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11話△ ※フィン視点
しおりを挟む悪魔のような笑みを浮かべて俺を見下ろすソフィアに、身体が奥底から震え上がる。
何なんだ、この女は。
俺への執着心が異様過ぎる。
ソフィアを一年前に雇ってから、特別何かをこの女にしてやった訳でもない。あくまで他の使用人と同じように接しただけだ。
何故だ。こんな犯罪的行為をしてまで、何故、俺を。
「……フィン様。やっと結ばれる日を迎えられて、嬉しくて涙が出そうです。八年前からずっとずっと、この日を夢見ていました」
「は、八年前……?」
意味が分からない、どういうことだ。ソフィアがこの屋敷に来たのは、一年前だろう。八年前なんて俺はまだ十五歳で、小さな劇団に入ったばかりの頃だ。シャーリーと出会うよりも前の話じゃないか。
「どういう、ことだ」
声帯から絞り出した声が、自然と震える。
ソフィアは戸惑う俺を見つめながら、指先で自分の唇に触れた後──その指で俺の唇を擦るように撫でた。
「覚えていないのも無理はありませんわ。でも、私はあの頃からフィン様を見守ってきたのです。ずっとずっと、誰よりも貴方を」
ソフィアは口元に笑みを携えたまま、ボタンを外し終えた自らのシャツを床へと投げ捨てる。呆然としているのも束の間、下着姿になったソフィアは俺の身体に自分の身体を重ねるように覆い被さり、再び顔をぐっと近付けた。
「フィン様と熱い口づけをして、こんな風に触れられるなんて、夢みたい。でも、今はもうこれだけじゃ我慢できません。わたし、フィン様と最後まで結ばれたいの」
「は……っ」
心臓が大きく波打つ胸元を這うように撫でられ、身体が大きく跳ね上がる。
おかしい。身体がおかしい。今までソフィアに触れられたら、吐くほど気持ちが悪かった筈なのに。彼女に対して抱く嫌悪感に逆らうように、身体に熱が込み上げる。全身が火に炙られたように熱い。まさか──
「……フィン様、薬が効いてきましたか?」
熱に蝕まれる俺を見て楽しむように、ソフィアがにっこりと笑いかける。
──くすり。さっき、ソフィアが無理矢理飲ませたあれか……?
段々と呼吸が荒くなり、自分の雄が脈打つように勃ち上がっていくのが分かった。熱くて、苦しくて、この全身を蝕む熱から一刻も解放されたい。誰でもいいから、この熱を沈めてほしい。
「……フィン様、私が助けてあげます。一緒に気持ち良くなりましょう?」
恍惚とした表情を浮かべながら、再び唇を重ねようと顔を近付けるソフィア。刹那、シャーリーの顔が脳裏に浮かび──理性の中に残された力を振り絞って、ソフィアの額に頭突きを喰らわせた。
「っ……!」
相当強い力だったのか、ソフィアの顔が勢い良く離れ、背中が大きく仰け反る。
俺は身体を侵食していく熱を出しきるように息を吐き出し、ソフィアの顔を睨み上げた。
「俺が愛しているのは、シャーリーだけだ! 俺の人生に、シャーリー以外の女は要らない! 俺が生涯で抱く女はシャーリーだけだ……!」
はっはっ、と息を切らしながら、叫ぶように言い放つ。
ソフィアは赤く染まった額を手で押さえながら俺を見下ろし、醜く顔を歪めていく。まるで作り物の顔から化けの皮を剥がしたような、そんな表情だった。
「……それならば、無理矢理抱かせるまでです。奥様の元には二度と返しません」
ソフィアは氷のように冷たい視線を向けながら、自らの秘部を覆う下着を脱ぎ去り──そして、剥き出しになった俺の雄の先端と自分の蜜口が向かい合うように膝立ちをした。
「ぐ……っ!」
今すぐにソフィアを蹴り飛ばしたいのに、足枷を付けられているのか、両足も自由を奪われていて。ただただ鎖が足首に食い込み、痛みだけが駆け抜ける。
ガシャガシャと金属が擦れる音が虚しく鳴り響いた。
「フィン様、諦めて下さい。楽になりましょう」
「いや、だ、お前を抱くなら死んだ方がマシだ……! 俺は、シャーリーだけを──」
シャーリーだけを、愛している。
他の女に触れられるくらいなら、一層のこと。
息を震わせながら自分の舌を歯の間に挟み込み、そのまま噛み切ろうとした刹那、銃声音と何かに罅が入るような音が聞こえ──
寝室の扉が勢い良く吹っ飛んだ。
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