17 / 20
17話
しおりを挟む「フィン……どうしてここに」
完全な密室と化したモニター室に二人。フィンは無表情のまま、ゆっくりと私に歩み寄る。普段の柔らかな雰囲気が微塵も感じられない彼の姿を前に、ガタンと椅子を倒して立ち上がった。
「どうしてって。家にいるはずなのに、シャーリーが俺の側からいなくなることが前々から頻繁にあったから。それでさっき、セバスチャンが地下から出てくるのを見かけて、シャーリーがいるんじゃないかって思って、ここに辿り着いたんだ」
じわりしわりと迫るフィンに後退りをするも、ここは狭い部屋の中。あっという間に壁際まで追い込まれてしまった。
「フィン、待って。これには話が」
「話? それは俺に話せないことだったの? セバスチャンには話せるのに夫の俺には話せないの?」
「何でそれを。きゃっ!」
両手首を強い力で掴まれ、壁に押し付けられる。モニター室が薄暗いせいなのか、フィンの瞳が酷く冷たいように感じられて。背筋がゾクゾクと震え上がったのも一瞬、噛み付くように唇を塞がれた。
「ふっ、あぁ、んんっ、フィン」
「シャーリー……隠し事はしないでって先に言ったのはシャーリーだよ。なのに俺には隠し事をするんだ。セバスチャンには話して俺には話さないんだ」
「んっ、ふぁ、あぁ、ん」
下唇をフィンの唇に挟み込まれながら言葉を紡がれ、下腹部が甘く痺れていく。柔らかな感触を嗜むように唇を食まれた後、ぬるりと熱いものが隙間から入り込み、瞬く間に舌を絡め取られた。
「シャーリー、愛しているよ。七年前に出会った日からずっとずっと。誰よりも愛している。本当は俺から離れないように手首に手錠をつけて、永遠に一緒にいたい。片時も離れたくない。他の男と過ごす時間なんて一秒でも与えたくない」
「あっ、あぁっ、フィン」
舌の根元から這うように舐められ、ガクッと腰の力が抜ける。背中を引き摺るよう壁からずり落ちそうになった私を、フィンは片腕で抱き寄せて。唇が離れないように後頭部を押さえ付けた。
「シャーリー。ソフィアの件もだけど、俺に隠したまま解決しようとしていたよね。俺への相談は一切無しに。それは違うよね、シャーリー。違うだろ。もし俺が知らないところで危険な目に合ったらどうするつもりだったんだ」
口内も、唇も、唇の周りも、激しい動きでフィンの舌に舐められて、彼の唾液に犯されていく。
フィンは怒っている。確実に怒っている。威圧感を含ませた低い声で私に迫る彼も、こんなに乱暴な口づけも初めてだ。
怒りを露にする彼への恐怖からか、それとも身体の奥底から沸き上がる情欲のせいなのか、呼吸が震えて涙が瞳からこぼれ落ちていく。
「フィン、ごめんなさ、ごめんなさい」
「シャーリー」
「貴方に万が一のことがあったらって、怖くて言えなかったの。許して。お願い、フィン」
フィンの首に腕を回して、深い口づけに応えながら謝罪の言葉を口にした。フィンは薄目を開けたまま私をじっと見据えている。心の中まで見透かされそうな、氷のような瞳でじっと。
──勿論、フィンを巻き込みたくなかったというのは嘘ではない。でも、それ以上に自分の醜態を、彼には晒したくないという気持ちがあった。
監視カメラを屋敷の至るところに設置して、愛する夫と、彼を狙う女を四六時中見張って。こんなことをしてまで夫を奪われないように行動する醜い私を見られたくなかった。
愛する夫に白い目で見られたくなかった。
彼に嫌われたくなかった。
「……ごめんなさい。嫌いにならないで」
消え入りそうな声で、唇を震わせながら彼に懇願する。
フィンは私を見つめたまま、手を後頭部から腰へと滑らせ、私をぎゅっと優しく抱き締めた。
「ごめんね、シャーリー。きつく言い過ぎた。俺も自分のことを棚に上げてこんなことを言って、酷いよな。嫌いになんてならないよ。大好きだよ、シャーリー」
耳朶にそっと唇を落とされ、身体が小さく跳ねる。フィンの胸元に埋めていた顔を上げれば、いつものように穏やかな眼差しを向ける彼がいて。その優しい表情に、胸の奥が締め付けられた。
「……本当にごめんね、シャーリー。でも、これからはお互い隠し事はなしにしよう? あと、仲直りもしないと」
「フィン……」
腰は抱かれたまま頬を優しく撫でられ、再び濡れた感触が頬を伝う。
ああ。やっぱりフィンは心優しい夫だ。こんな私を許してくれるなんて。
「ごめんね。わたし……」
彼に再び謝ろうと視線を持ち上げたその時──身体が後ろへと倒れ、視界が反転した。
目の前にはフィンの顔と、その奥に天井があって、背中は机の上に押さえ付けられている。逃げようとしても、彼の両腕に閉じ込められて身動きが取れない。
「フィン……?」
自然と声が震えてしまう。
だって、フィンは私を平然と押し倒したまま、普段と変わらない笑顔を浮かべているから。
「シャーリー。俺の可愛いシャーリー」
戸惑って身体が硬直した私の片腕を掴んだまま、フィンは自分のネクタイをするりと抜き、それを私の両手首に縛り付けた。
「……こんなことが二度と起こらないように、ちゃんと仲直りしよう?」
3
お気に入りに追加
2,820
あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる