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いやらし天狗
夢? 体におかしな異変が!?
しおりを挟む遠くヒグラシの鳴く声がして、午後の日差しが顔を照らす。
「う……」
海斗は床へ横たわり、閉まっていたお堂の扉は開いていた。
脱がされたはずの服もしっかり着て、まぼろしを見ていたみたいだ。周囲の様子をうかがっても大きな天狗は見当たらない、スマートフォンの時計を確認すると3時間ほど経っている。
寺に掲げられた扁額の文字がさらに歪んで見え、青ざめた海斗はそこから走って逃げた。
頭の中身が整理できなくて混乱している。ひょっとしたらお堂のカビを吸い込んで、夢を見てたのかもしれない。
ふり返らず山道を歩き、見晴らしのいい場所で腰を下ろした。早いペースで歩いていたので、ガス欠になったようだ。リュックの中身を確認しても盗られた物は特にない。
ちょっとだけ安心して弁当を開けた。出汁の利いた玉子焼きや鮭おにぎりを頬張って、ペットボトルの水でノドを潤せば満たされて落ちつく。
「夢? はぁ……マジなんだったんだろう」
『マエ様』のことを考えるとお尻のあたりがムズムズして、海斗はあわてて頭をふりエッチな夢を忘れる。
お腹がいっぱいになり冷静になった海斗は、パンフレットに描かれた観光コースへ戻って山の探索を続けた。さっき発見したような妙な文字の寺もなく、整備された古い建物をたくさん見学した。
太陽が傾きはじめたので下山する。舗装された道を歩いていると『天の狗』の看板が見えて、海斗は無意識のうちに安堵の息をついた。
「おかえりなさい、いろいろ見れましたか? 」
「えっ? ええまあ……」
受付で山川が話しかけてきたが、まさかへんな天狗の夢を見たとも言えなくて海斗は曖昧にほほえみ返した。
夕飯を終え、モヤモヤした気分のまま風呂へ入った。3~4人くらい入れるこじんまりした風呂で清掃は行き届いている。海斗のアパートの風呂場に比べれば広く開放感がある。
「はぁぁ、広い風呂はいいなぁ~」
緊張から解き放たれ、鼻歌まじりに体を洗う。泡立てたボディソープで体を洗っていたら、お堂での記憶がよみがえる。黒天狗に犯された光景が脳裏に焼きついて離れない。
洗身タオルが胸元を通過した時、ピクンと身体がはねた。
「あっ!? 」
泡にまぎれて尖った乳首が見える。いつもはタオルで擦っても何ともない胸元が敏感になっていた。しかたなくタオルを移動させて太腿と尻のあたりを洗うと、太い鼻の感触を思い出し股間が疼いて勃起する。
「なんで……夢じゃなかったのかよ? 」
泡を落とすため湯栓をひねって手早くシャワーを浴びる。
ノズルから出る水圧で気持ちよくなって、小刻みに身体がふるえた。海斗は跳ねる体をおさえ、なんとか泡を落としきって湯船に浸かる。
敏感な部分への刺激もなくなり安心したのも束の間、じんわりと体の奥が熱くなった。
「あっ……」
ふたつの乳首は充血して尖っていた。股間の物もさっきより硬くなり自然と腰が浮く。
「……はぁっ……ううん……」
尖った乳首が水際でふるえて水面を波立たせる。海斗は湯船の中でひとり悶えた。
「お湯はどうでした? 」
「えっ!? き、気持ちいいお湯でしたよ」
「そうですか、良かった」
廊下を歩いていたら後ろから声をかけられ、しどろもどろに返事をした。風呂場でイかなかったものの一頻りもだえて、まだ先端はジンジンと疼く。
山川は快活な笑顔を浮かべた。海斗以外にも数名の宿泊客がいる様子で、畳んだシーツを両手にもって歩き去る。
部屋へ戻った海斗は、間崎教授のノートをひらいた。
「黒い天狗のことは、さすがに教授も書いてないのか……」
ノートには天狗祭りや鼻高山の神社のことが書かれている。天狗祭りは滞在中に開催される村の祭り、稲作や豊漁の感謝祭で天狗に扮した者たちが神楽を舞う。
「マエ様か……あのお爺さんにまた会えないかなぁ」
初日に会った爺さまが『マエ様』について話していた。考えているうちに体の奥が熱くなってきて、ムラムラした情欲が先端へ集まる。
「……っ……今日はやめだ、やめ。もう寝よう! 」
ノートを閉じた海斗は、黒天狗の記憶をかき消してさっさと布団へ入った。
深夜、布団のなかで妖しい声を上げる。
「うぅん……あぁ……」
なにか瘤状の物が奥を食み腰がうずく。洗濯糊のきいた浴衣が尖った部分を刺激して、海斗はなまめかしい声を出し身悶えた。
「いやらしい、いやらしい。この辺りから、いやらしい匂いがするぞ」
夢うつつの耳へ、窓の外からボソボソと声が届く。
朝起きたらパンツの中に夢精していて、ため息を吐いた海斗は洗面所へ向かった。
ダイニングへ腰を下ろし、ぼんやりとテーブルを眺める。
(おかしいなぁ……昨日はよく寝たはずなのに……)
夜が明け前に声が聞こえた気もするけど、夢うつつだったのでよく覚えていない。ハァと溜息を吐いたら、ふいに山川の声が聞こえた。
「大丈夫ですか? 」
「だい、大丈夫ですよっ」
「いえトレイも持って行かずにテーブルへ座ってるから、どうしたのかと思いまして……」
カウンターに置き忘れたトレイを山川が持ってきて、海斗は苦笑いしながら朝食を受け取る。
トロッとした温泉卵に山菜の味噌汁。普段はトーストとコーヒーの洋食だが、他客の食べていた和食が美味しそうだったので頼んだものだ。
「おいしい……そういや昨日の夜は……なに食べたっけ? 」
昨晩は憔悴していたので、食べた物さえ覚えていない。
「海斗くん、本当に大丈夫ですか? 」
「あーははは、ちょっと朝早くに目が覚めてボンヤリしてるだけっすよ」
「そうですか……山へ登る時はくれぐれもお気をつけて。何かあったらすぐ連絡下さいね」
山川はキッチンを片付け、ウィンドブレーカーを着て出ていった。海斗がダイニングの窓から見ていると表にワゴン車が停まり、客が乗り込んでいる。どうやら宿泊客を駅まで送るようだ。
「さて、俺も調査の準備をしますか」
両手で頬を叩いて気を取りなおし、昼食と地図をリュックに詰めた。山川が出掛けた宿の受付には、可愛らしいお婆ちゃんが座っていて見送ってくれた。
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