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前編
黒い鬼
しおりを挟む扉の先には石造りの部屋があった。中央へキングサイズよりも大きく簡素なベッドが置かれ、蚊帳が掛かる。空は暗いが地上へ出たようだ。ぼんやりした光が窓辺に差して、草木のない広場にかがり火が立っていた。
外から行くか屋内を行くか、どちらにしても千隼を探すのが先決だった。月読は探索しながら屋内を調べることにした。音を立てないように扉を開け、素早くすきまを抜け隣の部屋へ移った。
成功したかと思われた矢先、鈍い光りを放つ刃の切っ先が喉元へ当てられた。
「ここへ忍び込むとはいい度胸だ」
どうやら月読に勘づいて気配を消していたらしい。男が指を弾いた瞬間、部屋のランプに火がともり暗闇に慣れた月読の目はまぶしく細められた。
刀を持っているのは赤髪の黒い鬼だった、最悪な鬼に出会ったと月読は嘆く。
「立て、おまえ牢をどうやって抜けた? 」
刃で顎を持ち上げられて、黒い鬼の赤眼が鋭く射貫いた。
黙っていた方が良かったのかもしれない。けれどもこの鬼があまりにも知っている男に似ていたので、言葉が口を衝き眼光に負けじと見返した。
「さぁな、あんたの仲間が勝手に開けてくれたから出てきた」
月読の反抗的な口ぶりに、黒い鬼が笑い尖った牙がのぞく。喉へ当てられた切先が喰いこみ、痛みで歯を食いしばる。
「俺と会った時に隼英の名を呼んでいたな……奴を知っているのか? 」
目の前の鬼は驚くほど隼英と瓜二つの顔をしていた。しかし容姿はそっくりでも瞳や肌の色は違う、極めつけは角で真逆の位置に黒い角が1本あった。この鬼のことを知りたいけれど千隼の救出が先だ。月読は思いを抑えて千隼を何処へ連れ去ったのか尋ねた。
「千隼? ああ、隼英の息子か、あれなら多分生きてるかもな」
生死など考えてもいない物言い、人の情けなど持ち合わせてはいない男は紛れもなく鬼だ。月読は少しでも知りたいと思った事を後悔した。
首を反らせて切先をはずし、躊躇いなく相手の急所を狙った。だが蹴りのつま先は相手の首へとどく寸前で躱される。
次の一手で機敏に動き、黒い鬼の背後から頸動脈へ差し込もうと指を突く。月読の指先は黒鬼の首筋をぬって急所へ到達した。
――――身体のつくりは人とそう変わらないはず。
しかし黒い鬼は力まかせに背中を月読ごと石壁へぶつけた。指が頸動脈へとどく前に衝撃がはしった。壁に跳ね返ったところへ容赦のない一撃を喰らい、余波で後ろの壁へヒビが入る。
「がっ」
口内に鉄錆の味が広がり、唇から赤い血があふれる。黒鬼に髪をつかまれ無理やり立たされた。
「隼英を知っているから期待したが、とんだ肩透かしを食った」
「ぐふっ」
腹を殴られた衝撃で血を吐きだす。身体を壁へ押し付けられ、さらに途轍もなく重い拳が入った。動作も早いので結界術で防ぐ前にやられる。
千隼を捕われたまま、ここで諦めるわけにはいかない。月読の腕は力を失いだらりと下がったが赤い瞳を睨みつけた。
燃えるような赤眼は細められ、捕まえた獲物をじっくり検分している。
やにわに血まみれの唇をベロリと舐められた。月読はあっけに取られて一瞬動作を止めたが、すぐに侵入した舌へ強く噛みついた。黒い鬼も痛みは感じる様子で口を放される。
「気が強いな」
隼英にそっくりな顔が笑って、血のついた舌を舐めずっている。
血糊の被膜で覆われた赤錆色の刀が、突きつけられ振り下ろされた。床へ内臓を撒き散らしたかと思ったけれど、長着の帯だけが切られた。赤い目は月読の身体を上から下までを視線で舐めまわす。
妖刀を放り投げた黒い鬼の掌が月読の脇腹へ当てられ、腹の筋肉をたどって腰を撫でた。
「……っ!? 」
何をされるか気付いた月読は抵抗したが、腕をつかまれ体重をかけた力で抑えこまれる。とっさに呪を唱えようとする口も塞がれ、長い舌が口内へ侵入した。思い切り噛みつくが鬼は物ともせず喉奥まで舌を押しこんだ。
「んんっ……」
鬼の牙が引っかかり月読の唇は切れた。流れた赤い血は鬼の冷たい血と混ざり合い、舌が痺れて体の力が抜ける。
腰にまわされた手は、後ろへ移動して尻をつかんだ。双丘を割りひらかれ、窄まりに太い指が挿しこまれる。
「うぐぅっ」
尻の奥へ潜り込んだ指の腹は、内壁を擦るように移動して弱いところを探し当てる。反応したくないのに身体がビクリビクリと震える。
「隼英を知っているのはこっちか? おまえ……男を知っているな」
口元をゆるめ嗤った黒い鬼の言葉に月読の頬へ朱が差した。顔を背けようとするけれど許されず喉を舌で犯される。ようやく喉が解放され荒く呼吸をした。
「やめ、ろっ」
指の本数を増やされ、乱暴にかき回された月読は身を捩った。
笑った鬼は月読を蚊帳の垂れ下がったベッドへ放り投げた。身体がバウンドした直後、黒い鬼は上から圧し掛かり両腕を頭上で押さえ月読の足を大きく開いた。
天井を仰いで熱り立つものが、秘められた場所へ押しつけられる。硬く黒い肉棒の先は強引に内側へ侵入した。
「くっ……っ、あああっ!! 」
グググッと肉棒は根元まで無理矢理押し込まれる。慣らされていない体は強張り月読は身動きできなくなった。
「きついな」
口の端を上げた黒鬼は強引に腰を動かしはじめる。埋まった肉棒を荒々しく抜き挿しされて月読は痛みにうめいた。
「うぐっ、あぁっ、やめっ! 」
大きく腰を突きあげられ、引きつった痛みで内腿が痙攣する。冷や汗がにじみ意識は掠れ、何度も突き上げられる暴力に弄ばれる。
ゆさぶられる身体、気づけば尻のあたりに生温かいものが伝い滑りがよくなった。血がながれ痛みは少しずつ麻痺する。内奥を圧迫する肉棒から、瘴気の混ざった精が吐き出されて腹の中が熱くなった。それで終わりではない、暴力的なセックスは月読の意識があるかぎり続いた。
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