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閑話 ~日常や裏話など~

#千隼の妄想話

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#……第七章の「騒動」後の千隼ちはやの話です。



「猿の大将の話では、まだマガツヒに成っていない可能性があります。本当にち取ってもよろしいのですか? 」

 動員された鬼道衆きどうしゅう温羅うらが尋ねる。

号令で動くものの前ノ坊まえのぼう九郎くろうとは面識がある者も多い。千隼のひきいる若い精鋭せいえいたちは血気盛けっきさかんだが、古顔ふるがおの鬼道衆には疑問をていする者もいた。

「今マガツヒでなくても、いずれるかもしれない危険分子を放って置けと? 」
「それは……」

 千隼の厳しい指摘してきが飛び、温羅は口をつぐんだ。そんな折り月読が見つかって保護されたと一報があった



 発見したひのえが邸宅へ来たものの、肝心な月読の姿は無かった。御山へ帰ってこなくて連絡もない、千隼の苛立いらだちは心の内へもる。

 祖父が裏でコソコソと動いていることを知った。
千隼は廊下を行く湯谷ゆやを引きとめて説明を求めた。最初は言葉をにごしていた湯谷もてつく視線にさらされ、口を割ることを余儀よぎなくされた。

「お爺様が、月読様と秘密裏ひみつりに交渉するということですか? 」

 湯谷から一端いったんを聞き出した千隼は、さとい頭で事のすべてを理解した。
若輩者じゃくはいものだけれど、当主とうしゅである千隼を差しおいて重要人物と交渉など、祖父に出し抜かれた気分だった。湯谷の制止を振り切って、すぐに祖父の居室へと向かう。

月読のしようとしている事を知り、千隼は計画をった。それとなく護衛の若衆に吹聴ふいちょうして鬼達へ知らせた。

鬼平でも抑えられないほど、内部で反発の気運が高まった。鬼達の気質から分かりやすい方法が最適だと、交渉に皆を直接参加させることを祖父へ提案する。

月読が要求を口にすれば、当然鬼たちは反発するだろう。そこへ千隼が助け舟を出す予定を立てて再会にのぞんだ。



 目論見もくろみは途中まで達成されたものの、助け船を出す前に月読が意外な物を出して大広間の空気は一転した。父・隼英はやひで偉大いだい威力いりょくで、涙もろい鬼達は氷解ひょうかいしてしまった。

しかし一時いっときの感情に流されても残る問題を自室で話しあう、千隼の提案ていあんに月読は驚いていた。

「震えているのですか? 可愛いですね、月読様」

 動揺どうようした月読の肩がふるえている、ように千隼には見えた。スッと近づいて月読を押し倒す、悪代官あくだいかんのごとくおびほどいて服を脱がそうと――――帯の解き方が分からない。

仕方しかたなく抱きついて着物の胸元へ顔をめたところで、抵抗を止めた月読がため息を吐いた。っぱいの感触を確かめたいけれど、重なった着物が邪魔をして千隼の欲しい感触はわずかにしか伝わってこない。

叩いた頬の赤みは引いていた。月読が提案の続きを話してきたので千隼は答える。2人きりで話した本音に、まぶたをふせて悲しげに微笑んだ月読は想いを伝えてきた。

まだまだ千隼の道のりは遠そうだ。



 鬼達からの反発を防ぐため、表面上の関係を偽装ぎそうして当主同士の親密さをアピールする事にした。

 月読が風呂へ入ってるあいだ、千隼が色々とセッティングしていると湯谷ゆやが様子を見にきた。ついでに手伝うよう頼み、ちょっと足りない物もあるけれど思い通りに仕上がった。淡いピンクのふんわりした枕は、さぞ似合うにちがいない。

「千隼様……ええと、あのぅ、本当にこれで宜しいのですか……」

 布団を敷き終わった湯谷が訊いた時、扉を開けて月読が現れた。

襟元えりもとから風呂あがりの湯気が上がり、ほのかに石鹸せっけんの良い香りがした。長風呂で丁寧ていねいに体を洗う姿を想像して、千隼の妄想もうそうに火がつく。

 夜も遅く湯谷が去った後、指定した布団へ月読が横になった。なにげない会話を交わしながら千隼は月読へせまる。



――――手が触れて温かい体温が伝わった。手を握ると月読が恥ずかしそうに身をよじり布のれる音がする。千隼はそのまま月読を引き寄せた。

「さあ、僕を楽しませて下さい」

 月読の目の前へいきり立ったものを見せつけた。月読は恥じらいながらも千隼の雄へそっと手をはわせ、一心不乱いっしんふらん奉仕ほうしする。

口を吸って身体を愛撫あいぶすると月読の口から吐息がもれた。筋肉の張った豊満ほうまんな胸を揉みしだけば桃色の実がち上がり、誘うようにゆれている。指先で突くと月読は身体をビクリと震わせ、指をんでもれ出る声を抑えた。

浴衣ゆかたが乱れて指を噛む月読は、男につかわしくない煽情的せんじょうてきな姿をさらす。千隼はおおい被さり、胸元へかぶり付いた。

だがしかし、かぶり付いた胸は大きくふくらんで千隼を圧迫する。

呼吸が苦しくなり藻掻もがいた。何とかのがれると目の前には月読はなくて、大きなっぱいだけがたたずんでいる。

身長よりも大きく卑猥ひわいな雄っぱいは、ジリジリと動き千隼に迫った。捕まったら窒息ちっそくしそうになるので必死に逃走した。

雄っぱいはどこまでも千隼を追いかけてくる。



 もだえ苦しんでいた千隼が目を覚ますと、厚手の布団が視界をふさいでいた。

「千隼、おはよう」

 声が聞こえて眼鏡メガネをかけた千隼は周囲を見まわす。隣の布団はきれいにたたまれ、ピンクの枕も上へ載せられている。月読はすでに着替え、小さな鏡の前で髪をっていた。柔らかそうな前髪がたれ落ちてれてる。

どこから夢だったのだろうかと、千隼は唸ってから鏡の前にいる男の顔を見た。

朝食の準備ができたと、湯谷が扉をノックして起床をうながされる。

「あのう……月読さま。僕らはどこまで……? 」
「寝ぼけているのか? ほら早く顔を洗いにってきなさい」

 きつねにつままれた気持ちになって、大人しく起きあがり洗面所へ向かった。用意を済ませた月読は、千隼の布団をたたんで部屋のすみへ並べていた。



 月読をともなって大きな食堂へ行くと視線が集まった。

雑多な会話の音であふれる中、見ないふりをしながら鬼達がこちらをうかがっている。

ここで食事を取るのも鬼達へ見せつけるためだ。茶碗ちゃわんを手に取った月読は、行儀ぎょうぎよくおかずをはしでつまんで食べている。

千隼にとっては見慣れた光景なのに、寝起きの月読がラフな格好で朝食を食べる姿を他の者に見られて胸中は複雑だった。優雅ゆうがに流れるはしさばきを見ながら、千隼はご飯を噛みしめる。



 朝食後、月読は祖父に呼ばれて行ってしまった。

柔らかい残り香のする廊下を眺めていた。側に寄ってきた若衆が、月読を制したと千隼を賛辞さんじする。

「その下衆げすな口を閉じなさい」

 スゥと切れ上がった薄茶の目は若衆をたしなめてから去った。千隼の目に震えあがった若衆達は、さすが氷の鬼だとたたえていた。
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