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いやらし天狗
余燼がくすぶる
しおりを挟む「ところで君、その首からぶら下げている物はなにかな? 」
「えっ? あ~これは宿の人にもらったお守りです」
ふだん海斗がアクセサリーを身につけないことを知っている間崎は、首元へかかるヘンプのネックレスを目ざとく見つけた。
1年ほど肌身離さないようにと、山川に言われた物だ。タグのような小さな木札には難しい漢字が書かれている。ポケットへ入れたら失くしてしまいそうで、こうしてヘンプの紐へ付けて首飾りにしている。
目を輝かせた教授が胸元をのぞきこみ、海斗は困った顔でほほえんだ。首に下げていたお守りを外して間崎へ手渡す。
「ほぉ、札! 書かれているのは名前かね? 」
木札を受け取った間崎の声のトーンが上がり、穴が開きそうなほど見つめた。ひっくり返したり、目を凝らし隅々まで観察している。
山川にもらったお守りは富岡が作った物、僧であった富岡の曽祖父から伝えられ、記した文字で災いが降りかからないようにする札だった。
「ほうほう、蘇民将来の護符に似てるねぇ」
「そみんしょうらい? 」
蘇民将来とは、人間に化けた疫神が旅の途中で宿を乞い、貧しいながらも持て成した人物の名だ。その名や子孫と記した護符を付ければ、疫病や災いを避けることができるという日本各地に伝わる説話のひとつ。そう言いながら教授は札の文字をノートへ写そうとして、ミミズの這ったような字をボールペンで書いている。
「わりと各地で見かける厄除けだから、訪れる機会があれば見てみるといいよ」
「はああ、なるほど~」
「でもこれは違うから調べたいなぁ……どうだろう、すぐ返すから2~3日預かっても構わないかな」
こっちへ帰ってから1カ月は経ち周囲にも変化はない。あの村からは遠く離れているし、少しのあいだ手放したところで何かが起こるとも考えられなかった。
「別にいいですよ」
海斗は木札を教授へ渡して、研究室を後にした。
「海斗ぉ~ひっさしぶりぃ~」
廊下の向こうから3人の青年が歩いてきた。友人の浮田に鳴史、地味野だ。浮田は単位を取るため集中講座に出席していて、これからいっしょに食事へいく予定だった。
「ジミとナルもいたの? まさか2人も集中講座? 」
「はは、まさかぁ~。僕らは一般向けの講座を見に行ってたんだよ」
浮田とは講堂を出たところで合流したようだ。ついでに皆で夕食を食べに行くことになった。地味野が参加した講座の資料を見せてくれて、なかなか面白そうなラインナップが綴られている。
「海斗はまた心霊教授の手伝いかよぉ。面白いネタあんだったら、飲み会で怪談聞かせてくれよ~」
「それいいね、僕も聞きたいな~」
浮田が思いつき、地味野がのってきた。道端に若者たちの笑い声がひびく。
「あれ? 海斗、彼女できた? 」
「「「へ!? 」」」
肩へ手をまわした浮田が突然わけの分からない事を言い出して、海斗は目を丸くした。同じく鳴史と地味野も目をまんまるにしている。
「なに言ってんだよ? 」
「だってよぉ、オマエすげぇ良い匂いする。香水付けてんじゃねぇの? 」
浮田は肩を組んだまま鼻を近づけてスンスンと匂いを嗅いだ。浮田の野性的な勘は侮れない、真面目に匂われて恥ずかしくなった海斗は近づいた顔を押しもどす。
「付けてないってば、とうとう頭おかしくなったか? 」
「そうだよ、やめろよ。海斗嫌がってるだろ」
「ちょジミージャマーかよ。海斗の匂い嗅げねぇだろ! 」
割って入った地味野といっしょに顔を押し戻したら、浮田が反抗する。鳴史がふり返って大笑いしていた。
***************
「ウッキーは俺たちが送り届けるから心配すんな」
「ありがとぉナルシ~」
酒をすすめられた海斗は酔っぱらってしまって鳴史たちに送り届けられた。同じくベロベロになった浮田も海斗のアパートへ泊まろうとしたが、地味野に引っ張られる。
「あ"あ"~ジミー邪魔すんなぁ。かいとぉ~おれもソコにとまるぅ~」
「ほらウッキー、自分の家に帰るぞ! 」
断末魔をあげる浮田は地味野に引きずられていった。
物知りな教授に楽しい友人たち、家へもどった海斗は平穏な日々を過ごしていた。
「はぁ~酔ったなぁ~」
快然とした酔いがまわり眠くなって、風呂からあがってフラフラとベッドへ入る。スヤスヤ寝息を立てて眠っていると風の音にまぎれて窓の外から何か聞こえた気がした。
『……たぞ、……たぞ』
「……? 」
めずらしく夢にうなされて、真夜中に目が覚めた。寝ぼけ眼の海斗は布団をかぶってふたたび眠りにつく。
次の日カフェでのバイトを終えて、夜道を歩いていると後をつけられてる感じがした。海斗は時々おびえたように後ろを振り向くが誰もいない。
寝不足もあって家でぼんやりしていたら、ベランダからカタンカタンと物音が聞こえる。海斗は窓をあけてベランダを見まわしたが、取りこみ忘れた洗濯物はない。
カーテンを閉めようとした時、ビタンと音がして窓に小さな手形が映った。
『見つけた、見つけたぞ! 』
「うわあっ!? 」
海斗は跳び起きて、天井の電気のまぶしさに目を細める。
「あれ……? ゆめ……」
お風呂上がりに電気を付けたまま眠っていた。風通しを良くするため開けていた窓を閉め、部屋の電気を消して布団の中へもぐった。すぐに眠気はやってきて目をとじる。
その夜、海斗は淫夢を見た。
体を撫で回される感覚、ツンと湧きあがる先端へのうずき。身をよじると乳首をつつかれて先を吸われる感触。
股間にもなにか棒のような物が擦れ、気持ちよくなった海斗の足は自然とひらく。
「……はぁっ……んん……あぅ」
ペニスの先を強烈に吸われる感覚がして、小刻みに身体をふるわせた。快感で腰が浮くと、尻へ触れたものが菊坐を圧しヌプリと侵入した。
「ああっ……んあうっ……ううん」
いびつでいやらしい形のものが海斗の尻を突き、中をかき回され快楽に身もだえる。足を閉じようとすれば、もっと広げられ奥を突かれた。ゴツゴツした瘤が弱い部分を何度もこする。
開きっぱなしの口から嬌声がもれ、トロリと先から生温かい液体が数滴たれて衣服へ吸い込まれる。
「――――あうっ……ああんっ! 」
強く突かれてぴゅっぴゅっとペニスの先端から蜜がたくさん噴きだした。衣服へ忍びこんだなにかに濡れた茎や陰嚢を舐めたり吸われたりして、体が悦びに満たされる。
恍惚とした海斗は身を捩りながら喘いだ。
『ククク。いやらしい、いやらしい身体じゃ』
暗い部屋へ残されたスマートフォンは、友人からの着信でチカチカと光って壁を照らす。
始発が走りはじめた早朝、惚けた顔の青年は電車へ乗った。旅行にしては軽装な青年の視線は定まらず、ずっと窓の外を見ている。
海斗を乗せた電車はトンネルを抜けて、拓けた平野を通りすぎ円錐形にそびえる山が窓に映った。
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