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いやらし天狗 ~穂波編~
一夜明けて
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きめ細かな布地が肌へ触れて、寝返りをうつと羽毛のようにやわらかい感触が頬へ伝わる。身じろいだ穂波が目を開けると、窓辺へ射しこむ光に真っ白いシーツが反射して眩しい。
「ここ……は? 」
古びた建物は見覚えがあり、初日に宿泊した部屋だった。清掃の行き届いた和室にフカフカの布団、まるで悪夢を見ていたようで穂波は混乱した。
「いいや……たしかに……」
あれは夢ではない、身体の奥へのこる熱が告げる。警戒して周囲を見まわしたら、扉のノック音が聞こえた。
穂波の体に緊張がはしる。
無言で扉を見ていると、再度ノックされた。
「…………どなた……ですか?」
扉の向こうはしばらく沈黙していたが、桃井だと返答があった。入室していいか尋ねられ、許可すると彼は姿をあらわした。
「山川さん、食事の準備ができました」
昨晩姿を見かけなかった桃井は、最初に会った時と変わらず穏やかな顔つきだ。
「……」
「なにか召し上がった方がよろしいかと……こちらへお運びしましょうか?」
穂波が黙ったままなので、桃井は部屋へ立ち入った。
「それ以上、寄らないで! 」
狂宴に姿はなかったけれど、鼻高神社の宿泊所にいる彼が事情を知らないとは思えない。浴衣をぬぎすてた穂波は自分の荷物をかき集める。
「山川さん……」
「帰ります! いっこくも早くこの村を出たいんですっ」
体を気遣う桃井を振りきり宿泊所をとび出した。昨晩の疲労は回復していなくて、足元はフラフラとおぼつかない。
「待って下さい! 山川さんっ」
桃井が後ろから追いかけてくる。鼻高神社の広場を横切ろうとしたら、タイミングの悪いことに巴那河とスーツの男達が輪になっていた。その中に筋蔵を見つけて足を止めた。
「山川くんじゃないか、そんなに急いでどうしたのですか? 」
建物へ引き返そうとしたところで、目ざとい男に見つかってしまった。爪を研いだ猛獣がネコなで声を出して近づいて来る。ここで取り乱しては相手の思うつぼ、穂波は出来るだけ冷静に声を発した。
「急いで帰らないと……家族も待ってますし、友人との約束も……」
親とは別居だし、友人と約束もしてない。この村を早く出るための言い訳だった。
「それは大変だ。お別れするのは残念だが、車を用意するので町まで送りましょう」
昨晩とは一変して紳士的な態度の筋蔵はポケットから電話を出した。ほどなく1台の車が鳥居の前へ停まり、黒服の男が下りてくる。
穂波が身構えていると、プロレスラーがスーツを着たくらい肩幅の広い男はニッコリ白い歯をみせて笑った。
「では秘書に送らせましょう。私は仕事があるので失礼しますよ。もしも滞在を延ばす気になったら、彼へ申し付けてください」
筋蔵は広場にいた数人を連れて別の車で去った。
一緒の車へ押し込められる事を危惧していた穂波は胸をなでおろす。秘書が車のドアを開けて待っている。巴那河が口を開きかけたので、強引に挨拶をすませて車へ飛び乗った。
運転する秘書を後部座席から観察した。サングラスで表情は分かりにくいが真面目そうな顔つきだ。
あの場へ残っていたら、巴那河に引き留められていたかもしれない。車内を見まわすと議員である筋蔵が普段も使っているのだろう、運転席との間へ防弾ガラスのような物が設置され、テレビモニターやシートバックテーブルが付属している。
町へ向かう道路を走っていたのもあり、少々気がゆるみ目を閉じた。
「え……あれ……? 」
眠ったつもりは無かったのに橙色の夕日が目に映り、知らない和室と広い庭園が見えた。
「……なっ!? う……くっ」
体が引っぱられて相手を確認すると秘書だった。サングラスをかけた男は無言で縄を引き、全裸の穂波は丸太の梁へ吊るされた。足はかろうじて床へ着き、つま先で立っている。
全身を鮮やかな赤い縄で縛られ、股間は露わになっている。狼狽して縄を外そうと暴れても天井の梁はビクともしない。
「よぉく眠ってたねぇ、お目覚めはいかがかな? 」
「徳守……さん!? 」
車内で罠を仕掛けられたのか、町へ向かう道路を走っていた後の記憶がない。青ざめた穂波は渾身の力で抗うけれど、梁へ掛かった縄はギシギシ音を立てるだけだった。
「家族さんには、帰りが遅くなるって伝えておいたよ。約束してそうな御友人は履歴に見当たらなかったから、連絡する必要もないよねぇ」
