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いやらし天狗
祭りのあとの宴
しおりを挟むプルルル。
「もしもし? はい、そちらに取りにうかがいます。あっ大原さん、先に行っててください」
同行していた白石に電話がかかってきて、先に行くように促される。
宮司の巴那河と2人きりになって向かった場所は、天狗の伝え話を聞いた部屋だった。今日は仕切りの襖も外され、にぎやかな大広間になっている。
祭りを終えた人々が腰をおろし、宴は始まっている様子だ。海斗も案内されて宮司の隣へ腰を下ろした。
「おや! 宮司さんの御客人ですかな? 私はフクベと申します」
近くに座っていた恰幅のいいおじさんが挨拶してきた。すでにお酒が入っていて恵比寿さまのように丸く大きな顔は真っ赤になっている。
「はは……大原です。よろしくお願いします」
アケミさんの言葉を思い出して、苦笑いした海斗は愛想をかえした。見まわせば村の男ばかりで、本当に女人禁制の宴のようだ。
たくさんのお膳が用意されて、海斗の前にも料理が運ばれた。豆腐の真薯に、タケノコや山菜の天ぷらなど精進料理がならぶ。工夫をこらして見た目も豪華だ。
「どうぞ召し上がってください」
すりおろした生姜とあさつきをのせた豆腐をつつけば、なめらかな口当たりで大豆の風味が広がる。
「お口に合いましたか? 大豆もここで穫れた物です。大原さん、お酒は飲まれますか? 」
「ちょっとだけなら……」
大広間にはたくさんの酒瓶があり、見た感じ上級者向けの日本酒が並んでいた。村の男たちは水を飲むように口へ運んでいる。
「飲みやすいものもありますよ。甘口でさっぱりした物はどうでしょう? 」
にこやかな表情の巴那河が、陶器の猪口へ酒をそそぎ手渡した。
飲み口は甘めでまろやかな風味。あまり酒を飲まない海斗でもすんなり飲めて、おまけに濃いめに味付けされたツマミがよく合う。
楽しい歌声と笑い声が大広間にひびき、海斗は注がれるまま酒を飲み干した。
「へえ~、じゃあ女人禁制って昔からなんですね」
「ここだけの話ですが『夜の祭り』というものが昔からありましてね、呑兵衛をよそおって村の男たちだけで祭りを行うのですよ。今日いらした海斗くんも、特別に参加していってください」
「ありがとうございますっ」
話すうちすっかり打ち解けて、目をきらきらと輝かせた海斗は宮司の話に聞きいった。普通に旅行しただけでは分からない隠された祭りに心がおどる。
姿のない山川や富岡について聞けば、祭り中は宿がいそがしく、山川は昼間に顔を見せる程度だという。
「アルバイトの人に任せたらいいと言ってるのだけど、山川さんは宿のお客さん思いでなかなか来て下さらなくてね。富岡さんの方は、ちょっと気むずかしい人だからねぇ……」
人当たりの良さそうな巴那河でも富岡には言葉を濁すようだ。粗雑な雰囲気の男を思い出した海斗は、なんとなく気持ちが分かってうなずいた。
「そうなんですよ。それでね、あそこのトンネルに白い着物の女が――」
村の歴史やら話しこんでいると、酔って口の軽くなったフクベからこのあたりの怪異や怖い話を聞けた。
「――裏の谷にはね、むかし」
「フクベさんあっちから呼ばれてますよ」
「おーっキヨシ君っ! すいません、ちょっと席を外しますよ」
知り合いだろうか、手をふったフクベは大きな体を持ち上げて向こうの席へ歩いて行った。
「おお若者、飲んでいるねぇ。ワシの酒も飲んでくれますかの? 」
ときおり村の人が寄ってきて海斗のお猪口へ酒をそそぐ、酔いがまわり気持ちよくなった海斗は笑いながら杯を受けた。
「しらいしさん~」
「うわ、けっこう飲んでるね。大原さん大丈夫? 」
大広間へ来た白石が酔ってベロベロになった海斗の横へ座り、新しく用意された食事を口に運んでいる。
「大原さんは気に入った食事ありました? 」
「ぜんぶおいしいれす」
「これもどうぞ。美味しいですよ」
呑兵衛と化した海斗の口へ白石がスプーンですくったものを差しだす。新婚夫婦のようにあ~んと口を開けると、プリンみたいな甘さが口に広がった。
「おいひい~」
「ふふ、よかった。お豆腐で出来たデザートですよ」
快然とした酔いと美味しい食事、蜜のような時間はあっという間に過ぎていく。ろれつの怪しくなった海斗は、やわらかくてツルリとしたデザートを満足そうに頬ばった。
気がついたら意識は遠のき、心地の好い眠気に誘われる。
海斗はいい夢を見ながら眠りについた。
***************
「体のすみずみまで確認したから間違いない」
「ほんとうにマエ様が選ばれたのですね……」
「マエ様に選ばれたニエじゃ、ありがたやぁ」
近くで話し声が聞こえて、離れていった。
ふたたび目覚めると見たことのない部屋にいた。大広間と違って薄暗い、灯されたランタンの光が板張りの天井を不気味に照らす。
海斗の体は固定されていた。Xの形をした木板へ手首と足を括りつけられ、仰向けに寝かされている。
「なんだよ……これ……」
ちょっとずつ頭の中がスッキリして、置かれた状況にとまどう。首をひねって確認したら、衣服は白い浴衣1枚に変えられ、お風呂上がりのような匂いが海斗の体から立ちのぼっていた。
身体をねじって拘束を解こうとしたけれど、思いのほかしっかり固定されていて足もとは見ることもできない。縄から逃れるために動いてギシギシ音を立てていたら、扉がひらいた。
「目覚められたようですね」
聞き覚えのある声は、巴那河の声だ。
「……巴那河さん? 」
「すこしお待ちを」
カラカラと音が鳴り、海斗の頭側が引き上げられて部屋を見渡せるようになった。正面は格子状に木が設置されて、まるで牢屋だ。
(監禁されてる!?)
「これいったいどういう事ですか!? 」
木製の台はギシギシと音を立てるが、縛られた部分はビクともしない。海斗は躍起になって身をよじり暴れる。
「ちょっと巴那河さんっ、これを解いてくださいっ! 」
大広間にいた男たちが海斗を取り囲み、全員でこちらを見ている。その視線に怖気を感じて、これから起こる予感にゾッと泡立った。
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