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閑話 ~日常や裏話など~
続・明と九郎の高校生活2
しおりを挟む「それ俺が捨ててくるよ」
掃除の終わった教室で重たそうに歩く生徒からゴミ袋を受け取り学校裏へと向かった。
ごみ捨て場で強面の3年生に包囲された。学院にこんな奴らがいたのかと驚きを隠せない。
御山では問題が起きた場合、当事者にならないよう言われてる。厄介が起きた時は一進や烏に任せていた。学校では当然【烏】である九郎が処理していた。
九郎は委員会の会議中、電話をかけるのも憚られ迷っているうちに連行される。不逞の輩たちに囲まれ体育倉庫へ到着した。逃げるにしても人数が多い、乱闘になって問題になること必須だ。
倉庫の跳び箱へ角刈りのヒゲ男が腰掛け、横には派手な男がへらへらとニヤついていた。いかにも年上で制服を着ていないからここの生徒ではないだろう。
イスに座った状態で拘束され、後ろ手に縛られた。極悪な顔つきの3年生らは典型的な悪の笑い声を倉庫へひびかせる。
――――まるでここだけ退廃した世紀末だな。
やや眉をあげた明は煩わしそうに溜息をついた。
3年生は電話を掛けはじめ、佐藤の名が聞こえる。どうやら彼と因縁があり、後輩の金髪も絡んでいる様子。喫茶店では礼儀正しそうにみえたが裏で散々ヤンチャしていたらしい、金城が明の名前を出したため仲間だと思われていた。
隙を見てどう逃げようかと観察した。
抵抗しない明の前に、眉無しスキンヘッドが立って恫喝してきた。シャツを全開にして腹筋を見せつけている。
「勘弁してくださいよー、せんぱい」
明が大袈裟に困った顔をすると、スキンヘッドの先輩は髪を掴んだ。
「コイツ、図体デカいくせにビビってやがるぜ」
周りに見せつける様にスキンヘッドは鼻で笑い、吸っていたタバコを顔へ近づける。顔へ押しつけると思ったタバコの火は頬を掠って髪へ押し付けられた。髪は焼け嫌なにおいが鼻を突く。
「オマエ、けっこうきれいな顔してんなぁ」
明の顔を見てニヤついたスキンヘッドの男はイスの拘束を解き、襟首をつかんで奥のせまい用具置き場へ引っぱる。後ろ手に縛られた明は用具置き場のマットレスへ放り投げられた。
「うひゃひゃ、面白そうだから俺も混ぜろ」
派手な男も用具置き場へ入って来る。危ない目つきの男は普段からクスリでもやっているのだろう、溶けたガタガタの歯で嗤う顔は不合理な雰囲気が出ていた。
「おぉい杉野ぉ、芯名まで……お前らあんま悪ノリするなよ。殺しちゃ駄目だぞぉ」
仲間の悪いクセがはじまったと、角刈りの男が嘆息した。
カチャカチャとベルトを外す音がする。杉野というスキンヘッドはニヤニヤしながら歩いてきた。
見張りの男が扉を閉めて、外から開けられないようモップを立てかける。上半身を起こせば芯名に羽交い絞めにされ、スキンヘッドにシャツのボタンを外される。
貞操の危機、しかし明は非常に億劫な表情をしていた。生徒相手に面倒ごとは避けたかった。人数も減り用具置き場は密閉状態、うごくには好都合な状況でもある。
「へへへ……大人しく俺の咥えりゃ、優しくしてやるよ」
甘ったるいガソリン臭のする芯名は|嗤《》わらいながら耳元で囁やく。ゾワリとした感覚が背中を這って直感が反応した。芯名へ潜りこんだ妖の気配を察知し、明の表情は一変して鋭くなった。
ほぼ反射的に躊躇いなく体が動く。
拘束された両腕を後ろへ振り上げ、腹部をおさえてうめいた芯名へ頭突きを喰らわせる。杉野が怒号を発して襲いかかってきたので股間を蹴り、足で首を絞めればズボンを下ろしたまま白目を剥いて崩れおちた。
フラフラと立ち上がった芯名がナイフ片手に飛び掛かってくる。深く息を吸った明も立ちあがり、足底の一撃を鳩尾へ叩きこむ。気を込めた足底が入った瞬間、芯名の背中から黒い靄が飛びだしきえた。
「て、てめえっ!? 」
寸秒の間、見張りをしていた男はうろたえて拳をふり上げた。難なく躱し、踵を振り下ろすと見張りの男も倒れた。
芯名という輩は妖に憑かれていた。黒い靄の痕跡が残っていないか調べたが、蹴りで憑き物は消滅していた。
「妖の刺客でもなさそうだし、さてどうするかな? 」
気を失ってる芯名へ腰を下ろし、明はこれからを思案する。
拘束を解くため蹴り落したナイフを探していたら外が騒がしくなった。鉄扉を動かす音がしたが、つっかえ棒で開かない。しかし外にいるのが敵なのか味方なのかわからない。