隣室から貪欲に目をギラつかせた男が歩いてくる。筋蔵が上着を脱いでネクタイを外せば、筋ばった胸鎖がのぞく。穂波を梁へ吊るした秘書は、深々と礼をして退室した。
ロックして他人には見られないはずのスマートフォンの中身を見られてしまったようだ。驚愕してたら、男は白い歯をみせた。
「こう見えて、私はそこそこの権力者でね。様々な熟練者を抱えこんでいるのだよ」
背後から伸びた手が穂波の両胸をつかんだ。赤い縄で縛られて強調された胸元は盛りあがり、筋蔵が手のひらで感触を楽しんでいる。
「ハリのある若い筋肉だねぇ、私も学生時代はスポーツをやっててね。山川くんがコレを付けてる姿を見たいなぁ」
カバンに入れてあった股間用プロテクターだ。前を覆うプラスチックのカバーと固定する留め具バンドが付いている。全裸で縛られている穂波の股間へプロテクターが装着され、前の部分だけ隠れた。
「裸なのにココだけ隠して恥ずかしい格好だねぇ。バンドの食い込んだヒップがそそるなぁ」
筋蔵の手がプロテクターの留め具をなぞり、剥きだしの尻を撫でまわす。
「やっ、やめてください!」
「やめてください? 困りましたなぁ」
筋蔵の手は腰から移動して、胸元を包んで揉んだ。ツンと尖った胸を指先で悪戯される。
「あうっ」
「ふふふ、山川くん……下の名前は穂波くんだったかね? きみを気に入ってしまったのだよ。この体にこの反応……」
筋蔵の片腕が尻の割れ目をたどって、後孔と蟻の門わたりを通り過ぎる。ビクンと反応した穂波は鼻にかかった高い声をあげた。
「健全な肉体なのに、こんなにいやらしぃ……もう男をたくさん知ってしまって健全ではないなぁ。おや? まだ私の痕が残ってるねぇ。反対側にも付けてあげよう」
脇からニンマリした顔をのぞかせた筋蔵は、鬱血していない方の乳首へ吸いついた。大きな舌先で転がされ強く吸われる。昨晩、男たちになぶられた部分はうっすら赤く熱をもち敏感になっていた。
「あ……くぅぅっ」
「ふふふ、『御手つき』はわかりやすい。気持ちいいのだろう? 蜜が出てきたよ」
乳首を2度3度吸われて、また舌先で舐められる。
「あぁっ……やめてくださいっ……僕は家に帰ります! こんな……犯罪ですよ、きっと家族が探して警察だって――」
出来るだけ刺激しない様に説得したが、ますます笑みを深くした筋蔵は背後へ体をつけて穂波の耳を舌でねぶる。
「大丈夫、帰りたく無くなるように私がキッチリ調教してあげよう。私のことは、ぜひ筋蔵と呼んでくれたまえ」
愉悦をふくんだ声が耳元で囁いた。
汗ばんだ筋蔵から壮年特有の男くさい匂いが漂い、絶望的な気持ちと相まって眩暈がした。
「ここ……は? 」
古びた建物は見覚えがあり、初日に宿泊した部屋だった。清掃の行き届いた和室にフカフカの布団、まるで悪夢を見ていたようで穂波は混乱した。
「いいや……たしかに……」
あれは夢ではない、身体の奥へのこる熱が告げる。警戒して周囲を見まわしたら、扉のノック音が聞こえた。
穂波の体に緊張がはしる。
無言で扉を見ていると、再度ノックされた。
「…………どなた……ですか?」
扉の向こうはしばらく沈黙していたが、桃井だと返答があった。入室していいか尋ねられ、許可すると彼は姿をあらわした。
「山川さん、食事の準備ができました」
昨晩姿を見かけなかった桃井は、最初に会った時と変わらず穏やかな顔つきだ。
「……」
「なにか召し上がった方がよろしいかと……こちらへお運びしましょうか?」
穂波が黙ったままなので、桃井は部屋へ立ち入った。
「それ以上、寄らないで! 」
狂宴に姿はなかったけれど、鼻高神社の宿泊所にいる彼が事情を知らないとは思えない。浴衣をぬぎすてた穂波は自分の荷物をかき集める。
「山川さん……」
「帰ります! いっこくも早くこの村を出たいんですっ」
体を気遣う桃井を振りきり宿泊所をとび出した。昨晩の疲労は回復していなくて、足元はフラフラとおぼつかない。
「待って下さい! 山川さんっ」
桃井が後ろから追いかけてくる。鼻高神社の広場を横切ろうとしたら、タイミングの悪いことに巴那河とスーツの男達が輪になっていた。その中に筋蔵を見つけて足を止めた。
「山川くんじゃないか、そんなに急いでどうしたのですか? 」
建物へ引き返そうとしたところで、目ざとい男に見つかってしまった。爪を研いだ猛獣がネコなで声を出して近づいて来る。ここで取り乱しては相手の思うつぼ、穂波は出来るだけ冷静に声を発した。
「急いで帰らないと……家族も待ってますし、友人との約束も……」
親とは別居だし、友人と約束もしてない。この村を早く出るための言い訳だった。
「それは大変だ。お別れするのは残念だが、車を用意するので町まで送りましょう」
