いやらし天狗

風見鶏ーKazamidoriー

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いやらし天狗 ~穂波編~

凶弾

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「なるほど、そんな事が……おそらく徳守とくもりのしわざで間違いないでしょう」

 目元へシワをよせた桃井ももいは、確認した写真を封筒へおさめた。筋蔵きんぞうの名を聞いて、穂波ほなみは胃のあたりがえて気持ち悪くなった。

富岡とみおかがこちらを見たあと視線をもどす。封筒の中身が気になるのだろうけど、彼はれなかった。人には見せられない姿をうつされた写真、忖度そんたくされないのは正直ありがたい。

「で? 宮司ぐうじじいさんは協力すると思うか? 」

巴那河はながさんには、私から話しましょう。徳守の家に写真のネガか元データがあるはずです。潜入せんにゅうするにしても警備がきびしい……少々時間がかかりますね」

 相手の家へ押し入ってすぐに解決とはいかないようだ。本人も言っていたが権力をもっているので対処たいしょがむずかしい、それでも巴那河たちの協力をられそうで少しだけ安心した。



「桃井さんのような方が、巴那河さんを信頼しんらいされてるのは何故なぜ……ですか? 」

 穂波は前々から気になっていた疑問ぎもんをぶつけた。桃井は困ったような笑顔を浮かべて、ちを語りはじめる。

この村で生まれ育った桃井はニエにえらばれ、マエ様の『御手おてつき』になった。現在よりも閉鎖的へいさてきだった村をきらい、彼は村を出た。その時に助けてもらったのが富岡の祖父だという。
村を出た後は海外へわたり、様々な職をて向こうで家族を持った。車のレースドライバーをしていた時期もあったが、妻が他界して望郷ぼうきょうの思いから村へ戻ってきた。

むかし住んでいた生家せいかは見る影もなく、いた自分を知る者もない。そんな桃井を助けて世話をやいたのが巴那河だった。

「小さい頃に1度会ったきりの私を覚えていたのです。彼は天狗様に対する信仰心しんこうしんあつく、時として異様いように映るかもしれない。しかしそれ以上に、この村と村に住む者達を守ろうとする使命しめいを持ってます」

「けっ、詭弁きべんだな」

 富岡はてるようにうなったけれど、穂波はなんとなく分かる気がした。皆が強く1人で生きられるわけでは無い、きっと桃井のりどころは巴那河のいるの村なのだろう。



 オォンッ!
話し合いの空気をやぶって、玄関先でトラがえた。様子を見に行った富岡がけわしい顔つきで帰ってくる。

「犬みたいな鼻のやつらだ、もうぎつけやがった」
「山川さんへ封書を出してから、ずっと動向をさぐっていたのでしょう。よりによって巴那河さんのいない時に……」

 ピリピリした緊張がはしる。玄関からりんの音が聞こえた。

「彼らは強引ごういんな手段にでるかもしれません。私が時間かせぎをします」

 宿舎へ押しいり、穂波を見つけしだい拉致らちする可能性があった。おもてへ行こうとする富岡を制止せいしして、桃井は2人を宿舎の地下階段へ誘導ゆうどうする。
長い廊下をわたり、見覚えのある地下室へ出た。格子状こうしじょうの扉をくぐった時、穂波は記憶がよみがえりゾクリと身をふるわせる。桃井はかまわず奥の倉庫へ進み、たなを動かして床板ゆかいたをはずした。

そこには暗い穴が開いていた。

「この地下壕ちかごうは鼻高山の裏側へ通じています、出たら富岡さんの家へ。犬や車はほとぼりがめてからむかえに来てください」

 筋蔵の手に落ちないように穂波を逃がすのが先決せんけつだと、桃井は富岡へ伝えた。くつき、暗い穴へ下りる。人ひとりが身をかがめてやっと通れる洞穴を無言で歩いていたら、こけむした岩場があらわれ地上へつづく出口が見えた。

「すべりやすい、気ぃつけろ」

 富岡が大きいてのひらを差しだす。にぎると強い力で引き上げられて山の斜面しゃめんへ出た。山中をしばらく歩けば林道があったが、黒いスーツ姿の男たちが待ちかまえていた。引き返そうとしたものの発見されてしまった。



