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第七章

逃避行1

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 月読は木製のベッドへ寝かされていた。身につけた白い着流きながし1枚きりで、身体の上には軽い羽毛のブランケットが掛かっている。

ログハウスのような建物内に物はほとんど置いていない、ベッドから降りようとしたら履物はきものさえも見当たらなかった。

「九郎? 」

 最後の記憶をたよりに男の名を呼んだ、けれども建物に人の気配はない。窓から外をのぞくと、ログハウスは森に隠れるようにひっそりと建っている。
月読は扉のカギを開けて裸足はだしのまま外へ出た。周りには妖除あやかしよけの結界が張られていて、誰が張ったのか想像がつく。

敷地のすみまき用の丸太が積み上がり、苔生こけむして何年も使われていないようだった。



 見回している内、細い道を見つけた。

薄着うすぎで持ち物もなく、月読にとって危険な御山の外だ。本当なら誰か来るまで待った方がいい、しかし最後に見た男の目を思い出して不安にかられる。

――――早くここを出なければ。

 連れ去られてから長い時間は気を失っていない。民家へ辿たどりついたら通信手段があるはずだと、非常用の懐中電灯を持った月読は道を歩きはじめた。

日が沈み森は暗闇におおわれ、こずえのゆれる音がする。枯れ葉がつもり裸足の足元はおぼつかない、細道の横は急斜面になっていて川の流れる音が聞こえる。あやかしひそんでいるかもしれないので月読は慎重に歩を進める。

坂をくだったところで道の分岐に出た。標識ひょうしきを見つけて、ホッと胸を撫でおろす。

「どこへ行くつもりだ? 」

 背後から低い声が聞こえた瞬間、首へ衝撃が走り月読はまた気を失った。



 車のエンジンの振動で目を覚ませば、目隠しをされて横たわっていた。手足を縛られて動けない、運転席に座った男は無言で車を走らせる。

車から降ろされ月読は男にかつがれる。湿った土の匂いがして人けの無い場所だと察した。

建物のなかで目隠しと手足の縄が解かれる。

九郎が屈んでこちらを見ていた、いつもと違う雰囲気をまとう双眸そうぼうは、黒く塗りつぶされたように光も通さない。九郎が何を考えているのか分からなくて、月読の背筋を冷や汗がつたう。九郎がまばたきをした刹那せつな、左目にたくさんの黒い目がひしめき合っていた。ゾワッと鳥肌が立ち、月読は無意識にけ出した。

 ドアへ手が届く寸前、足首をつかまれて引き倒される。

「俺から逃げるのか? 」

 地を這うほど怖ろしく低い声がして、おおかぶさった異形の目が月読を見る。無理やり押さえつけられて衣服を脱がされる。

「やめろっ、九郎! 」
 尋常じんじょうではない力で自由を奪われ、両手を頭上でいましめられた。すぼまりを指で広げられた後、強引に肉杭にくこうつらぬかれる。

「うっ――――ああぁっ!! 」

 月読の片足は持ち上げられて、九郎の腰が荒々あらあらしく動いた。まるでくさびを打ちつけるみたいに、熱い肉の杭は何度も最奥をつらぬく。痛みで内腿が引きって、月読は覆いかぶさった男の背に爪を喰い込ませて血が付いた。

強制的なセックスなのに熱い杭を知る身体は、それをのみこんで締めつける。

「あ……」
 月読の腰はしびれて甘く疼いた。肉杭を埋められて痛みと苦しみに震える身体は快楽を求めて反応する。

「はしたない体だ」

 唇をゆがめて笑った九郎は股間にそそり立ったものを見下ろし、月読は情けなくなってギュッと目をつむり顔をそむける。足をさらに大きく開かれ根元まで挿入された、内壁は蠕動ぜんどうして肉杭を包みこむ。

「っ……い、や……くろうっ」
「男をくわえて体は喜んでいるぞ、嘘つきめ」

 九郎は月読の陰茎を握りしめた。先からみつが流れ落ち、長い指にしごかれるたびみだらな音がする。

「そうやって初心のフリをして、今までどれほどの男を咥え込んだ? 何人たぶらかしたんだ? 」

 イキそうになったところで強く握られ射精を止められた、下肢をむず痒い感覚が這う。
九郎は赤い組紐くみひもをふところから取り出し、腹につきそうなほどり返った月読のものを紐で縛った。所々に結び目のこぶが作られて陰茎を刺激する。

