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第三章
残暑
しおりを挟む真っ青な空から降る日ざし、遠景は蜃気楼でゆらめいた。ぬるい風が吹き生絹の白縞から紺色の長襦袢がチラリとのぞく。
先刻まで仕事で月読家を訪れていた。鬱蒼と陰る林道を抜けたとたん、影のない石畳から熱気が立ちのぼる。あまりの暑さに扇子をかざせば、見覚えのある顔に呼び止められた。
「おまえ! 今朝、連絡したのにちゃんとメール見て――――」
ズカズカ歩いてきた三宅太郎は、そこまで言いかけて咳ばらいをした。
「ん"ん"っ……月読殿、九郎様が屋敷に帰られてること聞いてるか? 」
いつも軽い調子の兄弟子が慣れない言葉を使いこなそうとするさまに月読は扇子で口元を隠す。笑いを堪えているのがバレて、口をとがらせた三宅につめ寄られた。昔とかわらず御節介な兄弟子は近状を伝えてくる。道へ乱反射する光のごとく騒々しさに当てられて苦笑した。
九郎が帰ったことを聞いても心緒は揺れ動かなかった。
しかし玄関を開けて入った時、一瞬ざわめいた気がした。烏の家は彼の実家だから帰省するのは当たり前、それ以外何かがあろうはずもない。
居間へ座り三宅のメールを確認する。アドレスに九郎の名が残っていて手を止めた。単純に忙しかったのもあるけど互いに連絡は取っていない。消すことも出来ない名前、今日のように幾度か手を止め結局なにも送らなかった。
初雪の降った日、冷淡な言葉で九郎の背中をおした。自ら切り離した片割れ、その位は理解している。
「いまさら……? 何を話すつもりだ……」
自嘲気味に笑い、画面を閉じて座布団へ放り投げた。
御山の見える離れへ行き、籐のリラックスチェアで身体を伸ばした。ほどなくして加茂が新しい仕事の話を持ってきた。仕事に没頭する日々を送り、目新しい出来事もなく大学最後の夏休みは終わった。
久しぶりに煌々ときらめく繁華街を歩く。
外出禁止も警護の者を付ければ可能になった。四六時中、堅苦しい警護に見張られるのは辟易する。両方を兼ねた丙を誘って酒処を巡った。
最初のスッポン料亭から4軒ハシゴして5軒目に突入しそうな勢い、ゴリラの肝臓と違ってさすがに酔いもまわり歩けば横へ進む。丙の呼んだ迎えの車へ襟をつかまれ放り込まれた。
「もう飲めん……」
後部座席にもたれて後ろへ沈む。深夜のネオンを眺めながら丙の言葉に鈍い返事をした。車は大通りを渡ってホテルの立ちならぶ道を走った。夜遊びしていた時に馴染みのあったホテルを通りすぎ、せまい路地裏の立体駐車場へ入った。
駐車場を出ると緑葉のしげる日本庭園へでた。周囲の喧騒から隔たれた和風旅館のようだ。
丙が手続きするあいだ無人のエントランスを見まわした。来訪者はすれ違わない作りになっている。高級料亭と錯覚するような庭園の廊下を歩き、丙の携帯画面の操作でドアが開く。そこで気付いたがやはり旅館ではなくラブホテルだ。和式の空間は大きなリビングとベッドルームを兼ね備えてる。
金持ちのおっさん御用達だと丙はにやりと笑った。テーラードジャケットを脱ぎ、リラックスした月読はシャツのボタンを開ける。大きなカウチへ腰をおろし飲み物とつまみを注文した。
「たまには気分が変わっていいだろ? それに家だと遠慮して声おさえてる時あるよな」
月読は口へ含んだジャスミン茶を噴きそうになって堪えた。前髪をなでつける動作をしてから丙の腿を蹴とばす。カウチの隣へ陣取ったゴリラはつつかれてる位の面持ちでビールを飲んでいた。
頭をもたれかけていた月読の興味はベッドルームへ向く。ベッドへ敷かれた布団を調べるとフカフカの手触りが心地好い。突然うしろへ重みが圧しかかり、腹ばいの姿勢で丙とベッドに挟まれた。
