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第四章
祝宴
しおりを挟む今年も忙しい季節がやってきた。
西会館の大広間では長老会の面々が一堂に会した。高座椅子へ腰かけた客人たちの前には色あざやかに盛り付けられた刺身や天麩羅、小鉢がならぶ。昆布だしの鍋へクエのアラが投入される。クエの身は脂がのって濃厚だが淡白で食べやすい、月読が湯引きしたゼラチン質の皮をかじっていたら頭上から声がする。
「ほら、こっちも食べろ。美味ぇぞ」
となりへ座る大柄な男は、見た目とは違いこまめに世話を焼く。無骨な手はまわりの者達へクエの身を取りわけて小鉢から湯気が上がる。反対側に座った人物から、ポン酢の器を渡され白身を浸した。脂ののった白身はポン酢の酸味でさっぱりした味わいになった。
向かい側の席ではすっかり出来あがった赤い顔の御老体たちが楽しげに笑っている。
長老会の忘年会。月読はいつものラフな浴衣姿ではなく、キッチリと光沢のある着物を装い余所行きだ。
コの字型に配置された卓の斜め向かいの爺さまが粛々と料理を嗜んでいた。鬼平の酔態は見たことがない。月読がこっそり見遣ると勘づいた爺さまはシワを深くして笑み、酒盃を差しだす仕草をした。
月読は徳利をたずさえて鬼平の盃へ酒をそそぐ。
「なんじゃ、鬼平殿だけズルいのぅ! 儂にも注いでおくれ」
鬼平の横へ座っていた爺さまもお猪口を差し出した。気がつけば出された杯の数が増えていた。笑顔の爺さま達はキラキラした目で月読を見つめる。徳利の中身はあっという間に無くなり、空になったタイミングで爺さま達の輪から抜け出した。
「あいかわらず、爺ぃどもに人気だな」
丙も当然と言わんばかりに猪口を持ちあげ、スタッフが運んできた熱燗を注ぐ。今回の忘年会は丙の長老会入りも兼ねられ、彼は主役のひとりだ。
「今日は小僧を連れて来てねえのか? 」
月読が答えようとすると隣から一進の声がする。
「九郎なら仕事だ」
「烏は手広くやってるからなぁ。そのぶん引退したお前ぇさんはヒマになったな」
盃をかたむけ、丙は鼻で笑った。両隣に座る者たちとは親睦が長い、思えば子供の頃からの付き合いだ。イモの天麩羅をかじりながら両脇の会話を聞いてると、空になった月読の盃へ一進が熱燗を注いだ。徳利を持った一進は向かいの席にいる爺様たちにも挨拶してくると言い席を立った。
「今日参加できなかった九郎と若ぇの集めて、別口で祝宴会をしなきゃな」
上機嫌の丙は口の端を上げ、手に持った酒を飲み干す。
月読が徳利へ手を伸ばしたら丙の手とぶつかった。大きな手のひらは一瞬止まって手背を撫でるように通過した、身体を這う太い指を思いだして月読の顔に熱が集まる。その様子を見た丙は低く笑って空になった盃を置いた。
宴もたけなわとなり2次会へ赴く者や帰途に就く者を見送る。他に残っている者はいないか確認するため宴会場へ引きかえした。
休憩所を通り過ぎようとしたとき、観葉植物の後ろから伸びてきた腕に引き寄せられた。声を発するまえに口を塞がれ、分厚い舌が口内へ侵入する。喉奥まで押しこまれた舌に呼吸が苦しくなれば、分厚い舌の先は器用に月読の舌を絡めとった。
「っ……ぅん……」
着物の上から大きな掌が腰をなぞり、手の甲を撫でられた時と同じゾクリとした感覚が背筋を這う。顎をつかまれ上を向けば、丙の剛健な顔が月読を見ていた。
「ったく、烏の小僧に熱あげやがって。散々おあずけ食っちまったぜ」
丙の舌はふたたび口の中を侵す。触れる舌は熱く背筋の痺れは腰元へあつまり、ジワリとした疼きへ変わった。休憩所の暗がりでキスをしていたので廊下を歩く人の気配に落ち着かない、ここへ残っている長老会の人間に目撃されたら何を言われるか分かったものではない。
様子を察したのか、丙は月読を宴会場と繋がる宿の1室へ連れこんだ。介抱するように腰へ手を回し、扉のカギを開けて中へ押し込む。部屋へ入った途端、太い腕に引き寄せられて厚い舌をねじ込まれた。口腔の粘膜が擦れあい、気持ちのいい感覚が生まれる。
ベッドルームへ行く途中、ふと九郎の顔が浮かび足が止まる。だが服のうえから硬くなった股間を撫でられ理性が飛びそうになった。
「こんなになっちまって、どうするんだ? 今日は帰っても誰も居ねえんだろ? それとも自分で慰めるか? 」
意地悪くささやいた丙は、袴の横から手を忍ばせ薄い布ごしに月読のものをなぞった。指の腹で撫でられるたび快感にふるえ、月読は大きな手を押さえた。動きの止まった手はそこへ留まり、刺激を欲しがる腰は無意識にゆれる。
「あいつが怖ぇか? 他の男と寝たら仕置きでもされるのか? 」
愉快そうな声がひびき、下肢と頬に熱の溜まった月読はきつい眼差しで丙をにらんだ。
「そう睨むなって、猿だけが器用に食ってたのに収穫されちまって自由に食えなくなったんだ。前にも増して美味そうな実が転がってたら、食いたくなるってもんだろう? 」
丙とは互いに情けで繋がっている。毒気を抜かれ困ったように眉を上げた月読は、太い首へ腕をまわして口づけをする。逞しい腕が腰へ巻きつき、腰帯は解かれ床へスルリと落ちた。
暖色のライトは柔らかく室内を照らす。
肌着を脱がされた月読は、パンツと足袋だけの姿になっていた。下着をずらされ隙間から起ちあがった陰茎が先をのぞかせる。雫を垂らす鈴口を太い指の腹で弄られる。
「……はっ……っ、足袋くらい脱がせろって……」
丙は仰向けに月読のふくらばぎを抱え、歯を使い器用に足袋のホックを外した。丙の唇がふくらはぎへ押し当てられ柔らかい内側の皮膚へ熱をのこす。太ももの付け根へたどり着いた舌は陰茎の先端へ這った。
「あぅっ」
蜜の滴る先を強く吸われて声をあげる。分厚い舌は陰茎を下へ向かってベロリと舐め、根元の柔らかい膨らみを味わう。唾液に濡らされた指が双丘の奥を指圧するように揉み、月読の下肢は我知らず持ち上がった。
「あっ、くっ……ああっ」
雄の匂いのただよう肉塊を充満に奥へ埋められる。腹ばいの姿勢にされ脈打つ肉塊で内側をかき回された。月読は背筋を反らせ四肢を突っ張り、かすれた声をあげる。
「どこ触ってほしい? 」
後ろから覆いかぶさった丙がうなじを甘噛みしてささやく。
「……っ……まえ、も、さわって……ほしい……」
大きな手は月読の張りつめたものを包みゆるゆると扱いた。腰の動きに合わせてくちゅくちゅと卑猥な音をたてる。身の内側と前へあたえられる快感で肉塊を締めつけた。激しく突きあげる雄はやがて最奥へ熱い滾りを吐きだし、月読も先から白い粘液を散らせ戦慄いた。
枕を抱いて気怠げに横たわり、月読は乱れた髪をかき上げる。
ルームサービスを受け取った丙は戻りサイドテーブルへ置いた。月読は断ったものの何を頼んだのか気になりチラリと覗く、台には酒のグラスと果物やデザートまであった。アイスクリームに興味を示せば、丙がスプーンで掬って差し出しかぶりつく。バニラアイスは口で溶ける。
「部屋に入った時、なんでためらった? 」
「九郎が怖いとか……そういう分けじゃないけど、愛想を尽かされて嫌われそうだなって一瞬思ったんだ」
「はぁん、あいつは全部承知の上だろ。いまさらそんなことで愛想尽かすかよ」
丙はグラス酒を水のごとく飲み干す。歯切れ悪くうなる月読の口へ葡萄が押し込まれ、動かすとマスカットの風味がひろがる。
ルームスタンドが照らす部屋の片隅でチカチカする光を見つけ身を起こす。九郎からの着信が何件か届いていた。近況を尋ねるものから宴会のこと、返信が無いことを気にした文言、送り返そうにも既に日付は変わっていた。
ベッドへ踵を返し、寝ていた場所へダイブした。枕へ顔をうずめた月読は溜息をもらす。
「こりゃあ、バレたら本当にお仕置きコースかもな」
「誰の所為だと思っている」
「俺のせいにすんなよ。お前ぇの多情でヤラしい体の所為だろう? 」
横から覗きこんだ丙の楽しそうな声が鼓膜へとどき、月読の尻を大きな手が撫でおろした。果実の汁で濡れた指が解れた窄まりへ挿入される。果物の味は分からないけれど、ムズ痒い感覚が内側を細かく押しあげる。
「あぐっ……ひ、のえっ」
弱いところを押された月読は、身体をブルブル震わせて声を絞り出した。
「感じる場所、ちょっと変わったんじゃあねえか? あいつ、ちゃっかり開発してやがる」
気恥ずかしさで頬へ熱が集まる。九郎とは致しているけれども、いたって普通の交わりをしているつもりで心当たりはない。丙に好いように身体をまさぐられ、奥へ指が深く沈みこむ。甘くうめいた月読は内腿を痙攣させた。閉じられない口からツウと涎がこぼれ、前を刺激されず内側だけでイッた。
「ん、ふっ、……っ――――あぁっ」
淫悦なしびれは奥でひろがり、太い指を包んで蠕動する。
肩で息をしていると、指は引き抜かれて大きな肉の塊が窪へ沈んだ。うっすら湯気を上げる剥き出しの腹筋が肉棒とともに尻へ打ちつけられる。律動が全身をゆすって思考を追いやられた月読は快楽へ呑み込まれていった。
ピロン♪
東雲の淡い光りで明るくなった。枕の下から取り出した液晶画面をタップして送れば、早い時間にも拘わらず九郎から返信があった。今日も仕事で家には帰って来れそうにない、ふたたび枕の下へ仕舞い頭をのせて唸った。
「ふくれっ面になってんなぁ」
隣で寝ていた男の手が伸び、頭をぐりぐりと撫でられる。武骨な男に抱き寄せられ、乱れた髪の上からキスをされる。今日も宿へ泊まるか聞かれて月読はぶっきらぼうに答えた。
「……帰る」
「ったく、お前ぇ仕事にヤキモチ焼くなよ」
呆れた声を出したあと丙は笑いうなじへ口づける。背中へあたる力強い心臓は鼓動し、大きな体躯は月読の憂鬱さごと包み込んだ。
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