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いやらし天狗
調査開始、いきなり出会う!?
しおりを挟む「いってらっしゃい」
必要なものをリュックへ詰めて準備をすませた海斗が玄関を出ると、食材を仕入れるためボックスをワゴン車に乗せていた山川が微笑みかけた。上京して1人暮らしだった海斗は、見送られることが久しぶりでちょっと照れたように会釈をした。
「いってきます! 」
目的の寺や遺跡は、『天の狗』から30分もかからない山中に点在する。泊まりがけで何日かに分けて調査をおこなう予定だ。
借りたクマよけの鈴をつけたリュックには、山川の用意してくれた弁当や飲み物が入っている。
装備は万端、山へ向かう。
渡されたパンフレット通りに進めば、山道の入り口に案内板が立っていた。今日歩くのは3時間くらいの散策コース、小鳥の鳴く山道は木洩れ日がさしこみ穏やかだ。
歩いているうち、昨日のお爺さんの話を思い出した。
海斗は地図に記した場所を確認する。お爺さんに聞いたお堂跡の場所を、部屋に帰ってからこっそり書き写したものだった。
「お爺さんには悪いけど、やっぱ調べないとね~」
行くなと言われたら、よけいに怪異ハンターの血がさわぐものだ。鼻歌まじりで観光パンフレットに記された道を外れ、細い道を進んで壊れた木の橋を迂回する。真昼にもかかわらず木の茂った森は薄暗くなってきた。
「雰囲気出てきたな~」
急斜面の細い道を下っているとお堂があった。訪れる人はいない様子で灯篭は苔むして廃寺のようだ。近くの地蔵群がたおれて苔に埋もれていた。
お堂は形を保っているが、建物自体がすこし歪んでいるようにも見える。
「うわぁ、なかなか年季入ってる」
地図には載っていない建物を見つけて嬉しそうな声を出した海斗は、さっそく周辺を調べはじめた。古そうな石碑の文字は風化してしまっている、お堂の正面に寺の扁額が掛かっているものの文字は読めない。
「……イン……獄……修ギョウ……寺? なんだこれ? 」
漢字とカナ文字が混ざった妙な扁額だった。スマートフォンを取り出した海斗は妙な文字を撮影する。カシャリと音がして画面を確認すると、写真の文字がブレてしまった。
「あ~もうっ、ジンバル持ってくりゃ良かったなぁ」
なんど取り直しても画像は微妙にブレる。仕方がないので比較的マシな写真を残してあとは消した。せっかく珍しい物を発見したのにもったいない、気を取りなおして海斗はお堂へ近づく。
この旅のために新調したハイカットのシューズを脱いで、お堂の外側を囲むデッキへ上がった。
木板の廊下は軋んだ音がするけど、観光のために誰かが手入れしているのか埃も積もっていない。外廊下をまわって調べていると、お堂の正面でキィという物音が鳴った。
「すみませんっ、見学させてもらってました」
見回りの人か寺の所有者が来たのかと思い、海斗はあわてて正面へ移動した。しかし辺りに人の気配はない、しばらく見まわしていたらお堂の扉が開いていることに気付いた。
「怪しい者ではないです~……誰もいない……」
開いていた扉から中へ声をかけるが、やはり人っ子ひとりいなかった。外から射す光で見えた薄暗い板間は、奥に仏像のような物が飾ってある。
「入りますよー? 」
祀っている仏像が気になって、海斗は声をかけながらお堂へ入る。暗い堂の奥には棚があってお供え物が置いてあった。今日置かれた物ではなく、何日も経って干からびた花や黒くなった果物が皿へのせられていた。
やはり人はいない様子で、眉根にシワをよせた海斗は奥の仏像をのぞき込む。正面から入る光にわずかに反射して黒光りする像だった。
「……なんの神様だろう? 」
海斗は魅入られるように像を観察する。黒塗り像の肌が鈍く光を反射して艶めかしく感じる。奥に飾られたレリーフは男女が交わっている絵が描かれている。
