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同級生
同級生(後)
しおりを挟む台風がくるとニュースで報じていたが雲ひとつない。
気温はすでに30度をこえ、仕事へでかけた母の言いつけどおり植木鉢へ水をやり、エアコンをきかせた部屋で夏休みの宿題をする。
お腹が空いて冷凍チャーハンを電子レンジで温めた。ついでにアイスバーをかじり外をながめると、アスファルトが太陽の光をまぶしく反射する。炎天下のなか、げんなりした顔で移動する人を見送った。
午後4時半、照りつけていた太陽もやわらぎジャージへ着がえる。
地面の熱気は生ぬるく頬へあたり汗がながれおちる。
住宅地のはしにある公園をぬけて洋館へ足をむけた。さっきまで車も人もいたのにここは閑散としている。洋館へつづく道路は行きどまり、その先は林道でたまに軽トラックが通るものの人影はない。
歩いていると雷が鳴った。
遠かった雷鳴はあっというまに近づき雨が降りはじめた。洋館は目前、門が昨日のままだったので俺は軒下へ走った。
強い雨粒が地面をたたき、排水溝からあふれた水は川になった。はんぶん祈る気持ちで空を見上げたけど止む気配はない、むやみに時間がすぎて周囲は暗くなり、背後には不気味な洋館がある。
空がひときわ明るくなって雷がおちた。
俺の悲鳴は轟音とはげしい雨にかき消される。
「大丈夫?」
軒下へうずくまってたら誰かが声をかけてきた。
息をのんで顔をあげると、きのうの青年が傘を差していた。血管の透けそうな肌がくらやみへ浮かびあがり俺の目は釘づけになる。
彼に誘われて裏口から家へ入り、雨宿りすることにした。
なかは廃家だった。ガラスケースに入ったはく製は放置されたまま、ラクガキされた壁はところどころひび割れて破片が散乱し、電気の通ってない屋内は暗い。
よび声のする方向へ歩く。
ぺーやんの動画にも映ってなかった場所。
廊下のはしに下りる階段があって、扉をあけたら今度はのぼる階段があった。家の人でも迷いそうな複雑なつくり、俺はスマートフォンのライトで足元を照らした。
先をいく青年のシャツと肌が白く浮かびあがる。
取っ手のないドアのむこうに長年使われてない廊下があった。埃っぽい匂いがして足跡がついた。
少しずつ記憶がよみがえってきた。
アヤといっしょにのぼった階段、あの廊下のさきに彼女の部屋がある。
扉のまえにいた青年はアヤの部屋へはいり、俺はあわてて後を追った。
彼女の部屋はさらにまっくらやみ、ライトを照らして先に入った青年をさがす。棚へおいた標本のガラス瓶がライトに反射した。
父親に教えてもらって自分で作ったものだと聞いた。懐かしくなってアヤとの思い出がこぼれる。
「俺、アヤとは友達だったんですよ。これも見せてもらった……アヤってどうしてます? また会えたらいいなぁ」
なにげなく呟いた。
彼は無言で話を聞き、俺は棚へライトを当てながら奥へすすんだ。
魚やなにかの胎児のようなものが保存液に浸けられて色褪せていた。小さい頃はめずらしかったけど、今見ると気持ちわるい。われた瓶があるのか部屋は異臭がする。
鼻を刺す臭いが強くなった時、天井できしむ音が鳴った。ライトをむけると縄がぶら下がってる。先端は朽ちて輪っか状の縄と骨、染みのようなものが床にある。
標本なんて大きさじゃない、人の形をしたもの。
異臭の正体に気づいた俺はその場へ吐いた。鼻と口をおおい、涙目になりながら名も知らない青年をさがした。
彼は窓のそとを見ていた。
外は暗いのに彼がよく見え、怖くなった俺は部屋を出ようと後ずさった。
しかし棚のところで落ちた瓶につまづき転んでしまい、窓のそとを見ていた青年が反応した。首は不自然にゆがみ少しずつ伸びる。
悲鳴をむりやり呑みこみ、息を止めたけど腐臭が近づいてくる。
「ミキヒトくん、わたし、わたしだよ。ふふ、なにも知らない、なにも知らないくせに、おまえもあいつらとおなじおなじおなじおなじじじじぎギギィ」
こわれた音声データのように少女の声に男の声が入り混じり、眼球のないアヤの顔が目のまえにきた。
もうれつな吐き気とともに俺は意識を失った。
大きなリボンをつけたアヤが俺の目のまえでクルリとまわって笑った。かすみがかった淡い教室のふうけい、母親ゆずりの長い髪がなびくアヤの手がこちらへのびた。
「起きろ、ミキっ、ミキヒトってば!! なんだよここ!?」
俺は泡をふいて倒れてたらしく、ヒナタにビンタされて起きた。アレをみてしまったのか涙を流したヒナタは俺を抱きおこし、サトシもてつだって洋館を脱出した。
なかば引きずられて裏口をでた時、「いっしょにいこうよ、おともだちでしょう」と耳元でアヤの声がした。
俺は音信不通になってて門のところへパトカーと母が来ていた。
時計を確認すると午前0時を回っていた。
かってに洋館へ侵入して警察や両親にこってり絞られた。
アヤの部屋には首を吊って数年経過した人の染みがあった。
身元はあの家の息子だった青年、父親が生きてるころは女装させられ虐待を受けていたそうだ。蝶みたいにきれいで儚いおもかげ、俺の知らないアヤ。
ぺーやんは事件後に1度だけ動画を配信した。
新聞紙で目ばりした部屋、電気もつけず暗闇でブツブツつぶやいてたのが最後だった。次の日部屋で首を吊ってニュースの片すみに掲載された。
ぺーやんの気持ちはわかる。俺も洋館が見えていた窓を包装紙でふさいだ。だって毎晩、洋館から首が伸びてきて窓を小さくたたくから。
「大丈夫?」って笑いながら。
いまもカリカリとちいさくひっかく音がして、ときどき少女みたいな笑い声がきこえる。目ばりした紙をはがせば、洋館でみた顔の溶けた青年がいるのだろう。
正気をたもってるけど先はわからない。
長いあいだ放置された遺体とぺーやんが見つかり事件は解決した。俺も元気に学校へかよっている。
今日も俺をみた近所の人々がひそひそとうわさをする。
――――――――――
読んでいただきありがとうございます
某企画で書いた主人公を男子高生にして焼きなおしたものです。
登場人物の設定など
◇小峰ミキヒト(平凡な高校生、1人っ子)
◇桜井ヒナタ(ラフで明るい性格、姉がいる)
◇森サトシ(まじめでちょいオタ、主張したいお年ごろ)
◇三月アヤ(本名アヤト、母似のほっそりした儚い美少年、父親に溺愛されていた)
◇三月政信(美容外科医、クリニックにきたマリーと出会い結婚。美容外科医としては人当たりもよく人気があった。息子が生まれた時は男の子として認知したが、アヤトのかわいさに娘として育てた。妻と子に尋常でない愛情をもち、妻の浮気をうたがい関係ない配達員とともに刺した。性格はモンスター)
◇三月マリー(東欧出身、ひかえめで線のほそい美人、表むきは従順だが結婚するまで夜の店で働いていたため交友関係は派手だった。結婚してから政信の異常さに気づき離婚を考えていた)
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