パリン。
唐突に用具置き場の小窓が割れた。鍵は開けられて窓から黒い影が滑りこむ。意想外に九郎が現れた。彼は辺りを見まわしてから明の傍へ来る。か弱くない男を捕らえた輩たちは全員気を失い、すでにやるべき事は無かった。
「九郎!? どうしてここへ? あっそうだ、この男に憑き物がいたぞ」
鋭い双眸は明が腰掛けている男を無言で見下ろした。
「鈴木センパイ――っ! 」
小窓から落ちた金髪が尻もちをついた。金城は扉のモップを外し、佐藤と仲本がなだれこむ。
「明! 無事だったか!! 」
外にいた輩と殴り合い2人ともボロボロだ。仲本は明が椅子にしていた芯名を確認して鼻血まみれままヒュウと口笛を吹いた。佐藤は歩いて来るなり金城の頬を張った。大きなビンタの音がして片頬を赤く腫らせた少年は泣きそうな顔で謝っている。
「すまねぇ……コイツが迷惑かけちまったみたいだ」
義理堅い友人は血まみれの拳を握りしめて頭をさげた。
委員会で残っていた先生が走ってきた。明の拘束を解いた九郎はナイフと紐を先生へ渡す。用具室の男たちは九郎が伸した事になっていた。
3年生らは謹慎と退学処分、学院の生徒ではない角刈りと芯名は傷害と薬物所持で後日逮捕された。過去にやらかした罪を掘りおこされ発覚したらしい、主犯は九郎が完膚なきまで潰し淡々と処理したので任せきりだった。そんな彼に佐藤と仲本は震え上がっていた。
佐藤と仲本は殴りあいの喧嘩をした理由で1週間の謹慎処分を受けた。明も謹慎処分という名目で休みが欲しかったけれど、九郎の鋭い目に却下された。
金城は中学生のため警察の厳重注意だけだった。半グレの集団で使いぱしりにされていた金城は、明と出会った日に脱会しようとして殴られていたようだ。佐藤もおなじ半グレに目を付けられていた。
ものごとは収まり、帰宅した明は柔らかいソファでくつろぐ。駄弁っていると報告を終えた九郎が戻った。だらけた姿勢で雑誌を読んでいた明のとなりが沈む。
「どうだった? 」
一進の反応が気になってたずねたら、問題ないと返事があり安堵して雑誌のページをめくる。
親指で頬をなぞった九郎が険しい顔になった。指でたどった部分はタバコの火が掠ったところ、移動した手は焦げた髪へふれる。
「退学では軽過ぎたな……」
怒気を孕んだ黒い双眸が細められた、こういう時の九郎はすこし怖く感じる。
火傷用の軟膏を塗られながら、なぜあの場所が分かったのか尋ねるとアイフォンのGPSで特定できるそうだ。いつもは行かない場所へ移動したため、様子を見にいけば佐藤達と出くわしたらしい。
「本当かよ……」
行動は筒抜け、明は呆然とつぶやいた。苛立ちのとばっちりを受けたが、明は巻き込まれただけだと肩を竦める。冗談めかしたら不満顔の九郎が覆いかぶさる。即座に十字固めをしようとすれば避けられ足の関節を固められる。
「マジ痛い。ない、お前それはないわ」
痛さにうめき、明は足を固めている腕を力なくタップした。
2人にとっては修練の延長線、寝技をかけ合い戯れていると九郎が真剣に見つめていた。視線に気づいた明は雑誌の話題をふり興味をうつした。
時々向けられる九郎の想いに気づいていた。しかし明は気付かないふりを続ける。
「おはよう」
1週間経ち、謹慎の解けた佐藤が前の席に座っていた。明が声をかけると佐藤はふり向き、申し訳なさそうに謝る。
「明を巻きこんじまって……すまん」
あんなことがあり避けられると思ってたと佐藤は話した。明はよくわからない内に巻き込まれ、事件はすでに解決している。
何事もなかったようにのんびり返事をした。
「へへ変わんねーな、お前」
佐藤は気の抜けたような表情で笑った。
そんなことはない大変だったんだと主張するけれども、眠たい顔で言っても説得力が無いと佐藤は笑う。お詫びに学校帰りにクレープを奢ってもらった。暗躍した九郎の事を訊かれて、ただの高校生だろうと答えた。
「あー、でも敵には回したくないタイプの奴かな? 」
明がつぶやけば佐藤と仲本は同時にうなずいた。
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読んで頂きありがとうございます。
「多忙な日々と流れる月日」で出てきた友人たちの話でした。
応援ありがとうございます!
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