「ちょ重い、ひのえ! 退けって! 」
体重に圧しつぶされ、おまけに硬いものも尻へ触れる。丙は怒張した欲望をズボン越しに押しつけていた。
「ベッドで尻突きだして、誘ってるのかと思ったぜ」
「……っ……」
獣になった丙に貪るような口付けをされた。分厚い舌は口を塞ぎ奥まで犯される。息が苦しくなって丙の舌を軽く噛めば、舌を絡めとられて口を吸われた。大きな手のひらは下肢へのびて、思わず身体を引くと尻へ硬いものが当たる。前から迫る手と後ろの雄に挟まれ逃れられない。
「おめぇよ……なんかあったのか? 」
耳元で尋ねられて月読は目を見開いた。だがすぐ元の顔へもどり何も答えず丙の動きに身をまかせる。
「いいぜ、忘れたいなら忘れさせてやる」
憂いをおおい隠すように背後の男は月読を包み、大きな手がシャツへ侵入して肌をなでた。
弱い部分を的確にまさぐられ、ズボンごと下穿きを下ろされる。弄られた陰茎は起ちあがり、先から雫を垂らしていた。ゆるく上下に扱かれ、雫がからみクチュクチュと湿った音がする。
「う……っ」
血液が集まり益々張りつめた陰茎はジンと痺れた。
グィとつかまれ尻を引き上げられた。腹ばいで腰を突きだした姿勢になり、丙の正面に尻が晒される。ありえない姿勢に前進して逃げようとしたが、太い腕でガッチリ固定され動けない。尻の割れ目に分厚い舌が這う、舌は奥の窄まりをつつき強引に侵入した。
「あっ!? やめっ……ひ、のえっ! 」
湿った感触にうろたえたが丙は止めない。濡れた舌は奥へ入りこみ、浅い部分を縦横無尽に慣らしていく。腹筋はグゥと引き攣り、窄まりがヒクつくのが分かる。声をおさえた月読はシーツを噛んで顔を埋めた。
陰茎を擦っていた手は器用に根元の膨らみを揉む。
「く……はっ……ああっ!」
内と外からの刺激に下半身がふるえて声をもらす。舌は跳ねるように煽って乱し、月読の欲望から滴った雫はシーツへ濡れた線をのこす。さんざん楽しんだ舌は卑猥な音を立てて抜かれた。
窄まりへ剥き出しの肉塊が押しあてられる。肉の衝撃をもとめる窄まりは物欲しそうに吸いつき、腰を当てがった丙は低く笑った。猛って反り返った肉の先端が閉じた入り口をこじあける。
「あっ、あぁっ――――っ」
内奥を擦りあげられる刺激、月読の奥は痙攣して硬くなった陰茎から粘液がほとばしる。
「尻でイッたのか? まだ入れたばかりだぜ? 」
楽しげな声が腹の内側へひびき、尻だけでイった羞恥で肉塊を締めつける。脈打つ太い肉棒は内壁を圧しひろげ、腰をつたう悦楽に身体がわななく。月読の欲望もふたたび鎌首を持ちあげ張り詰めた。丙のものを咥えこみ、雄を捨てた体は歓喜に打ちふるえてる。
獣のごとく唸った丙は荒々しく腰を打ち付ける。
どう猛に腰を穿たれ、熱い肉塊に最奥をくり返し突き上げられる。熱気は身体をつつみ、快楽で痺れた脳髄は溶けおちる。背筋を反らせた月読は嬌声を上げた。大きな手のひらが逃げないように腰を強くつかむ、丙の舌は背中を舐めうなじへ噛みついた。まるで獣同士の交尾だった。
丙の穿つ腹直筋が筋張り、一層深く突きあげる。最奥へ熱い液体を注がれて丙が呻いた。繋がった部分から白濁した液があふれる。
「…………っ!! あふっ……」
月読はかすれた声を出し、繋がったままシーツへ崩れ落ちた。恍惚の余韻にビクリビクリと体はふるえ、そそり立った鈴口から果てしなく白い精が流れる。
酔いもあって軽く寝てしまった。
目覚めると綺麗に拭かれ、うつ伏せに横たわる月読の隣で丙はビールを飲んでいる。寝違えて首が痛かったので枕を引きよせ頭をのせた。
目覚めたことに気づいた丙はグラスをサイドテーブルへ置いた。