「あ……あっ、くぅ……いやだぁ」

 九郎の指が先端の結び目を尿道口へ押しこんだ。先からあふれる液体は紐の鮮やかさを浮き立たせ、縛られた陰茎がテラテラ光っている。こぶで繰り返し尿道口を刺激されて、快感の衝動が突き上げる。だが根元をきつく縛られているため達せず、月読は身をくねらせてあえぐ。

「上と違って、下の口は素直だな」

 満足そうな笑みを浮かべた九郎は再び腰を動かす。肉杭は浅いところをかき回し、れた頃合いを見計みはからって突き上げる。噛殺かみころしていた声を止められなくなり、月読は口を開けたままビクビクと痙攣けいれんした。赤い紐に縛られた物からダラしなく蜜があふれている。

 心とは裏腹に犯される身体はよろこびの声を上げた。

「も……ゆるして……お、ねがい」
 快楽のふちで月読は懇願こんがんした。羞恥しゅうちに染まった目元から涙がにじみ、九郎の舌がそれを舐め取る。

「俺とおまえの間を邪魔する、月読という皮を全て剥がしてやりたい」

 夜の闇より黒い男は、怨嗟えんさゆがんだ本音を怖ろしい声で吐き出した。
九郎の右腕が月読の首をつかんで絞め上げる。中心を戒めていた組紐くみひもは外され、最奥を熱い肉杭が一層いっそう強く突き上げた。

「――――うあっ――――あああっ!!! 」

 視界が白くなり果てた月読は、そのまま意識を手放した。



 うすく目を開けた時には、斜陽がベッドの端を照らしていた。
正確な時間は分からないが丸1日は経っている。まきストーブへ火がくべられて部屋は暖かく、衣服も新しくなっていた。

首を絞められた時の感覚が残っているけれど痛みは無い。月読が上半身を起こすと、掛けられていた羽毛のブランケットが落ちた。部屋のすみに座っている男が見えて動きを止めたが、眠っているらしく起きた事に気付かないほど疲れている様子だった。

 月読はマットレスへ腰掛け、座ったまま眠る九郎を見つめた。
彼の身に起こっている変化について思案をめぐらせる。左目に現れた数多あまたの黒い目と性格の変化は、九郎が御山を出ていく切っかけになった過去を想起そうきさせる。

ストーブの薪がぜて火の粉が舞いあがる。炎のゆらめきは隅にいる九郎の影を照らし出していた。月読が見つめていると、不自然にれた影はズルリと垂れてこちらへ影を伸ばした。

「……っ!!! 」

 伸びた影から逃げられず捕らえられてしまった。とらえどころのない影は月読にやんわり巻きつき、身体の自由を奪う。たくさんの黒い眼が月読を覗きこんでいる。

「……なっ!? くろっ――――」

 座って眠る男を起こすため声を上げたが、ぬうっと伸びた影に口を塞がれた。それを皮切りにうごめいて広がった影は手足へ巻きつき、肌をいまわって服の中へ侵入する。腿のつけ根を優しく撫でまわされ、内側への入り口を見つけた影が侵入しようとすぼまりをつつく。

「んんっ……」
 自由を奪われた月読は身をよじって抵抗する。細められた影の先は、窄まりへ吸い付いて圧す。まだ熱い杭の感覚が残っていた窄まりがヒクついた。



「やめろ、それは俺のだ! 」

 低い声が空気をふるわせ影は引っぱられた。巻きついていた影は離れて小さくなり九郎の影へ収まった。

起きて立ち上がった男は、月読のもとへ来て覆いかぶさる。衣服を剥かれて熱い身体が重なり、影につつかれていた部分へ指がし入れられる。

「……はっ……う」
「どうしようもない体だな。ここへ入るなら人間ヒトで無くてもいいのか? 」
「ちがっ、……ぁくっ」

 恥ずかしい言葉に反応して、埋められた指を締めつけてしまった。わらった九郎の腰が膝を割り、ガチガチの杭が尻へ侵入する。

「――――ああっ!! 」

 月読は首を仰け反らせた。硬い腹筋を手で押し返すものの、抵抗はむなしく奥まで突き入れられる。肉の杭は埋まり、奥へ奥へと突き上げる。

愛憎の入りじるいとなみ、それはつながりを断つまいと必死にくさびを打ちつけている姿のようにも見えた。
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