかけてきた。その姿になつかしい友人を思い出して顔がほころぶ。

「この腕輪うでわ、いくらですか? 」

「おやまあ、この国の言葉が話せるなんてめずらしい。それは琥珀こはくだねぇ。大昔にあった太陽の色にかがやく石をしたアクセサリーだよ」

 おぼえたての言葉で店主と話しこむ。街について色々聞いていると、帰りに店の奥から持ってきた物を渡された。買った腕輪と同じくつちで細かな紋様もんようを浮きりにした銀のメダルだった。

「昔から伝わるお守りね。道標みちしるべともわれてるから、旅人の君にあげるよ! 」

 手をふって店を後にして、人の多いバザールから静かな場所へ移動する。砲弾ほうだんで破壊された建物も残っていて、街が平和になったのはつい最近なのだと実感する。カフェでコーヒーを飲み、ケバブの羊肉を味わう。2階のカフェテラスから街を見下ろせば、町の中心を悠久ゆうきゅうの川がゆったりと流れている。



「ミナト、うまそうなの俺にもくれよ! それより、さっきの店主とよく話せたよなぁ」

 テーブルへ手が出てきたので、パンをちぎって肉をのせた。美味しかったらしくもっと要求してきたけど、人間の食物にれたら向こうへ帰れなくなるかもとおどせば腕は現れなくなった。

「さっきのってどういう意味? 」
「コーヒーくれたら答えてやる」

 ねた声が聞こえた。しかたなく銅器どうきのミルク入れにコーヒーをそそいで置いたら、にゅっと白い髭のオッサンが出てきた。しかしオッサンの背は30センチにもたない。全身をおおう髭の下から腕が伸びてコーヒーをすすり、頭についたが陽気にゆれた。

細工物を売っていた店主のひとみは左右非対称ひたいしょうだった。左目は茶色で右目はカンラン石のように淡い黄緑色きみどりいろ、気になったのはそのくらいだ。

「ちょうちょう超絶ちょうぜつ、怖いってことDEATHデス! 俺みたいなの、はるの夜の、ゆめのごとしぃ~」

 どこで覚えたのか、オッサンは駅の路地裏できたえたという下手へたなラップを披露ひろうする。頭の葉っぱがカッコよく湊をした。

「あぁんな物騒ぶっそうな目と強いオーラ、こっちじゃ神様って呼ばれる部類ぶるいだぜ~。オマエ耐性たいせいありすぎなんだよ~。あ、にぶいだけ~? 」

 デリカシーのない発言にケバブのパンをにぎりしめると、オッサンは視界から消えた。この妖怪ようかい精霊せいれいなのか分からない生き物は、湊の身に起こった奇妙きみょうな出来事が元でいっしょに旅をすることになった。

握りしめて硬くなったパンを食べたら、変な観光客に気をつかった店員がコーヒーのおかわりをすすめてくれた。



「お前のせいではじかいたろ! 」
「俺のせいにすんなよ~、相棒あいぼうぉ~」

 運転しているとオッサンが肩でクルクル回り、ヒゲが当たって鬱陶うっとうしい。観光地から車で30分も走ればのどかな丘陵地帯きゅうりょうちたいが広がっていた。ふもとの農村へ車を停め、簡素かんそな石造りの家を横目に通りすぎる。

 近代化した都市とはかけ離れた風景、草原の丘がどこまでも起伏きふくする。遠くに青い川の町があり、田園地帯でんえんちたいが続いてその先に海が広がっていた。

見晴みはらしのよい景色に感嘆かんたんした湊は、頂きをめざして坂道をのぼる。強風がジャケットをはためかせ、襟元えりもとまでジッパーを閉めた。緑に埋めつくされた古い墓碑ぼひが、長年の風雨により浸食され岩へかえろうとしていた。

初めて訪れた場所なのに郷愁きょうしゅうにかられる。古代の墓は人の姿やブドウのつた、車輪のような紋様がかたどられている。近年の戦闘でいた穴をたどり、指先がひとつのモチーフへ触れた。

くずれかけたそれがおおかみだと、湊は理解していた。



 午後の日差しがかたむき地平線はしゅに色づいた。風で乱れた髪をかきあげると月が見える。

「おお~い! 1人でフラフラ歩いてったと思ったら、こんなトコにいたのかよ~」

 草をふみ分ける音がして、薄闇うすやみの中からぼんやり光る顔が現れた。湊を見つけて安心したオッサンはきびすを返し、すこし歩いてまたり向く。

「その辺のヤツに聞いたけど、昔は森が広がってキレイだったってさ。人間があらそって燃やしてつぶしちまったから、今は若い草木しかいないって、なんでそんなに争いが好きかねぇ~。ま、向こう・・・のやつらも大概たいがいだけどな~」

 理解しがたいとオッサンは肩をすくめた。見晴らしのよい草原の下は、夜に染まった黒い土がめられている。立ち止まった湊は色を落としゆく草原を見つめた。

「そういや、見つけたから俺は行くぜ。オマエはどうすんだよ? 」

 オッサンはスキップして、ぴょこぴょこと丘をくだる。ふたたびそらを見上げたら、降ってきそうな星空がはる彼方かなたまで続いていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

処理中です...