「コイツら、徳守の手下てしたか? 」

 舌打ちした富岡がかばうように前へ立つ。黒服たちは囲んだちぢめて穂波を追いつめる。林道へ1台の黒い車がまり、見覚えのある男が降りた。

「穂波くん、私の所へ1番に会いに来てくれないなんて悲しいなぁ。今度は従順じゅうじゅんになるよう、しっかり教育してあげるからねぇ」

 ダブルスーツを着た肩幅かたはばの広い男がニンマリした笑顔をうかべ、戦慄せんりつした穂波は恐怖で動けなくなった。すかさず横からびかかった男を富岡がとばし、黒服は斜面をゴロゴロ転がっていった。

「相手がイヤがってるの、分かんねぇのか? 」
「なんだね君は? きたならしい青二才あおにさいがいっぱしにボディガード気どりかね? 」

 白い歯をみせた筋蔵がこちらを向き、笑顔なのに笑っていない瞳の奥が見えた。ざらりとした舌や丸いつぶの感触を思い出して穂波は身ぶるいする。



 膠着こうちゃく状態じょうたいにらみあっていると、車から降りて走ってきた黒服が細長いケースを筋蔵へ渡す。

「てめえっ、それは!? 」

「おやおや君の物かね? 私も趣味でハンターをしていてね、コレのあつかいは慣れてるのだよ。あぁ~そうだ、コレが暴発した・・・・ら君も大変なことになるねぇ」

 細長いケースから猟銃りょうじゅうが取り出され、弾が装填そうてんされる。ニヤニヤ笑った筋蔵は銃をかまえた。人へ向けることを何とも思ってもいない様子で、銃口じゅうこうは富岡へ向けられた。

「さあ穂波くん、こっちへ来たまえ」

 やや高圧的こうあつてき口調くちょうで筋蔵が命令する。
富岡を犠牲ぎせいにするわけにいかない、最後に会えただけでも良かった。体のふるえをおさえながら穂波は1歩、1歩と足をみだす。

「穂波、イヤなら行くんじゃねえ」
 手をつかまれて立ち止まった。
「……でも……」
「行くな」
 握った手のひらの熱が昨晩の名残なごりをつたえ、視線が交差こうさして見つめあう。その様子にイラついたのか、筋蔵の口調があらぶる。

「そんな青二才より私の方が天国を見せてあげられるよ。穂波くん、あの写真をご家族さんが見たらどう思うかな!? 」

「ご執心しゅうしんだな。だいたい『御手つき』は、お前たちにとって天狗さまのものじゃないのかよ? 」

「天狗がなんだというのだ! 村に貢献こうけんしてる私の方が、天狗よりえらいに決まっているだろう! 邪魔じゃま若造わかぞうめ!! 」

 がねへ指が掛かった瞬間しゅんかん

 グルル、グァウ!!

大きな犬が跳びかかり、腹部へ凶弾きょうだんが命中した。大きな犬――トラの体はっとび、地面へ横たわった。

「トラ!? 」

 怒りの形相ぎょうそうへ変化した富岡が地面を蹴った。筋蔵は頭をねらって再度さいど引き金を引く。銃弾は肩をかすめて衣服を切りいたが、尋常じんじょうならざる動体視力でけた富岡は、目にも留まらぬ右ストレートを顔面へ炸裂さくれつさせた。

筋蔵の顔はひしゃげ、欠けた歯が飛びちり白目をいてたおれた。

「テメエっ、ぶっ殺してやる!! 」
「ダメっ、つよしっダメだっ! 」
 猟銃をとり戻した富岡は、銃口をひしゃげた顔面へ向ける。こんな男のために彼を殺人犯にするわけにはいかない、穂波は銃を持った腕へすがった。

「クソがっ、俺が殺す前にさっさとコイツを連れてけ! 」

 冷静れいせいになった男は銃を下ろした。命令する者がいなくなって烏合うごうしゅうと化した黒服たちは、倒れた主人を引きずって車へ乗せる。



「わらひをこんな目に合わせるなんてぇ、覚えておへよ! 貴様きさまら後悔しゅるがいい!! 」

 りぎわに意識が戻った筋蔵は、血まみれの顔で叫んでいた。
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