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唇と唇が触れあって
しおりを挟む「ちょっと、ユウマ! ユーマおきろって!」
ユウマの腕は俺の胴体をガッチリつかみ放さない、努力もむなしく腕から抜けだせなくて俺も眠くなり寝た。
まぶたをひらけば小1時間ほど経っていた。ユウマの腕が緩んでいて寝がえりをうつ、目を開けた彼がこっちを見ていた。
「起きたなら声かけてくれてもいいのに……」
「よく寝てたから」
声は低いままだけど寝起きの凶悪さは抜け、いつものユウマに戻りつつある。瞬きもしないで見つめていた彼の指が顔へ触れた。ゆっくり頬をたどった指はアゴのラインを撫で唇を押す。
ユウマの顔は笑っていない、男の俺でも見惚れるほど整った顔立ち、急に意識して心臓は早鐘をうつ。
唇が近づいて触れる。
ほんとうに軽く、鳥の羽根がふれたような感触。
なにが起こったのか分からない、ただ茫然と目のまえの男を見ていた。
「無防備すぎ」
停止した思考は発せられた声をきっかけに現実へもどってきた。俺は反射的にユウマを突きとばす。しかしここはソファのうえ、反動で床へ転がりローテーブルで頭を打った。
「いっ」
「楓っ!!」
ユウマが俺のうでをつかんで引き戻した。ちいさなコブが出来たくらいでたいしたケガじゃない、それよりこの体勢は問題だ。俺はユウマへ乗せられ頭のうしろを撫でられている。密着して彼の体温が伝わってくる。
胸のあたりがしぼられる感じ、これ以上の触れあいに危険を知らせる警告が鳴りひびく。後頭部のコブへ血流があつまり、心臓とおなじくらい煩く脈打つ。
「大丈夫だって! お腹すいたなぁ、ごはん作ろうっと!」
声はうわずったものの平静をよそおい立ちあがった。ユウマの腕に引き戻されなくて安堵する。小走りで台所へ行き、とりあえず野菜をみじん切りにして気分を落ちつかせる。
「サンドイッチじゃないんだ。まあいいや、そこの玉子もらっていい?」
緩慢なうごきでソファから身を起こしたユウマも来て、俺の手元をのぞいた。彼は置いてあった玉子を割り手際よくオムレツをつくる。食パンをトーストし、俺がみじん切りにした野菜の上へオムレツをのせ完成した。2人ともパジャマ姿で食卓へつく。
食事をしてからのユウマは通常どおり、さきほどの出来事は夢、はたまた寝起きドッキリだと思いたい。
掃除機をかけ終わったころ、シャワーを浴びたユウマがリビングへあらわれた。シンプルなTシャツにカーディガンをはおっただけなのに格好よく見える。
視線に気づいたユウマが手をのばした。おもわず目をつむると、彼の手はテーブルへぶつけた後頭部のあたりを探った。
「顔赤い、打ったところ痛くないか?」
「……ん」
朝からうろたえっ放しの俺はどうにか頷く。揶揄っているのではないかと思ったけど彼の口元は笑っていなかった。唇がかるく触れてはなれる。彼から俺とおなじ柔軟剤が香り鼓動は速まる。
干した洗濯物を眺めながらぼんやりしていると、ジャケットをはおったユウマが2階から下りてきた。身体つきが大きいからオトナっぽく、大学生と言われても納得しそうだ。彼がこっちを見たので目線を外した。俺は今朝ソファであったことを忘れようとしている。
「楓」
「なに?」
名前を呼ばれ、ドキリと心臓がはねる。
ソウマの試合観戦にさそわれた。マミさんが仕事で不在の日はユウマが様子を見にいく。バスケのことはよくわからないけど、俺も肩かけカバンを用意してユウマといっしょに家をでた。
トモヤやミズキみたいなお喋りもなくひたすら歩く。ときどき隣をうかがうと目が合い、おたがい何もなかったように前を向く。
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