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13話
しおりを挟む「フィン。ちょっとだけ待っててね」
優しくフィンの唇に吸い付き、ちゅっ、と音を立てて惜しむように唇を離す。そして、不安そうな表情で私を見上げる彼にそっと毛布を被せ、ゆっくりとベッドから降り立った。
「……いっ、た……」
足を下ろした先にいたのは、床を這いつくばるように踞っていたソフィア。呻き声を上げて、身体を微かに痙攣させている。投げ付けた椅子が当たって、痛みに苦しんでいるのかもしれない。でも、こんな苦しみでは足りない。全く足りない。
フィンはもっと苦しんだ。迫り来る恐怖に怯えて、自ら命を絶とうとさえした。
私の愛する夫を傷付けたソフィアには、それ以上に苦しんで貰わなければ。死ぬよりも苦痛な思いを味合わせることこそが、此の女に対する妥当な制裁。
──私は、容赦なく彼女の顔面を蹴り上げた。
「っ、や!」
ソフィアの身体が仰向けに倒れる。透かさず彼女の胴体に股がり、口の中に銃口を突っ込んだ。
「あっ、ぁ、ば……」
「此のストーカー女。顔と名前まで変えてフィンを付け回すなんて、しつこいという言葉を知らないのかしら」
ガチャ、と音を立てて弾を装填し、銃を構え直す。ソフィアの顔は見る間に青ざめていき、やめてと言わんばかりに顔を横に何度も振った。
こんなイカれた行為をするものだから、人としての機能なんて欠落していると思っていた。此の女にも怖いという感情があったのね。最高じゃないの。
「それにしても良かったわ。貴女がフィンを犯していたら、膣に銃を突っ込んで弾を喰らわすところだったわ。それともナイフで膣壁と子宮を抉り取る方が良かったかしら?」
怯えた表情を見せるソフィアに反して、にっこりと微笑んでみせる。
血の気を失っていく頬を舌で這うように舐めてやれば、ソフィアの身体は大きく震え上がり。ガチャガチャと態とらしく銃口を口の中で暴れさせてやれば、喉の奥から甲高い悲鳴が放たれた。
「……ソフィア・リベラ。貴女のことは全部調べさせて貰ったわ。貴女がフィンに色目を使い始めた時点で、履歴書に書かれた実家に連絡しようとしたら全て嘘の情報で。どういうことかと思って調べたら、顔も名前も全て変えていたのね」
「あ、あっ、ぅ……」
「本当の名前は、アデリー・ガルシア。数年間に及んでフィンに執拗なストーカー行為を繰り返し、劇場から出禁を喰らった要注意人物だったなんて。フィンに今まで嫌がらせ行為を働いた全員の情報を調べたから、時間も腐るほど掛かったわ。犯罪者が逃げないように手間を掛けさせた罰として、色をつけて苦しんで貰いたいものね」
私とセバスチャンが今日という日まで、必死に調べ尽くした情報──此の女の本性を晒した途端、ソフィアの身体がガタガタと目に分かるように震え始めた。彼女なりに全力を尽くして隠蔽したつもりなのかもしれないが、そんなものは私の前では無意味に等しい。
「……あ、あぅ、あ……」
大きく見開かれたソフィアの瞳が、動揺からか左右に揺らぐ。私はソフィアの口に突っ込んでいた銃を投げ捨て、顔をぐっと近付けた。
唇から漏れたソフィアの吐息は笑ってしまうくらいに震えていて。此の女がフィンにそうしたように唇をねっとりと舐めてやれば、彼女の呼吸は更に震えた。
「過去の過度なストーカー行為に加え、素性の詐称行為、窃盗罪、そして強姦未遂。証拠を持って警察に突き出したら、どのくらい罪は重くなるのかしら?」
至近距離でクスクスと笑いながら、頬に爪をぐっと食い込ませる。ソフィアは息を切らしながら、瞳を泳がせて。「けいさつはやめて」と掠れた声で訴えた。
それもそうだろう。彼女はソフィアとなる前に、幾多の犯罪行為を繰り返してきたのだから。
「……このまま世に放ったところで貴女は社会の害悪にしかならないし、人脈の限りを尽くして貴女の本性と悪行はちゃんと広めておいてあげるわ。勿論、貴女の本当の実家にもね。それと」
ソフィアの首を掴み上げ、無理矢理立ち上がらせる。
胸以外露になった此の女の身体は、汚ならしく貧相で、これでフィンに触れようとしたことを考えれば怒りを通り越して笑ってしまう。顔は整形しても、身体まで改造する資金は足りなかったのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
警察なんかに突き出してやるものか。再びこんな女が世に放たれたら、堪ったものではない。
性犯罪者には、それに似合う場所で一生を過ごさせてやろう。
二度と地に這い上がれないように。そして私の愛するフィンに二度と近付けないように。
「……ふふふ。警察には突き出さないでおいてあげるわ。ソフィアちゃん?」
涙を滲ませるソフィアの頬に触れ、口元に笑みを綻ばす。恐怖の色を表情に滲ませながら震える彼女を前に、ゆっくりと唇を開き──そして、吐き捨てるように言い放った。
「私は心が広いから、貴女にぴったりの仕事を見つけてあげたの。話もつけておいたから、今すぐに連れていってあげるわ」
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