いやらし天狗

風見鶏ーKazamidoriー

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いやらし天狗 ~穂波編~

懐かしい顔

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 男の名残なごりが身体の奥へとどまっている感じがする。

(まだ尻にはさまってるみたいだ……熱くて……太い…………ってなに考えてるんだっ、ぼくは……)

 寝ぼけていた目も覚めてしまった。穂波ほなみが腕を動かせば、分厚ぶあつい筋肉へ当たってドキリとする。隣でうつぶせに眠る男は、規則正きそくただしい寝息を立てている。

あれから富岡とみおかに組みふせられ、太い雄で容赦ようしゃなく突き上げられた。嬌声きょうせいと叫び声のざった声をあげて、みつ以外のものも先端かららし、涙と鼻水でグチャグチャになりながら何度もイッた。

みだらな衝動しょうどうがおさまり、落ちつきを取り戻して落胆らくたんする。行為こういの最中は気にもならなかったけど、みっともない姿を散々さんざん見られてきらわれたのではないかと思い悩む。

「はぁぁ……どうしよう」
 どう考えても一時的な衝動だった。ため息を吐いた穂波は、あつみのある背中へそっと手を置く。

「だから後悔するって言ったじゃねえか」

 隣で寝ていた男は目を開けてこちらを見ていた。心臓がね、急いで背中から手をはなす。

「うぅ……その……ごめん……」

 ぐちゃぐちゃになった布団やシーツは、富岡が片付けて風呂まで手伝ってもらった。思い出して恥ずかしくなりちぢこまる。

「おい」
 熊のごとくたくましい腕が穂波をつかんで抱きよせた。真正面に不愛想ぶあいそうな男の顔があって、正視できなくてうつむいた。

あやまるんじゃねぇ」
 静かにうなる男の声が聞こえた。

いつしか両親にさえ、ありのままの自分を見せることをおそれて窮屈きゅうくつな生活を送っていた。『やさしい、いい人』は穂波の長所であったが、コンプレックスでもある。

肌が合わさり体温と心音を感じる。

「富岡……」
「俺は抱きたいから抱いた」
「……うん」

 穂波がどんな姿を見せようとも、富岡の態度たいどは変わらない。無理に肩肘かたひじる必要もなくて、ふところへもぐりこみまぶたを閉じる。心地いい温かさが広がって、気がついたらスヤスヤ眠っていた。



***************

「肉しかないじゃない、ちょっと待って」

 富岡がテーブルへ肉料理ばかり並べるので、穂波は台所のすみのジャガイモを見つけてポテトサラダを作りはじめた。木箱にはもらい物だという野菜が大雑把おおざっぱまれている。

「サラダ? んなハイカラなもん、食えるかよ! 」
 人参やキュウリの入ったポテトサラダを見た富岡は愚痴ぐちっていたが、ひと口食べて黙々もくもくと口を動かす。多めに作ったポテトサラダはあっという間に無くなった。

「おいしかった? 」
「……ああ」

 きれいになった皿をながめて穂波が笑い、熊男は照れたように視線をらした。

「……それよりお前、なんで山へ入ったんだ? 」

 富岡のひと言で現実に引き戻される。口のはしをぎゅっとむすんだ穂波はしばらく沈黙していたが、1年前に筋蔵きんぞうの屋敷にとらわれたことや、その時の写真が家へ送られてきた事情を話した。

脅迫きょうはくか……あの議員、手クセが悪いってのは聞いてたが……」

 村へ来たものの計画など無かった。筋蔵に囚われたトラウマは残り、気持ちの整理もつかず、ただ思い浮かんだ人の所へけ込んだ。うつむいた穂波は再び口を結ぶ。

あんな写真を家族や職場の人に見られてしまったら、生きていけなくなってしまう。

一筋縄ひとすじなわじゃいかない相手だな、宮司ぐうじじいさんに話してみるか? 」

 穂波が思案しあんしていると、富岡の口から予想外よそうがいな人物の名前が出た。天狗祭りで口外できないような経験をして立ち直ってるわけでもない、巴那河はながに会うのは躊躇ためらいがあった。

「でも……」

「イヤかもしれねぇが、あのジジィは天狗に関わった人間を守る立場スタンスだ。信者どもを使って手を打つだろうよ」

 真相しんそうを知っていて、天狗に対して不敬虔ふけいけんな行動をくり返す筋蔵のことをこころよく思っていない人物。くさびをもってくさびを抜き、毒を以て毒をせむ。あくまで冷静なハンターとしての富岡の一端いったんが見える。

「…………桃井ももいさんなら」
 少し悩んだ穂波だったが、前にも助けてくれた人物の名を上げた。巴那河と直接会うのは怖いけれど、桃井なら力になってくれるかもしれない。

「よし、さっさと村へ行くぞ。動けるか? 」
「え? う、うん」

 昨日の今日で多少気だるさは残ってるけど、体力だけはだ。食器を台所の洗いおけへ放りこんだ富岡は、玄関先へワゴン車を停めた。

「トラ! 来い」
 オフッとちいさく吠えた虎毛とらげの秋田犬がワゴンの後ろへ跳びのった。穂波は身を隠しているように言われて後部へ乗車する。大きな犬にまぎれると、フサフサした尻尾が顔へ当たる。

発進した車は、見覚えのある神社へ停車した。尻尾を振っているトラの後ろからのぞくと、富岡は境内けいだいの奥にある建物から戻ってきた。

「山川さん! 」
 なつかしい顔が富岡と一緒に歩いてきて穂波へ声をかける。後部ハッチを開けて車を降りれば、微笑ほほえんだ老紳士が深々と礼をした。

「桃井さん、助けて頂いたのにロクに連絡もせず……」
「いいえお元気そうで、なによりです」

 再会を喜ぶのもつか、桃井はなにかをさっして宿舎へ穂波たちをまねき入れる。以前と変わらず古い建物だがキチンと清掃されている。穂波が泊まった部屋に似てるけど、生活感があって普段使用している部屋のようだ。

富岡とならんで座れば、温かいお茶が運ばれてくる。微笑んでいた口角を下ろした桃井は真剣しんけんな表情でたずねた。

「山川さん、なにか……あったのですね? 」
「相談したい事がありまして……巴那河さんは?……」

 こう不幸ふこうか、巴那河は所用しょようで外出中らしい。けっした穂波はカバンから写真の入った封筒を取り出した。
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