昨晩とは一変して紳士的な態度の筋蔵はポケットから電話を出した。ほどなく1台の車が鳥居の前へ停まり、黒服の男が下りてくる。
穂波が身構えていると、プロレスラーがスーツを着たくらい肩幅の広い男はニッコリ白い歯をみせて笑った。
「では秘書に送らせましょう。私は仕事があるので失礼しますよ。もしも滞在を延ばす気になったら、彼へ申し付けてください」
筋蔵は広場にいた数人を連れて別の車で去った。
一緒の車へ押し込められる事を危惧していた穂波は胸をなでおろす。秘書が車のドアを開けて待っている。巴那河が口を開きかけたので、強引に挨拶をすませて車へ飛び乗った。
運転する秘書を後部座席から観察した。サングラスで表情は分かりにくいが真面目そうな顔つきだ。
あの場へ残っていたら、巴那河に引き留められていたかもしれない。車内を見まわすと議員である筋蔵が普段も使っているのだろう、運転席との間へ防弾ガラスのような物が設置され、テレビモニターやシートバックテーブルが付属している。
町へ向かう道路を走っていたのもあり、少々気がゆるみ目を閉じた。
「え……あれ……? 」
眠ったつもりは無かったのに橙色の夕日が目に映り、知らない和室と広い庭園が見えた。
「……なっ!? う……くっ」
体が引っぱられて相手を確認すると秘書だった。サングラスをかけた男は無言で縄を引き、全裸の穂波は丸太の梁へ吊るされた。足はかろうじて床へ着き、つま先で立っている。
全身を鮮やかな赤い縄で縛られ、股間は露わになっている。狼狽して縄を外そうと暴れても天井の梁はビクともしない。
「よぉく眠ってたねぇ、お目覚めはいかがかな? 」
「徳守……さん!? 」
車内で罠を仕掛けられたのか、町へ向かう道路を走っていた後の記憶がない。青ざめた穂波は渾身の力で抗うけれど、梁へ掛かった縄はギシギシ音を立てるだけだった。
「家族さんには、帰りが遅くなるって伝えておいたよ。約束してそうな御友人は履歴に見当たらなかったから、連絡する必要もないよねぇ」
隣室から貪欲に目をギラつかせた男が歩いてくる。筋蔵が上着を脱いでネクタイを外せば、筋ばった胸鎖がのぞく。穂波を梁へ吊るした秘書は、深々と礼をして退室した。
ロックして他人には見られないはずのスマートフォンの中身を見られてしまったようだ。驚愕してたら、男は白い歯をみせた。
「こう見えて、私はそこそこの権力者でね。様々な熟練者を抱えこんでいるのだよ」
背後から伸びた手が穂波の両胸をつかんだ。赤い縄で縛られて強調された胸元は盛りあがり、筋蔵が手のひらで感触を楽しんでいる。
「ハリのある若い筋肉だねぇ、私も学生時代はスポーツをやっててね。山川くんがコレを付けてる姿を見たいなぁ」
カバンに入れてあった股間用プロテクターだ。前を覆うプラスチックのカバーと固定する留め具バンドが付いている。全裸で縛られている穂波の股間へプロテクターが装着され、前の部分だけ隠れた。
「裸なのにココだけ隠して恥ずかしい格好だねぇ。バンドの食い込んだヒップがそそるなぁ」
筋蔵の手がプロテクターの留め具をなぞり、剥きだしの尻を撫でまわす。
「やっ、やめてください!」
「やめてください? 困りましたなぁ」
筋蔵の手は腰から移動して、胸元を包んで揉んだ。ツンと尖った胸を指先で悪戯される。
「あうっ」
「ふふふ、山川くん……下の名前は穂波くんだったかね? きみを気に入ってしまったのだよ。この体にこの反応……」
筋蔵の片腕が尻の割れ目をたどって、後孔と蟻の門わたりを通り過ぎる。ビクンと反応した穂波は鼻にかかった高い声をあげた。
「健全な肉体なのに、こんなにいやらしぃ……もう男をたくさん知ってしまって健全ではないなぁ。おや? まだ私の痕が残ってるねぇ。反対側にも付けてあげよう」
脇からニンマリした顔をのぞかせた筋蔵は、鬱血していない方の乳首へ吸いついた。大きな舌先で転がされ強く吸われる。昨晩、男たちになぶられた部分はうっすら赤く熱をもち敏感になっていた。
「あ……くぅぅっ」
「ふふふ、『御手つき』はわかりやすい。気持ちいいのだろう? 蜜が出てきたよ」
乳首を2度3度吸われて、また舌先で舐められる。
「あぁっ……やめてくださいっ……僕は家に帰ります! こんな……犯罪ですよ、きっと家族が探して警察だって――」
出来るだけ刺激しない様に説得したが、ますます笑みを深くした筋蔵は背後へ体をつけて穂波の耳を舌でねぶる。
「大丈夫、帰りたく無くなるように私がキッチリ調教してあげよう。私のことは、ぜひ筋蔵と呼んでくれたまえ」
愉悦をふくんだ声が耳元で囁いた。
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