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プロローグ~序章
双子の鬼1
しおりを挟む異国の血が混ざったような彫りのふかい顔立ちに、ボサッとした赤毛で長髪の大男。彼の右額には1本だけ白い角が伸びていた。
磐井隼英は、その容姿から先祖返りや鬼と人間の混血と噂される。
御山とよばれる山の中腹に広壮な邸宅をかまえ、【鬼】の異名をもつ磐井鬼平の息子であった。
隼英には多娥丸という双子の兄がいた。
爛々と燃える赤い瞳に、弟とは対照的に左額だけ黒い角が生えていた。しかし弟は兄と接する機会がほとんどなく、双子だったという記憶もおぼろげだ。
多娥丸は生まれる際、腹を角でつき破り出てきたといわれる。血まみれの双子は産声をあげ、母親はその場で息を引き取った。
腹を裂いたのは双子の兄だが、のちに知った弟の隼英も自責の念にかられ【鬼】を嫌う理由になる。
多娥丸は暴力的な性質を持っていた。その片鱗は赤子の頃からあって、無邪気に笑いながら加減のない力で人の腕など簡単に折る。
父親の鬼平は悩んだ末、彼が人を傷つけないように邸宅の奥へ半ば閉じこめた。だが身に宿す力が強大すぎた多娥丸は体が耐えきれず、生まれてから3年も経たない内に早世した。
悼む者もいないひっそりとした送葬、布に包まれた小さな遺体の入った箱を鬼平は運ぶ。洞窟を抜け拓けた河原を掘り、小作りの箱を地中ふかく埋めて石を積み上げる。
まわりは濃い霧が漂い、河原の向こうは根の国だと伝えられている場所だった。
鬼平は海の洞窟奥ふかく、鬼の世界で我が子を弔い葬った。
それを物陰からのぞいていた者がいる。
ボロボロの狩衣をまとった幽鬼は覚られないよう身をかくし、恨めし気な目で鬼平を見つめる。河原に人がいなくなったのを見計らい、小さな遺体を掘り起こして持ち去った。
角を折られた方鬼は、復讐の機会を虎視眈々と狙っていたのだ。
十数年後、方鬼はついに反魂の術を成功させた。
持ち去った遺体から蘇った子は、見る間に成長して大きな鬼になった。肌の色は死人のように青黒く変色して、生前と同じく黒い角が1本ある。
常闇の黒い鬼は、父も弟も憎んだ。
多娥丸は疎まれ独り鬼の世界へ捨てられた。なのに双子の弟は父に可愛がられて生きている。黄泉帰った鬼は黒く染まりし体のごとく心も怨嗟に満ちていた。
「そうじゃ多娥丸よ、いまこそ復讐の時じゃ! 」
卑しい笑みを浮かべた方鬼は、黒き鬼を焚きつける。有象無象の黄泉の鬼たちを集めて軍団を結成し、洞窟にほどされた封を多娥丸の力で打ち破った。鬼の軍勢は洞窟に満ちあふれ、人の世界を侵略しようと押しよせた。
しかしまたもや立ちふさがる者達がいた。
数百年の時をこえて、ふたたび常世の鬼と地上の鬼が対峙する。
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