「大丈夫か? お前ぇ、良すぎて手加減できなかった」
「酔ってて眠かったんだ……」
大きな手が頭をなで髪を梳く、眠さと脱力感でされるがままに身をまかせる。髪を梳いていた手は寝違えた首を揉み、首筋から肩の付け根へ触れて背筋を沿う。
「筋肉しっかりついてるくせに触ると硬くねえ……」
手は脊椎を沿って、背中の筋肉をなぞり広背筋を撫でおろす。すこし反った腰の後ろをたどった両手は尻を揉んだ。
「不思議なもんだ、尻も筋肉で盛りあがってるのに触り心地は良い。女の桃みてぇな柔らかい尻と違って、こう――――」
「……丙、あんま触るな」
ずっと尻を揉まれてる月読は気怠げに抗議の声を出す。
今更だろと丙は低くうなり、手のひらで包んだ月読の尻を割りひらく。奥の穴は晒され、先ほど注がれた精がトロリと溢れでる。流れ落ちる何ともいえない感覚に尻がヒクリと動くと、それをながめる丙は喉奥で笑った。
「男のくせにやたら婀娜でそそるよな」
片足を抱え上げられる。俯せだった月読は横むきに丙へ背中を預ける体勢になった。抱えあげた腿の内側を太い指がいやらしく触る。
「……丙……やめ、……んっ」
悪戯に触れられた部分へ体温の熱が足跡をのこす。余韻にひたる体はたやすく肉悦に溺れ、まだ白濁液のあふれる窄まりはやすやすと太い指をのみ込んだ。増えた指はぬかるんだ内側をかき混ぜる。
「んんっ、うっ……く」
理性が耐えしのび快楽に抵抗して首をふる。あざ笑う太い指は奥の弱い部分をさぐり、窪みをグィと押した。
「はっ――――あぁっ!! 」
月読のものから甘い熱が飛び散り、意識は白くフラッシュバックした。丙は猛った雄をふたたび挿入する。精の注がれた内奥は卑猥に肉塊を受けいれ淫らに収縮する。
「まだ欲しそうじゃねえか」
耳朶をなぶられ、根元まで脈打った肉塊が押しこまれた。理性の鎖は引き千切れ、何度も突かれる快感に思考はフェードアウトする。息をするたび肺から空気と吐息が断続的にもれる。
起った前のものを丙の指が弄り、奥をかき混ぜるように激しく突かれた。延々とつづく快楽と解放されたい苦しみに喘ぐ声は懇願へと変わる。
「ああっ!――――あぁっ!! もう――おねが、いっ――――」
丙の腰は最奥を突いた。深い衝撃に月読は熱い滾りをいきおいよく散らせ、同時に身の内へ熱いものを注がれる。
「あ――――……」
意識は途切れ途切れになった。最奥を快楽の液体で満たされ丙のものがヌルヌルと引き抜かれていく。だらしなく開いた下の口から白い粘液が内腿をつたって流れおちた。
ピッ、ピピッ、ピピピピ――――
アラームの音が静寂をやぶり、月読はまぶたを開けた。
「…………アラーム鳴ってんぞ」
丙の長い腕がサイドテーブルへ伸びて音源を渡される。しかし寝惚けた月読はアラームを切ってふたたび目を閉じる。
次に目が覚めた時は9時を回っていた。丙に起こされシャワーを浴びてからホテルを後にする。
ギリギリ大学の講義に間に合う時間だった。暑さの衰えはじめた初秋の青空から夜の断片は微塵も感じられない、子午線を通過するまえの太陽はアスファルトを照りつける。路面のへこみでガタンと震動する車内、尻へ何かが挟まったような名残に月読は顔をしかめた。
―――――――――――――――
お読み頂きありがとうございます。
もろもろの用語説明です。
※生絹…生糸で織った平織の絹布、軽くて透き通るほど薄い。白縞は白い縞柄のこと。
※長襦袢…肌着〈肌襦袢〉と着物のあいだに着るもの。ブラウスのような役割もある。
応援ありがとうございます!
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