秘仏かと思って顔を近づけてみると、男女ではなく稚児と天狗がまぐわっている図だった。
「うわっビックリした! 稚児と天狗なんてめずらしいレリーフだな……」
秘仏の中には男女が抱き合っている珍しい物もあるという、まさに秘匿された物を発見した海斗は興奮した。夢中で見ていたら、ふと後ろに気配がする。
「すいません。開いてたので勝手に入ってしまいまし……」
怒られるかと思い、ふり向いた海斗は固まった。目の前には肉感のある天狗の面をかぶった男が仁王立ちしている。黒漆で塗ったような顔は光沢を放ち、先にコブのある鼻はゴツゴツして異様な形をしていた。
「許可も無くこのような所にいるとは、欲にまみれた盗っ人か? それとも修行者か? 」
「えっ!? あ……違いま……」
お堂全体に天狗の太い声が響く。黒塗りの天狗に気圧されながら海斗が声をだした時、大きな扉がひとりでにバタンと閉まった。
海斗は気がついた。真っ暗闇におおわれた堂内で、天狗の姿はハッキリと見えていた。ありえない現象にゾクリと背筋が寒くなる。
「うっ、うわああっ!! 」
無我夢中で天狗の横をすり抜けて、扉の取っ手を掴んだがビクともしない。必死で扉を叩いたが鈍い音が鳴るだけだった。
さっきの気配は真うしろへ来ていた。ふり向くと目の前に黒塗りの天狗が腕を組んで仁王立ちしている。海斗は腰が抜けて扉を背にヘナヘナと座りこむ。
「答えよ。答えぬのなら、このワシが調べてくれようぞ」
「まさか、黒い天狗って……たしか……」
昨日のお爺さんから聞いた風がわりな天狗の名前を思い出した。迷信だと思っていたのに、実際現れた『マエ様』に仰天する。
天狗の目が妖しく光った。
「うわっ!? 」
するどい眼光に海斗は身を竦めたが無事だった。しかし光った目を見たとたん、体から力が抜けてヘソのあたりが熱くなる。
熱さはジワリと下腹部へ広がり、股間へ集まってムズムズした。快感が体の奥から湧き上がり、神経を伝って末端がツンとむず痒くなる。
「ふぁ、な……に……? 」
乳首の先へ布があたってビクリと反応した。敏感になった身体は衣服と擦れるだけでも快感に浸される。
目の前の天狗は仁王立ちの状態から微動だにしていない。海斗が刺激をのがれて動かないようにしていると、更に天狗の目が光って股間へ気持ちのいい感覚が集中する。
「あっ! くっ……ああっ! 」
身をよじった海斗の股間は硬くそそり立ち、ズボンに擦れる。
「ほほう……ワシの眼力で妖しい声を上げるとは、その体をもっと調べてくれようぞ!! 」
天狗が人差し指を引き上げれば、座った海斗の腰は引き寄せられるように浮いた。盛りあがった股間へ天狗は鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
「やっ、やめろっ……あっ」
腰だけ浮かせたブリッジの体勢で、ゴツゴツした鼻に股間を嗅がれている。羞恥で赤くなった海斗が動こうとしたら、腰が左右に振れて天狗の鼻に擦れた陰茎は気持ちよくなった。
「いやらしい匂いをまき散らしながら、そのように擦りつける動作をするとは、けしからん小僧よ」
「なっ、ちがっ――あうぅっ! 」
腰を上げた海斗の足のあいだへ一層黒い天狗の顔が近づき、長い鼻が股間へ押し当てられて刺激された。海斗は左右に腰を振って逃れようとしたけれど、天狗の目がますます光る。
妖しい光りで身体の奥から気持ちのいい感覚が湧きあがり、乳首はかたく尖って股間へズボンが当たりきつくなった。
「うっ――――ああっ!! 」
ズボンを押し上げていた股間に痺れるような肉悦を感じ、体が持ち上がって一瞬ビクンと跳ねる。開放感から力が抜けて海斗の腰は床へ落ちた。
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